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第二章 落ちこぼれの天才魔法使い

13話 渓谷地帯の鬼退治

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 途中で二回ほど休憩を挟みつつ、グランツ渓谷の拠点――ベースキャンプに到着する。

 ふむ、想像していたものに近い拠点構造だな。

 テントが張られたその中には仮眠用の簡易ベッドに、道具の保管庫、ギルドが無償で提供してくれるキャンピングの備品がいくつかに、あとは支給品として、地勢図や常温保存出来る即効薬や保存食なども少量ながら用意してくれている。

 一休みも兼ねて、テント内の簡易ベッドの上に地勢図を広げて、軽く打ち合わせだ。
 俺とエリンはまだこの世界における魔物の生態知識を正確に知らないので、ここは(この世界では先輩の)リザの教えを請うことにする。

「えぇと……今回の討伐目標であるオーガは、この渓谷では比較的広い地形に出没する可能性が高いです。なので、渓谷の谷間ではなく、崖の上辺りを巡回して捕捉しましょう」

 リザが地勢図に人差し指を伸ばしてなぞりつつ、広く縁取られた部分を指していく。

「それと、今回は二体の討伐ですので、基本は一体ずつ討伐しますが、もしも二体同時に出会してしまった場合は、一度後退して、引き離してから確実に一体ずつ、です」

 大型の魔物とは二体同時に戦わない、引き離せる手段があるなら惜しみなく使う。ハンティングの基本だな。

「リザ、俺からひとついいだろうか」

 挙手。

「はい、アヤトさん」

「二体いる内の一体は俺が片付けるから、もう一体をエリンとリザに任せたい」

 言うまでもなく、俺が普通に戦ったら一瞬でこの依頼が終わってしまう。
 それでは、戦力評価としてエリンやリザが同行している意味が無い。
 よって、片方は俺が確実に処理することで、二人は残る一体に集中してもらう、という形だ。

 その事をエリンとリザに説明すると、エリンは「分かった」と頷き、リザは不安そうながらも「頑張ります」と了承してくれた。

 打ち合わせも済んだところで、狩猟開始だ。

 三人揃ってベースキャンプを出発し、荒野を征く。

 切り立った広大な崖に、登り降り出来そうな段差や岩肌がいくつも分岐しており、あるいはロープが備え付けられている。
 ロープに関しては、人の手によって取り付けられたものだろうな。
 しかし今回はそのロープを使って崖の下には降りない。
 リザの知識が正しければ、オーガは比較的広い地形を巡回しているはずだ。

 けれど、この狩り場にいるのは二体のオーガだけではない。

 道中の通り道に、カーキ色のサソリ型の魔物――『スコルピオン』が三匹ほど屯している。
 硬い甲殻に、鋭い鋏、毒針を持つ尾など、剣士としてはあまり近付きたくない相手だ。
 幸い、向こうはまだこちらには気付いていないが、三匹ともやや離れて分散している。

 つまり、魔法による不意打ちを狙っても倒せるのは一匹か二匹だけ、接近戦は避けられない。

「リザ、氷の魔法は使えるか?」

「はい、中級魔法の『フリーズハンマー』なら使えるはずです」

「よし。リザの魔法攻撃で一匹は倒せる。残る二匹は俺とエリンで、それぞれ一匹ずつ倒そう。エリン、行けるな?」

「私なら大丈夫だよ」

 エリンとリザの気負いのない頷きを見て安心してから。

 まずはリザが氷属性のルーンを顕現、詠唱を開始する。

「――『フリーズハンマー』!」

 セプターの魔石が白く輝くと、一番近くにいるスコルピオンの頭上に棍棒のようにトゲトゲした氷の塊が生み出され、叩き込まれる。
 極低温の塊で思い切り殴られるようなものだ、スコルピオンの硬い甲殻は砕かれ、その中の脆い肉が凍り付き、瞬く間に凍死して動かなくなる。

 仲間が突然の襲撃を受けて、残る二匹のスコルピオンは慌ててギョロギョロと辺りを見回し、俺達三人を捕捉、鋏を振り上げて威嚇すると、シャカシャカと脚を忙しなく動かして向かってくる。

「行くぞ!」

「うん!」

 俺とエリンは得物を抜いて、その場から駆け出してスコルピオンへ立ち向かう。

 俺に接敵したスコルピオンは、鋏でちょん切ろうと差し向けてくるが、態々そんなものに挟まれてやる理由はない、無影脚で鋏を躱し、スコルピオンの懐正面に滑り込む。

「よっと!」

 瞬間、ロングソードによる鋭い突きをスコルピオンの顔面にぶち込む。
 魔物言えどサソリ本来の生態までは変わらない、口や目の部分まで殻に覆われてはいないからな。
 ロングソードの切っ先がズルリと滑り込み、スコルピオンの急所を貫いた。
 硬い外殻は脆い肉体を守るためのもの。それを容易く躱されるとは、スコルピオンも思っていなかっただろうさ。
 絶命したスコルピオンはその場でひっくり返り、脚を数度痙攣させると、力尽きて動かなくなった。

 エリンの方は……スコルピオンの甲殻を破れなくて少し手間取っているようだが、危なっかしくはないな。

「殻が硬い……」

 スコルピオンの鋏や毒針を避けつつ、どうすべきかと考えているようだ。余裕があるのはいいことだ。
 すると、エリンはその場で大きく飛び下がると、雷属性のルーンを顕現させる。

「――サンダーボルト!」

 放たれる鋭い稲妻が、スコルピオンの甲殻を焼き貫く。
 ある程度の衝撃には強くとも、それらを無視して内側へ攻撃出来る手段には弱いものさ。

「これ、でっ!」

 サンダーボルトを直撃し、感電によって麻痺しているスコルピオンに一気に近付き、頭部へショートソードを叩き込む。
 同じく力尽きたスコルピオンはひっくり返り、脚を痙攣させて力尽きた。

 倒したスコルピオンから状態のいい甲殻の一部や魔石を剥ぎ取って。
 さて、先に進むとしよう。



『T』の字を45度右に倒したような地形に分岐したエリアに着く。

 地勢図では、分岐した先がそれぞれ行き止まりになっている。
 道中に何度か見かけたが、壊れて朽ちたレールやトロッコ、スコップやピッケルが散見しているが、あれも恐らく人工物だろう。
 もしやこの渓谷は、元は炭鉱場だったのかもしれないな。
 リザに訊いてみよう。

「リザ、この渓谷の所々に人工物が見られるんだが、ここは以前は炭鉱場か何かだったのか?」

「は、はい。この辺りは、昔は採掘場だったらしく、土地も肥沃だったおかげで、農業も盛んだったそうです」

 なるほど、やはりここは元々人が住んでいた場所だったのか。

「農業も?こんな、何も無さそうな土地なのに?」

 エリンの言う通り、農業も盛んだったという割には、近くに川のひとつも見られないため、素人目に見ても農耕に適した土地とは言えないだろう。
 その疑問もリザが答えてくれた。

「この渓谷は、昔は長い河川だったようです」

 川……この谷が、川?



「川?だとしても、これほど大きな川が多少の干ばつ程度で枯れるとは思えないな、何か他の要因があったのか?」

「はい。炭鉱夫達がより効率的な採掘を進めようと、爆弾を使い始めたのが原因で土壌が荒れ、さらには大雨で水門が決壊してしまった結果、脆くなった地盤を川が押し潰してしまい、氾濫。辺り一帯全てが水と土砂崩れに流されて、人が出入り出来るような場所では無くなったそうです」

 爆弾採掘かー、確かにスムーズに進むだろうけど、一歩間違ったら大惨事になることは予想出来たはずだろうに。
 大雨による水門の決壊を警戒していなかったのもあるか、それで地盤が土砂崩れを起こして、このような渓谷になったのか。

 行き過ぎた文明開発が身を滅ぼすのは、現実世界も異世界も変わらないな。

「それで人が住めなくなって、人がいないのをいいことに魔物の棲息地になった、ってところか」

 どれだけの栄華を誇った大国であろうとも、国が滅び朽ちれば、遺された場所には残った者達が棲み着くのは自然の理だ。
 
「今では土壌もある程度は回復しているので、採掘場だった場所で鉱物も採掘出来るようになっていますが、魔物が棲み着いていて危険なので、冒険者が依頼の上で鉱物を採掘してくるのが、一般的になっていますね」

 なるほどなぁ。

 それにしても、地勢の経緯や原因も知っているとは、リザの見識知識は素晴らしいな。

「へぇ……リザちゃんって、すごく物知りなんだね」

 エリンも感心して頷いている。

「い、いえ、すごくと言うほどのことでは……」

「うぅん、私って学が無いから、頭のいい人に憧れてるし。だから、普通じゃ知らないようなことも、色々知ってるリザちゃんのこと、尊敬しちゃうなって」

「そ、そんな……」

 エリンに手放しに称賛されて、リザがちょっと恥ずかしそうに照れてらっしゃる。かわいい。

 アタマがいいフリをしている、とバッカスは言っていたが、優れた頭脳を作るというのは、強靭な肉体を作るよりも時間がかかり、難しいものだ。

 体力だけでは解決出来ないことに、頭脳が合わさって解決出来ることもあれば、その逆も然り。

 将来を見越せずに、即戦力だけを求めたバッカスは無能と言わざるを得ないな。
 俺ならリザのような賢くてかわいくて、将来性も有望な女の子、絶対に手放したりしないね。

「それで、このまま真っ直ぐ行くか、分岐した方に向かうか、どうする?」

「えぇと、先に分岐した方に向かいましょうか」

 リザの方針に従い進路を変更、俺達から見て左側へ進む。



 この辺りになると渓谷から外れ、人の営みのあった集落らしきエリアになる。

 そこに、目立つほどの巨体を持つ大型の魔物と、肉食竜らしい褐色の魔物――リザが言うには『ラプタス』という名前だそうだ――の群れが争っている。

 赤い皮膚を持ち、巨人のような体躯に、頭頂部に二本の角を持つ――あれがオーガだな。

 三頭のラプタスは果敢にオーガに立ち向かうものの、力の差が大きすぎるのか、一頭はオーガに殴り飛ばされ、もう一頭は踏み潰されと、一方的な様相だ。
 残る一頭のラプタスは勝ち目が無いと悟ったか、俺達など目もくれずに逃げ出していく。

 すると、オーガの鋭い眼光が俺達三人を捉える。

「よし、こいつは俺が片付けよう。二人は離れたところにいてくれ」

 エリンとリザの二人にそう言いつけると、ロングソードを抜いて前に出て見せる。

 オーガは警戒しているのかその場から動かずに俺の挙動を注視している。
 オツムが残念と言う割には賢いな、先に動けば俺に対応されると分かっているから、警戒しているのだろう。

 ならここは奴の思惑に敢えて乗ってやるか。
 ロングソードを構え直して、縮地や無影脚は使わずに普通のダッシュで正面からオーガへ接近する。

 オーガは俺を迎え撃つべく、拳を振り上げて叩き潰そうとしてくるが、振り下ろされたタイミングで地面を蹴り、バックステップで拳を躱す。
 オーガの怪力と共に振り下ろされた拳は地を砕き、小さなクレーターを穿つ。
 うむ、なかなかのパワーだ。
 が、そのパワーこそが自分の首を絞めるのさ。
 地面にめり込むほど深々と打ち込まれた拳は、当のオーガでさえすぐには抜けない。
 その隙にオーガの拳に飛び乗り、平均台の上を走るようにオーガの腕を渡り、一気に肘関節辺りまで踏み込み、跳躍。

「ふっ!」

 落下と共に縦一文字一閃。

 着地、一拍の間の後、ズブァッと鮮血と共にオーガの右腕が肩から断絶される。
 気功を乗せた斬撃だ、気功を打ち込むことで肉体の内部構造へ瞬時にダメージを与え――損傷して脆くなったところにロングソードの刃が物理的に斬り込まれるのだ。

「うわっ、あれ絶対痛い」

 エリンが右肩を竦ませながらそう呟くのが聞こえた。
 実際には痛いじゃ済まないけどな。実体験済みです。

 肩から斬り落とされた苦痛に、オーガは悲鳴を上げながら後退る。
 瞬時に、オーガの右手側――腕を失って無防備な方から回り込む。
 当然、オーガは残る左腕をブンブン振り回して俺の接近を拒もうとするが、今度は足元がお留守だ。
 無影脚でオーガの股下を潜り抜け、すれ違いざまに右脚の脹脛――もっと言えば、アキレス腱を切断する。
 脚の生命線とも言える腱を断ち斬られたオーガは、当然自重を支え切れなくなって右膝を着く。
 弱点の首の位置が低くなったところに、オーガの背後から跳躍、無防備を晒している首筋にロングソードを逆手に突き立て、抉り裂く。

 断末魔を上げる間もなく、オーガは崩れ落ち、力尽きた。

 オーガ、撃破だ。

「ま、こんなところか」

 ロングソードに付着した血を払い、鞘に納めると、代わりにナイフを抜き、魔石や骨などを剥ぎ取っていく。

「オ、オーガをこんな一方的に……」

「大丈夫だよ、リザちゃん。アヤトのコレは、見てたらその内慣れてくるから、うん」

 呆然とするリザに、エリンが良くない諭し方をしている。
 剥ぎ取り完了!

「さて、俺のノルマは完了。あともう一体は、二人で頑張るんだぞ」

 そういう打ち合わせだったからな。
 とはいえ、あの程度のオーガならエリンにとっては取るに足らない相手だ、中級以上の魔法も使えるようになったリザの敵でもないし、あまりにも気を抜かない限りは、どう考えても楽勝だろう。

「よし、頑張ろっかリザちゃん」

「そ、そうですねっ。えーと、まずはもう一体の捕捉から始めましょう」

 懐から地勢図を取り出してみせるリザに、エリンもそれを覗き込む。
 ここからは二人の戦いだ、俺は出来るだけ手出し口出しはしないでおこう。



 リザの提案により、元来たT字路まで戻り、先程通らなかった方の道へ向かう。
 こちらの行き止まりは、採掘場だった場所のようだ。
 確かに、一度掘り返されてから長い時間をかけて埋め直され、それからまた少しずつ掘り進められているような跡が見られる。
 ここにオーガはおらず、代わりにいるのは、石のように硬そうな頭殻を持った草食竜――リザが言うには『トリケロス』と言う名前らしい――が数頭屯しているだけだ。

 草食竜か……ベースキャンプに薪と石竈もあったし、肉を剥いで、肉焼きでもしようかな。

 もう一体のオーガを倒したら、帰る前の休憩ついでに他の二人の分も焼いてあげよう。二人にはもっとお肉を食べて欲しいと思うのだよ。

「ここにはいないようですね」

 密かに唾液を口の中に溜めている俺のことなどよだれ知らず――基、つゆ知らず、リザは状況を確かめている。

「じゃぁ一旦戻って、今度は荒地の方に向かう感じかな」

 こちらは採掘場に近い場所であったが、この辺りとは反対側、荒地になっているエリアもある。
 恐らく荒地の方が、農業の盛んだった土地だろうな。
 エリンの進言を聞き入れたリザは、最初のベースキャンプを出てすぐのエリアに戻ることにした。



 最初のエリアに戻り、荒地の広がるエリアへ向かう。
 元が農耕地であったのは本当のようで、畑だったと思われる段差に、だだっ広い『田』の字のように広がった場所がいくつもある。
 ここも一度は氾濫した川に呑み込まれたんだよなぁ。
 これほどまで大きな畑を耕しておきながら、全てがお釈迦になってしまった農家の方々の心中は察するに余りある。

 土砂に埋もれ、今はごく僅かな雑草しか生えていない、変わり果てた畑を踏みしめ、荒れ地を征く。 

「あっ……あれ」

 ふと、エリンが前方を指さした。
 彼女の差した指の先には、先程と同じ赤い皮膚を持った、二本脚の巨体の背中が見えた。

 あれが二体目のオーガだな。
 幸いなことに背を向けていて、まだこちらには気付いていないようだ。
 先制攻撃のチャンスだ、さぁ二人ともどう動くかな?

「もう少しだけ近付いたら、わたしが魔法で攻撃を仕掛けます」

 最初にリザが進言。わざわざ気付かれてやる理由はないからな、相手の警戒の外から遠距離攻撃を仕掛けるのは正しい。

「私も攻撃魔法で合わせよっか?」

 エリンは、自分も攻撃魔法で続くべきかと言うが、

「いえ、エリンさんは前衛をお願いします。負担をかけるようで、申し訳ないですけど……」

「うん、分かった。リザちゃんの攻撃に合わせて動けばいいかな」

 リザの指示に迷うことなく頷くエリン。
 やっぱりリザは頭がいいな、今ある手札を的確に使うことが出来ている。
 冒険者としての実戦経験だけでは、地頭の良さは磨かれない。
 彼女が冒険者を志す上で、相当な勉強をしてきたのだろう。

「では……行きます」

 もう少しだけ慎重にオーガの背後へ近付くと、リザは詠唱を開始、水属性のルーンを顕現する。

「――『アクアブラスト』!」

 それに応じるかのようにセプターの魔石も青色に輝き、水柱のごとき鉄砲水が放射される。
 水といえど、魔力によって圧縮に圧縮を重ねたそれは、さながらレーザービームのようだ。

 アクアブラストの放射音を聞き取ったオーガは、何事かとのっそり振り向き――ジャストタイミング、オーガの土手っ腹に鉄砲水が叩き込まれる。
 人間が直撃すれば身体に穴が空くだろうそれは、人よりも遥かに分厚く硬い皮膚や筋骨に守られたオーガとて無事では済まない。

 ……というか、中級魔法でこれほどの威力?
 リザの持つ魔力循環が好調なのはもちろんだろうが、彼女の持つセプターの力もあるかもしれない。
 実際使っていたのは中級魔法だが、これは上級魔法……いやそれ以上にも匹敵するかもしれないぞ?
 
 突然の攻撃にオーガは驚きながらも鉄砲水の直撃に苦しげに唸る。
 リザがアクアブラストを唱え終わった時にはもう既に走り出していたエリンは、瞬く間にオーガに肉迫する。
 アクアブラストが止むと同時にエリンは飛び掛かり、

「たあぁッ!」

 上段から落下に合わせて勢いよくショートソードを振り降ろし、アクアブラストの直撃に脆くなったオーガの胴体を深々と斬り裂く。

 先制攻撃としては上々だ。

 しかしオーガも一方的にやられるばかりではない、足元近くにいるエリンを蹴り飛ばそうと右足を振り上げる。

「っと!」

 それを見たエリンはすぐに横っ飛びに躱して、オーガの左足側へ飛び込む。
 オーガの蹴りは空振りし、そうしている内にもエリンはショートソードを一撃、二撃と振るい、オーガの左足を斬りつけていく。
 一方的に攻撃を喰らわされ、しかも自分の反撃も通じないことに、オーガは怒り狂ってエリンに襲いかかるものの、対する彼女は振り下ろされるオーガの拳を悠々と躱し、隙あらば斬り込む。

 オーガが攻撃し、エリンがそれを躱すと同時に反撃し、反撃後すぐに離脱、オーガがそれを追い掛けても間に合わずにまた躱される、を数度繰り返したところで。

「エリンさん、離れてください!」

 再度距離を詰めたリザが再び詠唱を開始し、

「――『ライトニングスピア』!」

 今度は雷属性の中級魔法だ、紫電を纏った雷槍がオーガ目掛けて放たれ、リザの注意喚起を耳にしていたエリンはその場から飛び退く。
 飛び退いたエリンを追い詰めようとしていたオーガは、ライトニングスピアに気付かず――脇腹に突き刺さり、炸裂する。
 肉体の内側から焼き焦がされるようなものだ、魔力耐性が脆弱であろうオーガならなおのこと。

 それでもまだ抵抗出来るとは、なかなかしぶといが、それももう幕引きだ。
 ライトニングスピアの直撃に弱り、挙動が鈍くなったところをエリンが即座に接近し、

「えぇいッ!」

 その場でくるりと軸足を回し、遠心力を乘せた回転斬りを叩き込んだ。
 その一撃がオーガの傷付いた右足を深く斬り裂き――ついに体力の限界を迎えたオーガは断末魔と伴に右膝を折り、地響きとともに横たわり、そのまま動かなくなった。

 オーガ、撃破だ。

 そして、二体のオーガの討伐で依頼達成だ。
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