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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。

120.(ステファン視点)

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  そのまま街を出て数日。魔術師ギルドがベルリクから聞き出したという、王都から北に行ったところにある渓谷の河辺で、僕とライガとエイダンは鍋を囲んでいた。

 ぐつぐつ煮だった鍋から真っ先に肉をすくいながらエイダンが愚痴る。

「――全く、ハンナとの別れの時間も作ってくれないとは、せわしない」

 あのまま冒険者ギルドからエイダンを連れ出した僕らは、僕はチャイ、エイダンはクロに乗って、ライガはそれに並走して王都へ直行で向かった。
 
 そこでサミュエルさんからこの場所を聞いて移動してきた。
 
 王都の冒険者ギルドの冒険者と、魔法使いギルドの魔法使いが手分けしてレイヴィスの居所を探っているのに僕らも混ざった形になる。

「別れって、まだたかだか5日くらいだろ……。ソーニャたちに伝言頼んだからいいじゃねぇか」

 ライガがエイダンから奪い取るように自分の器にも肉をすくった。

 ――僕の分がなくなるじゃないか。
 
 さらにすくおうとするライガの手から杓子しゃくしを奪い取って自分の分を確保する。

「エイダンもハンナもキアーラに戻りたいだろ?」

 鍋をすくいながらそう聞くと、エイダンは力強く頷いた。

「当たり前だ」

 ――大司教とレイヴィスの繋がりがはっきりすれば、魔術師ギルドからキアーラの国王へ使いを出す。そこに同行させて、国王と直接応対する機会を作るから、父親と話して大司教を魔術師ギルドへ穏便に引き渡させてくれというのが僕らがエイダンに頼んだことだ。

 レイヴィスの根城には、キアーラとの取引の証拠になるものが何かしらかあるはずで、それを見極めて、魔術師ギルドと早く話をつけるにはエイダンがいた方が良いから、こいつを連れてた。

「――僕たち王族に隠れて人身売買に手を染めていたとは……、許せぬ」

 エイダンは勢いよくまくし立てた。

「そんな者に国を好きにさせて良いものではない! 必ず尻尾を掴んで、白日に晒してやる。父上も大司教がそこまでのことをしでかしているとわかれば目を覚ますだろう」

「――やる気なのは有難いんだけどさ、実際話すときには穏便にね」
 
「わかっている。――情けないが、父上は長いものに巻かれるタイプだ。魔術師ギルドの後ろ盾を見せつければ、大司教を切り捨てて手のひらを反すだろう。大司教を追い出し、僕はキアーラに戻って、ハンナと結婚して次期国王になる」

 拳を握ったエイダンをライガがしげしげと眺める。

「――お前、本当にあの女ハンナと結婚する気なのか? 前から思ってたんだが、あれのどこが良いんだ? ……確かに見た目は美人だけどさぁ」

 ……それは僕も思ってたんだ。

 王族で結婚するってなったら、別れられないし、一生ずっと一緒にいなきゃいけないわけだろ? 政略結婚でもなく、エイダンは自分の意思でハンナと結婚すると主張して、結果として今の事態となってるわけだ。 ――いや、こいつがハンナと結婚するって言い張らなきゃ、レイラはそのまま流されてずっとキアーラにいたかもしれないから、それはそれで結果良かったわけだけど。

 エイダンは不快そうな顔をして、ライガを小突いた。

「――失礼な言い方だな。ハンナほど可愛らしい女性は他にいないじゃないか。僕の話に常に耳を傾け、常に頼りにしてくれる」

 そう言いながらに頷くエイダンを見て、僕とライガは顔を見合わせた。
 
 ――人の好みはよくわからない。
 
 まぁ、でもこいつとどういう感じでやってけばいいかっていうのはだいたいわかってきたかな。

 僕はエイダンの背中を叩いた。

「頼りにしてるよ、エイダン」

「ははっ、任せておけ」

 エイダンは軽快に笑って、わんの具を口にかきこんだ。
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