64 / 217
3.元聖女は冒険者として仕事をします。
62.(ライガ視点)
しおりを挟む
今日俺は昼を食べてから、宿屋の女将さんの仕事をいろいろ手伝ってた。
大量のシーツの洗濯やら、敷地の草むしりやら、大きい家具を移動して後ろの埃とりやらだけど、力仕事は苦にならないし、この街に来てから部屋を借りっぱなしで好きに使わせてもらってるから、これくらいはお返ししたいって感じだ。
ステファンは冒険者ギルドの手伝いに行ってしまったし(あいつ、このままギルド職員になるんじゃねぇかと最近心配だ)、レイラはソーニャと買い物に行ってしまって(いじめられてないか心配だな……)俺は手が空いてるし。
日が沈んできたから裏庭で昼過ぎに干したシーツを取り込んでたら、女将さんが俺を呼んだ。
「ライガ、酒屋さんでビールを2樽もらってきてくれないかい?」
「わかった」
……それで、すたすたと街の大通りに向かって歩いていた時だ、急に建物の上からノアが降ってきたのは。
「ライガっ、隙だらけだぜっ」
このクソガキは、いきなり建物の上から飛び掛かってきた。……酒屋に行く途中の街中で、いきなり誰かが頭上から襲い掛かってくるなんて思ってなかった俺は、反応が遅れて、情けないことに上に乗り掛かられてしまった。
「こら、ノアっ! 上から急には卑怯だろ!」
背中に乗ったノアがぐいっと俺の腕を後ろに引っ張る。
「痛ぇな、このやろ!」
俺は吠えると獣化して、ノアを腕でぶんっと振り払った。
……さすが、猫科の獣人の血が入ってるだけあって、振り払われたノアはころころ転がってジャンプして立ち上がった。爪を立てて、また俺に向かって飛び掛かってこようとする。
「ライガ? ノアくん? 大丈夫?」
そのとき、レイラの声がした。顔を上げると、レイラが心配そうに、ソーニャが呆れたような顔でこちらを見ている。
「レイラ?」
ノアが爪をしまうとたったったとレイラに駆け寄った。
おう、何だこいつ、急に大人しくなりやがって。
「今見てたよな! 俺がライガに攻撃当てて倒したの」
「倒されてねぇから! いきなり降ってきたから油断して上に乗られただけだし。お前そのあと吹き飛ばされただろ」
ノアはきっと俺を睨んだ。
「でも攻撃当てたもんね! 一回でも攻撃当たったら、訓練付き合ってくれるって言ったじゃんか。約束しただろ!」
「訓練?」
レイラとソーニャが顔を見合わせているので、俺は小声で説明した。
「ノアがな、腕っぷしを強くしたいから、相手になって教えてくれって前からお願いされてんだけどさ。ナターシャからは、ノアにそういうの教えないでくれって言われててさ――板挟みなんだ」
ノアは冒険者というのに妙な憧れを抱いているらしく、16になったら冒険者になりたいと言っている。
一方いろいろ苦労してるナターシャとしてはそれに反対で……、息子には全うな仕事に就いてほしいらしく、すごい反対してる。だから俺には頼まれても相手にならないでくれって何度も念押ししてくるんだ。
板挟みになった俺は、ノアに「俺に一回でも攻撃できたら相手になってやる」と言った。
子どもがかかってきたって、当たらない自信あったし。
それ以来、こいつは顔を合わせるたびに殴りかかってくるようになったけど、そんなの余裕でかわしてた。
それでやっぱり街育ちの獣人だし、たいしたことねぇなって思ってたところにこれだ。でもさ……、
「気を抜いてるときに上からは、数に入れねぇぞ! 一対一で正面からだ」
「そんなの聞いてないし!」
「常識だろ、常識。不意打ちは卑怯だぞ。しかもお使い途中に!」
「初めから言ってないんじゃ、ライガの方が卑怯じゃない。攻撃は当たってたわ」
ソーニャが厳しい言葉をぶつけてくる。
……こいつは、いっつもキツイ言葉で殴ってくるから苦手だ。
大量のシーツの洗濯やら、敷地の草むしりやら、大きい家具を移動して後ろの埃とりやらだけど、力仕事は苦にならないし、この街に来てから部屋を借りっぱなしで好きに使わせてもらってるから、これくらいはお返ししたいって感じだ。
ステファンは冒険者ギルドの手伝いに行ってしまったし(あいつ、このままギルド職員になるんじゃねぇかと最近心配だ)、レイラはソーニャと買い物に行ってしまって(いじめられてないか心配だな……)俺は手が空いてるし。
日が沈んできたから裏庭で昼過ぎに干したシーツを取り込んでたら、女将さんが俺を呼んだ。
「ライガ、酒屋さんでビールを2樽もらってきてくれないかい?」
「わかった」
……それで、すたすたと街の大通りに向かって歩いていた時だ、急に建物の上からノアが降ってきたのは。
「ライガっ、隙だらけだぜっ」
このクソガキは、いきなり建物の上から飛び掛かってきた。……酒屋に行く途中の街中で、いきなり誰かが頭上から襲い掛かってくるなんて思ってなかった俺は、反応が遅れて、情けないことに上に乗り掛かられてしまった。
「こら、ノアっ! 上から急には卑怯だろ!」
背中に乗ったノアがぐいっと俺の腕を後ろに引っ張る。
「痛ぇな、このやろ!」
俺は吠えると獣化して、ノアを腕でぶんっと振り払った。
……さすが、猫科の獣人の血が入ってるだけあって、振り払われたノアはころころ転がってジャンプして立ち上がった。爪を立てて、また俺に向かって飛び掛かってこようとする。
「ライガ? ノアくん? 大丈夫?」
そのとき、レイラの声がした。顔を上げると、レイラが心配そうに、ソーニャが呆れたような顔でこちらを見ている。
「レイラ?」
ノアが爪をしまうとたったったとレイラに駆け寄った。
おう、何だこいつ、急に大人しくなりやがって。
「今見てたよな! 俺がライガに攻撃当てて倒したの」
「倒されてねぇから! いきなり降ってきたから油断して上に乗られただけだし。お前そのあと吹き飛ばされただろ」
ノアはきっと俺を睨んだ。
「でも攻撃当てたもんね! 一回でも攻撃当たったら、訓練付き合ってくれるって言ったじゃんか。約束しただろ!」
「訓練?」
レイラとソーニャが顔を見合わせているので、俺は小声で説明した。
「ノアがな、腕っぷしを強くしたいから、相手になって教えてくれって前からお願いされてんだけどさ。ナターシャからは、ノアにそういうの教えないでくれって言われててさ――板挟みなんだ」
ノアは冒険者というのに妙な憧れを抱いているらしく、16になったら冒険者になりたいと言っている。
一方いろいろ苦労してるナターシャとしてはそれに反対で……、息子には全うな仕事に就いてほしいらしく、すごい反対してる。だから俺には頼まれても相手にならないでくれって何度も念押ししてくるんだ。
板挟みになった俺は、ノアに「俺に一回でも攻撃できたら相手になってやる」と言った。
子どもがかかってきたって、当たらない自信あったし。
それ以来、こいつは顔を合わせるたびに殴りかかってくるようになったけど、そんなの余裕でかわしてた。
それでやっぱり街育ちの獣人だし、たいしたことねぇなって思ってたところにこれだ。でもさ……、
「気を抜いてるときに上からは、数に入れねぇぞ! 一対一で正面からだ」
「そんなの聞いてないし!」
「常識だろ、常識。不意打ちは卑怯だぞ。しかもお使い途中に!」
「初めから言ってないんじゃ、ライガの方が卑怯じゃない。攻撃は当たってたわ」
ソーニャが厳しい言葉をぶつけてくる。
……こいつは、いっつもキツイ言葉で殴ってくるから苦手だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,602
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる