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恵みの雨

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村には薪があまりない。
だからなるべく火を使わなくてすむように夕方には夕飯を食べて日が落ちると就寝する。

だから日が落ちかけていてもう寝る準備が整っていた私は間に合わなかったかー。と少し落胆していた。

一体何を待っていたかというと...

「.....あ、....来た.....」

屋根にポトポト...ポトポト...と音がなる。
玄関の扉を開けて外を覗いてみると雨が降っていた!

雫がポトポトと落ちていくような雨だったのが、次第に雨の勢いや音が激しくなっていった。

ザーザー。ザーザー。

外に一歩でも出れば一瞬でずぶ濡れになってしまいそうな雨の勢いだ。

神様、雨降りました!どうもありがとー!感謝します!
あ、畑の事もよろしくお願いします!

神様への礼儀を済ませた私は周囲に誰も居ないのを確認した。そして後で怒られる覚悟をしてキャミソール型の肌着姿で外へと飛び出した!

「ひゃぁッ!冷たぁぁーいッ!!!....」

裸足で地面を走り、雨を全身へ浴びる。

さっきまでの火照った体が一気に冷えるのがわかった。
だがそれすらも楽しくてしかたなかった。

ぬかるむ地面を踏みしめながら家の周りを走りまわった。

「...マディッ!!!......」

すると騒いでるつもりはなかったのだが、私が居ないのに気がついたお兄ちゃんが駆け寄ってきた。

「......ッ...........」

「一体何してんだッ!風邪をひくだろうッ!」

いつも優しいお兄ちゃんと違って、目を吊り上げて怒ってる。

その姿にビックリしてしまったが私は遊んでいた訳ではないと説明した。

「あのね、これは体を洗ってただけなの!拭くだけだとベタベタしてる気がして...。そ、それにね!今日良い物をもらったの!お兄ちゃんも使ってみよう!」

戸惑っているお兄ちゃんを放って置いて、私は玄関先に置いておいた破れた古布とキコの実の水を取った。

破れてもう使い道のない小さな古布にキコの実の水を少しだけ垂らした。そして擦り合わせるようにゴシゴシと古布を動かした。

すると古布からは泡が沢山出てきた。

「お兄ちゃん!こっち来て!!」

雨に打たれながら呆然としていたお兄ちゃんを呼んで服を無理矢理脱がせた。

「あ、ちょッ...待て....」

パンツ一枚にされたお兄ちゃんは困惑した表情をしながら私を見てきた。

「あのね、これをこうするの!」

私はお兄ちゃんの腕を泡立った古布で擦っていった。

「こうすると体の汚れが落ちるんだよ!」

「...え、...そうなのか?...」

不安そうに見てくるお兄ちゃんに私は「...信じてくれないの?」と手を止めて言った。

すると私には甘いお兄ちゃんは「いや!信じてるよ!うん!綺麗になってる気がする!」と言って自分で擦り始めた。

「...ふふふ。」

私はその姿を見てホッとした。
そして次は自分の事をする事にした。

キコの実の水を少しだけ手のひらにつけた。
擦り合わせて泡が出たのを確認してそれを髪につけて揉み込んだ。

髪の毛の根元と地肌を洗うように、優しく泡を馴染ませて揉み込んだ。毛先はゴシゴシしないように泡を塗るようにつけていった。

「ふふふーんッ♪....」

冷たい雨だったが、前世振りに髪や体を洗える事がとても嬉しかった。

「ん?マディは髪も洗うのか?」

お兄ちゃんも私の真似をするように髪を泡だらけにしていった。そしてお兄ちゃんの髪を洗ったり、私の体を洗ったりしている間にどんどん声が大きくなっていった私達は母さんと父さんに見つかった。

「な、何してるのッ!」
「な、何してるんだッ!」

目を見開いている二人の姿と大きな声に驚いた私達は固まってしまった。

「「........................。」」

そして問答無用で怒られた私達はすぐさま雨で泡を落として家の中へと入れられた。

「全く何考えてるの?こんなに体を冷やしちゃって!」

古布で私の体拭きながら怒る母さん。

お兄ちゃんは父さんからお叱りを後ろで受けています。

....巻き込んでごめんね。お兄ちゃん...

「しかも女の子が肌着で外に出るなんて...」

言いたい事が山ほどあるのか、母さんの言葉は止まらない。

まあ、それもそうだよね...
5歳といえど女の子だもんねー。

婚姻相手以外の異性に肌着を見せるなんて許されないって事なんだよね...きっと。

「.....ごめんなさい、母さん。もう肌着で外に出たり何かしないよ。あと...お兄ちゃんは怒らないであげて。止めに来てくれたのを無理矢理引き込んだの、私が......。」

申し訳なさそうに小さな声で謝る私に母さんは溜め息をついた。

「.....何でこんな事をしようと思ったの?」

「あのね、私体を洗いたくって...。でも家の水は貴重だから雨なら好きに使っても良いかと思って...。それに今日交換したキコの実の水も使ってみたくて...」

ほら体スベスベだし、髪もサラサラなんだよ!と母さんの手を取って触らせてみた。

「....あら、本当ね。ベタベタしてない。それに髪もさっきより色が綺麗になってるかしら?」

不思議そうに私の体や髪を触る母さん。

「きっと汚れが取れたからベタベタもしないし、綺麗な色にもなったんだと思う。」

「え.......あれは汚れなの?」

「だって洋服を洗濯する時も洗う前と後だと全然違うじゃん!触り心地も色も!」

「..................。」

私としては当たり前の事だったのだが、母さんには驚くべき事だったらしい。言葉を失って固まっていた。



「..........私....汚れてるのね...」



そして母さんは無言で雨の降っている外へと行った。
慌てて追いかけると...

「え、え?!.....か、母さんッ!!!」

雨の中で一心不乱に体と髪を洗っている母さんの姿があった。

「どうしたんだ!サーシャ!!」

慌てて駆け寄る父さんも母さんに事情を聞いたのだろう。一緒になって体と髪を洗っていた。

「え.......。」
「父さん....母さん.....。」

そしてこの日から我が家は体と髪を洗う事を覚えた。


因みに次の日ケビンもわざわざ髪と体を洗った。

だが2歳児には泡で髪を洗うのは苦手だったようで大泣きされたあげく泡を見るだけで嫌がるようになった。

それからは清潔を保つ為にと泣きわめくケビンを皆で洗うようになった。

ケビンが大きくなるまでこの攻防戦は続いた。

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