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第543話 『魔女』候補の青年
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そこには何もなく、ただただ真っ白い世界が広がっていた。
境目などもないため、地に足が付いているのかさえも分からない。
歩いていても進んでいるのかも分からない、そもそも立っているのかさえも認識出来ない様な空間であった。
そんな空間に一人ポツンと立っている女性がいた。
紺色の服を纏い、長くサラサラの髪であり、何故か口元だけ除かれた仮面で顔は覆われていた。
女性は少し上を向きながら、何故か少し笑っていた。
そもそも仮面をしていて何かが見えているのかも分からないが、何かが見えているかのように口元から表情が読み取れる。
そんな女性の元に、背後から何処からともなく一人の青年が現れ近付き声を掛ける。
「楽しそうですね」
女性が振り返ると、そこには学院生服を纏い女性と同じ様に口元だけ除かれた仮面を付けた青年が立っていた。
「あらあら、どうして貴方がここにいるのかしら? ここには私しかいないはずなのだけれど」
「貴方と同じですよ。分かっているでしょうに」
青年は呆れた様にため息をつくと、女性の隣に立ち先程まで女性が見ていた先に顔を向けた。
「そんなに外の出来事が面白いですか?」
「ええ、面白いわよ。彼女がどんな行動をとっていくのか見れてね」
「俺からしたら変な感じですし、面白くもないですよ」
女性は青年の返しに静かに笑う。
「そりゃそうでしょ。今までそっち側だったのだから。ましてや自分自身、これまで見ていた景色をこうして映像のように見るのだから当然の反応よクリス・フォークロス」
「ちょっ、フルネームで呼ばないで下さいよリリエルさん」
「じゃクリスね。それで、いつ分かれて自我を得たのかしら?」
「正確には分からないですよ。目が覚めたら意識があって、こうなってました。でも何故か自分の状態の理解は出来ている。リリエルさんもそうだったんじゃないんですか?」
青年は隣の女性にそう訊ねると、女性は「もうそんな昔のことは忘れたわ」と肩をすくめながら答えた。
その答えに青年はあ然とする。
「まあ、これだけ話せればそんなことどうでもいいわよ。それより、これから貴方はどうなるのか分かっているわよね」
女性からの問いかけに青年はゆっくりと頷き口を開く。
「『魔女』候補になるんですよね」
「そう。まだ生まれたばかりでそこまで理解していたらエリートねクリス。あーでも、私と関係があると知られているから今後大変かも」
「分かっているなら何かアドバイスなり下さいよ、リリエルさん。そもそも、何でもう一人自分が自分の中に存在しているんです?」
青年が当たり前に思っていた疑問を女性にぶつけると、女性がその疑問に答え始めた。
人の中には、自分さえ知らないもう一人の自分がいることがある。
簡単にイメージしやすくすると二重人格の様なものである。
制御出来ていたり、出来ていなかったりとそれは人様々であり、自分自身と同化していることもある。
そんな中でもう一人の自分を抑えつけたり、抑え込んだり、忘れたり、切り離したりを意識的または無意識化でした時に、今の様な出来事が人の中で発生する。
身体も意識もこれまで通りであるが、決して人ではない。自分の内側で生まれた為、身体は魔力でしかなく意識の器として人の身体をしている新たな存在として誕生する。
そしてその者たちはいずれ体内から消え、世界の中心と呼ばれる場所に集められ『魔女』候補として育成が始められる。
そこには同じような人たちが集まっており、学院のようにクラスに分けられ教育が始まるのだ。
様々な課題や試練を乗り越え認められた者が『魔女』として認められ、担当の観測所に配置され任務を全うするのである。
「というのが、今のクリスであり『魔女』のざっくりとした説明よ。まあこれも、この後招集させられるそこで教えられることなのだけれど」
「それじゃ、リリエルさんはその学院的な所で『魔女』として認められたある意味エリートってことですか」
「エリートね……まぁ、そうとも言えるのかもね。今じゃ任務放棄の烙印押された『魔女』の中での汚点だろうけどね」
「任務というのは『世界の観測』です……」
青年がそう口にしたところで、突然青年の足元が消え始め魔力がチリの様に飛び去り始める。
徐々に身体が消え始め青年は慌て始める。
「呼び出しだね。次目が覚めたら世界の中心さ、頑張りなよクリス」
「ちょっ! まだ聞きたいことが」
「向こうで知りたいことは全て知れるさ。私から偏った知識を得るよりマシよ。それじゃねクリス、また話せて楽しかったわ」
「リリエっ」
そこで青年の言葉は途切れ、完全に存在がその場から消えてしまうのだった。
女性は先程までいた青年の場所を見つめた後、再び視線を宙へと向ける。
直後自身の足先が、先程の青年同様にゆっくりだが消え始めていることに気付く。
「私もタイムリミットが迫っているようね。さて、どこまで彼女のことを見届けられるかしらね」
そう口にしながら女性は仮面を片手で外し何もない宙を見続けるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁー、はぁー、はぁー」
息を荒くしてルークが診察場にやって来て、タツミの診察室に入り簡易ベットにうつ伏せに倒れ込む。
そのまま瞳を閉じて眠りについてしまう。
数分後タツミが診察室に戻って来て、ぶっ倒れているルークの身体を少し強く揺らし起こす。
目を覚ましたルークはゆっくりと身体を起こしタツミに視線を向ける。
「タツミ、なるべく早く魔力回復する薬はないか? 体力回復でもいい」
ぶっきら棒な要求にタツミはため息をつき、ルークの額を人差し指で勢いよく突く。
「それが人に頼む態度かルーク。勝手に診察室に入るわ、そこで寝てるわ、起こしたら自分の要求」
「っ……わ、悪い……」
「謝れば何でも許される訳じゃねんだぞ。たっく、全力でやり過ぎだお前もニックも。軽い欠乏症状態だ」
すると、ルークのの視界が急に歪み始めふらつき出すとタツミは上着を脱がせてから簡易ベットに仰向けに寝させた。
そのまますぐに手首を手足を出させそこに治療用の湿布を張り付けると、点滴の準備を始め左腕に点滴を打つ。
「(魔力と共に水分もかなり消費している。さっきのふらつきは、脱水も軽く起こしていた影響だろうな。さすがにこの状態で次の試合にゴーサインは出せないな)」
先程よりも顔色が良くなったルークを見ながら現状の各数値を確認しようと魔道具に手を伸ばした時に、別の診察を担当していた教員が入って来る。
「タツミ先生! 魔力欠乏症と脱水の両方が発生した生徒がいます、すぐに診てもらっていいですか? 私たちでは症状の進行が想像以上に速く止められません」
「返って来た途端、次から次へと。こっちも似た状況なんだがな。生徒の名前とクラスは?」
「名前はニック・レヴォール。第2学年オービン寮です!」
「そりゃ対戦相手がこうなってて相手が似た症状を併発しない方が不自然か。全くお前らのクラスはどうしてこう面倒事を増やすんだよ」
そう口にしながらタツミはやって来た教員に応急的な処置を改めて伝え進行を遅らせる様に伝える。
その後別の教員を呼びルークの数値を計るように伝えその場を離れ、ニックのいる診察室に向かうのだった。
――男子側の最終期末実力試験会場、アリスの対戦場にて。
アリスがふと見上げていた視線を落とすと、トウマがこちらにやって来るのが視界に入る。
周囲には他に担当試験官などもおらずトウマ一人であり、何の用なのか分からないながらもアリスは立ち上がりトウマを待つ。
するとトウマは結界内まで入って来たのだった。
結界前で止まるだろうと思っていたアリスは、まさかの行動に驚く。
結界内に入るということは、対戦相手ということを今の状況は意味しているのである。
その為、アリスはトウマが結界内に来たということは実力試験最後の相手はトウマだと判明したも同然であった。
「ま、まさか最後の相手はトウマ?」
驚くアリスにトウマは無言のまま近付いて足を止めた。
そしてゆっくりと口を開けた。
「そうだ」
境目などもないため、地に足が付いているのかさえも分からない。
歩いていても進んでいるのかも分からない、そもそも立っているのかさえも認識出来ない様な空間であった。
そんな空間に一人ポツンと立っている女性がいた。
紺色の服を纏い、長くサラサラの髪であり、何故か口元だけ除かれた仮面で顔は覆われていた。
女性は少し上を向きながら、何故か少し笑っていた。
そもそも仮面をしていて何かが見えているのかも分からないが、何かが見えているかのように口元から表情が読み取れる。
そんな女性の元に、背後から何処からともなく一人の青年が現れ近付き声を掛ける。
「楽しそうですね」
女性が振り返ると、そこには学院生服を纏い女性と同じ様に口元だけ除かれた仮面を付けた青年が立っていた。
「あらあら、どうして貴方がここにいるのかしら? ここには私しかいないはずなのだけれど」
「貴方と同じですよ。分かっているでしょうに」
青年は呆れた様にため息をつくと、女性の隣に立ち先程まで女性が見ていた先に顔を向けた。
「そんなに外の出来事が面白いですか?」
「ええ、面白いわよ。彼女がどんな行動をとっていくのか見れてね」
「俺からしたら変な感じですし、面白くもないですよ」
女性は青年の返しに静かに笑う。
「そりゃそうでしょ。今までそっち側だったのだから。ましてや自分自身、これまで見ていた景色をこうして映像のように見るのだから当然の反応よクリス・フォークロス」
「ちょっ、フルネームで呼ばないで下さいよリリエルさん」
「じゃクリスね。それで、いつ分かれて自我を得たのかしら?」
「正確には分からないですよ。目が覚めたら意識があって、こうなってました。でも何故か自分の状態の理解は出来ている。リリエルさんもそうだったんじゃないんですか?」
青年は隣の女性にそう訊ねると、女性は「もうそんな昔のことは忘れたわ」と肩をすくめながら答えた。
その答えに青年はあ然とする。
「まあ、これだけ話せればそんなことどうでもいいわよ。それより、これから貴方はどうなるのか分かっているわよね」
女性からの問いかけに青年はゆっくりと頷き口を開く。
「『魔女』候補になるんですよね」
「そう。まだ生まれたばかりでそこまで理解していたらエリートねクリス。あーでも、私と関係があると知られているから今後大変かも」
「分かっているなら何かアドバイスなり下さいよ、リリエルさん。そもそも、何でもう一人自分が自分の中に存在しているんです?」
青年が当たり前に思っていた疑問を女性にぶつけると、女性がその疑問に答え始めた。
人の中には、自分さえ知らないもう一人の自分がいることがある。
簡単にイメージしやすくすると二重人格の様なものである。
制御出来ていたり、出来ていなかったりとそれは人様々であり、自分自身と同化していることもある。
そんな中でもう一人の自分を抑えつけたり、抑え込んだり、忘れたり、切り離したりを意識的または無意識化でした時に、今の様な出来事が人の中で発生する。
身体も意識もこれまで通りであるが、決して人ではない。自分の内側で生まれた為、身体は魔力でしかなく意識の器として人の身体をしている新たな存在として誕生する。
そしてその者たちはいずれ体内から消え、世界の中心と呼ばれる場所に集められ『魔女』候補として育成が始められる。
そこには同じような人たちが集まっており、学院のようにクラスに分けられ教育が始まるのだ。
様々な課題や試練を乗り越え認められた者が『魔女』として認められ、担当の観測所に配置され任務を全うするのである。
「というのが、今のクリスであり『魔女』のざっくりとした説明よ。まあこれも、この後招集させられるそこで教えられることなのだけれど」
「それじゃ、リリエルさんはその学院的な所で『魔女』として認められたある意味エリートってことですか」
「エリートね……まぁ、そうとも言えるのかもね。今じゃ任務放棄の烙印押された『魔女』の中での汚点だろうけどね」
「任務というのは『世界の観測』です……」
青年がそう口にしたところで、突然青年の足元が消え始め魔力がチリの様に飛び去り始める。
徐々に身体が消え始め青年は慌て始める。
「呼び出しだね。次目が覚めたら世界の中心さ、頑張りなよクリス」
「ちょっ! まだ聞きたいことが」
「向こうで知りたいことは全て知れるさ。私から偏った知識を得るよりマシよ。それじゃねクリス、また話せて楽しかったわ」
「リリエっ」
そこで青年の言葉は途切れ、完全に存在がその場から消えてしまうのだった。
女性は先程までいた青年の場所を見つめた後、再び視線を宙へと向ける。
直後自身の足先が、先程の青年同様にゆっくりだが消え始めていることに気付く。
「私もタイムリミットが迫っているようね。さて、どこまで彼女のことを見届けられるかしらね」
そう口にしながら女性は仮面を片手で外し何もない宙を見続けるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁー、はぁー、はぁー」
息を荒くしてルークが診察場にやって来て、タツミの診察室に入り簡易ベットにうつ伏せに倒れ込む。
そのまま瞳を閉じて眠りについてしまう。
数分後タツミが診察室に戻って来て、ぶっ倒れているルークの身体を少し強く揺らし起こす。
目を覚ましたルークはゆっくりと身体を起こしタツミに視線を向ける。
「タツミ、なるべく早く魔力回復する薬はないか? 体力回復でもいい」
ぶっきら棒な要求にタツミはため息をつき、ルークの額を人差し指で勢いよく突く。
「それが人に頼む態度かルーク。勝手に診察室に入るわ、そこで寝てるわ、起こしたら自分の要求」
「っ……わ、悪い……」
「謝れば何でも許される訳じゃねんだぞ。たっく、全力でやり過ぎだお前もニックも。軽い欠乏症状態だ」
すると、ルークのの視界が急に歪み始めふらつき出すとタツミは上着を脱がせてから簡易ベットに仰向けに寝させた。
そのまますぐに手首を手足を出させそこに治療用の湿布を張り付けると、点滴の準備を始め左腕に点滴を打つ。
「(魔力と共に水分もかなり消費している。さっきのふらつきは、脱水も軽く起こしていた影響だろうな。さすがにこの状態で次の試合にゴーサインは出せないな)」
先程よりも顔色が良くなったルークを見ながら現状の各数値を確認しようと魔道具に手を伸ばした時に、別の診察を担当していた教員が入って来る。
「タツミ先生! 魔力欠乏症と脱水の両方が発生した生徒がいます、すぐに診てもらっていいですか? 私たちでは症状の進行が想像以上に速く止められません」
「返って来た途端、次から次へと。こっちも似た状況なんだがな。生徒の名前とクラスは?」
「名前はニック・レヴォール。第2学年オービン寮です!」
「そりゃ対戦相手がこうなってて相手が似た症状を併発しない方が不自然か。全くお前らのクラスはどうしてこう面倒事を増やすんだよ」
そう口にしながらタツミはやって来た教員に応急的な処置を改めて伝え進行を遅らせる様に伝える。
その後別の教員を呼びルークの数値を計るように伝えその場を離れ、ニックのいる診察室に向かうのだった。
――男子側の最終期末実力試験会場、アリスの対戦場にて。
アリスがふと見上げていた視線を落とすと、トウマがこちらにやって来るのが視界に入る。
周囲には他に担当試験官などもおらずトウマ一人であり、何の用なのか分からないながらもアリスは立ち上がりトウマを待つ。
するとトウマは結界内まで入って来たのだった。
結界前で止まるだろうと思っていたアリスは、まさかの行動に驚く。
結界内に入るということは、対戦相手ということを今の状況は意味しているのである。
その為、アリスはトウマが結界内に来たということは実力試験最後の相手はトウマだと判明したも同然であった。
「ま、まさか最後の相手はトウマ?」
驚くアリスにトウマは無言のまま近付いて足を止めた。
そしてゆっくりと口を開けた。
「そうだ」
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