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能力そのものはハズレだったかもしれない。けれど、それも使いようだ。
婚約解消から3年が経ち、15歳となった私はそう思えるようになっていた。
けれど、新しい婚約者はいない。
「……最近は『いい力だ』って言ってくれる人も多いけど、やっぱり、結婚相手としては微妙なんでしょうねえ」
王城で開催される舞踏会に、盛り上げ役として呼ばれた私ははーっとため息をつく。
私が咲かせた花は放っておいても数週間後――習熟度が上がり、花の持ちもよくなったのだ――もしくは任意のタイミングで消える。種類も量も自在なうえ、片付けも楽だからこういった催しにはよく呼ばれるのだ。
開会の挨拶とともに会場に花を咲かせ、役割を終えた私は踊ることもせずこんな愚痴を言っている。
「いい力、か……。しっかりわかってる人もいるんだね。僕も嬉しいよ」
そんな私の隣に立ち、にこにことするのは婚約を解消したはずの相手・テオバルトだ。
12歳のときは私と身長もさほど変わらず、美少女のようにも見えた彼だが、今ではすっかり男性として成長している。
これはおそらく、甘いマスクのイケメン、というやつだ。
私をこの会に呼び、会場をきれいに飾ってほしいと言い出したのは他でもないこの人だった。
「『ハズレ姫』の私はともかく、殿下はいいんですか?」
「なにが?」
「婚約者も探さずに、私と話していることですよ」
「なにか問題が?」
「なにって……。ええ……?」
15歳となった今も、彼には新しい婚約者がいなかった。
王城開催の舞踏会。婚約者のいない王子も参加。
テオバルトは魔力量も相当に多く、属性も炎とはっきりしており、魔法使いとしても超優秀。
弟が二人いるが、次期国王はテオバルトだろうと言われており、さらには物腰柔らかで見目もよい金髪碧眼の王子様……ときたら、自分こそが妃になるのだとご令嬢たちはもうぎらっぎらだ。
なんであんたが殿下と一緒にいるのよ、と言わんばかりのご令嬢たちの視線がぐさぐさと突き刺さってくる。
とはいえ、魔法使いとしての素質である程度選別されてしまうため、テオバルトに気に入られれば結婚できる、というわけでもないのだが。
そこに関しては、ハズレ能力を理由に婚約を解消された私が痛いほど知っている。
そのくせ彼は今回のように頻繁に私を呼び出し、まるで仲睦まじい婚約者かのようにそばにいるのだから困ったものである。
「いい加減、元婚約者離れしていただけませんか……」
私が婚約できないのって、この人がそばにいるせいなんじゃないの? とも思えてくる。
わざと大げさにため息をつき、呆れたように言ってみてもテオバルトはいい笑顔で「ははは」と笑うのみ。
「笑ってる場合じゃありませんよ、もう……」
テオバルトは未だ、最も親しい異性のポジションにいる。
涙する彼に背を向けたあの日、私はもう二度とテオバルトに会わないぐらいの覚悟をしていた。
テオバルトならすぐに次の婚約者が見つかる。だから、過去の人間が邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
それなのに、一体どういうことなのだろう。テオバルトのほうから呼び出してきて、ぴったりとそばにいるこの状況は。
「殿下のことがよくわかりません……」
「……うーん。近いうちにわかるかも?」
「なにがですかあ……」
私だって、伯爵家の娘としてそろそろ結婚相手を決めたいんですけどお!?
そんなことを考えつつも、テオバルトを振り切ることはできないまま閉会が近づいていく。
婚約解消から3年が経ち、15歳となった私はそう思えるようになっていた。
けれど、新しい婚約者はいない。
「……最近は『いい力だ』って言ってくれる人も多いけど、やっぱり、結婚相手としては微妙なんでしょうねえ」
王城で開催される舞踏会に、盛り上げ役として呼ばれた私ははーっとため息をつく。
私が咲かせた花は放っておいても数週間後――習熟度が上がり、花の持ちもよくなったのだ――もしくは任意のタイミングで消える。種類も量も自在なうえ、片付けも楽だからこういった催しにはよく呼ばれるのだ。
開会の挨拶とともに会場に花を咲かせ、役割を終えた私は踊ることもせずこんな愚痴を言っている。
「いい力、か……。しっかりわかってる人もいるんだね。僕も嬉しいよ」
そんな私の隣に立ち、にこにことするのは婚約を解消したはずの相手・テオバルトだ。
12歳のときは私と身長もさほど変わらず、美少女のようにも見えた彼だが、今ではすっかり男性として成長している。
これはおそらく、甘いマスクのイケメン、というやつだ。
私をこの会に呼び、会場をきれいに飾ってほしいと言い出したのは他でもないこの人だった。
「『ハズレ姫』の私はともかく、殿下はいいんですか?」
「なにが?」
「婚約者も探さずに、私と話していることですよ」
「なにか問題が?」
「なにって……。ええ……?」
15歳となった今も、彼には新しい婚約者がいなかった。
王城開催の舞踏会。婚約者のいない王子も参加。
テオバルトは魔力量も相当に多く、属性も炎とはっきりしており、魔法使いとしても超優秀。
弟が二人いるが、次期国王はテオバルトだろうと言われており、さらには物腰柔らかで見目もよい金髪碧眼の王子様……ときたら、自分こそが妃になるのだとご令嬢たちはもうぎらっぎらだ。
なんであんたが殿下と一緒にいるのよ、と言わんばかりのご令嬢たちの視線がぐさぐさと突き刺さってくる。
とはいえ、魔法使いとしての素質である程度選別されてしまうため、テオバルトに気に入られれば結婚できる、というわけでもないのだが。
そこに関しては、ハズレ能力を理由に婚約を解消された私が痛いほど知っている。
そのくせ彼は今回のように頻繁に私を呼び出し、まるで仲睦まじい婚約者かのようにそばにいるのだから困ったものである。
「いい加減、元婚約者離れしていただけませんか……」
私が婚約できないのって、この人がそばにいるせいなんじゃないの? とも思えてくる。
わざと大げさにため息をつき、呆れたように言ってみてもテオバルトはいい笑顔で「ははは」と笑うのみ。
「笑ってる場合じゃありませんよ、もう……」
テオバルトは未だ、最も親しい異性のポジションにいる。
涙する彼に背を向けたあの日、私はもう二度とテオバルトに会わないぐらいの覚悟をしていた。
テオバルトならすぐに次の婚約者が見つかる。だから、過去の人間が邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
それなのに、一体どういうことなのだろう。テオバルトのほうから呼び出してきて、ぴったりとそばにいるこの状況は。
「殿下のことがよくわかりません……」
「……うーん。近いうちにわかるかも?」
「なにがですかあ……」
私だって、伯爵家の娘としてそろそろ結婚相手を決めたいんですけどお!?
そんなことを考えつつも、テオバルトを振り切ることはできないまま閉会が近づいていく。
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