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【番外】洋芳小噺
タイトルはまだ未定②
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「いま、午前〇時になった。忘れていたただろう」
「え、っと」
「結婚してから初めての、きみの誕生日だ」
「う、うん」
そうだ。今日、オレの誕生日か……。
「なのに、数日前から欲しいものを聞いても、当日に何をしたいか聞いても、きみは生返事ばかり。絵の仕事が立て込んでいたのもあるけど」
「ご、ごめん」
縛られた両手をやさしく包み込まれて、まつ毛がぶつかるほど顔が近づいた。
「……ぼくがきみの絵に嫉妬する日が来るなんて」
「ぁ……」
「騙すようなことをして、すまなかった。でも、縛り付けでもしないと、きみは手を止めてくれない」
オレのために嫉妬するセイジさん。
オレだけを見てくれるセイジさん。
「反省した?」
「……ぅ、ん」
ウソ。
「……好き……」
ごめんなさい、ウソつきで。オレ、ぜんぜん反省していないの。
もっとオレを独占して、なんて。
こうやって嫉妬して、縛り付けて、なんて。
そうして、オレの一つ一つを、また新しく、改めて、気づかせて、敏感にして、悦ばせて、なんて……。
そんなことを考えてしまう。
セイジさんが手首のいましめを解こうとした。
「このまま、して」
思わずそう口をついて出ていた。
ウソつきなうえに、それを隠すこともできない。
「縛ったまま、して」
「久斗」
「目隠しも、して」
唇を結んで、甘い視線であなたを舐める。
「……だめ?」
セイジさんの喉が、ひくりと動いた。
「……そのねだりかたは、どこで覚えてきた?」
「あなたのものになりたくて……じぶんで……」
セイジさんと密着しているオレは、押し付けられている彼のそこが熱く硬くなっていくのを感じていて。もう一度目隠しして、それを味わいたいと思った。
すると優しい手のひらが、オレの目を覆い隠した。
「今のぼくの顔は、見ないほうがいい……」
そんなところまで、オレたちは歯車みたいにかっちりはまっていた。
「久斗……好きにして、いい?」
「……めちゃくちゃにして」
もう一度目隠しをされると、真っ先にオレのナカへセイジさんが侵入してくる。
「ああっ──まっ、ああっ」
「久斗、好きだ、久斗」
「あっ、やっ……ああっ──!」
腰を振られる。少し強引で、乱暴で、まるで犯されているみたい。
手首を縛られて、気持ちいい痛みを逃ことすらできずに、目隠しをされてさらに極まった絶頂は、今はすべてセイジさんの掌の上にあった。
「セイ、ジさん、セイジさんっ、セイジさんッ」
いつもより早く、クライマックスがやってきた。
「あああッ──!」
絶頂で意識が途切れる間際、熱っぽい吐息を耳元に吹きかけられた。
「今日は、ぼく以外のことを考えられないほど……泣くほどイかせてあげるからね」
大好きな、愛している人に、快感までも独占される。
今までで一番の誕生日が、始まろうとしていた。
*
その後は何度イッたかわからなかった。
最後はたぶん、出るものでなくなって空イキみたいになって、オーガズムとの差もわからないまま、目隠しもとれて、涙と悦びとで意識がぐしゃぐしゃになっていた。
朝方になって少し寝て、目を覚ましたら、セイジさんが隣にいた。
それだけでたまらなく幸せなのに──。
「今日は久斗をおめかししよう」
午後になると、そんな恥ずかしいことを臆面もなく言ったセイジさんは、オレに服を買ってくれたり、スタイリストさんのところへ連れて行ってくれた。
そのまま夜は、すごく綺麗で高級そうなレストランへ。
「誕生日、おめでとう」
目を細めて微笑むセイジさんは、今度こそタイトルの朗読じゃなくて、オレのことを真っ直ぐに祝ってくれた。
家の中の、嫉妬で子供っぽくなるセイジさんも。
今目の前で、グラスをオレに突き合わせてくれる大人びたセイジさんも。
どっちも大好きだ……。
レストランを二人で出て、手をつなぎながら歩いていると、小さな子供を連れた家族とすれ違った。
「あ……」
女の子の手を握っている親は、どっちも男性で……たぶん、アルファとオメガの夫婦なんだろう。
こども、か。
セイジさんは、このことを、どう感じているのだろう……?
繋いだ手に、ぎゅっと力がこもる。
「……久斗?」
オレには何だか、家族というものが遠いことのように思えた。
ついこの間まで引きこもっていたのに、心が高校生のまま置いてきぼりだったのに、いきなり妊娠、出産、子育てなんて──。
でも、オレたちはもう恋人じゃなくて、伴侶だ。
セイジさんにとっては、もっと近い話題なのかも、だなんて──。
握った手がクンと引っ張られた。セイジさんが立ち止まったのだ。
「久斗、おいで」
甘く熟れたような声で呼ばれて、向かい合うと、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「焦らなくていい」
「……っ」
「ぼくは久斗のことを、世界で一番愛しているから」
「う、ん」
「だから、きみが不幸になるようなことは、絶対にしないよ」
「うん……」
「苦しくなるまで考え込まなくていい。一緒に話して、たくさん相談しよう」
今まで一人でいたから、今日という日が幸せの絶頂で、あとはもう坂をくだっていくしかないという不安に、いつの間にか苛まれていた。
「セイジさん……っ」
顔を埋めると、セイジさん香りと、今日のためのかすかな香水の匂いがした。
あなたと二人でなら──もしかしたら将来……家族となら。
きっとこれからも、幸せの記録を更新することができるはずだ。
「決まった台詞がなくても、セイジさんはすごくかっこいいよ」
「それは、光栄だな」
「好き……愛してる」
「ぼくもだ」
幸せになりたいから、もっとセイジさんのことを好きになろうと思った。
手を握って、体温と共に帰路を歩く。
……その後は昨晩と打って変わって、お姫様みたいに優しくベッドでほぐされるまでが、誕生日プレゼントだったのだけれど……。
それはまだ、ほんのすこし先の話。
〈【洋芳小噺】 了〉
「え、っと」
「結婚してから初めての、きみの誕生日だ」
「う、うん」
そうだ。今日、オレの誕生日か……。
「なのに、数日前から欲しいものを聞いても、当日に何をしたいか聞いても、きみは生返事ばかり。絵の仕事が立て込んでいたのもあるけど」
「ご、ごめん」
縛られた両手をやさしく包み込まれて、まつ毛がぶつかるほど顔が近づいた。
「……ぼくがきみの絵に嫉妬する日が来るなんて」
「ぁ……」
「騙すようなことをして、すまなかった。でも、縛り付けでもしないと、きみは手を止めてくれない」
オレのために嫉妬するセイジさん。
オレだけを見てくれるセイジさん。
「反省した?」
「……ぅ、ん」
ウソ。
「……好き……」
ごめんなさい、ウソつきで。オレ、ぜんぜん反省していないの。
もっとオレを独占して、なんて。
こうやって嫉妬して、縛り付けて、なんて。
そうして、オレの一つ一つを、また新しく、改めて、気づかせて、敏感にして、悦ばせて、なんて……。
そんなことを考えてしまう。
セイジさんが手首のいましめを解こうとした。
「このまま、して」
思わずそう口をついて出ていた。
ウソつきなうえに、それを隠すこともできない。
「縛ったまま、して」
「久斗」
「目隠しも、して」
唇を結んで、甘い視線であなたを舐める。
「……だめ?」
セイジさんの喉が、ひくりと動いた。
「……そのねだりかたは、どこで覚えてきた?」
「あなたのものになりたくて……じぶんで……」
セイジさんと密着しているオレは、押し付けられている彼のそこが熱く硬くなっていくのを感じていて。もう一度目隠しして、それを味わいたいと思った。
すると優しい手のひらが、オレの目を覆い隠した。
「今のぼくの顔は、見ないほうがいい……」
そんなところまで、オレたちは歯車みたいにかっちりはまっていた。
「久斗……好きにして、いい?」
「……めちゃくちゃにして」
もう一度目隠しをされると、真っ先にオレのナカへセイジさんが侵入してくる。
「ああっ──まっ、ああっ」
「久斗、好きだ、久斗」
「あっ、やっ……ああっ──!」
腰を振られる。少し強引で、乱暴で、まるで犯されているみたい。
手首を縛られて、気持ちいい痛みを逃ことすらできずに、目隠しをされてさらに極まった絶頂は、今はすべてセイジさんの掌の上にあった。
「セイ、ジさん、セイジさんっ、セイジさんッ」
いつもより早く、クライマックスがやってきた。
「あああッ──!」
絶頂で意識が途切れる間際、熱っぽい吐息を耳元に吹きかけられた。
「今日は、ぼく以外のことを考えられないほど……泣くほどイかせてあげるからね」
大好きな、愛している人に、快感までも独占される。
今までで一番の誕生日が、始まろうとしていた。
*
その後は何度イッたかわからなかった。
最後はたぶん、出るものでなくなって空イキみたいになって、オーガズムとの差もわからないまま、目隠しもとれて、涙と悦びとで意識がぐしゃぐしゃになっていた。
朝方になって少し寝て、目を覚ましたら、セイジさんが隣にいた。
それだけでたまらなく幸せなのに──。
「今日は久斗をおめかししよう」
午後になると、そんな恥ずかしいことを臆面もなく言ったセイジさんは、オレに服を買ってくれたり、スタイリストさんのところへ連れて行ってくれた。
そのまま夜は、すごく綺麗で高級そうなレストランへ。
「誕生日、おめでとう」
目を細めて微笑むセイジさんは、今度こそタイトルの朗読じゃなくて、オレのことを真っ直ぐに祝ってくれた。
家の中の、嫉妬で子供っぽくなるセイジさんも。
今目の前で、グラスをオレに突き合わせてくれる大人びたセイジさんも。
どっちも大好きだ……。
レストランを二人で出て、手をつなぎながら歩いていると、小さな子供を連れた家族とすれ違った。
「あ……」
女の子の手を握っている親は、どっちも男性で……たぶん、アルファとオメガの夫婦なんだろう。
こども、か。
セイジさんは、このことを、どう感じているのだろう……?
繋いだ手に、ぎゅっと力がこもる。
「……久斗?」
オレには何だか、家族というものが遠いことのように思えた。
ついこの間まで引きこもっていたのに、心が高校生のまま置いてきぼりだったのに、いきなり妊娠、出産、子育てなんて──。
でも、オレたちはもう恋人じゃなくて、伴侶だ。
セイジさんにとっては、もっと近い話題なのかも、だなんて──。
握った手がクンと引っ張られた。セイジさんが立ち止まったのだ。
「久斗、おいで」
甘く熟れたような声で呼ばれて、向かい合うと、そのままぎゅっと抱きしめられた。
「焦らなくていい」
「……っ」
「ぼくは久斗のことを、世界で一番愛しているから」
「う、ん」
「だから、きみが不幸になるようなことは、絶対にしないよ」
「うん……」
「苦しくなるまで考え込まなくていい。一緒に話して、たくさん相談しよう」
今まで一人でいたから、今日という日が幸せの絶頂で、あとはもう坂をくだっていくしかないという不安に、いつの間にか苛まれていた。
「セイジさん……っ」
顔を埋めると、セイジさん香りと、今日のためのかすかな香水の匂いがした。
あなたと二人でなら──もしかしたら将来……家族となら。
きっとこれからも、幸せの記録を更新することができるはずだ。
「決まった台詞がなくても、セイジさんはすごくかっこいいよ」
「それは、光栄だな」
「好き……愛してる」
「ぼくもだ」
幸せになりたいから、もっとセイジさんのことを好きになろうと思った。
手を握って、体温と共に帰路を歩く。
……その後は昨晩と打って変わって、お姫様みたいに優しくベッドでほぐされるまでが、誕生日プレゼントだったのだけれど……。
それはまだ、ほんのすこし先の話。
〈【洋芳小噺】 了〉
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