このことは、内密に。

空々ロク。

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このことは、内密に。第3話

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「ねぇ、ユニ。俺、本当にユニと双子で良かったと思ってるよ」
「スイがそんなこと言うなんて珍しい」
「たまにはね。だってさ、こんなに不思議な双子なんていないでしょ?そう思ったら唯一無二な気がして」
笑顔を向けるとユニは微笑みを返してくれた。
「ま、俺も同じように思ってるけど。厳密に言えばもっと前から思ってた」
「それなら言ってくれればいいのに」
「俺が言うわけない。そんなことスイが一番分かってると思うけど?」
それは確かにそうだ。あまり感情を表に出さないユニが素直に言ってくれることの方が珍しい。
「じゃあ言わなくていいからこれからは念力飛ばしてよ」
「考えとく。そろそろ行くよ」
ユニはそう言って席を立った。仕事の時間らしい。
「オーケー」
返事をして立ち上がる。控え室を出たユニに続いてステージへ向かう。
今日はアイドルの仕事。
アイドルグループ「ラピスラズリ」としてファンの前で歌って踊って笑顔を見せる──それが俺たちの仕事だ。
ステージに立った瞬間、大きな歓声を浴びる。
よくこんなに高い所まで来れたものだと俺は少し感動しながらファンに向かって手を振った。

如月スイの人生を語るには如月ユニの存在が不可欠だ。
生まれた瞬間から隣にいた双子の兄は大人になった今でも変わらず隣にいる。
けれどずっと仲が良かったわけではない。
学生時代は互いに煩わしいと思っていたし、同じ家に住んでいても1ヶ月間喋らないこともあった。
何せ「双子」というだけで比較されるのだ。
人間嫌いの俺には学校自体が耐え難いものだった。
反対にユニは学校が好きだった。
俺とユニは似ている部分と同じだけ似ていない部分を持ち合わせていた。
過去を思い返す度に自分でも比べてしまう。
頭の良さは同じぐらいだったが、自分には社交性や人に対する態度など集団行動において必要なものが欠落していた。
だから俺は常にユニの後ろに隠れていた。
今となっては考えられないけれど、引っ込み思案で自分に自信がなかった俺は隠れることしか出来なかったのだ。
ユニはそんな俺を守るわけでもなく突き放すわけでもなく、自分らしく生きていた。
「ユニは俺のことどう思う?」
恐る恐る聞いたのは小学校を卒業する時だった。
「スイがしたいようにすればいいと思う。今のスイだって俺は好き。でも俺にそう尋ねるってことはスイ自身、変わりたいってことじゃないの?」
「!」
ユニに言われて確信が持てた。
自分はやはり変わりたいと思っているのだと。
このままじゃ駄目だと自分でも分かっているのだ。
「どう変わったって俺はスイが好き。それだけは間違いない。だから好きにやって」
「ユニ……ありがとう」
ユニの言葉は俺を突き動かすのに充分だった。
中学生になったら変わろうと決めて──実際俺は変わった。
社交性を上げて適応能力を上げて、気付けば俺は輪の中心にいるようになった。
絶えず笑顔を見せることで人気者になっていった。
そんな俺を見てユニは「良かった」と言ってくれた。
「スイが心から笑えるようになったならそれでいいから」
いつだってユニは達観している。
俺よりも凄いことは俺が1番知っている。
だから大好きであると同時に最大のライバルでもあった。
中学時代はユニと離れていた期間もあった。
何か特別な理由があったわけではないけれど、何となく互いに煩わしいと思っていたようで自然と口を聞かなくなっていた。
今思えばあの期間は大切なものだった。
何故ならその経験があったからこそ俺たちは超能力に目覚めたのだから。

「ユニ!今の何!?」
口を聞かなくなって一ヶ月以上経っていた。
部屋で勉強をしていた俺の耳に突然ユニの声が聞こえた。
「スイ、今何してる?」と。
驚き、隣の部屋に駆け込むとユニが驚いた顔で俺を見つめた。
「……聞こえた?」
「は?え……うん。ユニの声が聞こえた気がしたんだけど。スイ、今何してる?って」
「そっか。本当に出来るとは」
「どういうこと?」
「テレパシーってやつ。双子は出来る可能性が高いっていうネット記事見たから試しにやってみた」
テレパシーという言葉は勿論知っている。
意味も知っているが、自分には関係のないものだと思っていた。
けれど先程ユニの声が聞こえたのは絶対に空耳ではない。
ユニが俺に向けて送った言葉が俺の脳内に届いたのだ。
「信じられない」
「ね。俺も驚いてる。もしかしたら他にも出来ることあるかも。やってみる?」
ニイッと笑うユニを見たのは初めてだ。
イタズラが思い浮かんだ子供のように楽しそうなユニに向かって俺は大きく頷いたのだった。

そして俺たちは超能力を得た。
テレパシーだけでなく相手に見せたいものをを見せる力や記憶操作など思った以上に出来ることがあった。
最初のうちは上手くいかず、2人して頭痛を起こしたり寝込んだりした時もあったが、練習すれば上手くなると信じていた俺たちは暇さえあれば超能力の練習をしていた。
仲の良い双子に戻れたのはそれがきっかけだ。
数年後には器用に能力を使いこなせるようになり、そのお陰で出来ることは格段に増えた。
「超能力があれば何でも出来る気がするね。夢も叶いそう」
「スイの夢って何なの?」
「俺の夢はアイドルになること!」
高校生男子の夢にしては変わっていたかもしれない。
誰にも言えなかった夢を俺はユニに初めて伝えた。
馬鹿にされるかもしれない、笑われるかもしれない──けれど双子の兄は「やっぱり」と呟いただけだった。
「知ってたの?」
「何となくね。すごくいいと思う。叶えなよ、絶対」
「俺の夢にはユニが必要なんだけど」
「俺が?」
きょとんとしたユニに笑顔を見せる。
俺の最終的な夢は双子のアイドルとしてトップに立つことだと力説すると今度こそユニは大笑いした。
「ははっ、スイらしい。俺を巻き込むところが特に」
「だって俺はユニのことも自分だと思ってるから。でもユニが嫌なら言ってね」
「いいよ、勿論。双子のアイドルなんてカッコイイし。但し、やるからには本気でトップに立たせてくれる?」
「当然!約束するよ」
その日から俺の夢はユニの夢になった。そしてそれからすぐにオーディションを受け、見事合格する。
それ以降は順調に進んで行った。
軌道に乗ったのは高校を卒業した後だ。
地下アイドルとして上手く行き始めた頃に初めて俺はユニの夢を聞いていないことに思い至った。
「ユニ!俺、自分のことばっかりでユニのこと考えてなかった」
「俺のこと?」
「ユニの夢って……本当の夢って何だったの?」
俺の問いにユニは言うかどうか悩んだようだった。
言い淀むユニをじっと見つめると観念したように呟いた。
「探偵」
「え!?そ、そうだったんだ。でもアイドルの仕事忙しくて勉強なんて出来なかったんじゃ……」
「いや、そんなことない。勉強なんて昔からずっと辞めてないから。俺は探偵になる夢も諦めないつもりだし」
「ユニ……」
その時の俺は涙目に近かったかもしれない。
それぐらい自分の不甲斐なさが──自分のことしか考えていなかった浅はかさが身に染みた。
「安心して。俺は探偵になるから。アイドルも辞めるつもりはない。だから今度はスイが俺の夢を叶える番」
「俺に出来ることなんて……」
「探偵になったら事務所をカフェ風にしたいんだ。手伝ってくれる?」
「勿論!カフェなら俺にも出来る!ってか勉強するから任せて!」
「スイならそう言ってくれると思ってた」
にこりと笑うユニの笑顔に救われた。いつだって俺はユニに救われてばかりだ。
アイドルと同時にカフェの仕事をする自分を思い描き──あ、と声を出した。
「けどアイドルってことがお客さんにバレたらカフェどころじゃないっていうか探偵の仕事も出来なくない!?」
「大丈夫。だから俺たちには超能力があるんだと思う。2つの夢を叶えられるように」
「……記憶操作?」
「そう。それなら問題ない」
ユニの言う通りだ。それならば何の問題もない。
探偵事務所で俺たちに出会ったことは忘れて貰えばいいのだから。
そうして俺たちは2つの夢に向かって走り出した。
困難もあったけれど、今は大盛況の探偵事務所を経営し、念願のデビューをして大きなステージに立っている。
間違いなく俺とユニだからこそ叶えることが出来た大きな夢──。

ライブを終え、俺とユニは早々にマネージャーの車に乗り込んだ。
ステージ裏に長居すると出待ちのファンに出会ってしまう。その為、俺たちは終演後休む間もなく車に乗るようにしていた。
「シートベルトしたね。じゃ、車出すから」
マネージャーの声に「はい」と2人で返事をする。
動き出した車の中でやっと一息つくことが出来た。
「ふー、疲れた。でも最高に楽しかったなぁ。地下でやってた時と全然違うね」
「そりゃね。見たことない景色が見れたしいい経験になった」
「こんなにすごい景色見れたのはユニのおかげだよ。ありがとう」
「俺がそういうの苦手だって知ってるくせに」
肩を竦めるユニを横目で見ながら予めマネージャーが座席に準備しておいてくれた冷たいスポーツドリンクを取る。
軽く持ち上げるとユニは「乾杯」とペットボトルにペットボトルをぶつけてくれた。
「だってユニに感謝してるんだもん。地下アイドルだった俺たちがデビューしてこんなに大きな会場でやれるようになったんだなってライブ中ずっと思ってた」
「道理でライブに集中してなかったわけだ」
「え!?嘘っ!?そんなことないでしょ?」
「嘘だよ、嘘。ただスイが何か考えてるなとは思ってたけど。昔のことでも考えてるのかなって予想してた」
「ほぼ当たってるじゃん。流石ユニ」
ゴクリとスポーツドリンクを飲み込み、はぁと息をつく。
マネージャーの運転が上手いおかげで車の振動はあまりない。車種には詳しくないが、高価な車なのかもしれない。
車酔いしやすいユニが一度も酔わないことからもよく分かる。あまりに振動がなくて寝てしまいそうなぐらいだった。
「あ、そうそう」
ユニの声が聞こえ、はっと目を覚ます。
「ライブ会場に綴さんいたけど気付いた?」
「嘘!?気付かなかった」
「かなり後方席だったから仕方ないかも。俺の方が視力いいし」
「えー、綴くんに手振りたかったなぁ。てか来てくれるなら言ってくれれば良かったのに」
連絡先は知っているのだからライブ前に言ってくれれば、とも思う。
不満が顔に出ていたのかユニはふふっと笑った。
「スイ、本当に綴さんのこと好きなんだなって思う」
「あ、からかってる?」
「ううん、全然。俺なりに素直になったつもり」
「ユニからそういうこと言われると照れるなぁ。俺のこと一番分かってる人だからさ」
「俺が思うにきっとスイと綴さんは上手くいく」
「本当?」
乗り出すようにユニの方を向くとユニは苦笑しつつ頷いた。
「本当」
「ユニに言われると本当にそうなる気がするよ。ありがとう」
青宮綴のことを考えると自分でも驚くぐらい心が動かされる。
一目惚れした時は勿論、それ以降に出会った時もメッセージのやり取りをしている時も胸が高鳴る。
これが恋であることは間違いないのだけれど、過剰反応のようにも思う。
だから俺は勝手に運命だと思ったのだ。
青宮綴とは出会うべくして出会ったのではないか、と。
その話を以前ユニにもしたことがある。
するとユニも「まぁ確かに初めて会った気がしない」と言っていた。
もしかすると本当に何処かで何かしらの縁があったのかもしれない。
そんなことを考えているとスマホが振動した。
差出人は、勿論──。
『ライブお疲れ様。カッコ良かった。あと例の件だけど、俺で良ければ喜んで』
用件のみの簡潔な文章。
それでも俺は手を叩いて喜んでしまう。
「ユニ!綴くん、カメラマンやってくれるって」
「本当?専属の方が助かるし、何よりスイが嬉しそうで良かった」
「ユニが提案してくれたおかげだよ。ありがとう」
すぐにメッセージを返す。
喜びが伝わるように可愛い絵文字と顔文字を多用した。
「……はぁ、これからますます楽しみだなぁ」
こんなにも人生が上手くいくようになったのは間違いなく隣にいるユニのおかげだ。
今までもこれからも俺には最高で最強の相棒がいてくれる。
心の中で感謝をすると「どういたしまして」と聞こえない言葉が届いた。
テレパシーを使ったつもりはなかったのだけれど。
(ユニには何でもお見通しだな)
言わなくても分かってくれる──それは世界中でユニしかいない。
俺は微笑み、目を閉じた。
まだまだ自宅に着きそうもない車の中、俺は良い気分で眠りについたのだった。
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