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9話 分岐点
しおりを挟む「な、なんだこれは?」
俺のことを見た藍沢武尊の顔が驚きの表情へと変わる。
(なんだ?俺のことを見たって何もわかるはずが、)
「、、、、呪われた子?」
藍沢武尊がそう呟いた瞬間、俺は全てを悟った。
(こ、こいつ鑑定持ちか!?)
なんでこの場にトップクランのサブマスターが直々に来ているのか、その意味をもっと考えるべきだった。ただ、西野花蓮の実力を観にきただけだと、そう考える先を考えなかった。
実力を目で捉えるという不確定なものよりも、確実に実力を観る方法があったから、龍撃の槍はサブマスターを送り込んだんだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ悠人君!いくら君の頼みとはいえ、こんな子を冒険者にするわけにはいかない、ましてやうちのクランになど、」
俺のステータスを〝視た〟藍沢武尊が悠人に対してそう言う。言ってしまった。
「こんな低いステータスなんて見たことがない、オール1だって?こんなのまだ小学生の方が高いステータスを持っている。それに呪いがかかっている子など見た事ない」
藍沢武尊の声はよく通る。ましてや、今この層での藍沢武尊の一挙一動は、全ての生徒によって注目されていたんだ、全て皆に伝わってしまった。
(え?なになに?)
(ステータスオール1?そんなことあるのか)
(呪いって何?怖い)
(あいつ、そんなにステータスが低かったのかよ)
周囲からもひそひそとざわめきが聞こえる。
「オール1?は?そんなことってあるのかよ、俺の5歳の弟の方がよっぽとステータスが高いぜ」
「え、悠人くんが贔屓してるから、ステータスが低いって言ってるのだって謙遜だって思ってたのに、ただの雑魚じゃん」
「オール1とかただの無能じゃね?」
「そんなやつが悠人と同じパーティ?クランに入る?どんな夢物語だよ」
初めは小さく呟かれる程度だった言葉も、次第に大きくなり、ほとんどの人が俺への罵倒を繰り返し、嘲笑を浮かべた。自分がダンジョン適性検査で選ばれなかった鬱憤も中にはあったんだろう、その不満が全て俺に集中した。
「はっはっは!やっぱり雑魚だったんじゃねぇーか!いやくそ雑魚か!」
遠くの方で寺門らしき声が聞こえた気がした。俺はその間身動き一つ取らなかった。ただ皆にかけられる言葉に、さほど興味はない。ただ現実を突きつけられ、その事実を噛み締めていた。
(そうだ、俺はまだ現実から目を背けていたんだ。俺がただの無能で、悠人と肩を並べるなんて夢物語だったんだってことを)
「か、翔」
俺の耳に、親友の声が届いた。
「悠人か、ごめんな。隠していたわけじゃないんだ。ただお前には言えなくてな」
「そ、そんな、翔に非はないでしょ!謝る必要なんて何一つない!それに僕は翔を信じてる!」
悠人はそう言うと、俺のステータスを声に出して周りに言ってしまった藍沢武尊の顔を睨みつけた。睨みつけられた藍沢武尊は、その圧に少し驚いた様な顔をする。
「悠人」
「!」
俺の静かな声に、悠人は俺の顔を見た。
「もういい、悠人のおかげで、十分に俺は夢を見ることができた。いつか悠人と肩を並べて戦えたらって思ったけどよ、ここまでだ。悠人のおかげで、夢を見ることができたよ。感謝してる」
「か、翔」
悠人が泣きそうな顔で俺の顔を見る。
(俺が無能だって分かった後でも、悠人はそんな顔をしてくれるんだな、それだけで救われた気がするよ)
「だから悠人、お前はトップクランに入れよ。俺に対して申し訳なく思う気持ちがあるなら、俺の気持ちも一緒に持っていってくれ、悠人が日本で1番強い冒険者になったらよ、俺の気も晴れる」
「、、、、、」
俺の言葉に何度か口を開こうとした悠人だったが、かける言葉が見つからなかったのか、口を閉ざした。
「先生、体調が悪くなってしまったので、先に帰ります」
「お、おう、だ、大丈夫か?」
「はい」
担任に短くそう伝え、俺はダンジョンを後にした。
後ろから様々な声が聞こえるが、俺の耳に届くことはない。
(はぁ、俺の人生ってなんなんだろうな)
そんなことを思いながら、帰路についた。
家に帰り、なんとなくテレビを見ていると、そこには日本の高校生3人がトップクランに加入!の文字が出ていた。
(悠人、俺の言葉を聞いて、クランに入ることにしたんだろうか)
心ここに在らずの状態でテレビを見ていると、不意に家のインターホンが鳴った。
「俺の家に来る奴なんて、誰だ?」
なんとなく宅急便でも届いたか?なんて思いつつ、インターホンを見てみると、そこには悠人の姿があった。
「!悠人か」
特に会わない理由も無かったため、俺は玄関に行き扉を開ける。
「!翔!出てくれないかと思った」
「なんで俺がそんなことをするんだよ」
「だ、だって」
悠人が気まずそうに顔を伏せる。
(はぁー、こいつはこういう奴だったな)
「悠人、俺は言ったよな。俺のことは気にすんなって、それに言ったろ?ここまで夢を見せてもらえたんだ、俺に悔いはない」
「で、でも」
この悠人の姿を見て、とても勇の血を引く者だなんて大層な称号を持っている様な奴には見えない。
「でもも何もない。次気まずそうにしたら絶交だからな」
「そ、そんなー」
「じゃないと話が進まねーんだよ。んで?悠人は何しにきたんだよ?謝罪しにきたなんてぬかしたらぶん殴るぞ」
俺はそう言うと悠人はやっと笑顔を見せた。
「はは、翔に殴られたことなんてないから、一度殴られてみるのもいいかも」
「はぁ、何言ってるんだか」
「ははは、今日ここに来たのは謝罪もあったんだけど、直接言いたいことがあってここに来たんだ」
「よかったな悠人、謝罪だけなら殴られてたとこだぞ?」
俺がそう言うと悠人はまた笑った。
「直接言いたいことってなんだ?」
俺が悠人にそう問いかけると、悠人は少し口を詰まらせつつも、話し始めた。
「僕、柴崎と一緒に龍撃の槍に入ることにしたんだ」
「そうか」
「うん、それで僕、翔の言ってた様に、日本で2番目に強い冒険者になるよ!」
「は?2番目?1番じゃなくて?」
悠人の突然の宣言に俺はきっと間抜けな顔をしているだろう。
「うん!僕考えたんだ。翔の気持ちも背負って冒険者をすることについて、だけど、自分が納得する答えは出なかった」
それがなんで日本で2番目に強い冒険者になることに繋がるのか、俺にはわからなかった。
「そこでふと思ったんだ!やっぱり俺に は翔と一緒じゃなきゃ嫌だなーって」
翔はそう言って満面の笑みを浮かべた。
「は?どういうことだよ」
「つまり、僕が先にクランに入ってたくさん経験を積んで、強くなるよ。それは翔にクランに入れって言われたから、とりあえず翔とパーティを組むことは諦めて、そうする。でも僕は翔のことを待ち続けるよ」
「、、、、、」
俺は悠人の言葉を聞き、言葉がでなかった。そんな俺を見て悠人は笑った。
「なんだか、翔のそんな顔を見るのは初めてな気がするよ。でね、いつか翔が日本で1番強い冒険者になってよ。それで僕が2番目だ!どう?いいでしょ!それを目標にしたら、絶対頑張れるなーって思ってさ」
(まったくこいつは)
俺は目から出ようとする水を、なんとか出ないように抑えながら、悠人に対して言う。
「ったく、しょーがねぇーな。悠人がそう言うなら、俺が日本で1番強い冒険者になってやるからよ、待っとけ!」
「うん!僕は龍撃の槍に入った影響で、もう今の高校には通えないけど、いつかまたダンジョンで!」
「おう!いつかダンジョンで会おうぜ!」
俺と悠人はそう言いながら拳を合わせた。俺はこの日のことを忘れることはないだろう。悠人が俺の可能性を信じてくれる、それだけでどれだけの力をもらえたか、信じてくれる親友に報いる為、人生を諦めることをやめた。
(ここから見せてやるよ、現代ダンジョンでの成り上がりを!)
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