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アナザールート その15 地獄の門

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今回もエロはございません…

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「時雨ちゃん・・・めっちゃカワイイっぽい。どうしちゃったの?」

お風呂上がりのハルカが僕を見て驚いていた。
セーラー服とウィッグを身につけメイクも済ませた僕はもうカオルではなく“時雨”、お互いに、男の娘の時には“時雨”、“夕立”と呼び合うのが僕達のルールだった。

「ホントはね・・・僕メイク得意なんだ。隠しててごめん。でも、本気を出せばちょっとしたものでしょ?」

「へ~、ちょっとどころじゃないよ~」

ハルカに至近距離で、しかも右から左から舐めるように顔を観察されてちょっと照れる。

「いいから早くハルカも準備して、今後メイクを基本から教えてあげるから・・・」

「でもなんで、急に・・・ぁ」

僕の意図を察したのかハルカは黙り込んで、メイクを始める。
そして、メイクをしながら囁くように言った。

「時雨ちゃん・・・1人でなんでも背負わなくていいんだよ。これでも先輩なんだからもっと頼ってよ。」

「うん・・・頼りにしてる。」

だけど、今日はだけは別だよ…という言葉は飲み込んだ。
このお店で働かされるようになってから、ハルカには色々な事を教えてもらって、沢山助けてもらった。
だから今日は僕がハルカを助ける番なんだ。


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ピンポーン

と、作り付けのインターホンが鳴った。

お店の人が迎えにきた合図だ。夕立がビクっとなって身体を固くする。

僕が玄関のチェーンを外してドアを開けると、一言でいえば”インテリヤクザ”風な店長と、お店の用心棒と男の娘達の送迎係を兼ねている”ちゃらいヤンキー”風のお兄さんが立っていた。
二人がかりで僕らが逃げないように見張り、送迎までするなんて大袈裟なことに思える、だけどそれだけのお金をもらっているのだろう…僕らの身体と人格を引き換えにして。

送迎用のミニバンに押し込められ、どこに連れていくかさえ知らせたくないらしくアイマスクで目隠しされた。
何も見えない状況では時間の感覚さえ定かではない、ただ闇の世界の中で、僕と夕立は互いの手を繋いで車に揺られながら時を過ごした。

そして、体感にして1時間、それとも以外に短くて20分くらいだったのかもしれない。アイマスクを外すことを許されたとき、僕らを乗せたミニバンはだだっ広いコンクリート造りの、まるでビルの地下駐車場みたいな場所に停められていた。

だけど、駐車されている車はその広さに比べて不釣り合いなほど少ない。
そして、それらの車はどれもピカピカに磨き抜かれた高級車ばかり。ここに集まっている人が皆相当に裕福な人たちなのだろう。
また、どの車もナンバープレートが黒い布で隠されていて読み取れない。それだけうしろめたい事があるのだと思うと不気味だった。

不意にヤンキー風のお兄さんが口を開いた。

「しっかし、金持ちってのはわかんないね~。こいつら顔は可愛いけど所詮チンコついてんだろ。俺には無理だわ~!」

「金持ちってのはそういうもんらしいな、金で買える女なんて飽き飽きしてるんだと。こっちは金になるなら男でも女でもどっちでもいいんだよ。」

店長が無表情に答える。

「で、今度は男の娘と…、珍味みたいなもんかねぇ?」

「無駄口はそこまでだ。夕立、時雨。こっちだ。ついてこい。」

店長は、無駄に広い駐車場の隅に、高級車が固まって停められている一画にエレベーターがあった。

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エレベーターから降りて、店長に先導されて赤い絨毯貼りの廊下を進む。

夕立が不安そうに周囲を見渡して、僕に話しかけてきた。

「時雨ちゃん、ここってなんかラブホっぽい•••」

「うん、そんな感じだね、ただ停まって駐車場に停まってる車が少なすぎるし、ひと気もなさすぎる、多分貸し切りなんじゃないかな?」

そして、夕立の耳元に顔を近づけてささやいた

「廊下の構造とか非常階段の場所とかよく覚えておいて。もしかしたら逃げることになるかもしれないから。」

「へ…?」

「何があるか判らないってこと。」

「ん…そうだね、覚えておくよ。」

「おい、何をこそこそ話してるんだ?」

「なんでもないで~す。」

店長に怒られた、だけど僕らも不安なのだ、どんな些細なことでも保険をかけておきたかった。

そして、少しだけ歩いて廊下の突き当りにあるドアの前で店長が立ち止まった。

「ここだ、入りな。」

店長に指示されたので、ドアを軽くノックしてからドアを開ける。

「じゃあ、明日の朝迎えに来るからな。頑張れよ。」

「はい…、よろしくお願いします。」

せめて店長は立ち会ってくれるのかと思っていたら、同行してくれるのはここまでだった。
店長が一緒にいてくれるなら、お客さんがやりすぎたときには止めてくれるはずだ、だけどそれさえ許されないのだ。
今日のお客たちはそれだのお金を払い、そして力も持っている人達なのだろう。
つまり僕らの生殺与奪権は、全てこの部屋にいる大人達に委ねられたのだ。

もう、逃げ道なんてなかった。覚悟を決めてドアをくぐった。

「失礼します…。」

声を掛けながら部屋の中にこわごわと進む。夕立は僕の背中に隠れるようにしてついて来ていた。

部屋の中の短い廊下の先を覗き込むようにうかがうと・・・

(ああ、こんな感じなのか・・・)

と諦めに似た絶望感が僕の心を重く覆ってゆく。

「ひっ!…」

そして、僕の背中ごしに部屋の中を覗き込んだ夕立が小さな悲鳴を漏らした。

そこはかつてミカさんに【調教】と称して連れ込まれて、身体も心もボロボロになるまで虐められたラブホの拷問室・・・にそっくりだった。

天井から何本もの鎖が吊り下げられてその先には、革製の手枷や首輪が固定されている。
ツルツルとした床には緩い傾斜がつけられて、僕らが何を垂れ流す事になっても簡単に洗い流して、排水出来る様になっているのだろう。
他にもどう見ても人を磔にする為としか思えないX字型の柱。
いわゆる三角木馬といった拷問器具がこれでもかと並べられ、壁には使い込まれて黒光りしている鞭が何本もかけられていた。

それでいて、部屋の中は狭さを感じさせない程十分に広い。
そして中にいたのは12名ほどの大人達。
みな顔の上半分様々なデザインの仮面をつけている。
恐らくだけれど、相応に高い社会的地位の人たち。もしかしたらTVに出ることもあるのだろう。だから仮面までつけて身元を隠しているのだと思う。

「時雨ちゃん・・・ここ何なの?・・・僕らどうなるの•••?」

夕立もそれなりの覚悟はあったはずだ、だけどここまで醜悪な現実は想像もできていなかったのだろう。
パニックを起こしてガタガタ震え、僕の背中に顔を埋めて視線をあげることさえできない。

「大丈夫・・・とは言い切れないけど、この場は僕に任せて。」

と、背中の夕立に小さく声を掛けて大人達に視線を向けた。

そうしたら、大人達の1人が声をかけて来た。

「夕立ちゃんと・・・時雨ちゃんだね。」

強いて言うなら“ピエロ”っぽい仮面の男だった。
口元を皮肉っぽい笑みで歪めながら僕に向かって話しかける。

「はい、僕が時雨で、後ろが•••夕立です。」

夕立を隠すように立ち、硬い声で答えた。
“毅然として”と言いたいところだけれど、強がっていても膝が震えている。
せいぜいが“虚勢”でしかないことは自分が良く分かっていた。

「へえ・・・、夕立ちゃんと抱き合わせのセット販売品かと思ったら、大した美少女ぶりじゃないか。前に見かけた時にはもっと地味な印象だったのになぁ。」

仮面の下から僕の顔そして身体にねっとりとした視線が這い回る。その感触を感じたような気がして鳥肌が立った。

「これは、嬉しい誤差ってやつだ。それに時雨ちゃんの方が気が強そうだなぁ・・・そういう娘を泣かすのがおじさんは大好きだよ。」

「この変態・・・」

思わず口をついた反抗的な言葉に、大人達からどっと笑い声が溢れる。
こんな絶望的な状況で憎まれ口を叩く僕はよほど滑稽なのだろう。

恐い、こわい、コワイ・・・口では何と言っても、本当は怖くて逃げ出してしまいたい。だけど、僕の背中には守りたい夕立がしがみ付いている。

大人達の関心は僕ができるだけ引き付けなければならなかった。

「これは参ったね。さてお二人さん。選ばせてやるよ。どっちが先に吊されたい?」

ピエロの男が天井から伸びている鎖を指差して言った。

それを聞いた夕立がビクリと身体を震わせて硬直し、僕の服を力いっぱい握り締めた。

「僕が・・・、僕を先にして下さい。」

「時雨ちゃ・・・」

夕立がはっとして顔をあげる気配がした。

そして僕は大人たちに頭を下げて懇願した。

「お願いです。僕が虐められている間は夕立に手を出さない・・・は無理としても。酷いことをしないであげて下さい。お願いします。」

僕の言葉がよほど以外だったのか、ピエロの男は一瞬ポカンとして、それから舌舐めずりをする様に、残酷な笑みを浮かべて言った。

「時雨ちゃん、おまえ最高だよ。その度胸に免じて、ご希望通り時雨ちゃんを虐めている間は夕立ちゃんには優しくしてやる。」

「時雨ちゃん・・・そんなのダメ!」

夕立が悲痛な声を上げた。

「おまえらの前にもそうやってお互いを庇い合う仲の良い娘達もいたよ。そんな連中の末路を教えてやろうか?」

「少しでも自分が楽になろうとして、お互いを押し付けあいさ、最後は親の仇みたい凄い形相で罵り合っていたよ。」

「おまえ達もそうならないといいなぁ。美しい友情を見せてくれよ時雨ちゃん。」
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