39 / 54
ずっと×そばに=・・・ 1
しおりを挟む
週明けの月曜 早朝
玄関を出た架は隣の家、市太の部屋の窓を見上げる。カーテンは閉じたまま。
架はここ最近、市太を起こしに行っていない。その上、一玖とのセックスを見られて市太に口淫までしてしまい、ますます合わせる顔がなかった。
小さく深呼吸するように溜息を吐いて駅へ向かう。
「おはよ」
住宅街の通りの角を曲がったところで突然声を掛けられて、架はドキリとした。
「・・・い、ち」
「全然起こしに来ねーから。俺が遅刻したらどうすんだよ」
「何時から待ってたんだよ。俺より起きるの早いんじゃん。遅刻の心配なんかいらねーだろ」
気まずさを誤魔化しながら、架は精一杯 平静を装う。
「一玖」
「えっ?」
市太から出た名前に、架の額に冷や汗が滲む。
やっぱり一玖の話は避けて通れないよな。週末の事も・・・
内心焦る架を落ち着かせるように、市太は彼の背中をポン、と叩く。
「架のこと、マジで好きなんだと思う。良かったな。大事にしてもらえよ」
「え・・・、あ、うん」
「架の方が年上だし、大事にしてやれよ、の方が合ってるか」
「・・・まあ。 ・・・いち、ごめんな」
「つか俺こそ悪かったな。架が一玖を好きだって知ってたら、あんな嘘つかなかったのに。水くせーし何遠慮してたんだよ!」
「それはっ、俺は市太が一番大事だし、お前が一玖を好きならって!・・・結局我慢できなかったんだけど」
『一番大事』と聞いて、市太はどこか安堵した気持ちになる。
「俺も思ってる。架が大事だって」
本当に思ってた。いや、架に幻滅した今でも変わらず大事だって思ってる。だから、お前を失くしたくない。ただの幼馴染み以上になれないとしても。
「赤ん坊の頃からずっと一緒だっただろ、俺達。今更シカトとか寂しーことすんなよな。マジで薄情なヤツ」
架の頬を人差し指で グッと押す市太。
「っ、だから、ごめんって言ってんだろ!」
「なんでお前が怒んだよ。 そーだ、バイト代入ったら奢るっつったし、昼メシ好きなもん食わしてやる」
「えっ、マジで?」
架の表情が ぱっと明るくなる。
・・・架には笑ってて欲しい。臭覚過敏のせいで苦しむこいつをずっと見てきた。架の辛そうな顔は、もう見たくない。
「でも架もバイトしてたんだろ。俺にも奢れよな」
「はあ?俺は奢るなんてひとことも言ってねーし!」
「奢れ。お前より高いもん食ってやる」
「おまえ、鬼だな。奢ってやるけどな!」
これでいい、架が想う一番じゃなくても、俺は幼馴染みで親友としての一番だって自信だけは誰よりもある、と市太は思う。
駅へ着くと、構内で市太と架を見つけた一玖が駆け寄って来る。
「架、おはよ。体だいじょうぶ? 帰ってから電話にも出ないしトークも既読になんないし、架、よっぽど疲れてたんだろうなって・・・」
「ちょちょちょっ、一玖、声でけぇからっ」
「てめーは犬かよ。朝から架 架ってうるせーな。架は元気だ。見てわかるだろ」
顔を真っ赤にして返事に困っている架の代わりに市太がぶっきらぼうに答える。
「市太さんには聞いてないです。俺は可愛い恋人の架に聞いてるんです」
「一玖!俺はだいじょぶだから取り敢えず静かに!公共の場だから!」
架の手が一玖の口元を覆い、もう片方の手は「しーっ」と自分の口元で人差し指を立てる。
けれど一玖は周りの視線もお構い無しで架をぎゅっと抱き締める。
「どうして。俺はこんなに架が好きなのに、なんでコソコソしなきゃなんないの」
「男どうしで、おかしいだろっ」
「おかしくない。好きでもない異性と付き合ってた過去の俺の方がよっぽどおかしいよ」
架を抱き締める一玖の腕に力が入る。
見兼ねた市太は、海老反りになる架に顔を擦り寄せる一玖の頭を バシッと叩く。
「恋人を困らせるのはおかしくないのかよ。ガキ。そういうのは二人だけの時にしろ」
「いってぇ・・・」
市太に諭され、渋々 架を解放する一玖。
「じゃあさ、手繋ぐだけ。それもダメ?」
「・・・手くらいなら、い・・・」
「ダメ!二人の時だけにしろっつってんだろ!」
繋がれた一玖と架の手を手刀で断ち切る市太。
はっ、何やってんだ俺は。自分は人前で、つばさくんが嫌がるのも聞かずに強引に手を掴んで引っ張っていたのに。
俺がした事は、一玖がしてる事と大差無い・・・
「なんだよこの小姑みたいな人。マジで邪魔なんだけど」
一玖のシラケたような視線に、市太の口角が引き攣る。
・・・やっぱりこんなクソ可愛くねーガキとは大差無くない!
「ちょっと甘やかせば調子に乗りやがって!お前はやっぱり架に相応しくねえ!もっと離れろ!」
「離れるのは市太さんの方でしょ。俺は架と相思相愛なんです。小姑は未練がましく指咥えて見てるだけにしてくださいよ」
「あ? なんだ? 相思相愛のセックスがあんな一方的なもんなのか? あーお前、覚えたてのエッチで抑え効かないタイプ? 架カワイソー」
「そんなわけ無いですよ!あれは架が・・・」
言い合う声がだんだん大きくなり、結局周りの視線を集めてしまう市太と一玖。
こいつら似た者同士だ、と呆れた架はひとりでホームへ向かう。
二人に呆れながらも、市太との関係が壊れなくて良かった、と架の顔から笑みが零れた。
玄関を出た架は隣の家、市太の部屋の窓を見上げる。カーテンは閉じたまま。
架はここ最近、市太を起こしに行っていない。その上、一玖とのセックスを見られて市太に口淫までしてしまい、ますます合わせる顔がなかった。
小さく深呼吸するように溜息を吐いて駅へ向かう。
「おはよ」
住宅街の通りの角を曲がったところで突然声を掛けられて、架はドキリとした。
「・・・い、ち」
「全然起こしに来ねーから。俺が遅刻したらどうすんだよ」
「何時から待ってたんだよ。俺より起きるの早いんじゃん。遅刻の心配なんかいらねーだろ」
気まずさを誤魔化しながら、架は精一杯 平静を装う。
「一玖」
「えっ?」
市太から出た名前に、架の額に冷や汗が滲む。
やっぱり一玖の話は避けて通れないよな。週末の事も・・・
内心焦る架を落ち着かせるように、市太は彼の背中をポン、と叩く。
「架のこと、マジで好きなんだと思う。良かったな。大事にしてもらえよ」
「え・・・、あ、うん」
「架の方が年上だし、大事にしてやれよ、の方が合ってるか」
「・・・まあ。 ・・・いち、ごめんな」
「つか俺こそ悪かったな。架が一玖を好きだって知ってたら、あんな嘘つかなかったのに。水くせーし何遠慮してたんだよ!」
「それはっ、俺は市太が一番大事だし、お前が一玖を好きならって!・・・結局我慢できなかったんだけど」
『一番大事』と聞いて、市太はどこか安堵した気持ちになる。
「俺も思ってる。架が大事だって」
本当に思ってた。いや、架に幻滅した今でも変わらず大事だって思ってる。だから、お前を失くしたくない。ただの幼馴染み以上になれないとしても。
「赤ん坊の頃からずっと一緒だっただろ、俺達。今更シカトとか寂しーことすんなよな。マジで薄情なヤツ」
架の頬を人差し指で グッと押す市太。
「っ、だから、ごめんって言ってんだろ!」
「なんでお前が怒んだよ。 そーだ、バイト代入ったら奢るっつったし、昼メシ好きなもん食わしてやる」
「えっ、マジで?」
架の表情が ぱっと明るくなる。
・・・架には笑ってて欲しい。臭覚過敏のせいで苦しむこいつをずっと見てきた。架の辛そうな顔は、もう見たくない。
「でも架もバイトしてたんだろ。俺にも奢れよな」
「はあ?俺は奢るなんてひとことも言ってねーし!」
「奢れ。お前より高いもん食ってやる」
「おまえ、鬼だな。奢ってやるけどな!」
これでいい、架が想う一番じゃなくても、俺は幼馴染みで親友としての一番だって自信だけは誰よりもある、と市太は思う。
駅へ着くと、構内で市太と架を見つけた一玖が駆け寄って来る。
「架、おはよ。体だいじょうぶ? 帰ってから電話にも出ないしトークも既読になんないし、架、よっぽど疲れてたんだろうなって・・・」
「ちょちょちょっ、一玖、声でけぇからっ」
「てめーは犬かよ。朝から架 架ってうるせーな。架は元気だ。見てわかるだろ」
顔を真っ赤にして返事に困っている架の代わりに市太がぶっきらぼうに答える。
「市太さんには聞いてないです。俺は可愛い恋人の架に聞いてるんです」
「一玖!俺はだいじょぶだから取り敢えず静かに!公共の場だから!」
架の手が一玖の口元を覆い、もう片方の手は「しーっ」と自分の口元で人差し指を立てる。
けれど一玖は周りの視線もお構い無しで架をぎゅっと抱き締める。
「どうして。俺はこんなに架が好きなのに、なんでコソコソしなきゃなんないの」
「男どうしで、おかしいだろっ」
「おかしくない。好きでもない異性と付き合ってた過去の俺の方がよっぽどおかしいよ」
架を抱き締める一玖の腕に力が入る。
見兼ねた市太は、海老反りになる架に顔を擦り寄せる一玖の頭を バシッと叩く。
「恋人を困らせるのはおかしくないのかよ。ガキ。そういうのは二人だけの時にしろ」
「いってぇ・・・」
市太に諭され、渋々 架を解放する一玖。
「じゃあさ、手繋ぐだけ。それもダメ?」
「・・・手くらいなら、い・・・」
「ダメ!二人の時だけにしろっつってんだろ!」
繋がれた一玖と架の手を手刀で断ち切る市太。
はっ、何やってんだ俺は。自分は人前で、つばさくんが嫌がるのも聞かずに強引に手を掴んで引っ張っていたのに。
俺がした事は、一玖がしてる事と大差無い・・・
「なんだよこの小姑みたいな人。マジで邪魔なんだけど」
一玖のシラケたような視線に、市太の口角が引き攣る。
・・・やっぱりこんなクソ可愛くねーガキとは大差無くない!
「ちょっと甘やかせば調子に乗りやがって!お前はやっぱり架に相応しくねえ!もっと離れろ!」
「離れるのは市太さんの方でしょ。俺は架と相思相愛なんです。小姑は未練がましく指咥えて見てるだけにしてくださいよ」
「あ? なんだ? 相思相愛のセックスがあんな一方的なもんなのか? あーお前、覚えたてのエッチで抑え効かないタイプ? 架カワイソー」
「そんなわけ無いですよ!あれは架が・・・」
言い合う声がだんだん大きくなり、結局周りの視線を集めてしまう市太と一玖。
こいつら似た者同士だ、と呆れた架はひとりでホームへ向かう。
二人に呆れながらも、市太との関係が壊れなくて良かった、と架の顔から笑みが零れた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる