あの人と。

Haru.

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After Story

感覚の差

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 話が長くなりそうだから、とお昼ご飯を食べながら話すことになったんだけど、覚えようと意識してなかったから僕の記憶力はあんまりお仕事をしませんでした。でもでもさすがダグです。僕のかっこいい旦那様はバッチリ覚えてました。証拠として記憶してやるって気満々だったらしいです。……すっごく恨んでるじゃん。

「なぁるほどなぁ。こりゃ本来転属どころの話じゃねぇんだが……大事にしたらしたでユキが嫉妬して理由をつけて罰したって思われかねねぇよなぁ……」

「概ね間違ってない気もしますけど」

 ダグは僕の! って牽制しようとした結果がこれだからねぇ。でも何もしようとしなければよかった、とは思わないよ。だってそもそも既婚者に擦り寄る方がどうなの? って僕的には思うのです。放っておいて、言い寄っていいんだ! って思われた方が問題です。

「いんや、色恋沙汰が関わってなけりゃ普通に不敬罪でしょっ引けるんだ。あいつはそれだけのことをやらかした。いっそ僻地送りにするか……?」

「しかしそこに送りつけて、ユキ様に関するあらぬ噂を立てられては困りますよ。ここであれば誰もがユキ様のことを知っていますからバカな噂に惑わされることなどないと思いますが」

 流石に国中の人が僕の人となりを知っているわけじゃないから、噂が流れたらそれが真実ととられてしまってもおかしくないんだよね。しかもお城から来た人が言い出した噂なら信憑性も増すってものです。

「近くに置いておくとまたユキに絡んでくる可能性も否定しきれないがな」

「いっそユキ様専用の庭園を作ってユキ様とユキ様がお許しになった方しか入れないようにし、ユキ様がお散歩の際はそちらを利用していただく形にしてはいかがです? 庭の周りは柵で囲んで入り口は魔力認証か指紋認証付きの門にしたら誰も入れませんよ。愚かな騎士と会う可能性もグンと減ります」

 いやいやいやいきなり規模大きくない? 僕専用の庭園?? お散歩できるくらいの規模の僕専用の庭?? いらないよ? そりゃ巡り会う可能性はめっきり減るだろうけども……

「それいいな。ユキ専用の庭か。温室はあるし庭もいいと思っていたところだったんだ。こうなったら陛下へ許可をもらわなければな。ユキの誕生日も近いしすんなり許可も下りるだろう」

「いやいらないからね!? 何作ることで決定してるの!!」

 ダグの金銭感覚怖い! 庭ってポーンと勢いで作るの決定するようなものじゃないから! しかもロイだったら絶対あっさり許可して場所も確保しちゃうよ! 僕の周りにいる人達ってみんなものすごく権力もお金もあるからあっさりととんでもないことをやっちゃえるからなぁ……いつのまにか僕専用のものが増えてそうで怖い……!

「いいじゃないか。誰にも邪魔されずに散歩できるぞ」

「それは嬉しいけどぉ……元庶民の僕には専用の庭なんて考えつかないもん……」

 庭は庭でも普通の一軒家についてる庭みたいなのじゃなくて、お散歩できるってことは小道も整備されているようなまさに庭園って感じの物凄い規模の庭でしょ……? 僕は温室で精一杯です!

「いいじゃねぇか、誕生日プレゼントってことで受け取っちまえよ。貰えるもんは貰っとけ」

「ユキ様の故郷での成人なのですし、特別なお祝いということでどうでしょう」

「その辺の貴族だって成人祝いに庭くらい貰ってるぞ? ユキが貰っていてもおかしくないと思わないか?」

 完全に3対1! みんなの中では庭を作ることで決定してるみたいです……! でもでも庭だよ? 庭だよ?? それいくら?? 想像もつかないよ……それをあっさり受け取るなんて僕にはできません!

「あまり気になるなら父上達にも出資してもらおう。父上達なら喜んで出資するだろう。俺と父上達からの誕生日プレゼントってことでどうだ?」

 うぅむ……? ダグやお義父さん達からのプレゼントって明らかに毎回毎回ありえないくらい高額だよ、ね。その額を合算したら庭ひとつ分くらいになる、のか、な……? いや全くもって想像もつかないんだけども! 庭を作るのにかかる費用がいくらなのかなんて僕知らないし!

「1から作り上げるとなれば確かに費用は嵩みますが、お城の庭のどこかへ作るとなれば芝生は確実にそのままで良いですし、後はユキ様好みの植物を植えて小道を整備して、柵と門をつけるくらいでしょう? 庭の整備などは元々城お抱えの庭師の仕事ですし、多少は手当を出すとは言え主に費用がかかるのは柵と門くらいなものです。これくらいならダグラスの資産だけでも余裕ですよ」

「……具体的に言うとどれくらい?」

「ふむ、ユキ様がお持ちの普段用のご衣装の2割分の額くらいでしょう」

 ……それってどっち? 庭を作る費用が僕の想像より安いの? それとも僕の服がとんでもない額なの?? ねぇどっち?

「……僕が普段着てる服がいくらなのか知るのが怖い……」

 僕普通に汚したりしてるもん……! 新婚旅行の時なんて砂浜でこけたしね! 魔法の訓練の時も普通に汚れるし……普通にお菓子のかけら落としたりもしてるし……!

「今お召しのご衣装ですと──」

「言わないで! 僕もう一歩も動けなくなる!」

「そうなったら俺がずっと抱えていられるな」

「……僕の体力が減っても知らないからね」

 ずっと抱えられて生活なんて足腰弱くなるし体力も激減するよ。今より身体弱くなりそうだし、体力が減るってことは、その……ね? え、えっち、とか……ダグの体力に今以上についていけなくなるんじゃないか、な?

「ユキの体力が減るのは困るな。ならユキに服の値段は教えないでおこう」

「……金額を言わないのってむしろとてつもない額だってことを肯定してる気がする……」

「ははは」

 否定してよぉ!! そりゃ僕の服が安いとは思えないけどさぁ! 明らかに手触りも着心地も既製品のそれとは違うもん! 王室御用達のテーラーさんに仕立ててもらった服が安いわけないよね……これからは服を汚さないようにもっと気をつけなくちゃ……

「ユキ様に充てられた予算はどれだけ衣装を仕立てても余るほどですからねぇ。なにしろ世界中の神殿から寄付が集められてますから」

「……ダグ、僕ちょっと眠くなってきたな」

 眩暈がするような現実からは逃避するに限る! お昼もデザートも食べてちょうどいい感じにお腹いっぱいで眠いから寝ます!

「おい現実逃避すんな」

「知りません僕は眠いんです。ダグおやすみ」

「ん、おやすみ」

 いつもダグに抱きついて寝る時みたいにダグの膝を跨いでグリグリと胸元に顔を擦り付ければ優しく撫でて眠りを促してくるダグ。今はこの温もりに身を委ねて現実からは逃避です────



 ────なんて眠った僕だったけれど、おやつ頃に起きると寝たことを大後悔。

「なんでもうこんなに庭の計画進んでるの!?」

 起きたらびっくりですよ。机にはロイ直筆の庭の建設の許可証とダグとリディアが描いたのであろう庭の構造案が何枚も。……早くない!? しかも当事者抜きで進めてるし!

「ユキが寝ているうちに陛下に許可を頂きに行ったらあっさり許可をくれてな。ユキの庭として使っていい位置も大体教えていただいたからリディアとどんな構造にするか考えていたんだ。どうだ、俺的には奥にひっそりと作る2人がけのベンチがいいと思うんだ。勿論ガゼボも別で作るが」

「私はこの入り口に設ける白薔薇のアーチも良いと思いますよ。特別であると外から見てもすぐにわかりますから。因みに私的には噴水は中央がいいと思うのですが、ダグラスは入ってすぐの方が見応えがあると言っていまして。ユキ様はどう思われますか?」

 ……ひっそりとしたとこのベンチとガゼボはまだいいよ、うん。それくらいならお城の庭にも割といろんなところにあるしそんなものかなってなるよ。でも白薔薇のアーチ!? 噴水!? 個人の庭に!? いらないよ!!

「噴水もアーチも僕いらないよ!」

「作らないという選択肢はありませんよ。なら真ん中ということで」

「おい、入ってすぐの方がいいに決まっているだろう」

「では間をとって入口から少し進んだところにしましょう。入口から噴水まではアーチで道を作り、アーチの先へ進むとそこにあるのは見事な噴水、なんて素敵ではありませんか?」

「ふむ、いいかもな。ならばガゼボは──」

 ……ついていけません。もはや僕が何を言っても無駄な気しかしないし、2人のやりたいようにさせます。そもそも出来ないこととか経済的に厳しいことなら最初から作るなんて言い出さないだろうし、作っても全然大丈夫なくらいに懐に余裕があるのでしょう。ならもうやりたいように任せるしかないよね……なんか僕まで金銭感覚狂いそうだから今度兄さん達と話して元に戻そっと。
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