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5.元聖女は自分のことを知る決心をしました。
137.(ステファン視点)
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僕を含め、その場にいる全員が放心状態で、何が起こったのか認識できていなかった。
五匹の竜が神殿の壁やらステンドグラスやらを突き破って、人が集まる祭壇に向かって突進してくると同時に、ゴゴゴゴゴゴゴという低い音を立てて天井が崩れてきた。
――と同時にまばゆい光が神殿内を包んで、竜たちは勢いを失いその場に丸まり、降ってくるはずの天井は吹き飛んでいった。
僕らは地面に座り込んでなくなった天井の向こうの空を見上げるレイラをじっと見つめていた。
あれは、祈りにより聖魔法の光だった。
――レイラがやったに違いないけど……竜が全部一気に大人しくなってみんな無事で済むなんて……すごすぎる。
「――――聖女様」
立ちすくむ神官たちの中の誰かが呟いた。
それをきっかけに、次々と言葉が沸き起こる。
「聖女様、ありがとうございます――」
「ありがとうございます」
「こんな祈りの力があるなんて――」
「ありがとうございます――」
レイラは困惑したようにきょろきょろとして、僕を見た。
「――助かったよ、ありがとう、レイラ」
そう言って笑うと、彼女を立ち上がらせた。
「お前たち!」
そこへ、その空気を切り裂くような怒号が響いた。
大司教が顔に青筋を浮かべて声を張り上げている。
「そもそも、こいつが、こいつが、竜を呼んだからこうなったんだぞ!? 神殿が、神殿がぁぁぁ」
……大司教、どうしたもんかな……。
眉をひそめたところで、低い声が大司教に向けて放たれる。
「――そもそもは、大司教、お前のせいではないか」
少し離れたところにいたエイダンがかつかつと祭壇に向かって歩いて行く。
「エイダン……! お前がどうしてここにいるんだ!」
……僕らと一緒にエイダンが飛び込んで来たことには気づいてなかったのか。
神官たちの間にも「エイダン様!」という騒めきが広がる。
――その間に、神殿の入り口に兵士に守られるように王冠を被った金髪の男が入ってきた。
「ミハイル――一体何が――――エイダンっ!?」
「父上、良いところに」
……あれが国王か。
国王は何が何だかといった様子で息子と大司教とその他大勢を見比べてぐるぐると目を回転させた。
「お前の取引相手のレイヴィスとかいう密売人は僕が捕まえたぞ、大司教」
エイダンは大司教を指差すと、声を大きくした。
「あの男、お前との深い関係をぺらぺらと話してくれた。お前は国や教会の歳費を使い込み、密売人に金を流し、竜の卵やよくわからんものを大量に購入したあげく、魔力の高い孤児を神殿で買っていたようだな」
神官たちの間に騒めきが広がる。一部、数人が床を見つめたり顔を背けたりしているけど。
――事情を知ってた奴らか。
「父上、この事態は全て大司教及びその周囲の神官の引き起こしたことです。竜はそもそも危険な魔物。それを飼いならすなど無理だったのです。教会の祈りを密売人から買った魔力の強い少女一人に任せ、自分たちは自身の職務である祈りを怠け、彼女ひとりがいなくなっただけで魔物が農村を襲い出すような状況を引き起こした。そして、それを治めるために、祈りの力ではなく、危険な竜を持ち出して魔物討伐をしようとした。そのせいで、大神殿はこのように破壊されてしまいました」
国王は息子と大司教を順番に見て、苦しそうな顔をした。
「魔術師ギルドより大司教を引き渡すよう指示が出ております。しかし、魔術師ギルドとて国の要人である大司教を捕縛するわけにはいかない――、そこで、僕は父上に大司教の解任を願いにやって参りました。――魔法使いたちより先にやって来てしまいましたが、3日中には彼らも王都に到着するでしょう。父上――大司教の解任をお願いいたします」
「……それは……、ミハイル……、本当なのか……?」
国王はおどおどとしながら、大司教に問いかける。
「……国王陛下っ、そんな国外追放になった不届きものの言うことを信じるのですか? 証拠など……」
「お前の机の中にレイヴィスたちとのやり取りに使っていた水晶があるだろう。金色の女神像がついた大司教にだけ与えられるロザリオと一緒にしまってある。それを、魔術師ギルドの魔法使いと共に確認した。他にも取引の記録などもある」
エイダンが大司教の言葉を遮る。あいつはずいっと父親の前に乗り出した。
「息子の言葉と、この汚い人間の言葉、父上はどちらを信じるのです? 父上も魔術師ギルドと敵対したくはないでしょう?」
「私……私は……」
国王は口ごもると、たらたらと顔じゅうから汗を流した。
しばらくの沈黙が訪れる。国王はただ、言葉を探して口をもごもごとさせるだけだった。
「――――クソ親父が」
――沈黙を破ったのは、腹に据えかねたようなエイダンの声だった。
エイダンは父親の襟首を掴むと、揺さぶった。
「お前はそれでも国王か? 自分の考えくらい自分で言え! 大司教のいいようにさせやがって! これは、お前の責任でもあるんだぞ! お前も大司教と同罪だ! どうするんだ? 大司教を解任するかしないのか、はっきり言え!! 国王として!」
ガクガクと首を揺さぶられて、国王の頭から王冠が落ちる。
叫び終えたエイダンは、手を離すと、大きく息を吐いて再度父親を見つめた。
「父上、ご判断を」
「――解任――する」
国王は小さな声で呟いた。
「聞こえません! 大きな声で!」
エイダンが大声で父親に迫る。
国王は下を向いたまま声を張り上げた。
「ミハイル大司教を大司教の座より解任する!」
ざわめきが神官たちの間に広がった。
五匹の竜が神殿の壁やらステンドグラスやらを突き破って、人が集まる祭壇に向かって突進してくると同時に、ゴゴゴゴゴゴゴという低い音を立てて天井が崩れてきた。
――と同時にまばゆい光が神殿内を包んで、竜たちは勢いを失いその場に丸まり、降ってくるはずの天井は吹き飛んでいった。
僕らは地面に座り込んでなくなった天井の向こうの空を見上げるレイラをじっと見つめていた。
あれは、祈りにより聖魔法の光だった。
――レイラがやったに違いないけど……竜が全部一気に大人しくなってみんな無事で済むなんて……すごすぎる。
「――――聖女様」
立ちすくむ神官たちの中の誰かが呟いた。
それをきっかけに、次々と言葉が沸き起こる。
「聖女様、ありがとうございます――」
「ありがとうございます」
「こんな祈りの力があるなんて――」
「ありがとうございます――」
レイラは困惑したようにきょろきょろとして、僕を見た。
「――助かったよ、ありがとう、レイラ」
そう言って笑うと、彼女を立ち上がらせた。
「お前たち!」
そこへ、その空気を切り裂くような怒号が響いた。
大司教が顔に青筋を浮かべて声を張り上げている。
「そもそも、こいつが、こいつが、竜を呼んだからこうなったんだぞ!? 神殿が、神殿がぁぁぁ」
……大司教、どうしたもんかな……。
眉をひそめたところで、低い声が大司教に向けて放たれる。
「――そもそもは、大司教、お前のせいではないか」
少し離れたところにいたエイダンがかつかつと祭壇に向かって歩いて行く。
「エイダン……! お前がどうしてここにいるんだ!」
……僕らと一緒にエイダンが飛び込んで来たことには気づいてなかったのか。
神官たちの間にも「エイダン様!」という騒めきが広がる。
――その間に、神殿の入り口に兵士に守られるように王冠を被った金髪の男が入ってきた。
「ミハイル――一体何が――――エイダンっ!?」
「父上、良いところに」
……あれが国王か。
国王は何が何だかといった様子で息子と大司教とその他大勢を見比べてぐるぐると目を回転させた。
「お前の取引相手のレイヴィスとかいう密売人は僕が捕まえたぞ、大司教」
エイダンは大司教を指差すと、声を大きくした。
「あの男、お前との深い関係をぺらぺらと話してくれた。お前は国や教会の歳費を使い込み、密売人に金を流し、竜の卵やよくわからんものを大量に購入したあげく、魔力の高い孤児を神殿で買っていたようだな」
神官たちの間に騒めきが広がる。一部、数人が床を見つめたり顔を背けたりしているけど。
――事情を知ってた奴らか。
「父上、この事態は全て大司教及びその周囲の神官の引き起こしたことです。竜はそもそも危険な魔物。それを飼いならすなど無理だったのです。教会の祈りを密売人から買った魔力の強い少女一人に任せ、自分たちは自身の職務である祈りを怠け、彼女ひとりがいなくなっただけで魔物が農村を襲い出すような状況を引き起こした。そして、それを治めるために、祈りの力ではなく、危険な竜を持ち出して魔物討伐をしようとした。そのせいで、大神殿はこのように破壊されてしまいました」
国王は息子と大司教を順番に見て、苦しそうな顔をした。
「魔術師ギルドより大司教を引き渡すよう指示が出ております。しかし、魔術師ギルドとて国の要人である大司教を捕縛するわけにはいかない――、そこで、僕は父上に大司教の解任を願いにやって参りました。――魔法使いたちより先にやって来てしまいましたが、3日中には彼らも王都に到着するでしょう。父上――大司教の解任をお願いいたします」
「……それは……、ミハイル……、本当なのか……?」
国王はおどおどとしながら、大司教に問いかける。
「……国王陛下っ、そんな国外追放になった不届きものの言うことを信じるのですか? 証拠など……」
「お前の机の中にレイヴィスたちとのやり取りに使っていた水晶があるだろう。金色の女神像がついた大司教にだけ与えられるロザリオと一緒にしまってある。それを、魔術師ギルドの魔法使いと共に確認した。他にも取引の記録などもある」
エイダンが大司教の言葉を遮る。あいつはずいっと父親の前に乗り出した。
「息子の言葉と、この汚い人間の言葉、父上はどちらを信じるのです? 父上も魔術師ギルドと敵対したくはないでしょう?」
「私……私は……」
国王は口ごもると、たらたらと顔じゅうから汗を流した。
しばらくの沈黙が訪れる。国王はただ、言葉を探して口をもごもごとさせるだけだった。
「――――クソ親父が」
――沈黙を破ったのは、腹に据えかねたようなエイダンの声だった。
エイダンは父親の襟首を掴むと、揺さぶった。
「お前はそれでも国王か? 自分の考えくらい自分で言え! 大司教のいいようにさせやがって! これは、お前の責任でもあるんだぞ! お前も大司教と同罪だ! どうするんだ? 大司教を解任するかしないのか、はっきり言え!! 国王として!」
ガクガクと首を揺さぶられて、国王の頭から王冠が落ちる。
叫び終えたエイダンは、手を離すと、大きく息を吐いて再度父親を見つめた。
「父上、ご判断を」
「――解任――する」
国王は小さな声で呟いた。
「聞こえません! 大きな声で!」
エイダンが大声で父親に迫る。
国王は下を向いたまま声を張り上げた。
「ミハイル大司教を大司教の座より解任する!」
ざわめきが神官たちの間に広がった。
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