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7.元聖女は辺境の地を訪れました。
184.
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私たちはテーブルを囲んで食事を始めた。
ローストしたお肉の塊に、ミートボール、野菜いっぱいのサラダに、香辛料がいろいろ入って香ばしいスープ。今まで辺境民さんたちのテントでは、おかずは1つだけだったから、私は目の前に並べられたたくさんの種類の料理に感動してしまった。
「これ美味しいですね! これも!」
そのうえ、どれも本当に美味しいんですもん。ジェフさん、すごいですね!!
ひたすら「美味しいですね!」を繰り返して、ぱくぱくと口に運んでいく。
「――まぁ、小さいのによく食べるのねぇ」
私たちが来る前に夕食を終えていたので、お茶だけで食卓に座っているステファンのお母さん――イザベラさんがそう驚いたように呟いて、微笑んだ。
「エドラヒルと全然違うのねえ」
お皿にサラダだけ盛って食べているエドラさんと私を見比べる。
「――羨ましい限りだ。私もそれくらい食べれる身体だったら良かったのにと思う」
エドラさんは苦笑しながらもしゃもしゃとサラダを食べた。
イザベラさんはふふっと笑ってお茶を一口飲んだ。
「本当にあなたは、時間が止まっているわね。25年前と何も変わっていないわ。――私はお婆ちゃんになってしまったけれど」
「――エドラヒルさんは母上が魔法都市にいらっしゃった時のお知り合いなんですよね」
アイザックさんがエドラさんとお母さんを見比べて聞いた。
「そうよ。魔法研究所にいた時の、私の魔法の師匠よ」
「――母がお世話になっておりました」
アイザックさんはエドラさんに頭を下げた。
ふとできた会話の間に入りこむように、ヴィクトリアさんがアイザックさんに聞いた
「ところで、アイザック、屋敷にはどれくらい滞在するのかしら?」
「そうですね。兄上のお話が気になりますので――、数日は確認のため、滞在します」
「ステファンの話?」
アイザックさんは食事の手を止めると、真剣な表情で奥さんを見つめた。
「ヴィクトリア様――やはり、王都にお帰り頂きたい」
ヴィクトリアさんは表情を強張らせた。
「――鬼共は、やはり領地を直接襲撃してくる可能性があります。あなたに何かあっては王家に顔向けができません。事が片付くまで、王都にお戻りなった方がよろしいかと思います」
「そう、そう――ね。私がいても、何もできないものね――」
ヴィクトリアさんは小さくそう声を震わせて呟くと、顔を上げて、微笑んだ。
……無理に笑ってる感じがしますね、でも。
「わかりました。折を見て、王都に戻ります――」
「良かったです。それでは誰か辺境騎士団の者に護衛を命じます」
アイザックさんは心底ほっとしたような表情で呟いた。
私はそのやり取りを見ながら食事の手を止めた。
ああ……、何だか、とってもすれ違いを感じます。
新婚さんなのになんですか、この距離感。
だいたい、アイザックさん、ヴィクトリアさん、綺麗に着替えたのに何か言ってあげたんですかね……。
『あの人は、気づかないかもしれないけれど』
ヴィクトリアさんの呟きを思い出して、私は、勝手に憤慨した。
ステファンなら、たぶん、真っ先に気付いて褒めてくれますよ!
「――レイラさん、どうかしましたか?」
私がじーっと見ていたことに気付いたのか、アイザックさんが首を傾げた。
「い、いえ。何も。お食事、とっても美味しいです」
アイザックさんは嬉しそうに笑った。
「それは、良かったです。うちの領地は、精霊の力が強いので、家畜も野菜も大きく育ちます。華やかな場所ではないですが、食事が美味しいのが一番の自慢なんですよ」
――良い人は、良い人なんですよね。アイザックさん。ステファンには当たりがキツイですけど。私のことも、変に子ども扱いしないで、きちんと接してくれますし。
でも、奥さんには気が利かなさそうですね。
私は他人事ながら、はぁ、とため息をついた。
ローストしたお肉の塊に、ミートボール、野菜いっぱいのサラダに、香辛料がいろいろ入って香ばしいスープ。今まで辺境民さんたちのテントでは、おかずは1つだけだったから、私は目の前に並べられたたくさんの種類の料理に感動してしまった。
「これ美味しいですね! これも!」
そのうえ、どれも本当に美味しいんですもん。ジェフさん、すごいですね!!
ひたすら「美味しいですね!」を繰り返して、ぱくぱくと口に運んでいく。
「――まぁ、小さいのによく食べるのねぇ」
私たちが来る前に夕食を終えていたので、お茶だけで食卓に座っているステファンのお母さん――イザベラさんがそう驚いたように呟いて、微笑んだ。
「エドラヒルと全然違うのねえ」
お皿にサラダだけ盛って食べているエドラさんと私を見比べる。
「――羨ましい限りだ。私もそれくらい食べれる身体だったら良かったのにと思う」
エドラさんは苦笑しながらもしゃもしゃとサラダを食べた。
イザベラさんはふふっと笑ってお茶を一口飲んだ。
「本当にあなたは、時間が止まっているわね。25年前と何も変わっていないわ。――私はお婆ちゃんになってしまったけれど」
「――エドラヒルさんは母上が魔法都市にいらっしゃった時のお知り合いなんですよね」
アイザックさんがエドラさんとお母さんを見比べて聞いた。
「そうよ。魔法研究所にいた時の、私の魔法の師匠よ」
「――母がお世話になっておりました」
アイザックさんはエドラさんに頭を下げた。
ふとできた会話の間に入りこむように、ヴィクトリアさんがアイザックさんに聞いた
「ところで、アイザック、屋敷にはどれくらい滞在するのかしら?」
「そうですね。兄上のお話が気になりますので――、数日は確認のため、滞在します」
「ステファンの話?」
アイザックさんは食事の手を止めると、真剣な表情で奥さんを見つめた。
「ヴィクトリア様――やはり、王都にお帰り頂きたい」
ヴィクトリアさんは表情を強張らせた。
「――鬼共は、やはり領地を直接襲撃してくる可能性があります。あなたに何かあっては王家に顔向けができません。事が片付くまで、王都にお戻りなった方がよろしいかと思います」
「そう、そう――ね。私がいても、何もできないものね――」
ヴィクトリアさんは小さくそう声を震わせて呟くと、顔を上げて、微笑んだ。
……無理に笑ってる感じがしますね、でも。
「わかりました。折を見て、王都に戻ります――」
「良かったです。それでは誰か辺境騎士団の者に護衛を命じます」
アイザックさんは心底ほっとしたような表情で呟いた。
私はそのやり取りを見ながら食事の手を止めた。
ああ……、何だか、とってもすれ違いを感じます。
新婚さんなのになんですか、この距離感。
だいたい、アイザックさん、ヴィクトリアさん、綺麗に着替えたのに何か言ってあげたんですかね……。
『あの人は、気づかないかもしれないけれど』
ヴィクトリアさんの呟きを思い出して、私は、勝手に憤慨した。
ステファンなら、たぶん、真っ先に気付いて褒めてくれますよ!
「――レイラさん、どうかしましたか?」
私がじーっと見ていたことに気付いたのか、アイザックさんが首を傾げた。
「い、いえ。何も。お食事、とっても美味しいです」
アイザックさんは嬉しそうに笑った。
「それは、良かったです。うちの領地は、精霊の力が強いので、家畜も野菜も大きく育ちます。華やかな場所ではないですが、食事が美味しいのが一番の自慢なんですよ」
――良い人は、良い人なんですよね。アイザックさん。ステファンには当たりがキツイですけど。私のことも、変に子ども扱いしないで、きちんと接してくれますし。
でも、奥さんには気が利かなさそうですね。
私は他人事ながら、はぁ、とため息をついた。
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