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24.悪役令嬢は変容する

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翌朝、アナスタシアを起こしに来たメアリーは短い叫び声をあげた。

扉を開けてすぐ目に入ったベッドの上に布団をかぶったまま1日中眠れないでいたアナスタシアが座っていた。
目の下は青白く、とても令嬢がしてもいい顔色ではない様子のアナスタシアは、部屋の薄暗さも相まってメアリーの目には見えてはいけないものに見えた。

「お嬢様…?」

恐る恐る声をかけるメアリーの声は珍しく震えていた。
使用人の間で密かに珍獣とも言われるアナスタシアに幼いころから仕えているお陰か、どんな事でも動じず、淡々と物事をやり過ごすスキルが身に着いたメアリーには唯一苦手な物があった。

「あらメアリーどうしたの?」

そう言って頭にかぶった布団を取り除いたアナスタシアは怯えた表情のメアリーに小首をかしげて問いかけた。
普段と変わらない様子のアナスタシアの声にメアリーはひっそりと息をついてベッド近くのカーテンを勢いよく開けた。

「そんなに慌てて何かありまして?」

そう言ってのんきにベッドで寝そべるアナスタシアを振り返ってメアリーは本日2度目の悲鳴を上げた。

「お嬢様!!なんてお姿に…!」

そこにはメアリーの苦手なホラー要素とは別の恐ろしい姿になったアナスタシアがいた。
昨夜ベッドに入ったアナスタシアはひと悶着はあったものの大人しくしていればお嬢様にしか見えない姿だった面影は微塵も残っていなかった。
しいて言えば着ている服は高級な糸を使ったネグリジェなのは変わらないものの、布地はしわしわで艶やさが損なわれていて昨夜何があったのかメアリーには全く見当がつかなかった。

メアリーの悲鳴にアナスタシアは驚いたままベッドの上で自分の姿を姿見を使って確認した。

…まぁ、大変。

昨夜、湯浴みの後に絡まないように1本1本念入りに香油を行きわたらせられた後、メアリーの手で丁寧に梳かれた髪は頭上で立派な鳥の巣が出来ていた。
目の下には一睡もしていない証のようにはっきりとした隈ができているし、白目は充血して赤くなっている。
布団にもぐっていた影響か、頬は赤くそり、鼻の下は何度も擦ったせいでかさついていた。
唇は歯で噛みしめたり指で触ったせいでひび割れて、普段のふっくらとした果物のような唇とはかけ離れていた。

「一体何があったのですか!!」

悲鳴にも似た非難を受けてアナスタシアは理由を伏せて眠られなかった事だけをメアリーに伝えた。
まさかヴィアルトスの姿を思い出してベッドの上をごろごろと暴れたり枕をベッドに叩きつけたり、髪に残った唇の感触を思い出して布団を被って悲鳴を殺していたなどと知られる訳にはいかなかった。
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