異世界転移したら猫獣人の国でした〜その黒猫は僕だけの王子様〜

アベンチュリン

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ねこまんま②

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 店は大通りから入って、石畳の小径の階段を登った所にある。店構えは瓦屋根の、こじんまりとした日本家屋だ。
 
 店の名前は『ねこや』

 店に入ると小料理屋みたいな作りになっていて、僕達は小上がりの半個室に通された。
 畳敷きになっていて、座布団とちゃぶ台がある。

「わぁ……!」
 
 ルカは喜色満面の笑みを浮かべる。

 今すぐ猫型になって座布団で丸まりたい! 畳で爪を砥ぎたい! ワクワクが止まらない、ルカの尻尾が忙しなく動く。

 店員さんがメニューとお茶を持ってくる。
 ルカは手を畳に当てて上目遣いで店員を見上げ、爪砥ぎたいアピールを店員さんにする。

 気づいた店員は「畳は定期的に交換してるので、良かったら爪砥いで下さいね、注文決まったら呼んで下さいね」

 なんて気の利く良い店なんだ。

 ルカは上機嫌でバリバリ言わせながら畳で爪を研ぐ。

「この畳に引っかかる感じが堪らない、自分の家の丸太でもやるけど、全然違うよ!テディもやってみなよ、気持ちいいよ」

 猫獣人の爪は普通の人間の爪の下から、力を入れた時に猫爪が出る仕組みになっている。爪楊枝みたいな細い物を取る時は便利だ。
 セオドールは3回程爪砥ぎをしたら、澄ました顔でメニューを見る。

 世間体を気にするタイプかなぁ、今は王子じゃないんだから楽しめばいいのに……。

「早く注文するぞ」とセオドールに言われ、ルカは座布団に座り直す。

 メニューを見るとどうやら、ねこまんま専門店らしい。梅おかか、こんぶおかか、鮭おかか、たらこおかかの4種類で単品とセットがある。

「俺は鮭おかかにする」

「じゃあ僕は……悩むけど……梅おかかにする、ねぇせっかくだからセットにしようよ」

「いいよ」

 セオドールがスマートに注文してくれた。



 店員さんが「お待たせしました~」と木のお盆を2つ持って来た。

 左手前にはお茶碗に入ったねこまんま、鰹節、梅だけじゃなくてちりめんじゃこものってる、豪華だ。その右側にはお豆腐となめこ油揚げの味噌汁、あさつきを散らして香りが良い。焼き魚は『さ・ん・ま』あのドラ猫が咥えちゃう魚だよ! おしんことカリカリ梅の香の物もあって、そして極め付けは出汁入り緑茶が土瓶に入ってる……そうかお茶漬けで味変するのか……なんとも贅沢!

 昭和の猫餌、いざ実食!

「いただきます!」

 あつあつのご飯に踊る鰹節を眺めながら、ひと口頬張る。んー、幸せ。ルカの猫耳がピクピクと動く。

 その様子を見て、セオドールも細目で微笑む。

「はーっ、こんな美味しいご飯、前世以来だよー」

 ルカは幸せのあまり口走ってしまった。
 ん?……あれ!?今僕、前世って言った?ヤバいヤバいヤバい…………。聞こえてた?

 目の前にはポカンと口をあけたセオドールがいる。こんな気の抜けた表情は初めて見る……、暫くして状況を察知したようだった。

「そう……だったんだ、生まれ変わり? 転移、童話や伝記でしか聞いたことなかったけど…………本当にいるんだ。道理でたまに可笑しなことを言うと思っていたんだ」

 頭の良いセオドールだ、もう言い逃れも出来ない、腹を括ったルカは全部話すことにした。

「テディも食べないと冷めちゃうよ」
 
 そう言ってルカはセオドールに食べるよう勧めた。

 美味しい食事に舌鼓を打ちながら、前世から転移して来た様子や向こうでの食生活を話した。セオドールは時々びっくりしたり、頷いたりして聞いてくれた。

「この事は誰にも、……親にも話してないので秘密にできますか?」

「わかった。約束するよ」

 この世界でたった一人、僕の前世を知る人かできた。





「この臭い野菜は何だ?」
 
 セオドールが不味い顔をして漬物を食す。

「それは漬物だよ、野菜を調味料に漬けて発酵させるんだ、発酵食品は身体にいいよ、味噌汁の味噌もそうだよ」

 漬物が苦手なんて、子供みたい。

「そういえばさ、テディは良く城下に来るの?」

「あぁ、視察だよ」

「初めて会った時も視察?なんでペンダント着けてなかったの?」

 セオドールはポケットの中から、ペンダントを取り出して見せてくれた。

「視察だよ、この紋章が入ってて目立つからな」

「何の視察?」
 
 ルカは興味本位で尋ねる。

「んー…………、個人情報だからあまり口外は出来ないけど、結局見つからず真意はわからないんだ。いじめの告発があって……」

「虐め……」
 
 その言葉を聞いた瞬間、ルカは前世の記憶が蘇り、表情が強張る。

「どうかしたのか?」
 
 心配そうな眼差しを向けるセオドール。

「ううん、何でもないよ」
 
 ルカは精一杯の笑顔を作る。その場の空気を変えようと、声をかける。

「あっ、そろそろお茶漬けにした方が良いかも、お好みで別添えのわさびと刻み海苔をのせて……出汁緑茶をかける……」  
 
 僕がやりながらレクチャーする。見様見真似でセオドールが真似る。

「へぇ、このピリッとするの美味しいな」

 王子ご満悦!の様子、僕も嬉しい。

 何でか、わさびの辛さも相まって、水分を含んだ目になった。


 ふぅ~、食べた食べた、幸せ~。なんてお腹を摩っている間に、セオドールがスマートにお会計を済ませている、……紳士だ。

「あまり遅くなってもいけないから、そろそろ帰ろうか?」

「うん」



 ネコバスの終バスは終わっている、馬車乗り場に着くと、セオドールが先に賃金を支払う、「送ろうか?」と言われたけど「大丈夫」と断った。

 馬車に乗り込む時に、僕の手を取りエスコートしてくれた、その手を離さずに僕の甲にキスを落とすと、囁くように耳元で言った。

「ルカまた会おう」

 馬車が出発する、ルカは顔が茹蛸のように赤いのがわかる。両手で顔を隠しながら、あのキザ王子~と頬を膨らませながら照れた。



 自宅に帰ると、心配した母が玄関にいた。

「あんな高貴な鷹が言伝ことづてに来るから、何事かと思ったじゃない」

 母は腰に手を当てて、不機嫌そう。

「ごめんね、急に友達と夕食食べようって話になって……。すっごい美味しいお店だったんだよ! 今度家族で行こうよー!」

 ルカは、何でもないように溌剌と返した。
 

 夜影に家族の賑やかな声が沈んでいく。








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