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582、助っ人参上
しおりを挟む取り敢えず壁の外に行ってみようということで、ケインさんに連れられて、俺たちは壁一枚隔てた街の外に転移した。
さすがにまだ有事とは言えない状態なので、門を開けることは出来ないんだって。本体が中に入ってきちゃっても困るし。
でも、とケインさんが辺りを見回す。
「これ、根っこを自在に色んな所に伸ばせるみてえだから、また街中にも生えてくるかもしれねえんだよな」
目の前の木の様な魔物を見上げながらの呟きに、皆が顔を顰めた。
病の根源は、木の様な魔物だった。あの『妖精の巣』とは全然違う。あれは一応素材だったけれど、こっちはしっかりと魔物だった。
地図上に、ちゃんと赤いマークがついていた。
タタンさんが試しに爪で攻撃をしたところ、落ちた枝がキラキラと消えていったし、同時に頭上、って言っていいのかな。樹の天辺にHPバーが表示された。
地図には、街からジャル・ガーさんの洞窟の方に魔物が生えているのが表示されている。もしかして、中心の山沿いにウノに向かって生えてるのかな。これ、枝を切ったら3%なんじゃなくて、あの街中の原因が消えたからその範囲が3%ってことなんじゃないだろうか。居住区が3%か。先は長い。
取り敢えず見える範囲の魔物を蹴散らして、一旦冒険者ギルドに戻ることにした。
ガレンさんとタタンさんとヴィデロさんの三人が攻撃すると、樹の魔物もすぐに消滅していく。下手したらオーバーキル状態なんじゃなかろうか。
そこにすかさず俺とヨシューさんが聖魔法を唱えて範囲浄化をする。
ある程度壁沿いの魔物を消したところで、タイマーが鳴った。
「魔物だったのね。樹の形の……しかも結構長い間生えてたってことよね」
「はい。前に一度コウマ病の夫婦を治したことがあるので」
書類を書いていたエミリさんは、手を止めて俺たちの見てきた状況を聞いた。
そして、首を傾げた。
「エルフの里はどうなってるのかしら……そんなのが生えるなんて、ちょっと心配ね。でも今は行く時間がないのよね……」
「ああ、俺らが行こうか? あそこなら俺らの村ともつながってるし、俺座標知ってるからな」
ケインさんがなんてことなく請け負ったことで、皆はエルフの里の状態を見に行くことにしたらしい。
俺は、泣く泣くログアウトすることになった。
「ちゃんと寝ろよ。睡眠不足は成長の妨げになるからな」
「寝ます! 成長するため寝ます!」
「適度な睡眠は最高の成長薬だからな」
「ヨシューは寝すぎだろ」
絶対に大きくなる! と拳を握ると、ヨシューさんが俺の頭をよしよしと撫でた。
寝ます。成長するために寝ます。そして明日の夜またログインして手伝います!
ヨシューさんの言葉に未来の希望を見出した俺は、一緒に一度離脱するというヴィデロさんと共に、工房に戻ったのだった。
次の日。学校で雄太が「よ、隊長」と声をかけて来た。
「何その隊長って」
「あれだろ。病の魔物を倒す隊の隊長をしてるんだろ。指名依頼来たから、夜はオッケーって返事しといた。来週からはいつでもオッケーだけどな」
「早く自由登校なってくれないかな」
「ほんとにな」
そんなことを話しながら無事授業を終えて、帰路に就いた俺。
今日は母さんが外でご飯を食べて来るって言っていたので、父さんと自分の分だけ簡単なご飯を作って、ちょっと早いけどさっさと食べてログインすることにした。
アバターの身体を起こしてベッドから降り、寝室を出ると、そこにはヨシューさんとヒイロさんとケインさんがいた。ちょっとびっくりした。
「よ、遅かったなマック」
「お邪魔してたよ」
「起きるの待ってた」
三人は持参したと思われるお茶を、キッチンのテーブルで飲んでいた。
なんか和む。
「ガレンさんとタタンさんはいないんですね」
「おお。ヴィデロと共にちょいと詰所に用事があるって出てったぞ。お勤め人も大変だな」
そうなんですか、と返事しながら、工房のインベントリを開く。
装備を整えて、回復アイテムを補充して、まだ寛いでる皆に「さ、行きますか」と声を掛けた。
「え、今休憩中なんだけど」
「ヴィデロたちが帰って来てからでいいじゃん」
「お前ら真面目にやれよ……」
俺の師匠二人は、ケインさんががっくりするようなことを平然と言って、席を立とうとはしなかった。
「それよりもエルフの里で教えてもらったことを聞きたくねえか?」
「聞きたいですけど」
「じゃあ俺腹減ったから、マックになんか食いもん作ってもらって、それを食いながら教えるってのはどうだ?」
俺の返事にほくそ笑んだヒイロさんは、ドヤ顔でそんなことを言った。
俺が作るんですね。っていうかそれがメインですね実は。
「じゃあ皆で食べれるように大きな鍋に作ればいいですね。わかりました。でもタタンさんとガレンさんとヴィデロさんが帰って来てから食べるんですからね」
俺が釘を刺すと、ヒイロさんは「えええええあいつらいつ帰って来るかわからねえよ」と抗議の声を上げた。
そんなヒイロさんのブーイングをBGMに、俺は早速大きな鍋を取り出した。
大量の野菜と大量の肉を放り込んでいき、調味料で味つける。味のメインは深層塩藻。なので、塩味。
しょっぱくなりすぎないように調整しながら味付けをして、最後隠し味にリモーネを一滴落とし入れたところで、ヴィデロさんたちが帰ってきた。
工房から椅子を運んできて、7人で食卓を囲む。
山の様なパンと、具沢山スープが、今日の夜ご飯。さっき食べてからログインしてきたけど、アバターは普通に空腹だったから全然苦じゃなかった。雰囲気も楽しいのかも。ヴィルさんの所でご飯を作った時も、三人で囲むご飯はすごく楽しいから。両親の帰りが遅くて一人でご飯を食べることが多かったから余計にね。
「エルフの里な、あのチビ守護樹、まだ未熟でいまいち守りが甘いらしいんだわ」
「今回の騒動も、その守護樹の網を潜って、大陸の端からなんかが入り込んでたらしい。って話だ。エルフの方でもほっておけねえってんで、今日の夜までに助っ人を決めて出すって言ってたよ」
「なんかやたら大人数ですね」
「こういうのは短期集中でさっさと片付けないと被害が拡大するからな」
そういえば指名依頼は雄太たち以外誰になったんだろう。皆クエスト来たのかな。
なんて思いながらすっかり空になった鍋をシンクに片付けていると、ピロン、とチャットが届いた。
開いてみると、珍しく『マッドライド』のハルポンさんからだった。
『ロウさんに聞いたけど、今トレがヤバいんだって? クエスト受けたからよろしく。ってかエルフの里から帰ったら指名依頼入ってて笑った』
なるほど『マッドライド』も手伝ってくれるのか。っていうか相変わらずあの人たちはエルフの里に通ってたんだ。
よろしくとチャットを返信していると、鍋を洗ってくれたヴィデロさんが手を拭きながら戻ってきた。
「さっき二人とギルドと衛兵の詰所に寄って来たんだけどな、猊下がほぼ全員の病を治して帰られたよ。マックに一目会いたかったけど、今回は黙って出てきたので役目を終えたから帰ると。皆の避難場所に足を運んで治してくれたんだ」
「ニコロさん……今度、お礼も兼ねて遊びに行こう。ってか黙って出て来たって……え、教皇ってそんな気軽に出てきていい物なの?」
「ダメだからこそ、黙って出てきたんだろ。マックのために」
苦笑しながらのヴィデロさんの言葉に、胸がジーンとする。
ニコロさん、いつでも駆けつける、ってほんとに駆けつけてくれたんだ。俺、滅茶苦茶いい師匠たちに恵まれたんだな。
感動しながらふと二人の師匠を見ると、食後のデザートであるアランネの実最後の一切れを取り合いしていた。俺の感動を返してくれ。
壁の外に行く前にギルドと情報を共有しようと向かうと、丁度転移魔法陣の部屋から『リターンズ』の人たちが出てきた。
「よ、マック。今回の指揮官はマックだって?」
陽炎さんが気さくに声をかけてくる。
大分大きくなったリザが、エリモさんの頭の上からぶら下がって口をパクっと開けていた。
『オイシイノ』
「えええ、リザ、久しぶりに会ってそれ? 待って、なんかリザが食べられそうなものあるかな……」
リザの言葉につられるようにインベントリを開くと、エリモさんが「順調に餌付けしてるよなマック」と苦笑した。
餌付けされて俺に懐いてくれたら嬉しいから餌付けするよ。
「週末からは『獣同盟』『トランス』も合流予定だそうだ。丁度『トランス』と一緒に狩りをしてたらギルドで声を掛けられてよ。だから、あいつらが来る週末までに解決しちまおうぜ」
サムズアップする陽炎さんに頷いていると、エリモさんと魔法使いさんがヒイロさんたちと気軽に挨拶を交わしていた。そうだった、リザのことで親交があるんだった。心強いなあ。
でも俺、『トランス』って聞いたことないんだけど。
どんな人たちなのかを訊くと、エリモさんが「三人目の聖獣テイム者がいるパーティーだ」と教えてくれた。ってことはいい人か。まあエミリさんから名前が上がるくらいだからいい人たちなんだろうけど。
「んで、クエストは今7%ってところか。厳しそうだな」
「7%? 昨日は3%だったんだけど」
魔法使いさんにそう言われて首を傾げていると、それなら俺らが少しだけ間引きしてきたからじゃねえか、とヒイロさんが教えてくれた。
間引き……このメンバーで間引きしてもまだ7%なんて、ちょっと先は長いのかな。
気合いを入れた俺たちは、『リターンズ』と共に、街の外に転移した。
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