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第1章

リンドの葛藤(僅かに☆)

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「くそっ! あれからもうひと月だというのに」

 あれからひと月とは、リンドが衝動的にカリーナに口付けたその日からである。
 あれ以来適度な距離を保ちつつ、カリーナと接してきた。

 ……つもりだった。


——あの日の彼女の悩ましい姿が、俺の脳裏をチラついて離れない……

 あの日、舌を絡ませた時のカリーナの声。
 絡み合ったお互いの唾液。
 体に押し付けられて、フニフニと潰れた弾力のある膨らみ。
 彼女の涙と共に自分の失態に気付き唇を離したが、その姿さえ堪らない。

 自分の唾液で光ったカリーナの唇……!
 一度口付けたら止まらなくなってしまったのは自分なのに、カリーナのせいだと暴言を吐いてしまった。

「俺は子どもか……。というより変態だったのか?」

 あの日のカリーナの姿を思い浮かべると、自身の下半身に血が巡り熱くなる。
 そっと手を当てると、自身が硬く主張しているのがわかる。

「くそっ」

 あの日から何度カリーナを思い浮かべて、欲望を解放しただろうか。

「女に縛られるなんて。俺らしくない。彼女は奴隷だ、商品だ。淡々と、必要な事を進めていけば良いんだ」



 ——そう思っていたのに。


「………俺はなぜ彼女を外出に誘ったんだ?」

 この日、俺はいつも通り講義をするためにカリーナの元を訪れたはずだった。
 シルビア公爵家の舞踏会が近い。
 バルサミア有数の貴族達が集まるこの舞踏会は、カリーナの存在を周知させる絶好のチャンスだ。

 舞踏会が近い事を知らせたら、カリーナは反抗するだろう。
 そう思っていたのに。

「かしこまりました」

 彼女はあっさりと引き受けた。

「仕方ありません。私は敗戦国の者ですから、断る権利はありません。そうリンド様が仰ったのではないですか」

 1ヶ月前の自分を殴りたい。
 衝動的に口を出た言葉は、彼女にとって重くのしかかったであろう。
 その言葉を聞いた途端、彼女との間に距離を感じて、何ともいたたまれない気持ちになった。

 カリーナとのキスを思い出して興奮していた自分に恥ずかしくなる。

 彼女との距離を縮めたい。
 気づくと俺はカリーナを外出に誘っていた。

 戸惑うカリーナの様子を見て、冷静さを取り戻す。
 俺は一体どうしたんだ?
 ドレスなど、屋敷の者に手配させればいいだろうに。

 シークベルト公爵としてのプライドはどこへ行った?

 だがここまで言ってしまったからには、強気で押し通す。
 カリーナに再度拒絶される前に、俺は逃げるように部屋から出てしまったのだった。

 
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