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2.元聖女は冒険者としての生活を始めました。

36.

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「ええと、あなたは誰なのかな……」

 私はその男の子に近づいた。

「*******!」

 男の子は音にならない声で何か叫びながら、私に向かってフーっと威嚇する。

 ……ん? この感じ……。

 その子の耳には、黄色地に黒い斑点模様のふわっとした獣の耳が生えていた。
 ナターシャさんと同じ柄だ。でも、場所は頭の上じゃなくて人間の耳の位置。
 瞳もナターシャさんと同じ金色っぽい色だけど、そこまで猫目じゃなくて、どちらかというと垂れ目がちな優し気な印象。
 ……この子、ナターシャさんとテオドールさん混ぜた感じだ。――つまり、二人のお子さんじゃ。

「あなた、ノアくん?」

 そう聞くと、男の子ははっとした顔で一瞬止まってから、また何か叫んだ。

 ノアくんはノアくんなんだろうけど……、これじゃ何言ってるのかわからないな。

 面倒見るにしても、まずは落ち着いてもらわないと。

 そうだ、『祈り』って、魔物を鎮めるんだから、暴れてる人も鎮められる?

 私は彼の前で手を組むと祈った。

「女神様、この者の心を塞ぐものを取り除き、安らぎと安寧を願います」

 目を開けると、ノアくんが何やら寝起きのような顔で私を見ていた。
 それから、驚いたように「あれ……、声が出る…」と呟いて、自分の喉に手を当てて「あーっ、あーっ」と繰り返した。

 あれ、リルさんがかけた声が出なくなる魔法もとけた……?

 私は首を傾げた。でも、今はそれより。

「落ち着いた? あなた、ノアくんですよね?」

 私は腰を落とすと、縛られている彼と目線を合わせてできるだけ優しく言った。
 神殿では子どもはいなかったし、自分より年下の子と話したことがないので、どう接すればいいのかわからなくて緊張する……。

「――あんた、誰?」

 ノアくんはこちらを睨む。
 それもそうですね。まず自分から名乗らないと……。
 見た感じ、11・12歳かなぁ……。
 ナターシャさんの息子さんがこんなに大きいと思わなかった……。けっこうしっかりしてそうな子だから、きちんと接した方がいいかも。

 ――私だって見た目のせいで子ども扱いされるの嫌だし。

「私はレイラです。冒険者ギルドに登録していて、お母さん――所長さんにとってもお世話になっています。よろしくお願いしますね。先に言っておきますが、小人と人間のハーフで16歳なので、冒険者登録は問題ありません」

 頭を下げると、ノアくんは少しびっくりした感じでぺこりと頭を下げ返した。

「私は、私の仲間が仕事でこの森に行くっていうのに、留守番だったから、悪いとは思ったんですけど、私でも役に立てるんじゃないかなとついてきてしまったところ、さっき見つかってしまいました」

 私がゆっくりそう言っている間、ノアくんはじっと私の方を見ていた。

「ノアくんは、どうしてここに?」

 首を傾げると、ノアくんは首を横に向けて木の方を見た。

 あれ、こういうところもお母さん似ですか……。耳の色が少し赤くなっている。

「母さんが、現場に行くの久しぶりだから、何かあったらって思って……」

「心配してついて来ちゃったんですね」

「……ちがうっ」

 今の言い方はちょっと子ども扱いしちゃったかな。
 ノアくんは木の方を向いたまま丸まってしまった。 
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