恋愛短編まとめ

よしゆき

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従者に恋するお嬢様 2

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 目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。ぼんやりと、目の前に広がる天井を見つめる。
 ここがどこで、自分がどういう状況にあるのか、ソフィアはすぐに思い出せなかった。

「目が覚めましたか」

 聞き慣れた声に顔を向ければ、セシルがそこにいた。
 彼はじっとソフィアを見つめている。いつもの穏やかな顔で。けれど、ソフィアを見下ろすその瞳には、今まで見たことのない熱が籠っているのを感じた。
 表情からは、彼の感情が読み取れない。
 どうして自分をそんな目で見つめるのか、それを知りたくてソフィアも目を逸らさずに彼を見つめ返す。
 出会ってから今日まで、何度も見てきた顔だ。けれど、何度見ても飽きることはない。気がつけば目で追い、見つめつづけてしまう。
 今も目的を忘れ、ついうっとりと見惚れてしまっていた。
 いけない、とソフィアは自分に言い聞かせる。こんな風に見つめたら、自分の気持ちが彼にバレてしまう。
 ぼうっとする頭でそんなことを考えていると、セシルが苦笑を浮かべた。

「お嬢様、ご自分の状況がわかっておりますか?」
「え……?」

 状況?
 ぼんやりしていた思考が、徐々にはっきりとしてくる。
 セシルの言葉を頭の中で反芻し、自分が今、ベッドの上に寝かされているのだと気づいた。
 あれ? と思う。自分は確か、今日、家を出たはずだ。もしやあれは夢だったのか。ここはまだ家の中なのだろうか。
 いや、でも、視界に映る室内はソフィアの自室ではない。全く見覚えのない部屋だ。
 ここはどこなのだろう。どうして自分は見知らぬ場所にいるのだろう。
 もしやこれが夢なのだろうか。だとしたら納得できる。夢でなければ、こんな状況はあり得ない。ソフィアの寝ているベッドにセシルが腰かけ、覗き込むようにこちらを見下ろしているなんて。
 まるで夜這いされているようなシチュエーション。こんなことが現実に起きたら、ソフィアは喜んで彼を受け入れた。けれどもちろん、現実にそんなことは起こり得ない。
 ならばやはりこれは夢か。彼を相手に数えきれないくらい妄想はしていたが、夢はあまり見ることはできなかった。だから、夢でも嬉しい。
 ソフィアは思わずにやけてしまう。

「どうして笑っておられるのですか?」
「だって、夢を見てるから」

 セシルが出てくる夢ならば大歓迎だ。毎晩でも見たい。できるだけ長く見ていられますように、と強く祈る。内容を忘れてしまわないように、目が覚めたらすぐに書き留めておかなくては。
 むふふ……とだらしなく頬を緩めるソフィアを、セシルは複雑な表情で見つめる。

「夢ではありませんよ」
「ええ? 夢でしょう?」
「いいえ、現実です」
「現実? これが?」

 こんな夢みたいな現実があるのだろうか。
 現実だとして、それならばこの状況はどういうことだろう。
 自分はこの見知らぬ部屋のベッドの上で目覚めたが、いつ、どこで眠りに落ちたのだったか。
 首を傾げ、違和感に気づく。髪が短い。
 なぜ、と疑問に思う前に思い出す。自分で切ったのだ。そして自分は確かに、生まれてから今日まで過ごしてきた家を出た。家は出た。けれど、門を通る前にセシルに見つかったのだ。
 ソフィアは漸く、意識を失う前のことを思い出す。セシルに薬を嗅がされたのだ。
 思い出せたのはいいが、益々わけがわからない。この状況はなんなのだろう。
 しかも今更気づいたが、両手が拘束されている。手首を縛られ、恐らく頭上でベッドにくくりつけられている。タオルの上から縛られているのかそれほど痛みはないが、動かしても緩むことはない。

「セシルが私をここに連れてきたの?」
「はい」

 セシルははっきりと頷いた。
 彼が薬を使ってソフィアを眠らせ、見知らぬ場所に連れ去り、拘束した。
 けれどソフィアが恐怖を感じることはなかった。相手がセシルだったから。
 ただ、理由がわからない。どんな目的で、ソフィアをここへ連れてきたのだろう。どうして拘束する必要があるのだろう。
 ソフィアは彼にならば、なにをされてもいいと思っている。殺意を向けられたとしても、逃げることはしない。寧ろ彼になら殺されてもいいとすら思っている。
 それくらい、ソフィアのセシルへの愛は深くて重い。
 ソフィアがそんな風に思っているなんて、セシルは当然知らないだろう。だから、ソフィアが逃げられないように拘束している。つまり、逃げ出したくなるようなことをソフィアにするつもりなのだろうか。

「どうして、セシル?」
「あなたのことを愛しているからですよ、お嬢様」

 言われたことの意味を、ソフィアは理解できなかった。
 言葉をなくすソフィアの頬に、彼の掌が触れる。
 ソフィアは驚愕に目を見開いた。
 触れる彼の手が、手袋越しではない素手だったからだ。
 彼は勤務中、決して手袋を外さなかった。つまりソフィアの従者である彼は、ソフィアの前では常に手袋を嵌めていた。
 セシルは今まで一度も、主人であるソフィアに素手で触れることはなかった。
 それなのに、今、彼は直接ソフィアに触れている。
 あまりの衝撃に言葉が出ない。
 触れたくて触れたくて堪らなくて、それでも諦めるしかなかった。諦めていた。
 喉から手が出るほど渇望した現実が、目の前で起こっているのだ。
 彼の温もりを感じる。彼の肌の感触が伝わってくる。
 それだけで、ソフィアの体は火照った。
 赤く染まるソフィアの顔を、セシルはうっとりと見下ろす。

「ずっとあなたに触れたかった。ずっとずっと、私は自分の欲望を抑えてあなたに仕えていました」
「ずっと……?」
「ええ。幼い頃から、ずっと。お嬢様は本当に愛らしくて、美しく成長していくあなたを傍で見守れることが誇らしかった。傍にいられれば満足でした。あなたが誰と結婚しても、あなたが幸せならば私はそれでよかったのです。自分の気持ちを抑制できた。でも」
「…………」
「あなたが私の傍から離れるのなら、話は別です」

 セシルは微笑む。ぞっとするほど綺麗で、でもその瞳は暗い欲望を孕んでいた。

「私の傍から離れるなんて、許さない。許せるわけがない。あなたは私の全てです。私は絶対にあなたを離しません」

 これは夢なのだろうか。
 あまりにも幸せすぎる現実に、ソフィアは眩暈を覚えた。
 こんなことが現実にあり得るというのか。
 セシルに。あのセシルに。自分が恋い焦がれてきたセシルに。
 愛の告白をされるなんて。
 頭がふわふわして、なにも考えられない。夢見心地で、現実感が湧かない。
 でも確かに彼は目の前にいて。ソフィアに触れている。
 嬉しくて転げ回りたい衝動に駆られるが、縛られた状態では無理だった。
 声も出せず、身動きも取れないソフィアの髪に、セシルが触れる。適当に切った毛先に視線を落とし、彼は顔を歪めた。

「あんなに、長くて綺麗でしたのに。ずっと、触れたいと思っていました。流れるように風に靡く髪が美しくて……手を伸ばしそうになる衝動を、何度も抑えました」

 なんと。我慢なんてしないで、触れてくれてよかったのに。寧ろ触ってほしかった。だってセシルに綺麗だと思われたくて手入れも頑張ってあんなに長く伸ばしたのだから。
 ソフィアの心の内など知るよしもなく、セシルは忌々しそうに吐き捨てる。

「それなのに、こんなにばっさり切ってしまうなんて……。そんなに、あの男が好きだったのですか? 髪を切るほど、家を飛び出すほど、ショックだったのですか……?」
「……あの男……?」

 誰のことなのか、さっぱり心当たりがない。なにせソフィアが好きなのは、目の前にいるセシルただ一人なのだ。

「あなたの、元婚約者のことですよ」
「え……」

 彼の言葉に唖然とする。
 なぜそんな勘違いを? と一瞬疑問に思ったが、よくよく考えれば当然かもしれない。婚約破棄されてすぐに、髪を切り家を出ようとしたのだ。婚約破棄されことが原因だと考えるのが普通だろう。というか、それ以外に理由など思いつかないはずだ。
 今更そのことに気づいた。ならば、家族も家にいる使用人も皆、ソフィアが失恋のショックで家を飛び出したと勘違いするのか。
 嫌だな、とソフィアは思った。ショックで家を飛び出すほど元婚約者を好きだったのだと思われるのはものすごく嫌だ。嫌だけれど、今更どうしようもない。理由も告げず、勝手に家を出たのはソフィアなのだから。
 しかし、セシルに誤解されたままではいたくない。あんな男に寄せる思いなど一欠片もありはしないのだ。ソフィアの心は、一ミリの隙間もなくセシルでいっぱいだ。
 それなのに、その想い人であるセシル本人にこんな不愉快極まりない勘違いをされるなんて。
 自分が好きなのはセシルだけ。今も昔もこれからだって、それは変わらない。
 誤解を解くのは簡単だ。自分の気持ちを彼に伝えればいい。セシルと同じように、ソフィアも彼が好きだったのだと。
 簡単なことなのに、ソフィアはそれができなかった。
 伝えようと口を開くのに、言葉が出ない。
 ソフィアは今までずっと、何年もの間、この気持ちは伝えてはいけないものだと自分を戒めてきた。絶対に、なにがあっても口にしてはいけないと自分に言い聞かせてきた。
 その抑制があまりにも強くて、彼に思いを告げられ、両思いなのだと知った今でも、伝えてはいけないことのように思えてしまった。自分の気持ちを打ち明けてしまうと、取り返しのつかないことになるのではないかという思い込みが、彼女を押し留める。
 こんなに好きなのに。セシルだけが、好きなのに。どうして自分は、彼に好きだと言えないのだろう。
 ソフィアを見下ろすセシルの表情は苦しげで、否定したいのに、それでも彼になにも言うことができず、唇を噛み締めた。

「お嬢様の気持ちが今もあの男に向けられているのだとしても、もう私は心を決めたのです。あなたが私から離れようとするのなら、私はどんな手を使ってもあなたを離さない。あなたを自分のものにすると」

 ギシリと音を立てて、セシルがベッドに上がった。ソフィアの上に覆い被さり、彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
 ソフィアはそれを呆然と見つめていた。
 二人の唇が重なる。しっかりと、唇の感触が伝わってくる。
 ソフィアの心の中は喜びで溢れ返っていた。
 何度も何度も想像した、夢に見た、セシルとのキスだ。喜ばないわけがない。
 柔らかくて、温かくて、しっとりして、想像などと比べものにならないほど、現実のキスは素敵だった。興奮して、息が乱れてしまう。
 思わず口を開けて彼の唇を味わいたくなってしまうが、ソフィアは自分の気持ちを伝えていないのだ。彼はソフィアが元婚約者のことが好きだと誤解している。
 それなのにソフィアが彼のキスに積極的に応えたら、淫乱な尻軽女だと思われてしまうかもしれない。
 腕を縛られていてよかった。そうでなければ、きっと思い切り彼に抱きついていた。
 夢にまで見た、恋い焦がれる相手とのキス。だというのに、どうして我慢しなければならないのだろう。
 一言好きだと伝えるだけでいいのに。どうしてもその一言が言えない。
 ソフィアが心の中で葛藤している間に、キスが深くなる。唇の隙間から舌を差し込まれた。

「んぁっ……」

 セシルの舌が、口腔内を動き回る。敏感な上顎を撫でられ、声が漏れた。舌を味わうように舐められ、ぞくぞくと体が震える。流し込まれる唾液を、気づけば必死に飲み干していた。
 それくらいは許してほしい。これでも充分我慢しているのだ。本当は舌を絡めたいし、セシルの舌を吸いたいし、彼の口の中を舐め回したい。
 欲求は熱となって募っていく。
 彼との口づけに、ソフィアは明らかに欲情していた。
 理性を手放してはいけないのに、思考が蕩けていく。
 うっとりとした表情で、キスに溺れていた。
 角度を変えて唇を重ねながら、セシルの両手がソフィアの耳に触れる。全体を撫で擦り、指先で擽り、耳朶を優しく摘まむ。
 擽ったさと快感に同時に襲われ、ソフィアは身をくねらせた。

「あっ、だめ、耳、やぁっ……」

 唇が離れたタイミングで、制止の声を上げる。
 セシルに触れてもらえるのは嬉しいが、背筋がぞくぞくして、じっとしていられないのだ。
 子供のようにいやいやとかぶりを振ると、セシルは楽しげに笑った。

「くすぐったいですか?」
「んんぅっ……」

 耳に直接声を吹き込まれ、びくんと体が跳ねる。
 はしたない声を上げてしまい、ソフィアは自分を恥じた。けれどそんな彼女を見つめるセシルはとても嬉しそうだ。

「これはどうです?」
「ひぁんっ」

 ペロリと舐められ、ソフィアは目を見開いた。
 セシルは恍惚とした表情を浮かべている。

「お嬢様は耳が感じるのですね」
「あっ、耳、舐めちゃ、だめ……っ」

 顔を真っ赤にして訴えるが、セシルは止めてくれない。ソフィアが反応すればするほど、執拗に耳をねぶる。
 耳朶を甘噛みし、耳の中まで舌で舐められる。

「セシルっ、あ、あぁんっ」
「気持ちいいですか? ふふ、真っ赤になってますね。とても可愛らしいです」

 セシルは今まで見たことがない、蕩けるような笑顔をソフィアに向けている。
 その瞳には確かに情欲が宿っていて、彼に主人ではなく女として見られているのだと思うとどうしようもなく体が火照った。
 秘所がじんわりと潤んでいるのを感じる。体の反応は抑えようがない。
 彼は最後までソフィアを抱く気なのだろうか。
 そんなことになったら、自分が理性を保っていられるかわからない。とんでもないことを口走ってしまう恐れがある。
 このまま流されるのは危険だ。
 でも、もしかしたらこれが最初で最後かもしれない。
 セシルはソフィアを自分のものにすると言っていた。でも、具体的にどうするつもりなのかはわからない。このままソフィアをここに監禁するのか。セシルがそれを望むのならソフィアは喜んでそれを受け入れるが、先のことなどどうなるかわからない。
 明日には、セシルの気持ちが変わっている可能性だってあるのだ。罪悪感に駆られ、ソフィアの前からいなくなってしまうことも考えられる。
 だとしたらソフィアは、このチャンスを逃したくはない。一回でもいい。痛くても、乱暴にされても。
 絶対に起こり得ないと諦めていた現実が目の前で起こっているのだ。
 たった一度でも。彼にとってそれが過ちとなったとしても。
 彼に純潔を奪ってもらえるのならば、ソフィアはもう死んでもいい。
 そこまで思っているのなら、好きだと伝えてしまえばいいと自分でも思うのに、どうしても言えない。彼に自分の気持ちを伝えるのが怖いのだ。
 だからソフィアは好きだと言えないまま、彼に身を任せた。
 セシルが、ブラウスのボタンを外す。下着をずらされ、胸が露になる。

「ああ、綺麗です、お嬢様……」

 豊かな二つの胸の膨らみを凝視し、感動したようにセシルは呟く。
 自分の体を好きな人に見られることも触られることも、一生ないのだと思っていた。でもなにがあるかわからない。いつ何時裸を見られたり触られたりするハプニングが起こってもいいように、毎日肌の手入れを怠らなかった自分を誉めてやりたい。
 ソフィアは努力が報われたことに感激していた。恥ずかしいけれど、綺麗だと言ってもらえて素直に嬉しかった。
 セシルの手が、肌に触れる。
 色んな感情が沸き上がってきて、ソフィアはなんだか泣きそうな気分だった。

「あなたにこうして触れられる日が来るなんて、夢のようです」

 セシルが言うが、こっちのセリフだとソフィアは思った。
 本当に夢のようだ。
 自分はこの先、彼の素肌の感触さえ知らずに生きていくはずだった。
 それが、まさか、こんなことになるなんて。
 もう一度、口づけが落とされる。そのままセシルの唇は顎を辿り、首筋に触れる。首筋を舐め上げながら、片手で胸を柔らかく包み込む。
 セシルの手が、手袋越しではない、彼の手が、肌に触れている。その事実だけで鼻血が出そうなくらい興奮してしまうのに、こんな風に性的な触れ合いをされたら、ソフィアの体は発情したように熱を持つ。
 先ほどから下腹がきゅんきゅん疼いて、溢れる蜜は止まらない。下着は既にぐっしょりだ。
 優しく胸を揉まれて、自然と甘い声が漏れてしまう。
 はしたないと思われてしまうだろうか。ソフィアは彼の反応が怖かった。

「柔らかいです、お嬢様の胸……掌に吸い付くようにしっとりとして、とても気持ちいい……」

 首筋に顔を埋めたまま、セシルが囁く。
 僅かに息が乱れている。自分だけではなく彼も興奮しているのが伝わってきて、嬉しかった。
 やわやわと胸を揉みしだくセシルの指が、膨らみはじめた乳首を掠める。それだけで、ソフィアの体は大袈裟に跳ねた。

「ここが、気持ちいいのですか?」
「あっ……」

 乳首を撫でられ、快感が走り抜けた。

「だ、だめ、そこ……っ」
「だめではないですよね? 少し触っただけで硬く尖って、とても気持ちよさそうですよ」
「ふあぁっ」

 硬くなった粒を指で転がされ、背を仰け反らせる。
 正直言ってとても気持ちいい。セシルに恥ずかしいことを言われるのも、堪らなく興奮する。

「せしるぅ……」
「可愛いです、お嬢様」

 首筋から移動した唇が、胸に辿り着く。
 触れられていない方の乳首も、期待で既にぷくりと膨らみ、彼の愛撫を待っていた。
 期待に応えるように、唇がそこに触れる。ぺろりと舐められ、快感に体が震えた。

「あぁっ、あっ、ん……」

 与えられる快楽は、ひたすら妄想だけを繰り返してきたソフィアには刺激が強すぎる。
 セシルが自分の胸に顔を埋めているというのは、視覚的にもあまりにも強烈で、頭がおかしくなりそうだ。
 唇と指で両方の乳房を嬲られ、ソフィアはただ喘ぐことしかできなかった。
 セシルが胸から顔を上げる頃には、息も絶え絶えという状態だった。

「大丈夫ですか、お嬢様……」

 荒い呼吸を繰り返すソフィアに、熱っぽい視線が送られる。

「ああ、随分蕩けた表情になりましたね。瞳が潤んで、頬は真っ赤に染まって……開いた唇から舌が覗いて、誘っているようです。とても美味しそうで、今すぐにでも食べてしまいたい……」

 情欲の滲む視線が絡みつき、ぶるりと体が震えた。

「私が怖いですか、お嬢様」

 セシルの顔が僅かに曇る。
 ソフィアの震えを恐怖からだと思ったようだが、もちろん違う。
 ソフィアは歓喜に体を震わせたのだ。
 セシルがあんなことを言ってくれるなんて、感動だ。今すぐにでも食べてほしい。遠慮せず、全部、なにもかも、食べ尽くしてほしい。
 心からそれを望んでいるのに、やっぱり言葉にはできなくて。
 ソフィアは乱れた呼吸を整えながら、セシルを見つめ返した。

「お嬢様、そんなに熱の籠った目で見つめられると、勘違いしてしまいそうです」

 セシルは困ったように苦笑する。
 勘違いなどではない。声を大にして言いたい。
 セシルの手が、スカートにかかる。

「あっ……」

 びくっとソフィアは肩を竦ませた。
 スカートに隠されているが、下着はもうどろどろに汚れている。
 それを見て、セシルはどう思うだろうか。
 処女のくせに。好きでもない(本当は好きだけれど)男に触られて。感じまくって下着を濡らして。
 幻滅されるのではないか。がっかりするのではないか。自分の恋する相手は、とんでもない淫乱な女だったのだと。
 嫌われてしまうかもしれない。軽蔑されてしまうかもしれない。
 そんなの耐えられない。

「ま、待って、セシル……っ」

 一回シャワーで股間を洗わせてほしい。せめて彼が見ていないところで下着を脱がせてほしい。
 そう思って声をかけたが、聞いてもらえなかった。
 スカートを捲られる。無駄な足掻きとわかっていて、ぎゅっと脚を閉じた。

「や、見ないでっ……」

 セシルの視線が見られたくない箇所に落とされる。
 
「セシル、見ちゃだめ、嫌なの……」
「こんなに感じて蜜を溢れさせているというのに、私には見られたくないのですか?」

 太股を撫でられる感触に、また秘所の潤いが増す。擦り合わせると、くちゃりと水音が鳴った。
 あまりの恥ずかしさに涙が滲む。

「ふっ……ごめんなさい……」
「どうして謝るのですか?」
「だって……私、こんな……はしたないもの……」
「泣かないでください、お嬢様」

 セシルは宥めるようにちゅ、と眦に吸い付く。

「はしたないだなんて、どうしてそんな風に思ったのですか?」
「だ、だって、だって……セシルも、そう思うでしょ……」
「いいえ、どんなお嬢様も、大変お可愛らしいですよ。私の愛撫に、たくさん感じてくださったのでしょう? 喜びこそすれ、はしたないなんて思うはずがありません」
「でも……」
「お嬢様は、ご自分をはしたないと感じているのですか?」

 こくりと頷く。
 
「でしたら私は、はしたなくいやらしいお嬢様も心から愛しております」

 甘く囁かれ、ソフィアの恐怖は和らいだ。
 セシルに嫌われないのなら、なにも恐れることはない。
 強張っていたソフィアの体から力が抜ける。

「さあ、お嬢様の全てを私に見せてください」

 ぴったりと閉じていた脚を開かれる。
 セシルの手が、焦らすようにゆっくりと下着を下ろしていく。

「ああ、こんなに蜜を漏らして……糸を引いていますよ」
 
 恥ずかしくて堪らなかったが、ソフィアはもう抵抗しなかった。
 下着が脱がされ、蜜にまみれた花弁がセシルの眼前に晒される。
 セシルは感嘆の溜め息を漏らした。

「綺麗です、お嬢様。蜜に濡れて、てらてらと光って……。見ているだけなのに、また新たな蜜が溢れて……まるで誘われているようです」
「やっ……」
「私に見られるのは嫌ですか?」

 ソフィアは否定も肯定もしない。その無言を、セシルは肯定と受け取るだろう。
 でも、ソフィアは見られるのが嫌なわけではない。彼が見ているだけなのが嫌なのだ。早く触れてほしくて、自分からねだってしまいそうだ。
 ソフィアの本心に気づかず、セシルの瞳は暗く沈む。

「お嬢様、たとえあなたに憎まれても、私はあなたを自分のものにします」

 彼の指が花弁に触れる。びくびくと内腿が震えた。
 形を辿るように花弁を撫で、蜜を纏った指が陰核を掠める。

「ひうっ……」
「気持ちいいですか、お嬢様」

 ソフィアの反応を確かめながら、敏感な肉粒を撫で回す。
 強烈な快感に、ソフィアは嬌声を抑えられない。
 陰核を擦る指の動きは徐々に強くなる。

「あっ、あっ、待って、あぁっ、セシル、だめ、だめ、んんっ」
「大丈夫です、お嬢様。そのまま、快感に身を任せてください」

 セシルは容赦なく快楽の果てへとソフィアを追い詰めていく。
 堪えようとしても堪えられない快感を与えられつづけ、ソフィアは絶頂へと導かれる。
 甲高い悲鳴を上げ、全身を震わせながらソフィアは果てた。とぷりと、滴るほどの蜜が溢れた。
 
「快感に蕩けるあなたは本当に美しい。あなたのこんな表情を、私だけが知っているのですね」

 ソフィアを見つめるセシルの双眸に強い独占欲を感じ、嬉しくなる。
 彼だけのものにしてほしい。彼だけのものでありたい。

「もっと、あなたを味わいたい……」
 
 熱に浮かされたような表情で、セシルはソフィアの下肢に顔を埋めた。内腿にまで垂れた蜜を、舌で舐め取る。
 熱い舌の感触に、ソフィアの腰が揺れてしまう。
 ゆっくりと移動した舌が、蜜を味わうように花弁を舐め上げた。

「きゃぁんっ」
「あなたの匂いが濃くて、とても美味しいです。もっともっと味わいたい……もっと、奥まで……」
「あぁッ」

 舌が蜜壺の中に差し込まれる。舌が中を舐め回し、溢れる蜜を啜る。
 まさかそんなことまでされるとは思っていなかった。
 背徳感のような感情が沸き上がる。
 堪らなく恥ずかしい。申し訳ないという気持ちになるが、でももっと隅々まで味わってほしいという願望も確かに抱いていた。

「あっ、は、あぁんっ、ん、ああっ」

 蜜壺を舐められる快楽に溺れ、ソフィアの嬌声は止まらない。動いてしまいそうになる腰は、セシルがしっかりと押さえていた。
 そうして彼は時間をかけ、舌でじっくりとソフィアの膣内を堪能した。
 思う様味わい尽くし、引き抜かれた舌の代わりに、今度は指が挿入される。膣穴はすんなりとそれを受け入れた。

「ああ、お嬢様の中、とても温かくて心地よいです。蜜をたっぷり含んで、私の指に絡みついてきますね」

 セシルは熱い吐息を漏らす。
 襞が嬉しそうに蠢き、彼の指を食んでいた。
 セシルの指が。いつも手袋に包まれ、触れることさえ叶わなかった彼の指が。自分の、誰も触れたことのない部分に触れているのだ。
 口には出さずとも、体はどうしても悦んでしまう。
 指を増やされても、膣穴は嬉々としてそれを飲み込んだ。
 セシルの指が、丁寧に慎重に膣穴を解し、広げていく。ソフィアが傷つかないよう時間をかけ、心を尽くしてくれているのが伝わってきた。
 もう指が何本入っているのかもわからないくらいどろどろに溶かされ、指では届かない最奥がずっと疼いている。
 足りない。早く、彼が欲しい。彼のものにしてほしい。
 頭がおかしくなりそうなくらい飢えているのに、それでも自分から求めることができない。気持ちを伝えていないのに、体だけ欲しがることはできない。したくない。
 与えられる快感が強ければ強いほど、もどかしさに苛まれた。
 やがて、卑猥な音を立てながら指が引き抜かれる。
 熱の籠ったセシルの瞳と目が合った。
 彼はソフィアの脚を抱え上げ、ぐっと体を近づける。
 解されて開かれた花弁に、熱くて硬い物が押し当てられた。
 それが彼の欲望なのだと気づき、ソフィアの瞳が潤む。
 涙の意味を勘違いしたセシルが、目尻に吸い付く。

「泣かないでくださいなどと、言える立場ではありませんね……。泣かせているのは私なのですから」

 泣かせているのは確かに彼だが、これは嬉し涙だ。
 ソフィアはどうにか涙を引っ込める。泣いてしまうと、哀れに思ったセシルがここでやめてしまうかもしれない。中断されることがなによりも怖かった。
 セシルは宥めるような優しいキスを落としながら、ゆっくりと身を進める。
 太くて大きなものが、胎内に入り込んできた。
 ソフィアの心臓は破裂しそうなくらいドキドキしていた。
 
「ん、はっ、あ……っ」

 絶対に彼の全てを受け入れたくて、ソフィアは懸命に体の力を抜く。拒んでしまわないよう、浅く息を吐いて苦痛をやり過ごす。
 解され広げられたとはいえ、やはりはじめて男性のものを挿入するには狭い。
 強い痛みに襲われ、ソフィアは悲鳴を飲み込んだ。
 この痛みが彼に純潔を捧げた証拠なのだと思うと、痛みさえ愛おしかった。
 痛みも苦しみも、全部体に刻みつけ、覚えていたい。

「ふっ……あ……セシル、セシル……っ」
「は……熱い、お嬢様の、中……」

 セシルが動きを止めた。
 互いの息遣いだけが部屋に響く。

「っ……セシルの、全部、入った……?」
「ええ……全て、お嬢様の中に収まりましたよ」

 それを聞いた途端、きゅうっと陰茎を締め付けてしまった。
 セシルは苦しげに眉を寄せる。

「っく……お嬢様、いけません……っ」

 そんなこと言われても、体が勝手に反応してしまうのだ。
 セシルを苦しめたくはない。気持ちを落ち着けようと、ソフィアは深く息を吐く。

「痛いですか、お嬢様」

 気遣うように、セシルが顔を覗き込んでくる。
 彼の頬は赤い。額には汗が滲んでいる。瞳は情欲に潤んでいる。
 色気をふんだんに漂わせるセシルに至近距離から見つめられ、ソフィアはくらりと眩暈を感じた。
 しかしここで気絶してなるものかと、意識をしっかりと保つ。彼の声も表情も体温も感触も全て記憶に焼き付けるのだ。
 ソフィアは頭上でぐっと掌を握り締める。

「お嬢様、苦しいのですか……?」
「あ、う……じんじん、してるの……」

 再度の問いかけに、我に返ったソフィアは正直に答える。

「やはり、痛いのですね……」

 セシルの唇が頬に落とされる。頬から首筋に。それから、胸へと移動する。
 ちゅうっと胸の突起を吸われ、びくんと体が跳ねた。ねっとりと舌が絡みつく快感に、ソフィアはよがり声を上げる。
 快楽を与えながら、セシルは慎重に腰を動かした。
 熱くて太い陰茎が、ゆっくりと抜き差しされる。
 じんじんする膣内を擦られ、痛みと同時に快感が芽生えはじめた。だんだんと、痛いのか気持ちいいのかわからなくなる。
 ただ、とても満たされていた。

「ああっ、セシル、あっ、セシルっ……」
「お嬢様……っはあ、お嬢様」

 セシルの手が、結合部の上に伸ばされる。指で陰核を擦られ、背筋が震えた。
 新たな蜜を分泌させながら、膣が陰茎に絡みつく。
 セシルの息が荒くなり、動きも速くなる。
 既に痛みよりも快感に支配されていたソフィアは、激しい揺さぶりにも甘い嬌声を上げる。

「ひゃあんっ、せしる、せしるぅっ、あぁっ」
「うぁ、はっ、お嬢様……っ」
「あっ、だめ、またくるの、きちゃうっ」
「お嬢様、そのまま、一緒に……うっ、く……」
「んぁっ、せしる、あっ、せしるっ」

 もうなにも考えられなくなる。ただ促されるままに、快感を追い求めた。
 一際強く最奥を穿たれ、熱い体液が注がれる。それが彼の精なのだと気づき、ソフィアは悦び同時に達していた。

「ふあっ、せしるぅ……」
「お嬢様、好きです、愛しています……」

 きつく抱き締められ、泣きそうになる。
 どうしてここで、自分も同じ気持ちだと伝えられないのだろう。
 言いたいのに、伝えるのが怖い。
 自分は一体、なにに怯えているというのだろう。
 セシルの腕に包まれ、温もりを感じ、心地よさに眠気が襲ってくる。
 まだ寝たくない。まだ彼を感じていたいのに。
 体はひどく疲れていて、もう指一本動かせない。
 懸命に抵抗するが睡魔には抗えず、ソフィアは大好きな人の匂いを感じながら眠りに落ちた。

 
 
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