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高橋課長 1 部下の策略
しおりを挟む背後から荒い息遣い。
何がどうなってこの状況に至っているのかはよくわからないが、時々聞こえる小さな溜息のような声には覚えがある。
記憶が途切れる前に一緒に飲んでいたはずの部下、佐藤だ。
見渡してみる部屋には覚えがないことから、おそらくは佐藤の部屋。
飲んで潰れた俺を佐藤が連れ帰ってきたのだろう。
まあ、そこまでは感謝に値するのだが。
なぜ、こいつは背後から俺のシャツをたくし上げ、胸を弄りながら、さらに、自分のモノを扱いていやがるんだ?
うわっ、背中になんかぬるぬるしたのが…。
ど、どうしたらいいんだ?
「かちょう…」
俺を呼ぶな!
佐藤の熱く荒い息遣いが項に当たり、なんだか俺まで…。
やばいっ!!
佐藤は部下、といっても5つしか違わない。
同期からの信頼も厚く、なにかと頼りにされているようで、よく人だかりの中心にいるのを見かける。
長身で優し気な目元。
女にも好かれるだろう、いわゆるイケメンだ。
性格は当たり障りなく振る舞うタイプで。
部下としてもそれなりに仕事のできる、聞き分けのいい、使いやすい相手。
だが、時々見え隠れする頑固さや、同期に振りまく笑顔が作り物のようで気になっていた。
本当のこいつはもっと自己中なんじゃないだろうか。
などと考えていた頃、部署移動してきた佐藤ら数人の歓迎会と称した飲み会があった。
俺は自慢にならないが、人付き合いが悪い。
社の飲み会に参加したのなんて数えるほどだ。
だが、さすがに部下の歓迎会に顔を出さないわけにはいかず。
向かい側に座っていた佐藤に、勧められるままに飲んで。
なんだかやたらと話をした気がするが、覚えていない。
そしてここに辿り着くまでのことも覚えていない。
気持ちよく寝ていたはずなのに、なんだか暑苦しい感じに目を覚ませば、背後の佐藤が俺をオカズに抜いてる状況で。
お、終わるまで待てばいいのか。
それとも冗談交じりに「なにやってんだ」と笑えばいいのか。
そ、そ、それともここは怒るべきか?
「課長」
だから俺を呼ぶなって。
なんだか、変な気分になるだろっ!
「起きてるでしょ?」
ぎく。
気付かれた!?
いや、だからと言って返事をするわけにはいかない。
そのまま無視していると、胸から腹を撫でるように移動した手が俺のを包み込んだ。
「うわっ!やめろっ」
「ほら、起きてた」
「いいから、離せって」
「でも勃ってますよ」
ぎゅ、っと掴まれると本能的にびくっとなる。
うわ、揉むなっ!
自分のやり方と違うリズムでされるだけで、簡単に追い込まれる。
口元を抑えて、抵抗を試みた。
そんな簡単に、男に、部下にイかされてたまるか。
俺をオカズにしてたこいつと違って、俺は男で抜く趣味はない。
ない、が。
やばい…。
もう少し、というところで佐藤の手が離れて行ってしまった。
思わず佐藤を振り返る。
やんわりと微笑まれて、かっと顔が熱くなった。
年下のくせに。
ずべて読まれてる気がする。
「課長、こっち向いてください」
肩を引かれるままに振り向けば、すぐ目の前に佐藤の整った顔。
いつものすました顔と違って、高揚し熱い息を吐く。
鼻先をくっつけるようにして、佐藤が再び俺を握りこむ。
「っ…」
「課長も」
手を引かれて、佐藤の熱いモノを掴まされた。
なんで触られるより、触る方が恥ずかしいんだ?
思わず目を閉じると、佐藤の声がした。
「目を閉じないで下さい」
瞼を開けると、熱に揺れる佐藤の大きな目。
ぞくりとする。
男の欲情した目に、ぞくぞくするなんてありえない。
「俺を見てて」
言われなくても、俺の手の動きに高まっていく佐藤から目が離せない。
同様に佐藤も俺をじっと見つめてる。
時々、お互いに視線が唇に落ちる。
目の前にあって、熱い吐息が唇にかかる。
男に扱かれてイきそうになって、さらにキスしたくなるとか、おかしいだろ。
そうは思っていても、佐藤の目と唇を交互に見て。
「…で、る」
「イくって言ってくださいよ、色気ないなあ」
「ある、か、そん、なもの」
変に弾む声が恥ずかしいが、佐藤も同じ。
「ん、俺も、イきそう」
「さとっ」
「かちょ」
視線をぶつけたまま、お互いの手の平に吐精した。
射精後の余韻も視線が外せなくて。
ちょっと身じろいだりすると、すぐに唇が触れた。
掠るだけ。
何度か繰り返してるうちに、佐藤が俺の唇にそっと口付けて離れていった。
それからじっと俺を見つめる。
俺も真似をしてそっと、ちょっとだけ口付けた。
離してから、ふと後悔する。
なんだこの駆け引きみたいな…。
「んんっ!!」
急に佐藤が深く唇を合わせてきて、舌が入り込んできた。
そのまま夢中になって舌を絡め、また、お互いの下肢を弄る。
今度は目を閉じても佐藤は何も言わない。
時々目を開けると佐藤の視線と合った。
やばいぐらいに気持ちよくて。
その晩、俺たちは何度もお互いを扱き合い、顎が疲れるぐらいに口付けを繰り返した。
翌日、何事もなかったように同じ部屋で仕事をしている。
相変わらず佐藤は同期に相談されながら、自分の仕事を片付けていた。
休み時間になれば女が群がってるし。
いったい、なんだったんだ、昨夜は。
今朝、目を覚ました時にはすでに佐藤は身支度を整えていて、俺に風呂を勧め、その後一緒に部屋を出て、途中のファーストフードで朝食を取って出勤した。
普通に、自分の席について、これまた普通にいつも通りに仕事を始めた佐藤を不思議に思った。
そして。
なんで俺はちらちらと佐藤を伺い見てるんだ。
なんか、期待してるみたいじゃないか。
小さく首を振りながら目の前の書類に集中しようと試みる。
「高橋課長」
「うわっ」
急に声をかけられて、変な声がでた。
顔を上げると、佐藤がいつもの作り笑いで、いや、作り笑いと思っているのは俺だけだろうし、佐藤はそんなつもりないだろうが、俺を見下ろしていた。
「そんな、驚かないで下さいよ」
「な、なんだ?」
「課長こそ。俺に用事じゃないんですか?」
「は?」
「だって。今朝からよく俺の事見てるでしょ?」
げっ、気付かれてた。
「そんなことはない」
返事をしながら周りを見渡すと、誰も俺たちの会話を気にしてない、てか、聞こえてないことにほっとした。
「あんまり見られると、昨夜のを思い出しちゃうんですけど」
「なっ?!」
「しっ!大声出すとみんなに聞こえちゃいますよ」
俺が口元を隠すようにすると、にっ、と笑う。
「課長も、思い出してるでしょ」
きっ、と精一杯の気持ちを込めて睨みつけてやったのに、佐藤は平然としてる。
「でもさすがに職場じゃあ、無理ですよね」
「あ、当たり前だ!」
「でも資料室なら」
「な、なんだと?」
「俺、先に行ってますね」
「は?ちょ、ちょっとまてっ」
「じゃ」
俺の制止など聞こえていないかのように佐藤は踵を返し、同期に尋ねられると「資料室に行ってくる」とにこやかに答えていた。
俺は…。
俺はどうしようか、と迷っていた。
いや、迷うな。
行かなきゃいい。
行く、なんて一言も…。
………。
…。
「あれ、課長どちらに?」
立ち上がった俺に別の部下が声をかけてきた。
「ちょっと休憩してくる」
迷いながらも俺が答えると、部下は明るく返事をした。
「あ、はーい」
昼食の時間以外は決まった休憩時間はない。
が、皆時々休憩をはさんでいる。
その方が作業効率は上がるから、特に厳しい規律はない。
後ろめたく思いながらも、そっと部屋をでた。
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