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9.帝都の夜

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「どのようなご用件でしょうか?」
 オレウス大臣邸の門番がこちらを胡乱うろんな目で見ている。
 それもそうだろう。
 リヴァディア王国から何日も馬に揺られてきた、くたびれた旅人の格好だ。しかもアシェル殿下はザゴラ帝国に入ってから、毎晩町の酒場で飲み明かしていたので、そのお顔には疲れが滲み出ている。

「オレウス閣下に招かれている」
 アシェル殿下が服装に合わない高貴な物言いで、オレウス大臣からの書状を門番に渡すと、門番はハッとして書状を受け取った。
「こちらへどうぞ」
 門内の守衛所のようなところに通され、しばし待つように言われる。

 十分ほどすると、守衛所に執事らしき人物が現れ、
「大変お待たせしました。ようこそおいでくださいました」
 と、屋敷までの馬車に乗るように促された。

 門から馬車で数分かかり到着した大臣邸は、灰色の石造りの砦のような邸宅だった。
 ふと、緑あふれるアシェル殿下の美しい邸宅が懐かしくなる。
 あそこに戻りたい。ザゴラ帝国は内陸の乾燥気候で、常に砂埃のようなものを感じる。

夕餉ゆうげまで、ごゆるりとお過ごし下さい」
 執事が案内してくれたのは、レンガ色の壁にかこまれた広々としたリビングのある部屋だった。
 部屋横には、浴室や手洗、別部屋までも付いており、豪勢だ。

 女中が着替えを手に殿下の湯浴みを手伝うと申し出てきたが、殿下はそれを断った。
「ウィリアム、お前も一緒に浴びてしまえ」
 部屋横に備え付けられた浴室に向かう殿下に着いていくのを、一瞬ためらう。
 わかっている。ザゴラ領内に入ったら、一時たりとも殿下とは離れるべきではない。
 しかし、屋敷の浴室で暴走してしまった自分自身を思い出し、怖くなる。
 決してあのような行動はすまいと、心に強く誓って殿下の後を追う。

 自分で衣服を脱がれ浴室に入っていかれたアシェル殿下は、染めていた色が少し落ち始め、髪の根本に美しい金髪が見え始めている。
 自分で湯桶を持とうとする殿下を制して、さすがにここは俺が湯をかけて差し上げる。
 でも、体を洗うのは殿下自身にお任せしたい。
 殿下の肌に触れて、抑制が効く自信がない。

 俺の意図を汲み取って下さってか、殿下は自分でお体をさっと洗われ、あっという間に浴室を出られた。
 俺も急ぎ汗を流すと、浴室横のスペースで体を拭く。

 なんとか、やり過ごせた。
 ザゴラの領内にいるというのに、俺は何に気を取られているのだ。
 気を引き締めねば。

 用意されていた服は、ザゴラ風の膝丈まである複雑な織りが美しい立襟の服だった。
 殿下は白地に水色の紋様が入った上着と白地のズボン。
 俺には黒地の同様の服が用意されていたが、サイズがぴったりだった。

「少し眠る」
 アシェル殿下はふんわりとした肘置きのソファーに深く体を沈めると、目を瞑られた。
 確かに。昨晩も酒場で深夜遅くまで飲まれていた。
 旅路の間に取り戻していた血色の良い肌艶が、ここ数日で失われてしまっている。

 殿下はリヴァディアの愚かな皇子の程でオレウス大臣に面会したいのだろう。
 少し濁った目、酒焼けで枯れた声は、上質な衣服を着れば着るほど、その内面の堕落を際立たせる。

 本当は青く輝く瞳で、強く国をうれいでいらっしゃるのに……
 アシェル殿下の深酒は自傷行為のようで、見ていて少し辛い。
 なぜこんなことをするようになったかが分かれば、やめていただける糸口になるのではないだろうか……
 険しい表情かおで休まれているアシェル殿下を見ながら、俺はしばらく思案に耽っていた。


 オレンジに染まった夕日も落ち、黄昏の空が広がり始めた頃、執事が夕餉ゆうげの支度が整いましたと案内に来た。
 アシェル殿下と共に薄灰色の回廊を進むと、多くの屋敷の者たちがアシェル殿下の姿に目を奪われ、慌てて頭を下げている。
 帝国では珍しい青い瞳にザゴラの衣装を着たアシェル殿下は、不思議な魅力をまとっている。
 本当は、輝く金の髪と血色の良い肌、美しい瞳を持っていらっしゃるのに……
 我が主人の本来の魅力の十分の一しか伝わっていないことが、なぜか悔しい。

 五分ほど回廊を進むと、中庭に面した半屋外の部屋に辿りついた。
 円形の絨毯の上で、大きなクッションに背を預けているのがオレウス大臣だろう。
 五十くらいに見える大臣は、くすんだ肌に目だけがギラリと光り、いかにも切れ者といった風情だ。

 立ち上がった大臣は、ようこそいらっしゃいました。とアシェル殿下を絨毯の一角へ案内した。
 俺もアシェル殿下の横に席を勧められ、着席する。

「お招きいただき、ありがとうございます」
 アシェル殿下の自然な態度に、オレウス大臣も旅の労いなどを述べている。
 酒を飲み交わしつつ他愛もない話をしているが、二人とも今まさに相手の値踏みを行なっている最中なのだろう。

 ザゴラ名物という、香辛料の効いた料理をいただいていると、オレウス大臣が気になる話を始めた。
「明日は丁度、軍の合同訓練があるのですよ。よかったら見学なさいますか?」
 オレウス大臣の表情は何気ない平静を装っており、その意図は読めない。
 ザゴラが再びリヴァディアに戦争を仕掛けるならば、手の内などできるだけ見せない方が良いだろうに、どういう事だろうか。

「ザゴラ軍の統制はものすごいと聞いています。ぜひ見てみたいです」
 アシェル殿下は、子供のように微笑んでオレウス大臣に返答した。

 その後、終始和やかに小一時間食事を共にし、はじめに案内された部屋に戻った。
 アシェル殿下の上着を受け取りつつ、その心のうちを聞きたいと思ったが、大臣邸の中でペラペラと内部事情を話すわけにはいかない。
 明日の軍の視察を見せつけられた後、お二人はどのような話をするのだろうか。
 オレウス大臣もアシェル殿下も、このまま物見遊山で解散する気はないだろう。

 部屋のソファーでくつろぐ殿下に水を差し上げていると、部屋の戸が叩かれた。
「どうぞ」と声をかけると、盆に酒などを載せた女性が「失礼します」と入ってきた。
 滑らかな褐色の肌をした女性は、透けるような素材の黒の布を纏っており、極小の下着が透けて見える。明らかに夜の接待のために寄越された方だ。
 アシェル殿下のそばで軽く膝を折る彼女に、殿下は「向こうでいただこうか」と、寝室に目線を向けた。

 まぁ、そうなるだろう。
 この旅路の間、殿下はその手の店など行っていない。あれだけ毎晩のように娼館にいかれていた殿下だ。溜まっているだろう。

 王都の娼館では部屋で見張れと言われても、ほとんど見ないようにしていたが、今日は流石に女性の動きをしかっりと見張らなければならない。
 無意識にため息をつきつつ、寝室に向かう二人の後について行く。

 殿下はベッドの上で、膝の上に女性を跨らせて酒をもらっている。
 俺は寝室の入り口に立ったまま、いつでも剣を抜けるようにして、ただ二人を監視するだけだ。
 それにしても、見たくない。
 女性が酒をサイドテーブルに移すと、殿下のシャツのボタンを外し、その首元、胸元に口付けている。
 心がザワザワする。
 自分でも、一体何にイラついているのかわからないが、非常に不快だ。
 ここから先のもっと濃厚なまぐわいを俺は見ていくのか?
 この不快感がもっと増強していくのか?
 耐えられるのだろうか……

 女性が殿下の股間に服の上からキスをし始めた。
 柔らかそうな女性の唇で、殿下のペニスは熱くなり始めているのだろうか。
 ――気持ちよくならないで欲しい。
 いや、殿下に快楽を味わっていただくための行為だ。
 さっさと気持ちよくなっていただき、早く終わらせていただくのが良いだろう。
 頼むから、俺の前でじっくり楽しむなんてことだけは、勘弁していただきたい。

 俺の気持ちが通じてか、女性はさっそく殿下のベルトを外し、丁寧に取り出した殿下のペニスに口で奉仕を始めた。
 女性を見下ろす殿下は、なんとも冷めた表情をしていらっしゃる。
 まさか口技の下手な女性を主賓に回すとは考えにくい。敵国で気分が乗らないのだろうか?

 殿下がふとこちらを見上げたので、急いで表情を引き締める。
 俺は今、どんな表情をしていたしていただろうか……
 仕事に集中しきれていない自分を叱咤する。

 殿下は咥えていた女性を起こすと、彼女に何かを囁いた。
 女性は戸惑った様子を見せていたが、殿下は優しくその腕を叩いた。
 
 女性がベッドを降りて、お辞儀をしている。
 やはり今日は気分が乗らなかったのだろうか?
 よかった。

「ウィリアム、彼女を部屋の外にお送りしてさしあげろ。今日は、もう部屋の鍵は閉めておけ」
 そう言って、殿下ははだけた服を直している。
「承知しました」
 自分から出た声が少しほっとしているのが分かる。

 彼女にお礼を言いつつ、ドアの外に送り出し、鍵を閉めて殿下のところに戻る。
 今日はもうお休みになられるのだろうか。
 主寝室とは別にサブの寝室もあるが、俺は警備のためにもドアのあるリビングで寝る方が良いだろう。

「もう、お休みになられますか?」
 ベッドのクッションに寄りかかる殿下に確認する。
「いや。ウィリアム、ちょっと来い」
 ベットサイドまで行くと、アシェル殿下は少し悪い笑みを浮かべた。
「お前がヤれ」
 は?
 何をいっているんだと殿下を見返す。
「お前が不満げな顔をしていたから彼女を返したのだ。だからお前が代わりだ」
 いや。確かに、不満はあった。
 でも、そういうことじゃない。
 いや、そういうことなのか?
 俺が次の言葉を探していると、殿下は良い事を思いついたといった顔で提案してきた。
「わかった。お前は何もしなくていい。靴を脱いでここに上がれ」
 殿下は少しベッドの向こう側に移動し、ベッドヘッドのクッションに手を置いた。
 
 これは、絶対にまずい。
 ベッドの上に上がってやることは、いやらしい何かであることは間違いない。
 でも、殿下が命令しているんだから、もしかして俺に責任はないのか?
 いやいや、責任うんぬんではなく、そもそも殿下とそういう事をしてしまっていいのかという問題だ……

 俺が了承するでもなく断るわけでもなく固まっていると、殿下は少しイラついた口調で「早く」と、せき立てた。
 強い目線に押されるように靴を脱ぎ、ベッドの中央で殿下に向かい正座する。
 あっちを向けと言われて殿下に背を向けると、殿下が俺の両手を取って、背面で布か何かで縛ってしまった。
 ギョッとして殿下の方を振り返る。
 もしかして、アシェル殿下はそういうへきがおありなのか?
 それは、まずい気がする……

 殿下に肩を押され、背中がクッションに沈む。
 本気で拒否するならば、殿下を蹴飛ばして逃げればいい。
 それをしないのは、不敬を働かないためなのか、それとも俺はもしかして、この先の展開を期待しているのか……

 俺がクッションにもたれたまま呆然としていると、殿下は楽しそうに俺の脚の間に座り込んだ。
「お前は何もするな」
 そう言いながら、殿下が俺の股間をカリッと爪で刺激した。
 うっ
 亀頭から電流が腹底に向かって流れる。

 カリッカリッと殿下が連続して刺激を与えてくる。
「あっ――」
 我慢しようと脚に力を入れるが、殿下の硬い指先がとてつもなく気持ち良い。
 もっと刺激が欲しいと、ペニスが少し首をもたげてきた。

 殿下は亀頭への責めをすぐにやめ、服の上から睾丸の重さを楽しむように手の上でゆらし始めた。
 それはそれで、じんわりと気持ちが良いのだが、もっとダイレクトに竿を触って欲しい……
 いや、いや。
 既に快楽に流され始めている自分に焦る。
 殿下に俺のペニスをしごいてもらうなど、不敬極まりない。
 
「……やめて、ください」
 弱々しく膝をわずかに閉じる。
 俺は乙女か……
 自分の状況が情けなさすぎて、信じがたい。

 そんな俺を見て、殿下は少し後ろに離れた。
 やめてくれる……そんな訳はなさそうなことが、殿下の不敵な笑みからわかる。
 殿下は白いシルクの靴下を脱ぎ、足先を俺の股間の前に置いた。
「自分で擦り付けてみろ」
 こんなサディスティックな笑みを浮かべる殿下は見たことがない。
 そして、そんな殿下の意外な表情を見て、ゾクッとしている自分がいる。

 主人の足裏に自分のペニスを擦り付けるなんて、そんなみっともないことができるわけない。
 俺が腰を引き気味に「できません……」と掠れた声で答えると、殿下はさわさわと足裏で俺の股間を撫で始めた。

 殿下の足が器用にズボンの上から俺のペニスの形をなぞる。
 つま先で睾丸を持ち上げられたかと思うと、親指と人差し指で挟まれながら竿をツツッとしごき上げられる。
「熱くなってきた」
 殿下が楽しそうに足裏全体で俺の質量を増したペニスを踏み込む。
 がっつりと張り出してしまったカリ首周りの段差を、つま先で執拗にさすられると、あまりの快楽に腰がビクビクと震える。
 
 俺は今いったい、何という状況に置かれているんだ?
 自分の開いた脚の間でかつてないほど隆起しているペニスの上で殿下の足が蠢いている光景から目を離せない。
 こんなことはいけない。
 アシェル殿下と俺は、主人と騎士であって、こんなことをする関係ではない。
 もう止めるのだ。
 お止めしなくてはいけない。

 だけど、俺のペニスからおかしいくらいの快感が腰全体に響き渡る。
 なぜ俺のペニスがこんな快楽を発生する器官になってしまったのか、わからない。
 自ら脚を広げ、恥ずかしいくらいに突き出している俺のペニスをアシェル殿下に差し出し、隅々まで踏んでもらう。
 
「ウィリアム、私に踏まれて喜んでいるのか?」
「違いっ……」
 否定しようとすると、殿下は俺のペニスをことさら強く踏んだ。
「あっ……!」
 込み上げてきた精液を、グッと我慢する。
 
「踏んでくださいと、言ってみろ」
 そう言って、殿下は足を俺のペニスから離した。
「……ダメです……そんなこと……」
 そうは言いながらも、離れてしまった殿下のいやらしい足を、目で追ってしまう。
「意地を張るな。ほら」
 つま先で亀頭を突かれる。
 もっと……もっと、思いっきり踏んで欲しい……
 無言でアシェル殿下を見上げ、懇願する。
 
「ウィリアム」
 殿下の命令的声に、口が勝手に動き出す。
「――踏んでください」
 俺の小さな声にアシェル殿下の目がいっそう冷ややかに座る。
「何を?」
「……俺のペニスを……」
 頭の中が白くぼぉっとし、自分が何を言っているのかよく分からない。
なにで?」
 殿下が凍りつくような笑みでこちらを見下ろしている。
「アシェル殿下の足で」
 よくできましたと言わんばかりに殿下は表情を和らげ、リズミカルに俺のペニスを踏みしだき始めた。
 
「あっ……あっ……あぁ……」
 待ち望んだ快楽が体の中心に与えられる。
 アシェル殿下の足の動きに合わせ、腰を少し押し出しながらペニスをなすりつける。
 殿下は時に優しく、時に厳しく俺のペニスを踏んでくれる。
 熱いものが限界まで込み上げ、腰を何度も強く殿下の足に当て始めた俺に、アシェル殿下が頃合いとみなして声をかけた。
「ウィリアム、イけ」
 アシェル殿下の声が脊髄に響き、下履きにビュルッと気持ちの良いものが吐き出される。
 次々と大量に熱いものが吹き出し続け、同時に頭がすっと冷えてくる。

 嘘だろう。殿下に踏まれて射精してしまうなんて……

 なんで俺は逃げなかったんだ?
 俺の股間から足を離したアシェル殿下は、満足げなご様子だ。
 まるで、これでよいのだと言われているようだ。
 お咎めはないのだろう。きっと。
 でも、これはダメだろう。
 これはダメだ。
 こんな快楽を覚えてしまったら、元に戻れない。

 俺がクッションにもたれぼんやりしていると、アシェル殿下が俺の背を起こし、手首を拘束していた布を外した。
「ウィリアム、体を拭いてこい。私はもう寝る」
「……はい」
 弛緩する体をベッドから下ろし、雲の上を歩くように寝室から退出する。

 主寝室の扉を閉めて、ふらふらとリビングのソファーに倒れ込む。
 下穿きの中に吐き出してしまった精液が、冷たく張り付く。
 胸は後悔で溢れているのに、俺を見下ろすアシェル殿下の美しくも嗜虐的な顔が目に浮かび、離れない。
 身体中を侵《おか》している毒は、危険で甘い。

 何をやっているんだ、俺は……
 身に降り掛かった状況を未だよく理解できないまま、俺はしばらくソファーから動けなかった。
 
  ※

 明くる日、アシェル殿下と俺はオレウス大臣に案内され、ザゴラ軍の演習場に向かった。

 二階建ての石の要塞から、演習場に整然と並ぶ人だかりを見下ろす。
 この規模は、十万はいるのではないだろうか……
 普段リヴァディアの数千の騎士団しか見慣れていない俺は、腹の底から重たいものが込み上げてくるのを感じた。
 しかも全ての兵にしっかりとした鎧と武器が行き渡っている。
 ザゴラの規模が大きいことは知識としては分かっていたが、その脅威を実際目の当たりにすると、急ぎリヴァディアに戻り、防衛の立て直しを図らなければならない衝動に駆られる。
 
 アシェル殿下は俺の斜め前で演習をご覧になっていて、その表情は見えない。
 アシェル殿下が演習に目をやりつつ、オレウス大臣に何かを小声で話しかけた。
 大臣が殿下の耳元に返答すると、アシェル殿下は苦笑した。

 オレウス大臣がわざわざこれを殿下に見せたということは、何かの取引をするための導入材料だと考えるが妥当だ。
 取引を持ち掛けられるとしたら、おそらくその内容はろくでもないものだろう。
 リヴァディアを裏切る何かとしか考えられない。
 
 アシェル殿下と大臣の様子に気を取られながら見学を続けていると、ザゴラの大軍はラッパの号令の元、俊敏にその隊形を変え始めた。
 訓練を重ねた、かなり統制の取れた部隊だ。質も量も、リヴァディアの遥か上をいく。
 リヴァディアにとって有利に働くのは、地の利くらいかもしれない。

 地の利か……
 俺がザゴラ軍だったら、地の利を崩す何かの作戦を仕掛ける。
 オレウス大臣がアシェル殿下を取り込むならば、そこら辺を期待するだろうか……

 俺の心配をよそに、オレウス大臣とアシェル殿下は終始和やかに何かを話され、二十分も経たず砦から帰ることとなった。

 大臣邸への馬車に俺と二人で乗り込んだアシェル殿下は、窓の外を向いてずっと思案にふけっている。
 殿下のお心内を聞くことができるとしたら、リヴァディアの屋敷に帰った後だろうか。

 重苦しい空気のまま馬車は大臣邸に着き、その次の日に我々はリヴァディアへの帰路についた。
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