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After Story
side.ラシルド
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ユキに相談に乗ってもらい、大分心がすっきりした俺は、アレクと少し話がしたくなった。ユキの部屋に行く間はユキの部屋に続く道の入り口で待たせていたアレクと合流し、部屋へ戻りながらアレクへその旨を伝えてみる。
「アレク、終業後に2人で話がしたい。夜に俺の部屋に来て」
「わかりました」
……少しドキドキする。今の俺の気持ちをアレクに聞かせたら、アレクはなんて思うかな……嫌われるのだけは、嫌だな……
ドキドキとしながらその日の残りを過ごし、夜になればアレクが終業を迎えた。アレクは報告書の提出に一度出て行き、その後すぐに戻ってきた。
「ルディ、話ってなんだ?」
ルディというのは、小さい頃からアレクが俺を呼ぶ呼び名だ。友達に様なんてつけられるのは嫌だと泣いた俺に、せめて王族である俺の家族とは違った呼び名で、となった結果だ。俺としてはラスでもよかったんだけど、アレクの親が流石に、と言って断ったんだ。
「と、とりあえず座れよ」
「ああ、わかった」
……座れとは言ったけど俺はまさか隣に座るとは思ってなかったぞ……! 目の前にもソファあるだろ!? それにでかいソファなのになんでこんなピッタリひっついて座るんだ……これじゃユキとダグラスの距離感だろ……!
「で、話って?」
この状態で話すのか……別にいいけどさ……
「その……アレクは俺と付き合いたい、んだよな……?」
「……そうだな。俺はずっとお前のことが好きだ。だが、お前は違うんだろ? ……無理に気持ちを押し付けることはしたくない」
「嫌じゃ、ない……嫌じゃ、ないんだけど……その……俺はアレクのこと、好きなのかわからない。でも……アレクが他の誰かとって思うと……モヤモヤするんだ……」
「……ルディ、そんなことを言われたら俺は期待してしまうぞ」
少し欲のこもった目で見つめられ、少し怖気付いてしまう。でも、今言っておきたい。俺の気持ちを、知っていてほしい。
「……正直、抱かれるのは怖いし、今はやだ。でも……今日、ユキに相談に乗ってもらって、俺が望まない限りそれはしなくていいんだって言われて……義務じゃないって……」
「ああ、それは勿論だ。神子様は正しい。俺はお前が無理をする方が嫌だ。ルディが辛い思いをするくらいなら禁欲したっていい」
そっか……そうだよ、な。アレクはこういう奴だったよ……小さい頃からいっつも俺のことばっか優先して……近衛になるのだって異例の速さだったし……
「俺、恋人になったら絶対しないとダメだと思ってたんだ。だから怖くて……」
「俺はルディの気持ちが伴わない行為なんてしたくない。ルディがいいと思えるまで、何年だって待つ。何年越しの愛だと思っている? 俺を見くびるなよ」
「何年待っても俺がしたいと思わなかったら……?」
「それでも構わない。お前が俺だけを見てくれるならそれで十分だ。ルディを抱けないからといって俺の気持ちが変わるわけじゃない」
「そ、そっか……」
なんだろ、俺……嬉しい、かも……これが愛を感じるってやつなのかな……? ユキがいつもこんなのを感じてるとしたら幸せそうなのもわかるかも……
でも、アレクのことを好きかと言われたら、やっぱりわからない。少し気持ちが傾いている自覚はある。でも、それが好きと言われたからなのか、俺が本当にアレクのことをいいと思っているからなのかがわからない。俺にはもっと考える時間がいるんだ。もしくは、決定的な何かが。
「……なぁ、アレク」
「なんだ?」
「俺、正直まだアレクのことが好きなのかわかんない。でも……もっとちゃんとアレクのこと考えてみたい。だから、待っててくれるか? 俺が答えを出せるまで、待っててほしい」
「勿論だ。いくらでも待つ。でも、そうだな……こういうのはどうだ?」
「な、なに……?」
何を言われるんだろ……待ってくれるんじゃないのか……?
「お試し期間、ってのはどうだ?」
「お試し……?」
「ちょっと恋人らしいことをしてみるんだ。もちろんルディが嫌じゃなければ、だけどな。手を繋いで庭を歩いてみたり、キスをしてみたり」
「で、でも……っ!」
俺は、そんな中途半端なことはしないようにって……アレクのことが好きかわからないのにキスとか……もしそれで俺がやっぱり無理だってなったら……アレクを傷付けてしまう。それだけは嫌だ。
「ルディは俺が傷付かないか心配しているんだな。心配するな、俺はお前が神子様に求婚したことだって聞いたんだぞ? その時の衝撃に比べたら軽いもんだ」
「っ、ごめ……」
「いや、いいんだ。お前は俺の気持ちを知らなかったんだしな。今は神子様のことが好きなわけじゃないんだろ?」
「うん。ユキは俺の家族であって友達だよ。あの時は勢いであんなこと……」
ユキは許してくれたけど、俺は本当に失礼なことをした。おまけにアレクも傷付けて……本当に後悔しかないよ。
「ああ、わかってる。ルディが今は俺のことを考えてくれているだけで十分だ」
「でもお試しって……」
「俺にメリットがないわけじゃないさ。お試し期間を利用して俺もルディに触れることができるんだからな。恋人としての俺を売り込むことだってできる。いいこと尽くめだ。……ルディは嫌か?」
嫌かと問われ、じっと考えてみた。手を繋いだり、庭を2人で散歩したり……抱きしめあったり、キス、したり……
「……嫌じゃ、ない……」
うん、嫌じゃない。むしろなんだか楽しそうな気がする。ユキとダグラスみたいなのは想像出来ないけど、なんだか想像の中の俺とアレクは自然に笑ってた。
「ならお試し期間、やってみよう。いいだろ?」
「う、うん……」
「ならほら、まずは手を繋いでみよう」
返事をする前に一瞬で膝の上に置いていた手を絡め取られてしまった。小さい頃はおんなじような手だったのに今ではアレクの手はゴツゴツと男らしい手になっていて、俺の知っているアレクの手とは全然違っていた。
とてつもない努力をしてきたことがわかる、男らしい手。手に感じるタコの感触に、なんだか胸が締め付けられる思いだった。俺の近衛になるために努力していたのは知っているけれど、実際にその証とも言える手を知って、なんだか温かいものが心に生まれたのがわかった。
これが、恋ってやつなのかな……
あともう少し、きっかけがあればその正体が分かる気がした。
「ルディ、キスしたい。駄目か?」
少し緊張したようなアレクの声に、ドクンと心臓が1つ大きく打ち付けた。
キスをしたら、この気持ちの正体が分かる……? 甘いような苦しいような、よくわからない気持ちの正体が知りたい。
「……いい、よ」
そっと近づいて来たアレクの唇に、ドクドクと心臓が鳴った。アレクが目を閉じたのを見て俺もそっと目を閉じた瞬間、少しカサついた唇が自分の唇に触れた。
そして俺は、いつしか涙を流していた。はらはらと静かに流れ落ちる涙が頬を伝った。
「ルディ……? 嫌、だったか……」
どこか苦しそうな表情で離れようとしたアレクを慌てて引き寄せた。
違う、違うんだ。そうじゃないんだ。
「お試し、やめたい……」
「……そうか。しょうがないよな。俺は大丈夫だから気にしないでくれ。ま、俺の気持ちだけは知っててくれよ」
違う違う違う! そうじゃない! そっちの意味でやめたいっていったんじゃない……!
俺は、俺は……っ!
「好き、だ」
「……え?」
「アレクのこと、好きだ……っ! だから、お試しじゃなくて、ちゃんと、恋人にしてほしっ……んぅっ……!」
まだ言い切っていないのに喰らいつくようなキスで唇を塞がれた。何か熱くて濡れたものが唇を割って入って来て、それがアレクの舌だと気付くまでにそう時間はかからなかった。アレクの舌は縮こまる俺の舌を無理やり絡めとっていき、さっきのキスとは打って変わった荒々しい貪るようなキスに、頭が沸騰したようだった。
俺はまたボロボロと涙を流していた。それが息苦しさから来るのか、はたまた別の何かから来るのかは俺にはわからなかったけれど、嫌な感情がないことは確かだった。
唇が離れていき、荒く息を吐きながらぼやける視界でアレクを見ると、アレクも涙を流していることに気付いた。
「ルディ……」
「アレ、ク……」
「ルディ、本当にいいのか? 俺の、恋人になってくれるのか……?」
嬉しそうなのにどこか不安げなアレクに、愛しさが胸に湧いた。ああこれが愛なんだと、ストンと何かがはまるように自然に理解した。
愛というものを理解すると、アレクへの想いがどんどんと膨れ上がっていくようだった。アレクが愛しくてたまらない。もっと触れていたくて、ほんの少しでも隙間があるのが嫌で、ぎゅうぎゅうとアレクにしがみついた。
「っ、ん……うん……! 俺、アレクが、好きだ……!」
「ルディ……! 俺もルディが好きだっ……愛している……!」
強く抱きしめ返してくれるアレクの逞しい腕に安堵した。欲しかったのは誰かの愛なんかじゃなかった。アレクだった。
思い出したんだ。アレクが騎士として俺に敬語を使った日、ものすごく悲しかったことを。大好きだったアレクとの距離を感じて、辛かった。……そう、俺はきっと、元からアレクが好きだったんだ。俺は鈍いから気付いていなかっただけで。悲しんだ俺は無意識のうちにまだ気づいていなかったアレクへの想いを封じて、辛さを誤魔化すように他の恋を求めるようになった。
……バカだな、俺。もっと早く気付けばよかった。そうしたらアレクを傷つけることも、ユキに失礼なことをすることもなかったのに。
でもまぁ、いっか。だって俺、今すっごい幸せだもん。ユキがあんなに幸せそうなのがわかるくらい、こうしてお互いの隙間を埋め合うように抱き合っているのが幸せなんだ。今が幸せなら、それでいいや。アレクがいる限りきっとこれからだって幸せだしな。
その日は2人で抱きしめあって眠った。朝目が覚めた時はお互いに泣いたこともあってどこか気恥ずかしかったけれど、それでもやっぱり幸せだった。
「アレク、愛してる」
「俺も愛している、ルディ」
「アレク、終業後に2人で話がしたい。夜に俺の部屋に来て」
「わかりました」
……少しドキドキする。今の俺の気持ちをアレクに聞かせたら、アレクはなんて思うかな……嫌われるのだけは、嫌だな……
ドキドキとしながらその日の残りを過ごし、夜になればアレクが終業を迎えた。アレクは報告書の提出に一度出て行き、その後すぐに戻ってきた。
「ルディ、話ってなんだ?」
ルディというのは、小さい頃からアレクが俺を呼ぶ呼び名だ。友達に様なんてつけられるのは嫌だと泣いた俺に、せめて王族である俺の家族とは違った呼び名で、となった結果だ。俺としてはラスでもよかったんだけど、アレクの親が流石に、と言って断ったんだ。
「と、とりあえず座れよ」
「ああ、わかった」
……座れとは言ったけど俺はまさか隣に座るとは思ってなかったぞ……! 目の前にもソファあるだろ!? それにでかいソファなのになんでこんなピッタリひっついて座るんだ……これじゃユキとダグラスの距離感だろ……!
「で、話って?」
この状態で話すのか……別にいいけどさ……
「その……アレクは俺と付き合いたい、んだよな……?」
「……そうだな。俺はずっとお前のことが好きだ。だが、お前は違うんだろ? ……無理に気持ちを押し付けることはしたくない」
「嫌じゃ、ない……嫌じゃ、ないんだけど……その……俺はアレクのこと、好きなのかわからない。でも……アレクが他の誰かとって思うと……モヤモヤするんだ……」
「……ルディ、そんなことを言われたら俺は期待してしまうぞ」
少し欲のこもった目で見つめられ、少し怖気付いてしまう。でも、今言っておきたい。俺の気持ちを、知っていてほしい。
「……正直、抱かれるのは怖いし、今はやだ。でも……今日、ユキに相談に乗ってもらって、俺が望まない限りそれはしなくていいんだって言われて……義務じゃないって……」
「ああ、それは勿論だ。神子様は正しい。俺はお前が無理をする方が嫌だ。ルディが辛い思いをするくらいなら禁欲したっていい」
そっか……そうだよ、な。アレクはこういう奴だったよ……小さい頃からいっつも俺のことばっか優先して……近衛になるのだって異例の速さだったし……
「俺、恋人になったら絶対しないとダメだと思ってたんだ。だから怖くて……」
「俺はルディの気持ちが伴わない行為なんてしたくない。ルディがいいと思えるまで、何年だって待つ。何年越しの愛だと思っている? 俺を見くびるなよ」
「何年待っても俺がしたいと思わなかったら……?」
「それでも構わない。お前が俺だけを見てくれるならそれで十分だ。ルディを抱けないからといって俺の気持ちが変わるわけじゃない」
「そ、そっか……」
なんだろ、俺……嬉しい、かも……これが愛を感じるってやつなのかな……? ユキがいつもこんなのを感じてるとしたら幸せそうなのもわかるかも……
でも、アレクのことを好きかと言われたら、やっぱりわからない。少し気持ちが傾いている自覚はある。でも、それが好きと言われたからなのか、俺が本当にアレクのことをいいと思っているからなのかがわからない。俺にはもっと考える時間がいるんだ。もしくは、決定的な何かが。
「……なぁ、アレク」
「なんだ?」
「俺、正直まだアレクのことが好きなのかわかんない。でも……もっとちゃんとアレクのこと考えてみたい。だから、待っててくれるか? 俺が答えを出せるまで、待っててほしい」
「勿論だ。いくらでも待つ。でも、そうだな……こういうのはどうだ?」
「な、なに……?」
何を言われるんだろ……待ってくれるんじゃないのか……?
「お試し期間、ってのはどうだ?」
「お試し……?」
「ちょっと恋人らしいことをしてみるんだ。もちろんルディが嫌じゃなければ、だけどな。手を繋いで庭を歩いてみたり、キスをしてみたり」
「で、でも……っ!」
俺は、そんな中途半端なことはしないようにって……アレクのことが好きかわからないのにキスとか……もしそれで俺がやっぱり無理だってなったら……アレクを傷付けてしまう。それだけは嫌だ。
「ルディは俺が傷付かないか心配しているんだな。心配するな、俺はお前が神子様に求婚したことだって聞いたんだぞ? その時の衝撃に比べたら軽いもんだ」
「っ、ごめ……」
「いや、いいんだ。お前は俺の気持ちを知らなかったんだしな。今は神子様のことが好きなわけじゃないんだろ?」
「うん。ユキは俺の家族であって友達だよ。あの時は勢いであんなこと……」
ユキは許してくれたけど、俺は本当に失礼なことをした。おまけにアレクも傷付けて……本当に後悔しかないよ。
「ああ、わかってる。ルディが今は俺のことを考えてくれているだけで十分だ」
「でもお試しって……」
「俺にメリットがないわけじゃないさ。お試し期間を利用して俺もルディに触れることができるんだからな。恋人としての俺を売り込むことだってできる。いいこと尽くめだ。……ルディは嫌か?」
嫌かと問われ、じっと考えてみた。手を繋いだり、庭を2人で散歩したり……抱きしめあったり、キス、したり……
「……嫌じゃ、ない……」
うん、嫌じゃない。むしろなんだか楽しそうな気がする。ユキとダグラスみたいなのは想像出来ないけど、なんだか想像の中の俺とアレクは自然に笑ってた。
「ならお試し期間、やってみよう。いいだろ?」
「う、うん……」
「ならほら、まずは手を繋いでみよう」
返事をする前に一瞬で膝の上に置いていた手を絡め取られてしまった。小さい頃はおんなじような手だったのに今ではアレクの手はゴツゴツと男らしい手になっていて、俺の知っているアレクの手とは全然違っていた。
とてつもない努力をしてきたことがわかる、男らしい手。手に感じるタコの感触に、なんだか胸が締め付けられる思いだった。俺の近衛になるために努力していたのは知っているけれど、実際にその証とも言える手を知って、なんだか温かいものが心に生まれたのがわかった。
これが、恋ってやつなのかな……
あともう少し、きっかけがあればその正体が分かる気がした。
「ルディ、キスしたい。駄目か?」
少し緊張したようなアレクの声に、ドクンと心臓が1つ大きく打ち付けた。
キスをしたら、この気持ちの正体が分かる……? 甘いような苦しいような、よくわからない気持ちの正体が知りたい。
「……いい、よ」
そっと近づいて来たアレクの唇に、ドクドクと心臓が鳴った。アレクが目を閉じたのを見て俺もそっと目を閉じた瞬間、少しカサついた唇が自分の唇に触れた。
そして俺は、いつしか涙を流していた。はらはらと静かに流れ落ちる涙が頬を伝った。
「ルディ……? 嫌、だったか……」
どこか苦しそうな表情で離れようとしたアレクを慌てて引き寄せた。
違う、違うんだ。そうじゃないんだ。
「お試し、やめたい……」
「……そうか。しょうがないよな。俺は大丈夫だから気にしないでくれ。ま、俺の気持ちだけは知っててくれよ」
違う違う違う! そうじゃない! そっちの意味でやめたいっていったんじゃない……!
俺は、俺は……っ!
「好き、だ」
「……え?」
「アレクのこと、好きだ……っ! だから、お試しじゃなくて、ちゃんと、恋人にしてほしっ……んぅっ……!」
まだ言い切っていないのに喰らいつくようなキスで唇を塞がれた。何か熱くて濡れたものが唇を割って入って来て、それがアレクの舌だと気付くまでにそう時間はかからなかった。アレクの舌は縮こまる俺の舌を無理やり絡めとっていき、さっきのキスとは打って変わった荒々しい貪るようなキスに、頭が沸騰したようだった。
俺はまたボロボロと涙を流していた。それが息苦しさから来るのか、はたまた別の何かから来るのかは俺にはわからなかったけれど、嫌な感情がないことは確かだった。
唇が離れていき、荒く息を吐きながらぼやける視界でアレクを見ると、アレクも涙を流していることに気付いた。
「ルディ……」
「アレ、ク……」
「ルディ、本当にいいのか? 俺の、恋人になってくれるのか……?」
嬉しそうなのにどこか不安げなアレクに、愛しさが胸に湧いた。ああこれが愛なんだと、ストンと何かがはまるように自然に理解した。
愛というものを理解すると、アレクへの想いがどんどんと膨れ上がっていくようだった。アレクが愛しくてたまらない。もっと触れていたくて、ほんの少しでも隙間があるのが嫌で、ぎゅうぎゅうとアレクにしがみついた。
「っ、ん……うん……! 俺、アレクが、好きだ……!」
「ルディ……! 俺もルディが好きだっ……愛している……!」
強く抱きしめ返してくれるアレクの逞しい腕に安堵した。欲しかったのは誰かの愛なんかじゃなかった。アレクだった。
思い出したんだ。アレクが騎士として俺に敬語を使った日、ものすごく悲しかったことを。大好きだったアレクとの距離を感じて、辛かった。……そう、俺はきっと、元からアレクが好きだったんだ。俺は鈍いから気付いていなかっただけで。悲しんだ俺は無意識のうちにまだ気づいていなかったアレクへの想いを封じて、辛さを誤魔化すように他の恋を求めるようになった。
……バカだな、俺。もっと早く気付けばよかった。そうしたらアレクを傷つけることも、ユキに失礼なことをすることもなかったのに。
でもまぁ、いっか。だって俺、今すっごい幸せだもん。ユキがあんなに幸せそうなのがわかるくらい、こうしてお互いの隙間を埋め合うように抱き合っているのが幸せなんだ。今が幸せなら、それでいいや。アレクがいる限りきっとこれからだって幸せだしな。
その日は2人で抱きしめあって眠った。朝目が覚めた時はお互いに泣いたこともあってどこか気恥ずかしかったけれど、それでもやっぱり幸せだった。
「アレク、愛してる」
「俺も愛している、ルディ」
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