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マルサの街
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「広い街だな......」
烈はきょろきょろとあたりを見回していた。マルサの街に着いて、大きな門を潜り抜けた後の、最初の感想がそれだった。
「バリ王国の主要拠点の一つだからな。防備も繁栄も他の街とは規模が違う。バリの主要産業は農業だから、特に都市と村の差はでかくなるんだ」
物見珍しそうな烈に、ラングは丁寧に説明してくれた。
「そして、この街でもっとも有名なのがあれさ」
ラングの指先にはひと際大きな建物があった。
「ああ、遠くからでもよく見えて目立っていたな。あれがそうなのか?」
「そう。この国で200年の歴史を持つ円形闘技場。今回の武術大会の会場さ」
「円形なんだな」
「ああ、360度どこからでも観戦できるようにしたものらしい。普段は奴隷を戦わせて、貴族様の賭けの対象になるんだがな。今日は誰でもエントリー可能だ」
「奴隷!?」
「ん? どうした?」
「この国には奴隷がいるのか?」
「この国というか......どこの国も普通だぜ?」
「そうか......」
「奴隷の存在はわかるのに、奴隷のシステムは覚えてないのか。面白い記憶喪失だな」
ラングがニヤニヤ烈の方を見てくる。
「ああ、そうだな。ちなみにどんな奴らが奴隷になるんだ?」
「ん~そうだな、大体、亡国の人間や身持ちを崩した人間かな? まあ数はほとんどいない。こういう風に貴族様や国が管理しているのがほとんだ」
(やはり、俺の世界とは違う......労働力が人間に寄る分、そういうことが成立するのか......)
烈は少なからず、文化観の違いに衝撃を受けていた。
「まあ、気にするな。その時はその時だ。いいご主人様に当たれば、庶民よりいい暮らしができるって話だしな」
ラングは、ははっと爽やかに笑う。それが烈には恐ろしかった。
「それで? これからどうするんだ?」
横で話を聞いていたミアが口を挟む。
「ん? ああ、俺がエントリーしてきてやるよ。レツとミアは今夜の宿でも決めてきてくれ」
「わかった。行くぞ? レツ」
「ああ。じゃあ頼んだ。ラング」
「あいよ~」
そういって、ラングは口笛を吹きながら腕を頭の後ろで組んで闘技場の方へ歩いて行った。ラングの姿が消えるのを待って、烈がミアに聞いた。
「何か気になることでも?」
「そう見えるか?」
「ああ、あまり楽しくはなさそうだ」
「まあな。自分で戦わず、他人に戦わせるのは何とも気分が悪い」
烈は驚いた。ここに来るまで何か不満に思っていそうなことは察していたが、まさかそんなことだったとは。
「ふふっ」
「何が可笑しい?」
ミアはジト目で烈を睨む。
「いや、すまん。意外だと思ったんだ」
「そうか?」
「ああ、もっと政治的な動きが好きな方かと思っていたからな」
「私はそんなに腹黒くないぞ?」
「だが、やろうと思えばできるだろう?」
「むっ?」
「なのに今は感情に出していると思うとな。少しおかしかった」
「別に、わざわざレツの前でそんなことをしても意味はあるまい」
「ラングの前でもじゃないか。ラングは多分気付いているぞ?」
「だろうな。あれはそういうのは得意な類だ」
「ああ、そうだな。ただ、まだ会って、数日しか経っていないのにミアも俺もラングもそれなりに通じ合えているのが可笑しくてさ」
「ふん。そうだな。やはり全員戦士だからだろう」
「ミアの言う戦士は、職業の戦士とは違うんだな」
「ああ、私は魂の在り方だと思っている」
「魂の?」
「そうだ。何かに抗うもの。それが戦士だと」
「俺も抗っているか?」
「そうだろう。お前の剣は好きだからな」
「好き」と言われて烈はドキリとする。それを気づいたかどうかわからないが、ミアは言葉を続けた。
「剣が合うというかな。通じるんだろう。心の中の芯にあるものがな。レツ」
ミアは烈の方へ向き直って言った。
「私は、いつかお前とも戦ってみたい」
そういうミアの目は金色に輝いていた。赤色の髪は逆立ち、その言葉は熱を持って、烈の魂の芯に届いたように、烈には感じられた。
烈はきょろきょろとあたりを見回していた。マルサの街に着いて、大きな門を潜り抜けた後の、最初の感想がそれだった。
「バリ王国の主要拠点の一つだからな。防備も繁栄も他の街とは規模が違う。バリの主要産業は農業だから、特に都市と村の差はでかくなるんだ」
物見珍しそうな烈に、ラングは丁寧に説明してくれた。
「そして、この街でもっとも有名なのがあれさ」
ラングの指先にはひと際大きな建物があった。
「ああ、遠くからでもよく見えて目立っていたな。あれがそうなのか?」
「そう。この国で200年の歴史を持つ円形闘技場。今回の武術大会の会場さ」
「円形なんだな」
「ああ、360度どこからでも観戦できるようにしたものらしい。普段は奴隷を戦わせて、貴族様の賭けの対象になるんだがな。今日は誰でもエントリー可能だ」
「奴隷!?」
「ん? どうした?」
「この国には奴隷がいるのか?」
「この国というか......どこの国も普通だぜ?」
「そうか......」
「奴隷の存在はわかるのに、奴隷のシステムは覚えてないのか。面白い記憶喪失だな」
ラングがニヤニヤ烈の方を見てくる。
「ああ、そうだな。ちなみにどんな奴らが奴隷になるんだ?」
「ん~そうだな、大体、亡国の人間や身持ちを崩した人間かな? まあ数はほとんどいない。こういう風に貴族様や国が管理しているのがほとんだ」
(やはり、俺の世界とは違う......労働力が人間に寄る分、そういうことが成立するのか......)
烈は少なからず、文化観の違いに衝撃を受けていた。
「まあ、気にするな。その時はその時だ。いいご主人様に当たれば、庶民よりいい暮らしができるって話だしな」
ラングは、ははっと爽やかに笑う。それが烈には恐ろしかった。
「それで? これからどうするんだ?」
横で話を聞いていたミアが口を挟む。
「ん? ああ、俺がエントリーしてきてやるよ。レツとミアは今夜の宿でも決めてきてくれ」
「わかった。行くぞ? レツ」
「ああ。じゃあ頼んだ。ラング」
「あいよ~」
そういって、ラングは口笛を吹きながら腕を頭の後ろで組んで闘技場の方へ歩いて行った。ラングの姿が消えるのを待って、烈がミアに聞いた。
「何か気になることでも?」
「そう見えるか?」
「ああ、あまり楽しくはなさそうだ」
「まあな。自分で戦わず、他人に戦わせるのは何とも気分が悪い」
烈は驚いた。ここに来るまで何か不満に思っていそうなことは察していたが、まさかそんなことだったとは。
「ふふっ」
「何が可笑しい?」
ミアはジト目で烈を睨む。
「いや、すまん。意外だと思ったんだ」
「そうか?」
「ああ、もっと政治的な動きが好きな方かと思っていたからな」
「私はそんなに腹黒くないぞ?」
「だが、やろうと思えばできるだろう?」
「むっ?」
「なのに今は感情に出していると思うとな。少しおかしかった」
「別に、わざわざレツの前でそんなことをしても意味はあるまい」
「ラングの前でもじゃないか。ラングは多分気付いているぞ?」
「だろうな。あれはそういうのは得意な類だ」
「ああ、そうだな。ただ、まだ会って、数日しか経っていないのにミアも俺もラングもそれなりに通じ合えているのが可笑しくてさ」
「ふん。そうだな。やはり全員戦士だからだろう」
「ミアの言う戦士は、職業の戦士とは違うんだな」
「ああ、私は魂の在り方だと思っている」
「魂の?」
「そうだ。何かに抗うもの。それが戦士だと」
「俺も抗っているか?」
「そうだろう。お前の剣は好きだからな」
「好き」と言われて烈はドキリとする。それを気づいたかどうかわからないが、ミアは言葉を続けた。
「剣が合うというかな。通じるんだろう。心の中の芯にあるものがな。レツ」
ミアは烈の方へ向き直って言った。
「私は、いつかお前とも戦ってみたい」
そういうミアの目は金色に輝いていた。赤色の髪は逆立ち、その言葉は熱を持って、烈の魂の芯に届いたように、烈には感じられた。
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