最悪な結婚を回避したら、初恋をがっつり引きずった王子様に溺愛されました

灰兎

文字の大きさ
17 / 17

17、奪われた心と奪ったガラスの靴

しおりを挟む
エドワードと再びこの湖を訪れるなんて、初めて二人が出会った時の自分は想像もしていなかった。

記憶と重なる穏やかな風景も、こうして月夜の下で眺めると、違った美しさを見せてくれる。

「マリア、寒くない?」

「はい、大丈夫です」

結婚してから二ヶ月、忙しいエドワードと新婚旅行に出掛けられるのはまだまだ先だけれど、二人が最初に出会ったこの湖水地方に二泊する事が決まった時から、マリアは楽しみで仕方無かった。

結婚してもなかなか一緒に過ごせる時間は無いし、夫婦で公務に出掛ける時は、まだまだ慣れないマリアは気持ちに余裕が無くて、エドワードが居てくれても、自分の事で一杯一杯になってしまう。

けれど、この旅行の間は何も気にせず、誰にも遠慮せずにエドワードとずっと一緒に居られる。それが何より嬉しかった。

「確か、ここら辺で初めてマリアに会ったんだよ」

特に特徴の無い湖の畔でおもむろに立ち止まったエドワード。

「僕が護衛の人と散歩してたら、マリアがお気に入りの人形を湖に落として泣いてたんだ。ふわふわした白いクマの」

「そんな事があったとは……その節は大変ご迷惑を……一国の王子様に湖に入らせてしまって……」

十年越しに恐縮するマリア。

「その泣いてる姿がすごく可愛くて、天使が空から間違えて落ちてきちゃったんじゃないかと思ったんだ」

(多分ギャン泣きだったろうに、可愛いだなんて、エドワード様も相当精神的にキテらしたんだわ……)

「最初の出会いがそんな感じだったから、お砂糖菓子みたいに甘くて儚い子なんだと思ったら、すごく元気で、おてんばで、僕に会うと弾けるような笑顔を向けてくれて、新鮮だったな。お城ではみんなとり澄ました笑顔しかしない人ばかりだったから」

「控えめに言って単なる野生児ですね、私……」

目を細めて懐かしむエドワードの隣で、マリアは当時の自分に会えたら、色々話しておきたい事があると思った。

「マリアは僕に人間らしい感情を思い出させてくれた恩人だよ。もしあの時マリアに会って無かったら、僕は今頃もうこの世に居なかったかもしれない」

「そんな大袈裟な……」

はは、っと笑うマリアは、エドワードが言った事を真に受けている訳では無かったけれど、それでも今こうしてここに居てくれて良かったと、心底思った。

「それを言うなら、私の方がエドワード様に救って頂きました。もしあの森でエドワード様に再会していなかったら、伯爵と結婚させられるか、家族が崩壊するか、どちらかしか無かったですから……もし第三の可能性があったとしとしたら、私が家出するとかでしょうか……」

「そうならなくて、本当に良かった。でもきっとマリアを探し出しすって心に決めていたんだ。それに、僕がここでプロポーズした時に、マリアがなんて言ってくれたか覚えてる?」

「『うん、結婚する』とかそんな事を言ったような……」

「途中まで正解。『うん、結婚する! 約束だよ。もしプロポーズしに来てくれなかったら、私がエドワードにプロポーズしに行くからね、覚悟してて!』って言ったんだ」

「本当に色々すみません……」

当時のマリアはエドワードが王子だとは知らなかったので仕方ない部分もあるが、物怖じしないにも程がある。

「あぁ、いつもこうやってマリアとずっと一緒に居られたらいいのにな」

流れる雲が月を隠した時、エドワードはマリアを腕の中に抱きしめて呟いた。

「でも今回はここでの休暇が終わっても子供の時みたいにお別れじゃなくて、一緒の所へ帰れるね」

「はい、私もエドワード様と一日中一緒に過ごせるのが嬉しいです。一緒に帰れる場所があることも……」

エドワードの背に回した腕をギュッとする。

「どうしよう、マリアが可愛すぎる。散歩はまたにして、宿に戻ろう?」

「……っ! さっきまでずっとだったのに、もう戻るんですか……?」

昼過ぎにはここに着いていたのに、夜まで散歩がずれ込んだ理由を思い出してマリアは赤面する。

「そうだよね、ごめん……」

シュンとするエドワードに抱きしめられているマリアは、全然収まらないどころかどんどん硬くなって存在を誇示してくるエドワード自身に、先程までの情事のせいで蕩けたままの下半身が熱くなるのを感じた。

「エドワード様がどうしても、と言うなら戻りましょう。でも今度はその、ベッドでお願いします……」

羞恥心のせいで、ついもったいぶった言い方をしてしまう。

エドワードは、道中の馬車の中で密室空間なのを良い事に、マリアの腰が抜けてしまう様なイタズラを散々仕掛けた上に、宿に着いた瞬間に人払いをして、居間やお風呂場、あちこちでマリアを飽きること無く抱いた。

なので今度は是非とも安定感のあるベッドでお願いしたい。

「そうだね、ベッドだと身長差があっても色々しやすいもんね」

「ち、違いますっ! そうじゃなくて……!!」

「僕、マリアの恥ずかしがる顔、すごく好きなんだ。まだしてない色んな恥ずかしい事、一杯しよう。そしたらマリアはこれからあの宿に泊まる度に思い出して赤面するのかな。あぁ、なんか想像しただけで──」

エドワードはどんどん暴走し始めて、マリアが食べられてしまうんじゃないかと思うようなキスをしてきた。

「んん…………っ!」

(外では控えて下さいって、宰相様に二人して怒られたばかりなのに……)

「エドワード様、いけません、外では……お部屋まで待って下さらないと……」

「──早く戻ろう」

はぁはぁと息の上がったマリアにたしなめられて、色々な我慢の限界に達したエドワードが、ドレスでゆっくりしか歩けないマリアを抱き上げて走り出そうとすると、履いていたパンプスの片方が足から落ちてしまう。

マリアを抱えながら器用にそれを拾うと、自分の上着のポケットにしまい、もう片方のパンプスもマリアの足から脱がせて反対側のポケットにしまい込む。

「これでもう、マリアは僕から逃げ出せないね」

いたずらっ子の様に笑ったエドワードに、マリアの鼓動が高鳴る。

(エドワード様が前に言っていた、毎日どんどん好きになるって、こう言う事だったんだ……)

「どこにも行きません。明日も明後日もその先も、毎日エドワード様に恋に落ちて、日を重ねる毎にますます深く愛せるように、お側に居させて下さい……」



しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

華南
2022.06.22 華南
ネタバレ含む
2022.06.22 灰兎

華南様、
御感想を下さりどうもありがとうございます!
何の山場も無い平坦な話を最後まで読んでくださり、王子の嫉妬深さまでも広いお心でお迎えいただき、恐縮です🙇‍♀️
他の話も特に山も谷も無い話ばかりですが、もしどれか隙間時間に読んでいただけるものがあれば何よりですm(_ _)m
この度は拙作を読んでくださり、どうもありがとうございました❣️😊

解除
pinkmoon
2022.06.21 pinkmoon
ネタバレ含む
2022.06.21 灰兎

pinkmoon様、
お礼を申し上げるのはこちらの方です🙇‍♀️
拙作を最後迄お読みいただき、素敵な御感想までくださりどうもありがとうございます!
色々と拙い文章から、王子の苦労等、pinkmoon様の豊かな感性で補ってお読みくださり、恐縮です。
ユーザーネーム、ロマンチックでとても素敵ですね🌙💕
どうもありがとうございました😊

解除
おゆう
2022.06.20 おゆう

あれ、主人公、王子様かΣ(゚ロ゚;)。

2022.06.20 灰兎

おゆう様、
御感想どうもありがとうございます!
設定は一応そうなのですが、読んで下さった皆様方が感じたままに決めて頂けたら何よりで御座いますm(_ _)m
拙作のあらすじまでも読んで下さりどうもありがとうございました❣️😊

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。