器の夜

寅次郎

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真相

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 はっきりと突きつけられたとも言えるその言葉に、俺の身体からはすぐに、ぶわっと大量の冷や汗が噴き出した。
 〝お前じゃない?〟とは、どういうことなのか。
 止まらない冷や汗が下へ下へと伝っていく中、俺は貢との物理的な距離を縮める。

「どういう意味なのか、ちゃんと説明してくれよ」

 貢のその無機質な目には、もしかして俺以外の何かが映っているとでもいうのか。

「なあ、貢?」

 昨日までの貢なら、こんなことを言ったりはしなかったはずだ。なのに、どうしてそんな風になってしまったのか。
 それから何度言葉で詰めても、さっきの言葉以外は返ってこない。まるで、もう俺に掛ける言葉はそれしか選択肢がないかのように。

「はあっ、はあっ、はあっ……わりぃ、出直してくる」

 当然、俺は怖くなってしまった。だから、目の色に生気が感じられない貢に背を向け、とにかく一旦この場から離れることにした。あれ以上貢を問いただしても、今のあの状態ではきっと答えは変わらないと思ったからだ。

(変な動悸が止まんねぇ)

 まるで内側から何かが這い出てくるような感覚に襲われ、そのうちまともに息すら出来なくなり、とうとう俺はその場でガクンッと膝をついてしまう。

「っ、かひゅっ、ひゅーっ、は、っ、?」

 自然と自身の首に両手が伸び、呼吸を整えようとするもののそれはままならず、貢ではなく、もしかして俺のほうが変わってしまったのではないのか、という考えがふと自分の中に浮かんだ。

(いつ、からだよ)

 言葉に出せない分、心の中でそう思ったが、それを思った瞬間に、その答えが出てしまった。

(昨日……からだ。貢と身体が繋がってから、だ)

 バッとうしろを、俺は瞬間的に振り返った。

「!?」

 すると、貢の家から五分ほど離れた場所まで走って来たはずだというのに、無表情な顔をした貢がそこに立ちすくんでいた。
 ひっ、と声が喉の奥で止まる。もうまともに声の音を出せないからだ。

(もう、おかしいって……言うだけじゃ済まなくなってるじゃんかよ)

 ここから逃げ出したいのに、どうしてもそれが出来ない。まるで、俺の身体の主導権が俺ではなく、別の何かに入れ替わってしまったかのようである。

(俺は、なん、なんだ?)

 目の前の貢が変だと感じるばかりではなく、この短時間で、俺はずっと自分のことまで疑ってしまっている。
 こちらをじっと眺めてきている貢から視線を逸らしたいのに、俺の中に居る“俺”がそれを許してくれない。
 まるで、俺の中に居る何かが貢を欲しているかのようにすら感じる。

 すると、足音を立てず、今度は貢が俺との距離を詰めてきて、こう口を開いた。

「あと、ほんの少しだね。器は必要ないね」

(それは、俺の中のに向けて言ってるのか? なあ、なあ! 貢!)

 この時点で、“器”と呼ばれた俺には、言葉を発する決定権すらも失われてしまっていたのである。

「ほら、あともう少し、もう少し」

(やめろ! やめろ! やめろ! もう、やめてくれよ! 貢!!)

 すると、その時だった……。
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