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15 陸軍基地 2
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こちらとあちらの時計は全く同じだ。
時間が二十四時間という概念を作ったのは地球では古代エジプト人らしいが、こちらの世界に時の概念を伝えたのも、テラ・レイスだったのかもしれない。
午後九時を過ぎて、ようやく基地司令から解放されたらしいディートハルトは、戻ってくるなり有紗の指先に巻かれた包帯を見て目を見開いた。
「うわ、どうしたの、アリサ、その指」
「刺繍に挑戦したらこうなりました」
むっつりしながら答えると、ディートハルトはぶっと吹き出した。
裁縫箱も刺繍の本も、有紗のために用意してくれたもので、このままヴァルトルーデに持って行ってもいいらしい。
しかし、今日一日の頑張りは、正直上達するとはとても思えない代物が出来ただけだった。
「アリサは不器用だったんだね。向こうの女の子は裁縫しないの?」
「する人はしますけど手芸には興味がなかったので……日本ではボタン付けとまつり縫いができたら困らなかったんですよ」
そうだ。たまに裁縫箱を取り出すことがあっても、裾のほつれを直したり、外れたボタンを付け替える程度だった。
「何を縫ったのか見せてよ。裁縫箱はこれかな?」
「ダメ!」
止めた時には遅かった。赤黒い斑点まみれの花の刺繍が見られてしまった。
「これは……」
ディートハルトは口元を押さえて絶句している。笑うのを堪えているようだ。
作品をひったくって胸元に抱え込んで隠すと、有紗はキッとディートハルトを睨んだ。
「刺繍するのなんて初めてだったんです。だから上手に出来なくても当たり前なんです!」
「当然だよ。どれ、もっとちゃんと見せて」
「嫌です」
「初めての割には縫うのは出来てたように見えるけどなぁ……」
「え?」
止まった隙を見逃すディートハルトではなかった。気が付いたら、有紗の手から初めて縫い上げた作品が消えていた。
ディートハルトに取り上げられていた。取り返そうにも、腹立たしい事に頭上に掲げられては有紗では踏み台に昇らないと届かない。
線はガタガタだし、力加減が上手くいかず、布が引き攣れてしまった作品が見られている。しかも血の斑点付きだ。恥ずかしさに有紗の頬が熱くなった。
「うん、やっぱり縫うのは綺麗に出来てるよ。姉上が刺繍を始めたばかりの時よりずっと上手だ」
「お姉さんがいるんですか?」
「うん。もう降嫁して王家を出たから滅多に会うこともないけどね」
ふうん、と思ったところで有紗ははたと気付いた。
「……あの、お姉さんが何歳の時と比較してます?」
「八歳くらい?」
「やっぱり馬鹿にしてますよね?」
流石に八歳の子供と比較されたくない。
くすくす笑い出したディートハルトに有紗は殺意を募らせた。
「やり続ければ上達するよ、きっと。いつか俺に何か縫ってくれると嬉しいな」
ひくりと有紗の頬が引きつる。
「私と殿下はそういう関係ではないですよね?」
「そういう関係だよ。寵姫ってのはね、非公式であるけど俺の妻。そう見なされるからこそ下位貴族同等の待遇なんだよ?」
「…………」
(抱き心地のいい人形くらいにしか思ってないくせに)
有紗は心の中で罵倒した。そして、正解の回答を考える。
「……人様に見せても恥ずかしくないくらい上達したら考えます」
「約束ね。じゃあ寝室に行こうか。今日は疲れたからアリサにいっぱい癒してもらわなきゃ」
腕を引かれ、誘われるのは寝室だ。
司令官のおじさんたちにはもっとこいつを疲れさせて欲しかった。
有紗は心の中でため息をつきながら、ディートハルトに従った。
◆ ◆ ◆
「あー嫌だ……面倒くさい、行きたくない……」
翌朝、朝食を終えるとディートハルトは憂鬱そうに外へ出て行った。
今日は士官学校やら病院やら、軍関係の施設を色々回る事になっているそうだ。王子様が訪れる事で兵士達の士気高揚に繋がるとかで、ヴェルマー司令から依頼され、断りきれなかったようである。
部屋には入れ替わりでドレッセル少尉がやって来て、有紗は昨日に引き続き刺繍の手解きを受ける事になった。
「あの……ドレッセル少尉……」
「何でしょう」
「ずっとお裁縫をするのも肩が凝るので、できたら、こちらの本が読めるように、文字と言葉を教えていただけないでしょうか」
恐る恐る提案してみると、ドレッセル少尉は僅かに目を見開いた。
「だめですか?」
「いえ……私で上手く教えられるかわかりませんが……アリサ様が学ぼうとされるのはいい事だと思いますので、昼からは、何か良さそうな本が無いか探してみます」
ドレッセル少尉の口元が、僅かに笑みを形作った。
ほとんど表情が変わらずわかり辛いが、とてもいい人だと思う。
不器用な有紗に根気強く向き合ってくれるし、上手く出来ない時は、なぜ出来ないのかを、真剣に考えて解決策を提示しようとしてくれるからだ。
物静かで実直な人、と言うのが、昨日一日で感じたドレッセル少尉の人柄だ。何故この人が秘書官なのかがわかる気がした。
「アリサ様は、殿下の事をどう思っていらっしゃるのですか?」
ドレッセル少尉に尋ねられたのは、刺繍に取り組み出して一時間ほど経過した時だった。
「どう、って……私は奴隷ですから……あの人に買われた以上どうもこうもないです」
有紗がここにいるのは、ただ運命に流されたからだ。それ以上でも以下でもない。
憂鬱になってため息をつくと、ドレッセル少尉がぽつりと呟いた。
「この部屋は映像によって監視されています。なのでできれば表情など動かさずに聞いていただきたいのですが」
ドレッセル少尉の言葉に、有紗は目を見開きかけ――
「表情を動かしてはいけません。殿下に気付かれます」
注意され、慌てて布と針に向き合った。
「こんな事話して大丈夫なんですか? 盗聴とか……」
「昨日一日かけて探りましたが、音声探知魔術は使われていないようです。私は魔力はさほど多くありませんが、魔術の解析には自信があるのです」
そう言って、ドレッセル少尉は微かに口元に笑みを浮かべた。
「仮定の話として聞いてください。もし、殿下の元から逃げたいなら逃がしてあげられます、と申し上げたら、アリサ様はどうなさいますか?」
「逃げるって……無理ですよ。首輪があるもの」
「そうですね。私が解析した所、あなたが逃げるにあたって障害となる魔道具は今のところ二つあります。一つ目はその首輪。もう一つは、あなたが右手に付けられている腕輪です」
言われて有紗はちらりと右手首のバングルを視界に入れた。
「その腕輪は殿下が作られたものですね。強力な護りの魔術と探知魔術が込められています。しかも殿下以外の人間には外せないような呪術もかかっていますね。大変美しい術式ですが、何やら執念のようなものを感じます」
ドレッセル少尉の分析に、有紗は背筋が寒くなるのを感じた。
「じゃあ逃げるのなんて無理じゃないですか。しかもこの首輪、逃げた事が殿下にわかったら首が締まるんですよね? それに、もし首輪が外れて逃げたとしても、この瞳もどうにかしないと、また誰かに売られるだけだと思います」
「確かにおっしゃる通りです。ですが、瞳の色は変えられますよ。貴族がお忍びの際に使う魔道具にそういうものがあります」
「でも首輪と腕輪はどうにも出来ないじゃないですか」
「腕輪を外すことは恐らく誰にもできません。しかし、探知魔術を阻害する魔道具を重ね付けし、その部分のみを無効化する事は出来ると思います。首輪はその手の魔術に長けた方一人知っています。その方にお願いすれば外せる可能性が高いです。そう申し上げたらいかがされますか? 逃げたいですか?」
有紗は手元の刺繍を縫い進めながら考えた。
逃げたいか逃げたくないかの二択なら、逃げたいに決まっている。
こんなディートハルト次第の不安定な愛人の立場は嫌だ。自分の意思を無視して身体を貪られるのも。
有紗は慎重に答えを選んだ。
「……もし、逃げた後の生活が保証されるなら逃げたいです」
「……そうですか」
ドレッセル少尉は両目を閉じ、ふうっと息を吐いた。そして目を開けると、有紗の顔をじっと見据えてくる。
「実は国王陛下よりヴェルマー司令に、あなたが望むなら逃亡を手助けせよとの依頼がございました」
「え……」
有紗は大きく目を見開きかけ――監視されている事を思い出して慌てて表情を取り繕った。
「殿下はあなたを得た事を理由に、側妃をお迎えになるのを拒否されました。国王陛下としてはそれは許せない事で……本来ならばあなたを消すか無理矢理取り上げたい所なんでしょうけど、それが不可能なのであなたが望むなら逃亡を手助けする方向でお考えになられたようです」
消す、と言う言葉がドレッセル少尉の口から飛び出し、有紗の背筋に寒気が走った。
「不可能って……どうしてなんでしょうか」
「その腕輪ですよ。極めて強力な護りの魔術が組み込まれています。鍵となる言葉以外にも、持ち主に危険が及べば発動するようになっておりますね」
「そう、なんですか……?」
そんな事ディートハルトは一言も言わなかった。
つまり、あの若干恥ずかしい鍵の言葉を、
(言わせたかった?)
状況を忘れ、有紗はディートハルトに対して呆れてしまった。
「あなたの安全はその腕輪によって担保されています。いかがなさいますか? 逃げますか?」
有紗は突然新たな道が提示された事に戸惑う。
「もし逃げる場合は、明日が大きなチャンスです。それを逃せば次はいつ機会が来るか……ヴァルトルーデに乗ってしまえば、陛下と言えども手は出せなくなります」
基地全体が、何よりも国王が味方だと言うなら、逃げられるかもしれない。
有紗は固唾を飲んだ。そして――
「逃げたいです。逃がしてください」
差し伸べられた腕を取る事にした。
時間が二十四時間という概念を作ったのは地球では古代エジプト人らしいが、こちらの世界に時の概念を伝えたのも、テラ・レイスだったのかもしれない。
午後九時を過ぎて、ようやく基地司令から解放されたらしいディートハルトは、戻ってくるなり有紗の指先に巻かれた包帯を見て目を見開いた。
「うわ、どうしたの、アリサ、その指」
「刺繍に挑戦したらこうなりました」
むっつりしながら答えると、ディートハルトはぶっと吹き出した。
裁縫箱も刺繍の本も、有紗のために用意してくれたもので、このままヴァルトルーデに持って行ってもいいらしい。
しかし、今日一日の頑張りは、正直上達するとはとても思えない代物が出来ただけだった。
「アリサは不器用だったんだね。向こうの女の子は裁縫しないの?」
「する人はしますけど手芸には興味がなかったので……日本ではボタン付けとまつり縫いができたら困らなかったんですよ」
そうだ。たまに裁縫箱を取り出すことがあっても、裾のほつれを直したり、外れたボタンを付け替える程度だった。
「何を縫ったのか見せてよ。裁縫箱はこれかな?」
「ダメ!」
止めた時には遅かった。赤黒い斑点まみれの花の刺繍が見られてしまった。
「これは……」
ディートハルトは口元を押さえて絶句している。笑うのを堪えているようだ。
作品をひったくって胸元に抱え込んで隠すと、有紗はキッとディートハルトを睨んだ。
「刺繍するのなんて初めてだったんです。だから上手に出来なくても当たり前なんです!」
「当然だよ。どれ、もっとちゃんと見せて」
「嫌です」
「初めての割には縫うのは出来てたように見えるけどなぁ……」
「え?」
止まった隙を見逃すディートハルトではなかった。気が付いたら、有紗の手から初めて縫い上げた作品が消えていた。
ディートハルトに取り上げられていた。取り返そうにも、腹立たしい事に頭上に掲げられては有紗では踏み台に昇らないと届かない。
線はガタガタだし、力加減が上手くいかず、布が引き攣れてしまった作品が見られている。しかも血の斑点付きだ。恥ずかしさに有紗の頬が熱くなった。
「うん、やっぱり縫うのは綺麗に出来てるよ。姉上が刺繍を始めたばかりの時よりずっと上手だ」
「お姉さんがいるんですか?」
「うん。もう降嫁して王家を出たから滅多に会うこともないけどね」
ふうん、と思ったところで有紗ははたと気付いた。
「……あの、お姉さんが何歳の時と比較してます?」
「八歳くらい?」
「やっぱり馬鹿にしてますよね?」
流石に八歳の子供と比較されたくない。
くすくす笑い出したディートハルトに有紗は殺意を募らせた。
「やり続ければ上達するよ、きっと。いつか俺に何か縫ってくれると嬉しいな」
ひくりと有紗の頬が引きつる。
「私と殿下はそういう関係ではないですよね?」
「そういう関係だよ。寵姫ってのはね、非公式であるけど俺の妻。そう見なされるからこそ下位貴族同等の待遇なんだよ?」
「…………」
(抱き心地のいい人形くらいにしか思ってないくせに)
有紗は心の中で罵倒した。そして、正解の回答を考える。
「……人様に見せても恥ずかしくないくらい上達したら考えます」
「約束ね。じゃあ寝室に行こうか。今日は疲れたからアリサにいっぱい癒してもらわなきゃ」
腕を引かれ、誘われるのは寝室だ。
司令官のおじさんたちにはもっとこいつを疲れさせて欲しかった。
有紗は心の中でため息をつきながら、ディートハルトに従った。
◆ ◆ ◆
「あー嫌だ……面倒くさい、行きたくない……」
翌朝、朝食を終えるとディートハルトは憂鬱そうに外へ出て行った。
今日は士官学校やら病院やら、軍関係の施設を色々回る事になっているそうだ。王子様が訪れる事で兵士達の士気高揚に繋がるとかで、ヴェルマー司令から依頼され、断りきれなかったようである。
部屋には入れ替わりでドレッセル少尉がやって来て、有紗は昨日に引き続き刺繍の手解きを受ける事になった。
「あの……ドレッセル少尉……」
「何でしょう」
「ずっとお裁縫をするのも肩が凝るので、できたら、こちらの本が読めるように、文字と言葉を教えていただけないでしょうか」
恐る恐る提案してみると、ドレッセル少尉は僅かに目を見開いた。
「だめですか?」
「いえ……私で上手く教えられるかわかりませんが……アリサ様が学ぼうとされるのはいい事だと思いますので、昼からは、何か良さそうな本が無いか探してみます」
ドレッセル少尉の口元が、僅かに笑みを形作った。
ほとんど表情が変わらずわかり辛いが、とてもいい人だと思う。
不器用な有紗に根気強く向き合ってくれるし、上手く出来ない時は、なぜ出来ないのかを、真剣に考えて解決策を提示しようとしてくれるからだ。
物静かで実直な人、と言うのが、昨日一日で感じたドレッセル少尉の人柄だ。何故この人が秘書官なのかがわかる気がした。
「アリサ様は、殿下の事をどう思っていらっしゃるのですか?」
ドレッセル少尉に尋ねられたのは、刺繍に取り組み出して一時間ほど経過した時だった。
「どう、って……私は奴隷ですから……あの人に買われた以上どうもこうもないです」
有紗がここにいるのは、ただ運命に流されたからだ。それ以上でも以下でもない。
憂鬱になってため息をつくと、ドレッセル少尉がぽつりと呟いた。
「この部屋は映像によって監視されています。なのでできれば表情など動かさずに聞いていただきたいのですが」
ドレッセル少尉の言葉に、有紗は目を見開きかけ――
「表情を動かしてはいけません。殿下に気付かれます」
注意され、慌てて布と針に向き合った。
「こんな事話して大丈夫なんですか? 盗聴とか……」
「昨日一日かけて探りましたが、音声探知魔術は使われていないようです。私は魔力はさほど多くありませんが、魔術の解析には自信があるのです」
そう言って、ドレッセル少尉は微かに口元に笑みを浮かべた。
「仮定の話として聞いてください。もし、殿下の元から逃げたいなら逃がしてあげられます、と申し上げたら、アリサ様はどうなさいますか?」
「逃げるって……無理ですよ。首輪があるもの」
「そうですね。私が解析した所、あなたが逃げるにあたって障害となる魔道具は今のところ二つあります。一つ目はその首輪。もう一つは、あなたが右手に付けられている腕輪です」
言われて有紗はちらりと右手首のバングルを視界に入れた。
「その腕輪は殿下が作られたものですね。強力な護りの魔術と探知魔術が込められています。しかも殿下以外の人間には外せないような呪術もかかっていますね。大変美しい術式ですが、何やら執念のようなものを感じます」
ドレッセル少尉の分析に、有紗は背筋が寒くなるのを感じた。
「じゃあ逃げるのなんて無理じゃないですか。しかもこの首輪、逃げた事が殿下にわかったら首が締まるんですよね? それに、もし首輪が外れて逃げたとしても、この瞳もどうにかしないと、また誰かに売られるだけだと思います」
「確かにおっしゃる通りです。ですが、瞳の色は変えられますよ。貴族がお忍びの際に使う魔道具にそういうものがあります」
「でも首輪と腕輪はどうにも出来ないじゃないですか」
「腕輪を外すことは恐らく誰にもできません。しかし、探知魔術を阻害する魔道具を重ね付けし、その部分のみを無効化する事は出来ると思います。首輪はその手の魔術に長けた方一人知っています。その方にお願いすれば外せる可能性が高いです。そう申し上げたらいかがされますか? 逃げたいですか?」
有紗は手元の刺繍を縫い進めながら考えた。
逃げたいか逃げたくないかの二択なら、逃げたいに決まっている。
こんなディートハルト次第の不安定な愛人の立場は嫌だ。自分の意思を無視して身体を貪られるのも。
有紗は慎重に答えを選んだ。
「……もし、逃げた後の生活が保証されるなら逃げたいです」
「……そうですか」
ドレッセル少尉は両目を閉じ、ふうっと息を吐いた。そして目を開けると、有紗の顔をじっと見据えてくる。
「実は国王陛下よりヴェルマー司令に、あなたが望むなら逃亡を手助けせよとの依頼がございました」
「え……」
有紗は大きく目を見開きかけ――監視されている事を思い出して慌てて表情を取り繕った。
「殿下はあなたを得た事を理由に、側妃をお迎えになるのを拒否されました。国王陛下としてはそれは許せない事で……本来ならばあなたを消すか無理矢理取り上げたい所なんでしょうけど、それが不可能なのであなたが望むなら逃亡を手助けする方向でお考えになられたようです」
消す、と言う言葉がドレッセル少尉の口から飛び出し、有紗の背筋に寒気が走った。
「不可能って……どうしてなんでしょうか」
「その腕輪ですよ。極めて強力な護りの魔術が組み込まれています。鍵となる言葉以外にも、持ち主に危険が及べば発動するようになっておりますね」
「そう、なんですか……?」
そんな事ディートハルトは一言も言わなかった。
つまり、あの若干恥ずかしい鍵の言葉を、
(言わせたかった?)
状況を忘れ、有紗はディートハルトに対して呆れてしまった。
「あなたの安全はその腕輪によって担保されています。いかがなさいますか? 逃げますか?」
有紗は突然新たな道が提示された事に戸惑う。
「もし逃げる場合は、明日が大きなチャンスです。それを逃せば次はいつ機会が来るか……ヴァルトルーデに乗ってしまえば、陛下と言えども手は出せなくなります」
基地全体が、何よりも国王が味方だと言うなら、逃げられるかもしれない。
有紗は固唾を飲んだ。そして――
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