クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡

濃子

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ー19ー クリスマス会のはじまり

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「唐揚げに、エビフライに、スペアリブ……。作りすぎたかな……」
 何キロ作るかを考えてたら、全部1キロずつ作っていた。1キロって……、子供食堂のイメージのままだったけど、よく考えたらこんなにいらないよね……。でも、光はけっこう食べるから、もしかして足りないかもーー……。

「足りないよりは、余るほうがいいか…」
 よし、唐揚げは漬け汁につけた分は揚げとこう……。 
 詩さんに教えてもらった鶏もも肉の紅茶煮も作ったんだけど、煮た後は放置でいいから調理が楽だったよ。しかも、後味がすごくさっぱりしていて本当に美味しいんだ。


 トゥルルルーー、トゥルルルーー……。

 ガスのスイッチを切り、鳴りだしたスマホの画面を見る。着信の相手は、光だった。
「あれ?光?ーー時間はまだだけどーー」

 何だろう?

「はい」
『ーーあっ、ミノ』
「うん」
『あのさ……、すっげー悪いんだけどよーー』
「うん、何?」
 ずいぶんと歯切れの悪い話し方だ。
 これは、困っているというよりも、何とかしてもらおうと思っているときの声だね。

『ーーえっとだ、オレのダチが参加したいっていうからさ、4人増えるわ』
「え……」
『いいヤツらだからさ、気も使わないしーー。ちょっとでいいから揚げ物増やしてくれると助かるぜ!』
「ーーあ、………うん」
『じゃな~~~!』
 電話の向こう側で、「ちょっと光~~」、っていう女の子の声が聞こえたんだけど、まさか、ダチって……。

「ーー光の友達か……。リア充なんだろうなーー」
 揚げ物を増やす、かーー。光……、簡単に言わないでよね!材料を多めに買ってたからいけるんだよ!

 ……とは、言えないぼくだけどね……。

















 大量の揚げ物をタッパーに詰め込み、紅茶煮のお鍋を持って、ぼくは隣りの家に向かった。お向かいの松浦さん宅は、家のまわりをたくさんのイルミネーションで飾っていて、夜もかすむぐらい賑やかだ。小学生のお子さんがいたから、その子のためにやっているんだろうな……。

 ピンポーン。

 景君家も、前は家の前にモミの木に似たゴールドクレストって木を置いて、クリスマスの飾りつけをしていたのに、木が枯れちゃったんだよね。

 それ以降は景君が買ったツリーを室内に飾って、その下にぼく達へのプレゼントの箱が3つ置かれていた。どれでもいいよ、って言われて、蓮と光から選ぶんだけど、最後のひとつを手に取るとーー……、それは必ず……、

「あーー、いらっしゃ~い」
 ドアが開いて出迎えてくれたのは、ぼくがはじめて見る女性だった。
「……こんばんは」
「あーー……、ジミノ君ね」
 長い茶髪が下のほうは金色になっているきれいな女性は、ぼくの顔を見るなり軽く吹きだした。

「……」
「早くあがりなさいよ」
「ーーお邪魔します」
「あたしはマキ。吉川マキ」
「よろしくお願いします……」
「あたしはしたくないわねーー」
「……」
 ーー素直なひとだな……。けど、たしかにすき好んでぼくなんかと、仲良くする必要はないよね。

 いつもの玄関が、今日はまったく知らない家に来たように感じるのは、見慣れない靴のせいかな……。男物がふたつ、女物がふたつーー、光の友達の4人のものなんだろう。

 会話もなく廊下を歩き、リビングに入る手前で、マキさんがぼくを上から下まで見て、バカにするような目をしてきた。
「ーーだっさ。ドタキャンしてくれればよかったのに……」
 ボソッと言われる。えっと……、灰色のパーカーがだめだったのかな……?控えめなchampのロゴが気に入ってるんだけど、「おまえごときがchampってなんだよ」、って思ってるとか?

 ーーいや、うん、邪魔そうだったら、早めに帰ることにしよう……。


「光~、ジミノ君が来たわよーー!」
「はあ?マキ、おまえ何言ってんだよ!」
「え?ジミノじゃないの?ーー同じ学部の子が、そう言ってたけど……」
 光の隣りに座っていた女性が、驚いたように口を押さえる。本当にそう思っていた、って風には見えるけどーー……。

「ミノも訂正しろよ」
「あ、うん……」
「おいおい、自分で言えねえの?」
「よっわ~。そりゃジミノだわ」
 ソファーでくつろいでいる男性ふたりが、ぼくを見てニヤニヤしだした。

 ーーみんなハデだ、髪型も服装も限りなくハデな方々だ。……たぶん、ぼくだけ半世紀間違えているんじゃないのかなーー?

「おまえらなーー!」
「まあまあ、怒るなよ」
「ノリだよ、ノリ」
 ふたりからなだめられ、光がむくれたままスマホに視線を戻した。そんな光の様子を見たマキさんが、ぼくの顔をギロッと睨みつけてくる。え、えっと……、マキさんは、光が好きなんだろうな……。

「ーー光!手伝えよ!」
 そのとき、キッチンから蓮の声がして、ぼくは立ちあがろうとした光に声をかける。
「ぼくが手伝うからーー」
「あぁ、悪いな!」

 蓮の側に行こうとしたぼくに、やっぱりマキさんが言葉を投げてくる。ボソリと、光に聞こえないようにーー、
「ーー幼なじみアピ、うっざぁ」
「………」
「家のことはわかります、って感じがキモい……」
 次々と悪意を吐かれ、ぼくは口を引き結ぶことしかできない。

 ーーなんだろ……、こういうのって今まではあんまり言われたことがないから、……ちょっとつらいな……。



「ミノ、ごめん。光が急に客増やしてーー」
「ううん。お皿借りるね」
 食器棚から大皿をだし料理を盛り付け、カウンターキッチンに並べていく。トロそうに見えるけど、ぼく、家事は得意なんだよ。

「うわぁ、すごくたくさん作ってくれたんだな……。ありがとう、ミノ。大変だっただろ?」
「大丈夫だよ。詩さんに教えてもらった鶏の紅茶煮も持ってきたんだ」
「それは、楽しみだなーー」
 はあーー、蓮がいてくれてよかった。ちょっと気持ちが軽くなったよ。

「ーーミノ、これ」
 冷蔵庫から蓮がタッパーを取り出す。なかを見るとぼくの好物の明太ポテサラだ。
「あっ、作ってくれたの?」
「ーー兄貴がね」
「……そ、そう。ーー恵さんがいなくても、ちゃんと洗濯とかしてる?」
 ポテサラはイッタランのサラダボウルに盛り付けよう。ーー景君が友達の結婚式の引き出物でもらった食器なんだけど、ガラス製でとってもおしゃれなんだ。

「兄貴とおれでしてるよ。光はマジ、何にもしないーー」
「蓮だって、普段は何もしないでしょ?」
 カウンターの上にある小さなツリー、景君が置いたのかな?カワイイなーー……。
「おれはやればできる子なの」
 ムキになった蓮の言い方がおかしくて、ぼくは笑ってしまった。そんなぼくを、蓮がホッとしたような顔で見てくる。

「?……なに?蓮」
「ーーいや、光のライツ……、で、気になってるとこ、ないよな……?」
「え?ーー何かあったの?」
 自然な感じで尋ねると、蓮は大きく首を横に振った。
「あ……、いや、なんでもない……」
 蓮が、「よかった……」、ってぼくに聞こえないようにつぶやく。

 安心した蓮には悪いけど、景君とのこと、まだ言わなくてもいいよね……。ーー景君はどうするのかなーー……?

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