8 / 34
狼族の少女は囚われる 2
しおりを挟むあれはシロが十歳に満たないほど幼かった頃のことだ。
そのときにはもう、シロは今と同じように人の目を避け、一日のほとんどを森の奥で過ごしていた。同族に見つかれば罵倒され、石を投げられる。人族に見つかれば殺されるか、街に連れ去られてしまう。
けれど幼かったシロは一人で森の奥深くまで足を踏み入れるのも怖く、今よりもずっと近場でひっそりと身を隠していた。
僅かな木の実で空腹を満たしていると、こちらに近づく泣き声と足音が耳に届く。姿を見なくても、声と軽い足音と匂いで人族の子供だとわかった。
どうしよう、とシロは判断に迷った。
人族を殺すつもりはない。狼族は幼い頃から人族に対する憎しみを刷り込まれるが、シロは例外だ。人族を殺す理由がない。
逃げるべきだ。子供とはいえ人族だ。狼族の姿を見れば攻撃してくる恐れがある。非力なシロならば、子供にでも殺せるだろう。
しかし、このままではいずれ別の狼族に見つかるだろう。そうなれば、子供は間違いなく殺される。子供だろうと、人族であれば容赦などしないのだ。それは人族も同じだけれど。
面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。でも、人が殺されるのを見るのも嫌だ。ましてや相手は子供。
今ならば、助けられるのだ。他の狼族に見つかる前に、森の外へ逃がすことができる。
それなのになにもせず、見て見ぬふりをしてしまえばきっと後悔するだろう。
覚悟を決め、シロは声の聞こえる方へ近づいた。
本当に大丈夫なのか。シロの姿を見て泣き叫んだりしないだろうか。狼族であるだけでも恐怖や憎悪の対象になるというのに、シロの毛色は更に相手にショックを与えてしまうかもしれない。耳と尻尾を隠すべきか。でも隠せる物などない。
不安に足が止まる。けれどもう、泣き声はすぐそこまで近づいていた。
おろおろと挙動不審な動きをするシロの前に、黒髪黒目の人族の少年が現れる。人形のように愛らしい顔をした少年だった。
少年はシロの存在に気づき、大きな目を真ん丸にしている。
どうしよう。やっぱり怖い。逃げ出してしまいたい。
けれど恐怖で足が竦んで動けなかった。
少年が一歩一歩近づいてくる。
自分と同じくらいの年齢の、小さな子供だ。それでもシロは怯えた。
殴られる? 蹴られる? 石を投げられる?
震えるシロの目の前で、少年は足を止めた。
そして、シロの手を、ぎゅっと握った。
びっくりして、シロは少年を見る。
少年は縋るように、涙を浮かべながらシロをじっと見つめていた。助けを、求めていた。
狼族であるシロに、敵意を向けない。この少年は狼族と人族の確執をまだ理解していないのだろうか。
とりあえず、暴力を振るわれなかったことにホッとした。
「ここにいたら、危ないよ」
「でも、帰り道、わからない……」
「私が、森の外まで送るから」
シロは少年の手を引いて歩きだした。少年はおとなしくついてくる。
狼族が普段通らない道を選び、森の外を目指して進む。
いつ狼族がやって来るかわからない。人族だって、武器を持って森に入ってくる可能性がある。
常に気を抜けない状況の中、森を歩くのはとても疲れた。シロは体力がないのですぐに息が上がる。
「大丈夫……?」
「うん」
少年に心配そうに声をかけられ、頷いた。随分息は乱れていて説得力はないだろうが、少年はなにも言わなかった。
とにかく、一秒でも早く少年を森の外へ連れていかなくては、とシロは懸命に足を動かした。
ふと、少年の足元に銀色に光るなにかが目に入った。人族の仕掛けた罠だ。
「危ない!!」
シロは反射的に少年を突き飛ばしていた。
突き飛ばしたのはよかったが、その勢いで一歩を踏み出してしまい、結果シロはそこにあった罠にかかってしまう。
鉄でできたギザギザの歯が、シロの足首に食い込んだ。
「いっ……!!」
思わず足を引き抜こうとして、更に強く歯が食い込み血が流れた。
声にならない悲鳴を上げ、シロはしゃがみこむ。
痛みに涙が滲んだ。
突き飛ばされて尻餅をついた少年は、異変に気づき慌てて駆け寄ってくる。シロの足首を見て、青ざめた。
「ど、どうしよう、大丈夫……!?」
狼狽し、足首に触れようとして、でも触れてはいけないと思ったのか手を引っ込め、シロの顔と足首を交互に見つめる。
「ど、どうしたら……」
どうすればいいかわからず、少年も泣きそうになっている。
そのとき、数人の足音が聞こえてきた。人族の大人だ。まだ距離は離れている。でも、このままここにいたら確実に見つかってしまう。少年は保護されるだろうが、シロは無事では済まない。
「もう行って」
「え……?」
「人族の大人があっちにいる」
「で、でも……」
「ここを真っ直ぐ進めば大丈夫」
シロは足音が聞こえる方向を指す。狼族は近くにいない。少年は無事保護される。
少年は、罠にかかったシロを置いていくことに迷いを感じていた。なかなか動こうとしない。
けれど、このままでは人族がここに来てしまう。
「いいから行って! 早く!!」
強く促すと、少年はシロを気にしながらも走り出した。何度も振り返り、それでも前に進む。やがて少年の姿は見えなくなった。
少年は、大人達にシロのことを話すだろうか。大人達を引き連れ、シロのもとへ戻ってくるだろうか。
その可能性はゼロではない。
シロは近くに落ちていた木の枝を手に取り、それで罠をこじ開ける。古く錆びていたせいか、時間はかかったが、どうにか罠を外すことができた。
少年は戻ってこない。大人達を連れて街へ帰ってくれたのだろうか。
でも、まだ油断はできない。
傷の痛みに耐えながら、シロは森の奥へ戻った。
このことは、もちろん同族の誰にも言えなかった。罠にかかって怪我をしたことも。だから川で傷口を洗っただけで、手当てなどしなかった。幸い骨は無事だったので、数日経てば痛みも引いた。
手当てをしなかったせいで食い込んだ鉄の跡がそのまま傷痕として残ったが、シロは別に気にもしなかった。
少年のことも、いつの間にかすっかり忘れていた。
そして今、はっきりと思い出した。
過去から現在へと意識を戻したシロは、目の前の青年を見つめる。
黒い髪に、黒い瞳。あのとき出会った少年の姿と重なった気がした。
「エルノ……が、あのときの男の子なの……?」
「そうだよ」
エルノは顔を曇らせる。
「あのとき……助けてくれた君に謝ることも、お礼を言うのも忘れて、すごく後悔してた」
「そんな……私は、別になにもしてないし……」
結局シロは彼を森の外まで連れていくことはできなかった。
「シロがいなきゃ、僕はあの日狼族に殺されてたよ。それにこの怪我は、僕のせいだ」
「エルノの、せいじゃないよ……」
彼を突き飛ばし、シロが勝手に自分で罠にかかったのだ。エルノはなにも悪くない。
そもそも、彼が気に病むほどシロは怪我のことなど気にしていない。あのときのことだって忘れていたくらいだ。シロからすれば、さして特別な出来事でもなかったのだ。
けれど、エルノにとってはそうじゃなかった。だからこうして、彼は今、シロの目の前にいる。
「本当は、すぐにでも君のところへ行きたかったんだ。でも、僕は小さな子供で、君を手に入れるにはなにもかも足りなかった」
「…………」
手に入れる、とはどういうことだろう。
恐らく彼は、シロを恩人のように思っている。そして、襲われているシロを発見して助けてくれたということなのだろうか。では、シロを奴隷にするつもりでここへ連れてきたわけではないのかもしれない。
お礼を言いたかった? 謝りたかった?
でもそれだけならば、彼の発言と矛盾する。
手に入れるということは、やはり奴隷にするということなのか。
エルノのことが少しわかったような気がしたけれど、それは気のせいだった。彼の目的がわからない。
困惑するシロに気づくことなく、エルノは話をつづける。
「ずっと心配だったんだ。僕の見てないところで君になにかあったらって思うとすごく怖かった。だから、狼狩りのときだけは遠くから見守ってたんだよ」
「えっ!? 見守ってたって、私のことを……?」
「うん」
「狼狩りのときに? 毎回?」
「もちろん。君が殺されたり捕まったりするなんて、許せないからね。本当は毎日見守っていたかったけど、さすがに難しくて……。君と一緒にいるためにはお金が必要だったから、どうしても働かなくちゃならなくて、でも狼狩りのときだけは、心配で森に様子を見に来てたんだ」
「本当に……?」
「狼狩りは危険だからね。君はいつも森の奥でじっとしていてくれたからよかったけど」
「…………」
足首に頬擦りするエルノを、呆然と見つめる。
狼狩りがはじまったのは二、三年前からだ。頻繁にあるわけではないが、月に一度は行われている。彼だって、狼族に見つかる危険があるのだ。それなのに、毎回危険を冒してシロのいる森の奥まで入ってきていたというのか。シロが気づけなかったということは、かなり離れた場所から見ていたのだろう。
なぜ、そんなことを。そうまでして、シロを守りたかったというのだろうか。子供の頃、一度しか会ったことのないシロを。
シロにはわからない。どうして彼がここまでするのか。
狂気じみたものを感じ、シロは怖くなる。
「本当は遠くから見守るんじゃなくて、君の傍に行きたかった。顔を見て、声を聞きたかった。でも、準備ができるまでは会わないって決めてたから我慢してたんだ」
「準備……?」
「この家だよ。人も狼も来ないこの場所に家を建てて、必要なものを揃えて。あと、他にも色々ね」
「…………」
「やっと準備が終わって、君を迎えに行くことができたんだ。でも、よりによってそんな大事な日に狼狩りなんて……。いつもだったら真っ先に森に入って君のところへ行くんだけど、今日は用事があって出遅れたんだ。そのせいで、あんな奴らに君を見られてしまった」
エルノは不愉快そうに顔を歪めた。
「僕が遅れたせいで……今日は僕達の大切な記念日になるはずだったのに……あともう少し見つけるのが遅ければ、君は殺されていたかもしれない……僕のシロが、あんな……っ」
抑えきれない憤りが伝わってくる。
エルノの瞳が暗い陰りを帯びる。ぞっとするような深い闇を感じた。
この青年は、本当にあのときの、迷子になって泣いていた少年なのだろうか。泣きそうな顔で、オロオロと罠にかかったシロを心配していた。狼族であるシロに、白い毛色で同族からさえ疎まれていたシロに、純粋に助けを求めていた。
あの少年と、目の前にいるエルノがあまりにも違いすぎて、わからなくなる。
少年の顔も今となっては朧気にしか思い出せず、まるで別人のように見えてしまう。
あのとき出会った少年の笑顔をシロは見ていない。少年の泣き顔と泣きそうな顔しかシロは知らない。だから余計に、全く違う人物に見えてしまうのだろうか。
黙り込むシロに、エルノはハッと顔を上げる。
「ごめんね、怖いこと思い出させちゃったね。もう忘れよう。せっかくシロと二人でいるのに、いつまでも嫌な気持ちでいたくないし」
にっこりとエルノは笑う。
機嫌が直ったタイミングで、シロはおずおずと尋ねた。
「エルノは私を奴隷にするの……?」
エルノはショックを受けたように顔色を変える。
「そんなわけない! 僕がシロを奴隷になんてするわけないよ。どうしてそんなこと言うの?」
「あの……じゃあ、どうして私をここへ連れてきたの……?」
「もちろん、今日から僕と一緒にここに住むからだよ」
「…………」
シロの意思も聞かずに?
そんなこと、シロは了承した覚えはない。怖くて逆らえないシロを、エルノが勝手にここまで連れてきたのだ。
家に帰して、と言ったら、エルノは帰してくれるだろうか。
とてもそうは思えない。それならば最初から、シロの意思を確認していたはずだ。
でも、彼はまるでシロがここに住むことを疑っていない。彼の中では既に決定事項となっている。
もし、シロが拒否したらどうなるのだろう。
首を切り落とされた死体が脳裏に浮かぶ。
彼がシロを殺さないと、どうして言えるだろうか。だって、あんなに簡単に同族を殺した。シロのことだって、同じようにできるはずだ。
シロは強く唇を噛み締める。
帰りたいなんて言えなかった。エルノと一緒にいられないと、口に出すことはできなかった。
怖かった。エルノという存在が怖くて逃げ出したいのに、怖いからこそ逃げられない。
シロはもう、ここにいるしかないようだ。幸いにも、シロには不在を心配する家族もいない。
「これから、毎日シロと一緒にいられるね。遠くから見てるだけじゃなくて、こうして触ることができるんだ……」
うっとりしたように囁いて、シロの肌を撫で回す。
ピクピクと体が震えた。
あまり触らないでほしい。嫌悪感はないが、慣れていないので落ち着かない。居心地の悪さにもぞもぞと体を揺する。
エルノの顔がゆっくりと近づいてきた。なにをされるかわかっていないシロの唇に、彼のそれが重なる。
驚愕に、シロは目を見開いた。
これが口づけなのだという知識はある。けれどこの行為は、恋人同士や夫婦が行うものだ。それをどうして、彼はシロにするのだろう。
戸惑うシロの唇を音を立てて啄み、形を辿るように舌を這わせる。
されるがままのシロの口に舌を差し込み、余すところなく口腔内を味わってゆく。唾液を流し込まれ、唇を塞がれた状態のシロはそれを飲み込むしかなかった。
息継ぎができず呼吸が苦しくても、抵抗もできずただ受け入れる。拒むことはしないが、応えることもない。
一方的なキスを終え、エルノは濡れたシロの唇を拭う。
荒い呼吸を繰り返すシロを見て、微笑んだ。
「可愛い、シロ。ごめんね、苦しかった?」
「ん……」
「はじめてなのに、ごめんね。優しくしたいのに、シロが相手だと夢中になっちゃうんだ」
ちゅ、ともう一度唇にキスを落とし、エルノはシロの肩を覆っていたバスタオルを剥ぎ取る。
「あ……」
体を隠す物が奪われ心許ない気持ちになり、シロは思わず床に落とされたバスタオルに手を伸ばしていた。その手をエルノが優しく包む。
「大丈夫。怖くないよ。シロの全部が見たいから、これは邪魔なんだ」
宥めるように頭を撫でながら、シロの体を横たえる。
エルノがなにをするつもりなのかわからなくて、シロは不安で仕方がない。
エルノの唇が頬に触れ、首筋を辿っていく。そうしながら、手はシロの胸の小さな膨らみを包み込んだ。
シロはビクリと肩を震わせて怯えた。
エルノの掌が、乳房を柔らかく揉んでいる。
彼がなにをしようとしているのかはわからない。
わからないけれど、してはいけないことをしようとしているのではないか。本能的にそれを察して、おずおずと声をかける。
「え、エルノ……だめ……」
「大丈夫だよ、シロはじっとしていてくれればいいから」
シロの控えめな制止では、エルノを止めることはできなかった。エルノはシロの声を聞いてはいるが、聞く気はないのだ。
やわやわと胸を揉まれ、慣れない感覚にシロは泣きそうになる。触れ方は優しいが、触れられること自体が怖いのだ。
「小さくて可愛い。僕の掌にすっぽり収まっちゃうね。でも柔らかくて、ふにふにして気持ちいい。ここも、すごく小さくて可愛いね」
「ひゃ……っ」
乳首を指でつつかれ、大袈裟に体が跳ねた。
シロの反応に、エルノは喉の奥で笑う。
「可愛い。敏感なんだね」
乳輪を指でなぞりながら、エルノは片時もそこから目を離さない。
「こうやって周りを撫でてるだけで、つんって尖ってきたね。触ってほしいって主張してるみたい。ほんとに可愛い。食べちゃいたい」
この行為の意味はわからないが、すごく恥ずかしいことを言われているのはわかる。
羞恥に全身を真っ赤に染めるシロを見て、エルノは舌なめずりした。
「はあ……シロが可愛すぎて、頭がおかしくなりそう」
呟いて、エルノはシロの胸に顔を近づける。滑らかな膨らみに唇を寄せ、硬く尖った乳首に舌で触れた。
強い刺激に、シロの口から甲高い悲鳴が漏れる。
逃げるように身を捩れば吸い上げられ、ちゅぱちゅぱと音を立てて優しく食まれる。片方は口で、もう片方は指で丹念に愛撫され、シロは喘ぎ声が止められなくなった。
快感を知らない体は未知の感覚に翻弄され、ぽろぽろと涙が零れる。
シロが泣いてもエルノはやめない。恍惚とした表情でシロを見つめ、更に性感を煽ってくる。
両の乳房は散々に舐め回され、唾液でぬるぬるだ。執拗に弄られた乳首は腫れたようにぷっくりと赤く膨らんでいる。
「もう、や……」
耐えきれず制止の言葉を口にするが、エルノは嬲る手を止めない。
胸を弄られているのに、下腹部がずっとむずむずしている。浴室でのことが思い出された。エルノの指が脚の間に触れた感覚が蘇り、ぞくぞくっと背筋が震えた。
なにかがトロリと溢れ出すのを感じ、太股を擦り合わせる。
気づいたエルノが、嬉しそうに微笑んだ。
「シロ、さっきから腰が動いてるね。おっぱい弄られて気持ちいい?」
「や……わからな……」
「我慢してね。今はまだおっぱいを可愛がってる途中だから。そっちはあとでね」
エルノの言葉にシロは愕然とした。もうじんじんして痛いくらいなのに、まだ弄ると言うのだろうか。
「や、もうや……そこは、もうやめて……」
「うん? なにが嫌?」
「そ、そこ……」
「そこ?」
「お……ぱい、もう、やなの……」
羞恥を堪えて訴えれば、エルノは笑みを深めた。
「はあ、可愛い、大好き。身体中舐め回したい。触りたいところが多すぎて、どうしていいかわかんなくなっちゃう」
感嘆の溜め息を吐き、ぎゅうぎゅうとシロを抱き締める。
シロの獣耳を甘噛みしながら、下肢へと手を伸ばした。
「今日ははじめてだし、あんまり我慢させちゃ可哀想だから、こっち弄ってあげるね」
「ひっ……」
太股の間に捩じ込まれた手が、秘所に触れる。
浴室で漏らしてしまったことを思い出し、シロは慌てた。
「や、だめ、そこもだめ、触っちゃや……っ」
「大丈夫だよ、気持ちよくするだけだから」
言って、体を起こしたエルノはシロの脚を大きく広げる。シロは脚に力を入れて僅かな抵抗を試みるも、当然彼に敵うはずもない。
人に晒してはいけない不浄の箇所が露になる。羞恥と居たたまれなさにシロは震えた。
エルノはねっとりとした視線をそこに向ける。
「さっきは洗うだけで見れなかったからね。シロのここもすごく可愛いね。綺麗なピンク色で、美味しそう。弄ってないのに、もうたくさん濡れちゃってるね」
先程からなにかが溢れて濡れてしまっている事実を暴かれ、恥ずかしくて堪らない。尿とは違う感覚のそれがなんなのかはわからないが、自分がとてもはしたなく思えて泣きたくなる。
シロの心情など慮ってくれることもなく、エルノはそこに触れた。くちゅくちゅと水音を立てながら秘裂を指で擦る。
「やうっ、んん、あっ」
エルノの指はすぐに蜜で濡れた。その蜜にまみれた指が、再び、シロが存在すら知らなかった部分に触れる。
途端に、シロは背を反らせて見悶えた。そこは刺激が強すぎる。
「ひあっ、や、あぁっ」
「気持ちいいね、シロ。体がビクビクして、とろとろがいっぱい溢れてきたよ」
「だめ、そこだめぇ、変になる、おかしくなるの……っ」
必死に訴えるがやはりエルノはやめてくれない。
くりくりと転がし、指に挟んだり、押し潰したり、シロの反応を見ながら肉粒を捏ねくり回す。秘裂からはひっきりなしに蜜が溢れ出て、シーツにまで滴っていた。
「こうやって、くりくりされるのが一番気持ちよさそうだね? ねえ、シロ、これ好き? 腰が浮いて、自分から誘ってるみたいだよ」
「やあぁっ、だめ、だめ、ひぃんっ」
「ほんとはいっぱい焦らしたいけど、今日はやめておくね。おねだりは、シロがもう少し慣れてから覚えようか」
はじめて味わう快楽に翻弄されているシロには、エルノの言葉の意味などわからない。
それよりも、込み上げてくる尿意のようなものに怯えた。このままでは、また粗相してしまう。
「エルノ、エルノ、だめ、ああっ、離して、お願い」
「ああ、可愛い。もっと名前呼んで。僕の名前呼びながら気持ちよくなって」
会話が噛み合わないもどかしさに、シロはかぶりを振る。
「や、エルノ、だめなの、んあっ、お願い、離してっ」
「シロ、もっといっぱい呼んで、ほら」
「ひぁんっ」
ぐりっと強く押し潰され、シロは泣いた。
彼の言うことを聞かなくては、と思わされ、何度も名前を呼ぶ。
「エルノ、エルノ、ふあっ、あっ、エルノ、だめ、エルノっ」
「はあ、シロ、シロ、可愛い、好き、もうイきそう? イッていいよ。イくときの顔見せて」
陰核を擦る指の動きが速くなる。込み上げてくるものを堪えきれない。
「えるの、あっ、ああぁっ……」
太股を痙攣させながら、シロは果てた。
こぷこぷっと溢れ出る感じがしたが、尿ではない。漏らしてはいないことに安堵しつつ、シロは強烈な感覚に呆然とした。
胸を上下させながら大きく息をつくシロを、エルノが艶然と微笑んで見つめていた。
恐らく自分は今、だらしない顔をしている。見られたくないけれど、腕を上げて顔を隠すことさえ億劫でできない。シロは羞恥に耐えることしかできなかった。
エルノは誉めるようにシロのお腹を撫でる。
「ちゃんとイけたね。すごく可愛かったよ。僕の名前をたくさん呼びながら気持ちよくなってるシロ、ほんとに可愛い。イッたあとの顔も蕩けちゃって可愛いね」
「は……ふ……」
「じゃあ、もう一回気持ちよくなろうね」
「…………え?」
聞き間違えだろうか。
目を丸くするシロを見てにっこりと微笑み、エルノは蜜で濡れそぼった下肢に顔を埋めた。そして躊躇いなく唇で触れた。
あまりの衝撃にシロは悲鳴を上げる。
「きゃうんっ」
「ふふ、可愛い声。いっぱい気持ちよくしてあげるから、もっと鳴いてね。はあ、シロの匂いがして美味しそう。たくさん飲ませてもらうね」
エルノの舌が体液でしとどになったそこを舐め回す。舐めても舐めても溢れてくる蜜と彼の唾液で、更にびしょびしょになる。
掻き出すように舌で蜜口をほじられ、シロはあられもなく身悶えた。
「ひっ、あっ、あぁっ、ん、やぁっ」
「はっ……シロの味がして、すごく美味しい。シロもたくさん感じてるね。溢れて止まらなくなってるよ」
じゅるじゅると卑猥な音を立てながら舐め啜られる。
シロは体を震わせながら喘ぐことしかできなかった。
「ここも、今度は舌で可愛がってあげるね」
エルノの舌が、散々指で弄り回された陰核に伸ばされる。
シロは目を見開いて背を仰け反らせた。
「ひうっ、あっ、だめ、そこだめ、ああっ、だめぇっ」
「気持ちよさそうだね。いっぱい舐めてあげるから、もっと気持ちよくなってね」
「や、怖いのっ、そこいやぁっ、おかしくなる……っ」
シロの哀願は無視され、エルノは刺激されつづけて膨らんだ赤い粒を丹念に愛撫する。唾液を塗りつけるように舌で擦り上げ、全体を舐め回す。
「シロ、さっきみたいに僕の名前を呼んで」
「ふぁっ、んんっ……」
「シロ、名前を呼んで」
「ひんっ、あっ、エルノ……っ」
痛いくらいに強く吸い上げられ、シロは朦朧としながらも彼の名前を口にする。
エルノは満足そうに微笑み、陰核をねっとりと舐め上げた。
「いい子だね。もっと呼んでごらん」
「んあぁっ、える、の……エルノ、あっ、ひゃうっ」
「僕の名前を呼びながら気持ちよくなって、そのままイくんだよ」
「いく」ということがなにかわからなかったが、シロは彼の名前を呼びつづけた。
「あっ、エルノ、エルノっ、あぁっ、また、さっきの……っ」
再びなにかが込み上げてくるのを感じた。尿意ではないとわかったが、再びあの強烈な刺激が襲ってくるのだと思うと怖くなる。
そこへと導くのがエルノの目的なのだろう。彼を止める術を持たないシロは、ただそのときが訪れるのを待つしかない。
「ぃやっ、あっ、またくるっ、エルノ、エルノっ」
「うん、いいよ、イッてごらん」
「エルノ、あっ、エルノ、エルノ、あぁ、っ〰️〰️!!」
がくがくと腰を揺らしながらシロは絶頂を迎えた。
「僕の名前を呼びながら上手にイけたね。可愛い、シロ。大好きだよ」
蕩けるような微笑を浮かべながら、エルノは熱っぽく囁く。
頬を撫でる彼の手は、あくまでも優しい。
その感触に促されるように目を閉じたシロは、そのまま意識を手離した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
562
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる