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第五章 凍て付いた里のツンデレ狩人

45話 家族になりたい

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 カオスドラゴン(ジャバウォック)を撃破して、この地の異常気象を収めた翌朝。

 昨日の夕方から雪解けが進んだおかげで、里は少しずつ元の姿を取り戻しつつあり、ジョンソンマスターが言っていた通り、温泉の方も今日の夕方頃には復旧するはずとのことで、昨夜から徹夜で復旧工事が行われているのだとか。

 リザの方も、ようやく今日に治療を受けられるので、今日はまだ診療所でお世話になり、明日以降は経過を確かめながらも退院するだろうとことだ。良かった良かった。

 鍛冶屋のアルゴ氏に武器の受け取りを行うまで、まだ六日か一週間はかかるし、まだ温泉は復旧していないので、ぶっちゃけるとやることが無い。

 なのでどうしようかと思っていた矢先にエリンが「久々に鍛錬しよう!」と提案してきたので、五人いっぺんに相手してやった。
 もちろん案の定「俺に一撃与えたらみんなの勝ち」の条件の元、俺の圧勝である。

 みんながみんなポイポイ投げられて、ぜーはーと荒く呼吸しつつ大の字になって地面に転がる中、エリンが最初に起き上がる。

「いくらリザちゃんの援護が無いって言っても、5対1なのにどうしてアヤトに勝てないの……?」

「全くだ……それも、私達はただ一方的に転ばされているばかりで、まともな防御もさせてくれん……」

 次にクインズが起き上がったが、見るからに気落ちしている。

「っていうか……なんで死角からの矢を掴んだりできるのよ……?」

 この中で一番消耗しただろうピオンは、ぐったりげんなりしている。

「ピオンの足音とか、弓の弦を引き絞る音、矢を射った時の大気の流れ。そう言った感覚で矢が飛んでくるタイミングを測っているんだよ。大気の流れを読んだり、臭気を嗅ぎ分けるのは、狩りの基本だろう?」

「…………それが出来たとしても、他のみんなと戦いながらでしょ?そんなの感じてる暇とか無いと思うけど……」

 うーん、ピオンもまだまだだな。

「皆様、大丈夫ですか?」

 次に起き上がったクロナが、みんなを法術で回復させている。

「アヤト様はお強いとは知っていましたが、いざ立ち会うとこれほどとは……」

 レジーナも、5対1で一方的に負ける事実に打ちひしがれているようだ。

「悲観している暇はないぞ。さぁ、もういっちょいこうか」

 はい休憩時間おしまい、と告げるとみんなの顔が絶望に染まった。





 温泉の復旧と、その温泉宿の営業再開は今日の夕方頃とジョンソンマスターは言っていた。
 ギルドマスターとしての口利きもあって、俺達一行及びピオンは宿の中でも最も高価な部屋、及び温泉の利用や食事の提供も無償で使わせていただくこととなった。至れり尽くせりだ。

 まだ入院中のリザには悪いが、一足先に温泉を堪能しよう。

 と、思ったのだが、その夕方前になってジョンソンマスターに個人的に呼ばれてしまった。
 なんでも、ヨルムガンド湿地帯や、アトランティカ周辺で発生した異変に関することで色々お訊きしたいことがあるとかで、俺一人だけ出張。
 食事は向こうの宿の物を用意してくれたけど、みんなと一緒に食べたかったです。しかしジョンソンマスターの厚意を裏切るようなことはしたくないので、ここは付き合うとしよう。

 みんなと一緒に楽しむのは、リザが快復してからになりそうだな。





 ………………

 …………

 ……

 ふぅ、思ったより長く話し込んじまったぜ。
 辺りはもう真っ暗で、外にいる住民はもうほとんどいない。
 みんなはもう寝ている頃だろう。 

 確か、温泉の方は夜間帯もやっていたはずだ。
 ここはいっちょ真夜中の長風呂と洒落込むぜ。

 宿に戻って、浴場の更衣室に入ろうとしたら、ドアの前の立て看板に気付く。

『深夜帯は混浴になっております』

 混浴か。
 ……過去の異世界転生だと、こう言う時にヒロインキャラが入っていたり、入ってきたりして、一緒に入ることになったりするわけだが。
 とはいえこの時間帯だし、混浴と分かっていて入ってくるのは高齢者の方々くらい、それもごく少数だろう。
 そう思って、特に身構えることなく浴室へイン。

 案の定、誰もいない。よって、この広い温泉を一人風呂である。
 軽く身体を流して、どぶんと湯船へ。

「ふぅぃぃぃ……」

 あー、すげぇ気持ちいい。
 ちょっとのんびりしたら泳いでやろうかと思ったが。
 湯気の向こう側に先客がいた。端の方にいたから見えなかったぜ。

 まぁ特に気にすることもあるまいと思っていたら。

「…………へっ?」

「オロ?」

 ピオンがそこにいた。当然、タオル一枚くらいしかないほぼ素っ裸同然の姿で。

「なっ、なんで、アヤトがここにいるのよ!?今は女湯でしょ!」

「え?いや、さっき看板見たときは混浴になってたが」

「ウソ!?だってあたしが入る時は……」

 ふと、思い当たる節があったのか、ピオンの声が止まる。

「……長湯しすぎた、かも?」

「あぁ、長湯してる内に深夜帯に切り替わったと」

 端の方にいたから、従業員の方も気付かなかったのかもしれない。職務怠慢じゃねーか、仕事しろ。

「なら、邪魔して悪かったな。身体洗ったらさっさと出るとしよう」

 いくら混浴とは言え、ピオンも男と二人きりになってはいい気はしないだろう。そう思って浴場を出ようとしたら。

「あっ……待って」

「ん?」

「その……入ってきたばっかりなんだし、ゆっくりしていけば?」

「……いいのか?」

「どうせ……他に誰もこないでしょ?」

「まぁ、来ないと思うぞ?来るにしたって、混浴のマナーを知っている人だろうし」

 たまにそれを弁えないバカタレがいるから、その辺で問題が起きても自己責任なんだろうけどな。

「なら……入ってもいいじゃない」

「いいって言うんなら、お言葉に甘えるとしようか」

 そうして、自然と背中合わせになって浸かる。



 ………………

 …………

 ……

「あの……まず、お礼を言わせてちょうだい。今回の異常気象を解決してくれたこと、ありがとう。本当に助かったわ」

 律儀だなぁ。

「どういたしまして。俺としては、せっかくの温泉旅行の邪魔をしてくれやがった奴をぶちのめしたに過ぎないけどな」

「それに、アルゴさんにあたしの弓まで作ってもらって……」

「剣一本に三千万じゃ高過ぎるって言うからついでだよ」

「平然と三千万も出せる辺りがなんかもうおかしいわね……」

 解せぬ。
 とは言え、全くの不利益しか無かったと言えばそうでもない。

「でもまぁ、今回の一件があったからこそピオンと知り合えて、今こうして裸の付き合いまでしてるわけだが」

「は、はだっ……何言い出すのよバカッ」

 裸の付き合い、に反応したのか、ピオンが微動する。
 実際そうだろうな、異常気象が無ければピオンはアトラスの町の近くで倒れたりしなかっただろうし、俺が彼女を助けることも無かったわけだ。

「アヤトって、その……何者って訊いていい?」

「フローリアン所属のSSランクの冒険者、じゃダメか?」

 多分そういう事を訊いてるんじゃないだろうけど、一応惚けたフリ。

「そうじゃなくて……あの、ヴィラムって男が言ってた、"テンセイシャ"とか、無責任な神々や作者とか、何の話か全然分からなかったけど、なんとなくアヤトに何か関係しているっていうことは分かるつもりよ」

 ヴィラムか。
 あの野郎、堂々とメタ発言連発しよってからに。
 しかし女神様も何やってんだ、時空を切り開いて渡るような奴が俺以外にいるんだから、ちゃんと処理しておけよ。

「話すと長くなるんだがな……」

 クインズの時と同じく、"俺"について簡単に説明する。

「聞けば聞くほど分けが分からないわね……」

「無理に理解しようとしなくていいぞ、そういうものだって思ってくれればいい」

 うんうん唸ってるピオンには悪いが、これは普通の人間じゃ何の話をしているのか分からなくて当然なんだ。

「それに……そんなに長生きしてて、辛くないの?」

「ん?どう言うことだ?」

 話の流れが変わったな。

「エルフの中でも特に長寿なハイエルフは、あまりにも長く生き過ぎるせいで世捨て人になる人が多いって言う話を聞いたことがあるの。アヤトは、その……四億年以上も生まれ変わりを繰り返してるんでしょ?そんなの、」

「辛くない、と言えば嘘だな。今まで何百万もの世界で、何千万人もの色んな人に出会ってきたが、それだけの別れもあったし、人の薄汚くて醜い部分もそれだけ見てきた。長寿の人種が世捨て人になるのは、そう言うところもあるんだろう」

 あるいは、戦争で心を壊したり無くしてしまったりする人もそうだ。

「だから……ハーレムを作るの?」

「え?」

 また話が変わったな、しかも妙な方向に。

「辛くないわけじゃ無いんでしょ?だからその、人肌恋しいとか、繋がりが欲しいとか、そう言う理由でハーレムを作ってるのかなって……」

 ハーレムを作ろうと思っているわけじゃ無いんだが……強ち的外れでもないな。

「……自覚は無かったが、そうかもしれない。どれだけの人と親しくなって、家族になったりもしても、最終的にはまた一人になる。そう言う孤独感を埋めたくて、みんなを受け入れているんだろうな」

 ……あぁ、こう言う話をしてるとまた思い出してしまう。
 いつかはまた一人ぼっちに、孤独になる時が来るのだと。
 それが怖くなるから、俺は、

「一人ぼっちが寂しいのは、分かるつもりよ」

 背中に柔らかな温もりが触れる。背中――いや、身体の前をくっつけているのだろうか。

「あたしも、そうだから」

 その寂しげな声色から、何かあったのだろうと察しはつくが、今は問うまい。

「ねぇ……あたしじゃ、アヤトの寂しさを埋められない?」

「……どう言う意味かって訊いていいか?」

 それは……"そう言うこと"だろうか?

「ほ、他に誰も来ないんだし……」

「ピオン、違うなら違うって言ってくれ。『誘ってるな』?」

「……み、皆まで言わせないでよっ、あたしだって恥ずかしいのを我慢して、……え?」

 ツンになりかけたピオンに振り向いて、正面から抱きしめた。

 そのまま湯船から上がって、押し倒して、

「ちょっ、やっぱり待ってっ、まだ心の準備が、あっ、あぁぁぁぁぁ……っ」



 ………………

 …………

 ……

 仕方ないと思う。
 傷心の男に、女が慰めるようなことを言い、そしてお互い服を着ていない、人気の無い空間。
 それならもう、ヤることは一つしか無いわけで。

「フローリアンの英雄がこんな男で、幻滅したか?」

「幻滅……うん、幻滅はしたけど、嬉しいかな」

 良い汗をかいたので、お互い身体を綺麗にしてから、もう一度湯船に浸かり直している。

「ねぇ、アヤト」

 湯船の中で、ピオンが身体を傾けてくる。

「あたし、アヤトと家族になりたい」

「うん?」

 唐突だな。

「さっきみたいに、お互いの寂しさを紛らわせるだけの関係じゃなくて、エリンとかみんなと、一緒にいたい」

 恋人とか婚約者とか、そんな段階をすっ飛ばしてカラダの関係を先に築いてしまったが……行き着く先はそうだよな。

「あぁ。ピオン、俺と結婚してほしい」

「うんっ」

 だが……ひとつ懸念を思い出した。

「でも、一緒に住むのはもう少し待ってくれるか?」

「どうして?」

「今住んでいる家、これ以上人が増えると本気で部屋が足りなくなる」

 クロナとレジーナが部屋を共有し、俺がクインズに部屋を譲っているからなんとかなっていたが、ここにピオンまで加わると、どうしようも無くなってしまう。
 最後の手段として、家の外にテントを張ってそこに俺が寝泊まりする手もあるが……それはさすがにみんなが許してくれないだろう。

「うーん、そっか……」

 しゅんとなってしまうピオン。
 だが、俺に何の策も無いと思ったか?

「だから、みんなと一緒に住んでも手狭にならない家を建てる」

「へ?」

「フローリアンの町に帰ったら土地を買って、図面引いて、建築業者と相談して、それで家を建てる」

「すごい普通に言ってるけど……出来るの?」

「出来る」

 簡単……ではないが、出来ることだ。

「もうすぐ家が建てられるって時になったら、必ず迎えに行く」

「……ほんと、何でも出来ちゃうのね」

 家を建てるぞと言う俺に苦笑するピオン。

「じゃぁ……待ってる」

「あぁ、待っててくれ」

 湯船の中でキスを交わして、俺とピオンの長い夜は過ぎていった。





 翌朝、ピオンが俺達の家族の一員になったことをみんなに告げたら。

「うん、分かった」と普通に頷くエリン。

「まぁ、嬉しいです♪」と嬉しそうなクロナ。

「さすがはアヤト様」と淡々と応じるレジーナ。

「一晩の内に何があったのだ……」と顔を引きつらせるクインズ。

 まともな反応してくれるのがクインズしかいないんだが。



 昨日の午前中にインフェル熱の特効薬を接種したリザは、その日の夕方にも熱は下がり、食欲も戻ってきていた。

 そうして今日の朝にはとりあえずの退院と言うことになったので、みんなで出迎えだ。

「皆さん、本当にご迷惑をおかけしてごめんなさい……」

 退院準備をしていたリザが、深く頭を下げる。心なしか痩せたように見える。

「うぅん、リザちゃんが元気になってほんとに良かったよ」

 良かった良かった、とエリンが頷いている。

「せっかくの温泉旅行ですもの、リザさんも一緒にご堪能しましょうね」

 リザが倒れてからずっと思い込むような顔をしていたクロナが、ようやくいつものニコニコ顔をしてくれた。

「リザさん、もし何か体調に異変を覚えたら私にお伝えください。すぐにご対応致します」

 ずっと看病をしていたレジーナは、すっかりリザのお世話役が板についている。
 根が生真面目同士、通ずるものがあるんだろうな。

「み、皆さん心配し過ぎですよ……」

 困ったように苦笑するリザ。
 思い返せば、リザがバッカス達のパーティに入ったのは、利害一致からだったっけな。

 今ではこうして、利害に関係なく心配して、無事を喜んでくれる仲間……いや、"第二の家族"に囲まれて、

「良かったな、リザ」

 って俺が言おうとしたのに、クインズに先を越された。くやしい。

「はい、これもアヤトさんがわたしを病院に運んでくれたおかげと、皆さんが特効薬の薬草を探し集めてくれたおかげです」

 良かったな、のベクトルがちょっと違ったけど、リザが嬉しそうなので良しとする。

「あー、その……リザちゃん、あたしからひとつ」

 すると、ピオンが少し言いにくそうな前置きを置く。

「あたしも、アヤトの家族に加わることになったから……その、よろしくね?」

「わたしの知らない内に!?……いえ、アヤトさんなら別段珍しくもないですね」

 リザは、ピオンの口から言われたから驚愕したんだろうけど、俺の口から言っても「あぁ、またですか。まぁアヤトさんなら当然でしょうけど……」とジト目で言うだけだろう。

 ……ピオンとは、カラダから始まった関係だと言うのは、後々に伝えよう。今ここで言ったら、病み上がりのリザが卒倒するかもしれん。

 こうして、ピオンが正式に俺達のパーティに加わることになった。

 とは言え、アルゴ氏から武具の受け取りもあるので、あと五日ほどここに滞在する。
 よって、ピオンも含めて(体力が戻り次第リザも混ぜて)模擬戦してはポイポイ投げまくってやり、温泉に浸かってその日の鍛練の疲れを癒やす日々が続いた。



 そして、スプリングスの里に来て一週間が経った、翌早朝。

 予定通りなら、今日がアルゴ氏に発注した武器の受け取りと、フローリアンの町へ帰る日だ。

 ジョンソンマスターに世話になったことを告げてから集会所を後にしたあとは、その足でアルゴ氏の鍛冶屋へ。

「…………来たか」

 アルゴ氏の顔にはこれでもかと言うほど疲労感が激しく自己主張しているが、やり遂げたように晴々としていた。

「このアルゴの最高傑作、『ソハヤノツルギ』だ」

 カン、とカウンターに置かれたのは、流れるような曲線美を描く鞘に納められた太刀。
 紛うことなきジャパニーズカタナソード――日本刀だった。
 サイズ感や装飾は西洋のロングソードに近いものにされているが、これはどう言い繕ってもポン刀である。

「……ちなみに、そのネーミングはどこから?」

 訊いてみたら。

「儂が若い頃に鍛えた武具を手にした男が、そう名付けたらしくてな。それを思い出したのだ」

 そいつ転生者だろ。
 あるいは、その転生者に影響を受けた人か。

「なるほど」

 手に取り、シュリィン、と音を鳴らして抜いてみる。
 曇り一つ無い刀身に、俺の瞳が映り込む。

 これは――期待していいかもしれない。

 試しに、火属性の魔力を送り込んでみると、刀身が燃え上がる。
 雷属性の魔力を送り込むと紫電を纏い、氷属性の魔力を送り込むと雹を吐く。

 ただの日本刀じゃない、魔法剣としても完璧だ。
 これなら三千万どころか、三億は出して良かったかもしれん。

「パーフェクトですよ、アルゴ氏。やはり三千万を出すだけの価値はありました」

 カキン、とソハヤノツルギの鞘へ納める。

「フン……その剣で、お主のハッピーエンドとやらを実現してみせい」

 そうしてアルゴ氏は次々に武具をカウンターに並べていく。

 エリンのエクスカリバーと盾。

 クロナの鉄扇。

 レジーナの鎖鎌。

 クインズのトゥーハンドソード。

 ピオンの弓矢。

 みんながみんな、それぞれの言葉でアルゴ氏に感謝を告げると。

「……よし、儂は寝る。ではな」

 と言い残して、アルゴ氏は店じまいをすると、フラフラと家内へ消えていった。
 きっと何日も徹夜したんだろうなぁ。

 さて、アルゴ氏の武具を受け取ったところで、待たせている帰りの馬車に乗るとしよう。



 里の出入り口まで、ピオンが見送ってくれる。

「必ず迎えに来てよ。忘れたりしたら、許さないんだから」

「あぁ、約束だからな」

 フローリアンの町に戻ったら、新居を建てる。
 それが建つ頃合いを見て、ピオンを迎え入れる。
 いつになるかはその時次第だが、出来るだけ早く建てよう。

「じゃぁ……またね、アヤト」

「またな、ピオン」

 名残惜しくも馬車が歩き出す。

 馬車が見えなくなるまで、ピオンは手を振ってくれている。
 
 次に来て、そして帰る時はピオンも一緒にだ。

 フローリアンの町に戻ったら、どんな家を建てようかな――。
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