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4.元聖女を追い出した元王子が謝罪に来ました。
87.
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「この街の人々や――お前たちに迷惑をかけるつもりはないが――、僕はキアーラを捨てるつもりはない」
「捨てる? お前が捨てられたんじゃないのか? 国外追放だろ?」
ライガが鼻で笑って口を挟む。
「確かに、僕は国外追放だそうだ。父上は――僕を切り捨て大司教を選んだ、クソ親父だ」
エイダン様は吐き捨てるように言った。
「――――これが、父上が自分で僕に国外追放を申し渡したのであれば、まだ良いものの。――父上は大司教の言われるがままだ。大司教も腹立たしいが、父上はそれ以上に腹立たしい。国王ともあろう者が自分の意思も持たず、神殿に言われるがまま。しかし、僕はキアーラをこのまま捨てるつもりはない。――キアーラをこのまま父上に任せるわけにいかない。新しく王太子になった弟はまだ10歳で何もわからぬ。このままでは大司教の思う通りではないか」
エイダン様は包帯を巻かれた右腕をぐっと握りしめた。傷口が開いたのか、白い包帯に血がにじんだけど、そのままエイダン様は声を荒げた。
「僕は必ず戻ってやる!」
「威勢が良いのはいいんだけどね、この街で宣戦布告されても困るんだよ」
ナターシャさんは困ったように耳を触った。
「――お前たちに迷惑をかけるつもりはない。しばらくの間――今後を考えるためにも――滞在を許可してもらえると、有難い」
「滞在して、どうしたいんだ?」
「――ひとまず、魔物について知りたい。先日キアーラの南端の村へ魔物討伐へ赴いて僕は初めて魔物を見た。――奇怪で気味が悪かった」
エイダン様は思い出したように不快そうな顔をした。
「キアーラの兵士は魔物の対応に慣れていない。今後のためにも――、魔物に対する対処方法を知らねばならない。だから――」
それから私たちを見回した。
「お前たちは、普段、魔物退治をしているんだろう? 魔物の倒し方を教えてもらえないだろうか――」
「教えるって……どうやってかな?」
ステファンが首を傾げる。
「――お前たちの魔物退治に同行させてもらいたい」
「同行? 僕らの仕事にあなたが?」
ステファンはさらに首を傾げた。エイダン様は言葉を詰まらせて、言った。
「――もちろん、僕も働く。剣の腕は自信がある」
「僕も?」
しばらくの沈黙のあと、エイダン様はステファンに向き直って頭を下げた。
「――僕にお前たちがやっている魔物退治の仕事をさせてもらえないだろうか。それに同行してもらい――いろいろと教えてもらいたい」
続けて何か言おうとしたステファンをナターシャさんが制止する。
「冒険者登録して、うちの魔物退治の仕事をやる気があるってことでいいかい?――キアーラ付近の街道で魔物が出るようになったせいで、護衛仕事が多くて人手が不足してるからね。まぁ、働いてくれるならそれでいいよ」
それからぽんぽんっとステファンの肩を叩いた。
「ステファン、新規登録の冒険者の指導はしてくれるよね、いつもみたいに」
ステファンは少し黙ってから笑顔で頷いた。
「――構いません。いつもどおり報酬の配分は僕たちを多めにしてくださいね」
ナターシャさんは「わかってるよ」と苦笑いしてから、エイダン様に向き直った。
「それじゃあ、退院したら冒険者ギルドに来てくれ。――キアーラについて、いくつか聞きたいこともあるし」
「構わない」
「――私は、どうしたらいいの……?」
それまで会話を見守っていたハンナ様が口を挟んだ。
「レイラ――、私たち、ここを出たら泊まるところは――あるのかしら? 屋根のあるところで眠れるのかしら?」
うるうるした瞳で私を見つめてくる。「私を見ないでください」って言おうと思ったけど、ぐっと堪えた。心優しく、穏やかな対応をしないとですよね……。
「――どこか、お二人が泊まれるところありますかね?」
私はステファンたちに話を振る。
「そこまで気にかけてやるのか……、お前ら、レイラに感謝しろよ」
ライガはぎろっと二人を睨んでからステファンに聞いた。
「宿屋の使用人室が空いてたよな。誰か辞めて田舎に帰ったから――人が欲しいって言ってたし」
「そうだね。女将さんに聞いてみようか」
ステファンが頷くと、ハンナ様はだばーっと涙を流して私に駆け寄ってきた。今日は身綺麗だから避けなくても……いいや……。
「ありがとぉぉぉ」
でも、ハンナ様のぐちゃぐちゃの泣き顔が真ん前に迫ってきたので、思わず身を退いてしまって、ハンナ様はそのまま壁に衝突した。
「捨てる? お前が捨てられたんじゃないのか? 国外追放だろ?」
ライガが鼻で笑って口を挟む。
「確かに、僕は国外追放だそうだ。父上は――僕を切り捨て大司教を選んだ、クソ親父だ」
エイダン様は吐き捨てるように言った。
「――――これが、父上が自分で僕に国外追放を申し渡したのであれば、まだ良いものの。――父上は大司教の言われるがままだ。大司教も腹立たしいが、父上はそれ以上に腹立たしい。国王ともあろう者が自分の意思も持たず、神殿に言われるがまま。しかし、僕はキアーラをこのまま捨てるつもりはない。――キアーラをこのまま父上に任せるわけにいかない。新しく王太子になった弟はまだ10歳で何もわからぬ。このままでは大司教の思う通りではないか」
エイダン様は包帯を巻かれた右腕をぐっと握りしめた。傷口が開いたのか、白い包帯に血がにじんだけど、そのままエイダン様は声を荒げた。
「僕は必ず戻ってやる!」
「威勢が良いのはいいんだけどね、この街で宣戦布告されても困るんだよ」
ナターシャさんは困ったように耳を触った。
「――お前たちに迷惑をかけるつもりはない。しばらくの間――今後を考えるためにも――滞在を許可してもらえると、有難い」
「滞在して、どうしたいんだ?」
「――ひとまず、魔物について知りたい。先日キアーラの南端の村へ魔物討伐へ赴いて僕は初めて魔物を見た。――奇怪で気味が悪かった」
エイダン様は思い出したように不快そうな顔をした。
「キアーラの兵士は魔物の対応に慣れていない。今後のためにも――、魔物に対する対処方法を知らねばならない。だから――」
それから私たちを見回した。
「お前たちは、普段、魔物退治をしているんだろう? 魔物の倒し方を教えてもらえないだろうか――」
「教えるって……どうやってかな?」
ステファンが首を傾げる。
「――お前たちの魔物退治に同行させてもらいたい」
「同行? 僕らの仕事にあなたが?」
ステファンはさらに首を傾げた。エイダン様は言葉を詰まらせて、言った。
「――もちろん、僕も働く。剣の腕は自信がある」
「僕も?」
しばらくの沈黙のあと、エイダン様はステファンに向き直って頭を下げた。
「――僕にお前たちがやっている魔物退治の仕事をさせてもらえないだろうか。それに同行してもらい――いろいろと教えてもらいたい」
続けて何か言おうとしたステファンをナターシャさんが制止する。
「冒険者登録して、うちの魔物退治の仕事をやる気があるってことでいいかい?――キアーラ付近の街道で魔物が出るようになったせいで、護衛仕事が多くて人手が不足してるからね。まぁ、働いてくれるならそれでいいよ」
それからぽんぽんっとステファンの肩を叩いた。
「ステファン、新規登録の冒険者の指導はしてくれるよね、いつもみたいに」
ステファンは少し黙ってから笑顔で頷いた。
「――構いません。いつもどおり報酬の配分は僕たちを多めにしてくださいね」
ナターシャさんは「わかってるよ」と苦笑いしてから、エイダン様に向き直った。
「それじゃあ、退院したら冒険者ギルドに来てくれ。――キアーラについて、いくつか聞きたいこともあるし」
「構わない」
「――私は、どうしたらいいの……?」
それまで会話を見守っていたハンナ様が口を挟んだ。
「レイラ――、私たち、ここを出たら泊まるところは――あるのかしら? 屋根のあるところで眠れるのかしら?」
うるうるした瞳で私を見つめてくる。「私を見ないでください」って言おうと思ったけど、ぐっと堪えた。心優しく、穏やかな対応をしないとですよね……。
「――どこか、お二人が泊まれるところありますかね?」
私はステファンたちに話を振る。
「そこまで気にかけてやるのか……、お前ら、レイラに感謝しろよ」
ライガはぎろっと二人を睨んでからステファンに聞いた。
「宿屋の使用人室が空いてたよな。誰か辞めて田舎に帰ったから――人が欲しいって言ってたし」
「そうだね。女将さんに聞いてみようか」
ステファンが頷くと、ハンナ様はだばーっと涙を流して私に駆け寄ってきた。今日は身綺麗だから避けなくても……いいや……。
「ありがとぉぉぉ」
でも、ハンナ様のぐちゃぐちゃの泣き顔が真ん前に迫ってきたので、思わず身を退いてしまって、ハンナ様はそのまま壁に衝突した。
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