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1.元聖女は冒険者になりました。

23.

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「え、S級? こいつが?」

 ライガがリルさんと同じく、しぱしぱ瞬きしながらぽかんと口を開けた。

「魔力で言ったらよ。冒険者ランクは、どれくらいの依頼をこなしたかとか、貢献度とか、勤務態度とか、そういうのの方が大事よ。だけど、この子、魔力は規格外だわ……」

 S級って……、一番上だったと思うけど……。正直――これって褒められてるのか微妙な空気です。
 リルさんは水晶を手で持ち上げた。それから残念そうに呟いた。

「容量オーバーでヒビ入っちゃった……」

 透明な水晶に白い傷がぴしっと中まで入っている。私はおろおろとステファンを見た。

「――私、怒られますか?」

「大丈夫、大丈夫」

 ステファンはにっこり笑った。この笑顔は安心感がある。私はほっと息を吐いた。
 所長さんが金色の猫目な瞳でじーっと私を見つめる。

「――アンタが、キアーラ王国で聖女をしていたとステファンが言っていたのは……本当のようだね……」

 あれ? 私の話知ってるんですね。

「ごめん、僕が話したんだ。彼女はとても信頼できる人だから、大丈夫だよ」

 もう一度ステファンを見ると、彼はやっぱり笑顔で言う。
 ステファンがそう言うなら大丈夫でしょう。

「国を追い出された、ということだけど、どうして?」

「私、王太子のエイダン様の婚約者になってたんですけど、エイダン様は、ハンナ様という別に結婚したい方がいらっしゃったみたいで、婚約を破棄されまして」

「婚約……? お前が? 相手、変態か?」

 ライガのヤジに私は眉をひそめた。

 どういう意味よ。

「もともと望まれての婚約ではなかったんですよ。――知らないうちにそうなってまして……大司教様が私が頑張って国のために祈ってるから――エイダン様の婚約者にしてあげた、と。だからもっと励みなさいって言ってくださったので、私としても、育ててもらった御恩もありますし――『ありがとうございます』と言ったんですけれども」

「それで国外追放までされたと?」

「はい。ハンナ様が私に嫌がらせをされたとおっしゃりまして。身に覚えはないのですが……。それでエイダン様が怒りまして、そもそも私の祈りが何の役に立っているかわからない、と。私自身、正直毎日祈っていても、それで何かが起きている気もしなくて――でも一応、毎日頑張ってはいたので悲しくなってしまいまして、それで『出ていけ』と言われたので、そのとおりに」

 「何の役に立ってるかわからない」のくだりでちょっと悲しくなったけど、「でも」と私はぱっと顔を上げた。

「本当に出てきて良かったですっ。1日中祈らなくて良いですし、美味しいものたくさん食べれますし、ステファンさんやライガと一緒にご飯食べるの楽しいですしっ」

 そう、むしろ……、

「エイダン様とハンナ様には感謝しきれないくらいです。『出て行け』と言われなければ、なかなか思い切れませんでしたから」 
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