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アルファなBL作家が炎上しています

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 オンラインでの打ち合わせの数日後、オレは人目を気にしながらも、なんとか洋芳出版社に赴いた。
 前に来た時は炎天下だったが、今度はクソがつくほど寒い冬だ。夏にミイラになりかけたオレが、今度はアイスマンまっしぐら。しかも雪で電車が大幅に遅延し、洋芳出版のある駅に着いたのは待ち合わせ予定時間ギリギリだった。

「くそ、こんな日に限って……」

 雪に足を取られながら、なんとかビルにたどり着く、が……。
 自動ドアが、人だかりのバリケードで塞がれて、通り抜けられない。
 なんだ、この集団は?
 警備員がいつもの五倍以上、十人くらいで列を作り、洋芳出版の入り口を無理やりくぐろうとする女性集団を、必死に押さえつけている。銀行が潰れると聞いて、慌てて預金を引き出そうとする預金者みたいだ……。

「ぎゃあああ礼央くーーん!」
「こっち見てぇええ」

 女性たちの中には、『罵って』とか『声で孕ませて』とかが書いてある、うちわやプラカードなどを持っている人もいた。
 もしかして、この雪の寒さの中集まった人たち全員が、沼井礼央ぬまいれおの追っかけか?

「──ひさひさ先生!」

 背後から小さく声がかかった。見ると、中砥さんがスマホを持ちながら、雪に足を取られぬよう踏みしめるような足取りでこちらに近づいてきていた。

「今、正面玄関は使い物にならないので、こちらに案内しますね」

 中砥さんと一緒に、ビルの側面に回り、作業員入り口のようなところへ案内された。そこにいた警備員はオレたちを見て、まるで正面玄関にいる同業者が気の毒でたまらないという表情をしながら、「お疲れ様です」と声をかけてきた。
 中に入り、暖房の暖かさにホッとしながらしばらく通路を歩くと、無事にいつも見るエントランスに戻ってきた。

「お世話になってます、ひさひさ先生。雪、すごかったでしょう」

 中砥さんは赤らんだ鼻を手で押さえつつ、申し訳なさそうにそう言った。

「すみません、僕としたことが。今日は撮影が入っているのを、すっかりひさひさ先生に伝えたものと勘違いしていました」
「あ、はあ……。あのおもてのやつ、なんだったんです? イベントですか?」

 改めてエントランスを見ると、そこには様々な裏方の人や、カメラと機材、重役っぽいスーツの人たちがいる。

「弊社で出版した小説の実写化記念イベントです。BLではなくて、ラブコメなんですけど。ほら、エントランスにコミカライズ版主人公の等身大パネルが置いてあるでしょう?」

 置いてあったな、たしかに。

「そのパネルの横に、同じ大きさの実写化パネルを2.5次元俳優の沼井礼央が置いて、そのまま弊社でインタビューをするという企画です」

 それで、ビルの外が阿鼻叫喚さながらに追っかけであふれていたというわけか。
 なんで外に出た日に限ってこんなことが。

「森村先生も電車遅延のせいで到着が押すかもしれないと連絡が来ました。先に始めてしまいましょうか」
「──あっれ。中砥くんじゃん?」

 中砥さんの誘導でオレたちがエレベータに体を向けた時、背中に軽い声がかかった。オレにとっては、斧よりも重みと鋭さを持った声。
 振り返ることができず、中砥さんが声の主に振り返る様子を、オレは黙って見ているしかなかった。

「沼井さん、お世話になっております」
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