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決断
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「それで? あれからどうなった」
あの件について話す為にわざわざ時間をあけて屋敷へ来てくださったケルヴィン叔父様とイザベラ様。
苛立ちが抑えきれないのか、眉をこれでもかと寄せた姿で此方を窺ってくるケルヴィン叔父様は談話室に着いた途端に私へ話を急かした。
お茶の用意もまだしていないというのに、礼儀作法を投げ捨てたケルヴィン叔父様の態度に私は少し驚いた。
恐らくそれだけ私の事を心配してくれていたのだろう。
微かに呆れ笑いをしたイザベラ様が目配せしてきたので私は無意識に緊張感で強張っていた体が少しだけ解れた。
「癇癪を起こし続けているお母様は相変わらずお兄様と例の子供を受け入れる姿勢を取っておりますので、これ以上問題を起こさないように普段通り部屋へ居てもらっています」
「そうか」
「あの男は毎日のように屋敷へ来ては門の前で暴れていますが、門番には決して屋敷内には入れないように言いつけていますので私やお母様は会っておりません」
「………………」
「此方を……執事が調査致しました」
執事にまとめさせたあの男の悪行の報告書を手渡す。
ケルヴィン叔父様はまだ何かあるのかと怪訝そうな表情をした。隣に座っていたイザベラ様も何か思う所があったのか、眉をピクリと動かした。
張り詰めた空気の中、無言で報告書を読み終えたケルヴィン叔父様は何も言わず資料をイザベラ様へ手渡した。
膝に置かれていた手を血流が止まる程真っ白に握り締めていたケルヴィン叔父様の表情は恐ろし過ぎて視界に入れられなかった。
「義務を放棄して駆け落ちした挙げ句、厚顔無恥にも己の責任を全てを押し付けた妹の前へ平然と現れるなんて凄い方だと思っていたのよ?。息子を妹へ売って恩にするなんてね。 ふふふ……本当に面白いわ」
報告書を読み終えたイザベラ様が冷たい笑い声を出しながら報告書を机に戻した。
「全てを捨てて選んだ女性すら足蹴にして、挙げ句の果てに自分の借金を払わせて亡くならせたですって? しかも反省せずにまた他の女性にちょっかいをかけてるなんて……本当に女を馬鹿にしているわね」
「ああ……本当にありえないな。自分の再婚する持参金を妹に用意させようだなんて。しかも実の子供を虐待してるだと? …………どうやら兄上はあのクズを甘やかし過ぎたようだな」
静かな声にははっきりとした怒りが込められており、夫妻の表情はゾッとする程の冷酷さが秘められていた。
そんな二人の姿は初めてで、私は自分が責められているような気がしてしまった。
「御迷惑かけてしまい本当に申し訳ありません」
「ジュリエッタ、謝罪なんてやめなさい。これは兄上も義姉上、そしてあの男の問題だ。当主になったからといってあの頃幼かったお前には何の罪もない。」
「ですが迷惑をかけているのは事実ですし」
「それは違う。私は自分の意識でジュリエッタの後見人になると決めた。そしてジュリエッタは立派に当主としての勤めを果たしている。現にあの男と義姉上の暴走にも対処したではないか」
「………………」
雰囲気に圧され、謝罪を口にしてしまった。
そんな私を一喝するケルヴィン叔父様。
対処といっても私一人では追い返すだけで精一杯。
こうして叔父様達に頼ってしまう辺りがまだまだ未熟者の証拠なのだ。
表情は崩さないものの、言葉数があきらかに少ない私の姿にケルヴィン叔父様達は恐らく私の不安を見抜いているのだろう。
「身内の処分とは誰であっても対処が難しい案件だ。まだ成人前で、母親が味方になってくれないジュリエッタでは不安も多かろう。当主だからといって人に頼る事を恥だと思うな」
「必要な力や援護は私達が勤めますわ。ジュリエッタは自分の成したいようになさい。どんな決断を取ろうと私達は貴女の味方です」
「ケルヴィン叔父様……イザベラ様……」
怒りの表情から慈愛に満ちた優しげな表情に変えた二人の言葉は温かく、ケルヴィン叔父様達が私の味方なのだと再認識する事が出来た。
侍女に用意させたお茶を飲み、心を落ち着かせた私はケルヴィン叔父様にこの件をどうしたいか問いかけられた。
「私が案を出すのは簡単だが、ロブゾ家の当主はジュリエッタだ。だから最終的な決断はお前に任せるよ」
「私はあの男を絶対に許しません。二度と我が家には関われないようにしたい。あの男とお母様の甘い考えなんて絶対に受け入れたくありません!」
あの男の子供を養子になんてしたら絶対に後悔する。
実の父親だという事を逆手にとって死ぬまで金を要求されるはず。
しかも社交界にロブゾ家の跡取りがあのアルバート・ロブゾの息子だとバレたら我が家は今度こそ終わる。
五年たってようやく薄れてきた我が家の醜聞が再熱するなんて許せるはずがない!
当主として揺るがない決断は決めた私は「あの男を完膚なきまでに叩き潰します! ケルヴィン叔父様、イザベラ様、どうか力を貸してくださいませ!」と言い、頭を下げた。
あの件について話す為にわざわざ時間をあけて屋敷へ来てくださったケルヴィン叔父様とイザベラ様。
苛立ちが抑えきれないのか、眉をこれでもかと寄せた姿で此方を窺ってくるケルヴィン叔父様は談話室に着いた途端に私へ話を急かした。
お茶の用意もまだしていないというのに、礼儀作法を投げ捨てたケルヴィン叔父様の態度に私は少し驚いた。
恐らくそれだけ私の事を心配してくれていたのだろう。
微かに呆れ笑いをしたイザベラ様が目配せしてきたので私は無意識に緊張感で強張っていた体が少しだけ解れた。
「癇癪を起こし続けているお母様は相変わらずお兄様と例の子供を受け入れる姿勢を取っておりますので、これ以上問題を起こさないように普段通り部屋へ居てもらっています」
「そうか」
「あの男は毎日のように屋敷へ来ては門の前で暴れていますが、門番には決して屋敷内には入れないように言いつけていますので私やお母様は会っておりません」
「………………」
「此方を……執事が調査致しました」
執事にまとめさせたあの男の悪行の報告書を手渡す。
ケルヴィン叔父様はまだ何かあるのかと怪訝そうな表情をした。隣に座っていたイザベラ様も何か思う所があったのか、眉をピクリと動かした。
張り詰めた空気の中、無言で報告書を読み終えたケルヴィン叔父様は何も言わず資料をイザベラ様へ手渡した。
膝に置かれていた手を血流が止まる程真っ白に握り締めていたケルヴィン叔父様の表情は恐ろし過ぎて視界に入れられなかった。
「義務を放棄して駆け落ちした挙げ句、厚顔無恥にも己の責任を全てを押し付けた妹の前へ平然と現れるなんて凄い方だと思っていたのよ?。息子を妹へ売って恩にするなんてね。 ふふふ……本当に面白いわ」
報告書を読み終えたイザベラ様が冷たい笑い声を出しながら報告書を机に戻した。
「全てを捨てて選んだ女性すら足蹴にして、挙げ句の果てに自分の借金を払わせて亡くならせたですって? しかも反省せずにまた他の女性にちょっかいをかけてるなんて……本当に女を馬鹿にしているわね」
「ああ……本当にありえないな。自分の再婚する持参金を妹に用意させようだなんて。しかも実の子供を虐待してるだと? …………どうやら兄上はあのクズを甘やかし過ぎたようだな」
静かな声にははっきりとした怒りが込められており、夫妻の表情はゾッとする程の冷酷さが秘められていた。
そんな二人の姿は初めてで、私は自分が責められているような気がしてしまった。
「御迷惑かけてしまい本当に申し訳ありません」
「ジュリエッタ、謝罪なんてやめなさい。これは兄上も義姉上、そしてあの男の問題だ。当主になったからといってあの頃幼かったお前には何の罪もない。」
「ですが迷惑をかけているのは事実ですし」
「それは違う。私は自分の意識でジュリエッタの後見人になると決めた。そしてジュリエッタは立派に当主としての勤めを果たしている。現にあの男と義姉上の暴走にも対処したではないか」
「………………」
雰囲気に圧され、謝罪を口にしてしまった。
そんな私を一喝するケルヴィン叔父様。
対処といっても私一人では追い返すだけで精一杯。
こうして叔父様達に頼ってしまう辺りがまだまだ未熟者の証拠なのだ。
表情は崩さないものの、言葉数があきらかに少ない私の姿にケルヴィン叔父様達は恐らく私の不安を見抜いているのだろう。
「身内の処分とは誰であっても対処が難しい案件だ。まだ成人前で、母親が味方になってくれないジュリエッタでは不安も多かろう。当主だからといって人に頼る事を恥だと思うな」
「必要な力や援護は私達が勤めますわ。ジュリエッタは自分の成したいようになさい。どんな決断を取ろうと私達は貴女の味方です」
「ケルヴィン叔父様……イザベラ様……」
怒りの表情から慈愛に満ちた優しげな表情に変えた二人の言葉は温かく、ケルヴィン叔父様達が私の味方なのだと再認識する事が出来た。
侍女に用意させたお茶を飲み、心を落ち着かせた私はケルヴィン叔父様にこの件をどうしたいか問いかけられた。
「私が案を出すのは簡単だが、ロブゾ家の当主はジュリエッタだ。だから最終的な決断はお前に任せるよ」
「私はあの男を絶対に許しません。二度と我が家には関われないようにしたい。あの男とお母様の甘い考えなんて絶対に受け入れたくありません!」
あの男の子供を養子になんてしたら絶対に後悔する。
実の父親だという事を逆手にとって死ぬまで金を要求されるはず。
しかも社交界にロブゾ家の跡取りがあのアルバート・ロブゾの息子だとバレたら我が家は今度こそ終わる。
五年たってようやく薄れてきた我が家の醜聞が再熱するなんて許せるはずがない!
当主として揺るがない決断は決めた私は「あの男を完膚なきまでに叩き潰します! ケルヴィン叔父様、イザベラ様、どうか力を貸してくださいませ!」と言い、頭を下げた。
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