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【番外】キューピッドの小噺
黒幕はきみか ④
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「そういうわけで、この作品についてはまず、主人公とお相手のキャラクターを詰めるのがよいと思います」
「キャラクター? それはどうやって詰めるものなんだ?」
「一番手っ取り早いのは、既存作品を読んで盗作にならない程度にキャラクターをパクることです」
「ぶっちゃけた」
「複数の作品からちょっとずつ取り入れると、よりいっそうバレにくいです」
「合成怪物を作ればいいのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「わかった。オススメの既存作品を教えてくれ」
「いいですが……僕のオススメは、雅樹さんはあんまり読みたがらないかもしれませんよ」
「真也が勧めたものならなんでも読む」
「では、ちょっと待っていてください」
僕は雅樹さんを置いて、寝室へと向かった。収納用ワードローブの扉をあけて、ごく小さな本棚から森村先生の作品を出す。
僕は先生のファンではあるけれども、編集者として作家にリファレンス作品を出す、という点においては客観的に作品選びをする。だが編集者として数年経った今、初めて読む人にオススメなのは、やっぱり森村先生の書いたうちの数冊がいいという結果に落ち着いた。
ダイニングに戻って本を差し出すと、案の定雅樹さんは、有るか無しかの表情でうんざりした。
◇
後日、職場で仕事をしていると、社用スマートフォンに森村先生から電話が来た。
「もしもし。洋芳出版社の中砥です」
『あ、中砥くん? お世話になっています森村です。今、洋芳出版さんからのファンレターが送られてきたところなんだけど……』
「はい」
『ファンレターの一通に、きみの恋人の名前があるんだが、これはどういうことか説明を求む』
「はい。ご覧になったそのまま事実を受け取っていただければと存じます」
『……彼がぼくの作品を読んで、感銘を受けたか胸糞が悪くなったかして、作品への愛か罵倒かを書き連ねたってことかい』
「ええ」
『開けるのがすごく怖い。でも作者として、ファンレターを開けずに置くことは、ぼくのプライドが許さない』
「心の底から尊敬します」
『ねえ、これを転送してきたのはきみだろう。集まったファンレターの中に恋人の名前を見つけて腰抜かさなかったのか?』
「僕が布教しましたから。雅樹さん、オススメした作品を読んだその日のうちに、全巻取り揃えたんですよ、森村作品を」
『……』
「……」
森村先生が電話口で沈黙するのは、これが初めてだったかもしれない。
そして先生は、電話越しに大きく息を吸って、吐いた。
『黒幕はきみか』
「キャラクター? それはどうやって詰めるものなんだ?」
「一番手っ取り早いのは、既存作品を読んで盗作にならない程度にキャラクターをパクることです」
「ぶっちゃけた」
「複数の作品からちょっとずつ取り入れると、よりいっそうバレにくいです」
「合成怪物を作ればいいのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「わかった。オススメの既存作品を教えてくれ」
「いいですが……僕のオススメは、雅樹さんはあんまり読みたがらないかもしれませんよ」
「真也が勧めたものならなんでも読む」
「では、ちょっと待っていてください」
僕は雅樹さんを置いて、寝室へと向かった。収納用ワードローブの扉をあけて、ごく小さな本棚から森村先生の作品を出す。
僕は先生のファンではあるけれども、編集者として作家にリファレンス作品を出す、という点においては客観的に作品選びをする。だが編集者として数年経った今、初めて読む人にオススメなのは、やっぱり森村先生の書いたうちの数冊がいいという結果に落ち着いた。
ダイニングに戻って本を差し出すと、案の定雅樹さんは、有るか無しかの表情でうんざりした。
◇
後日、職場で仕事をしていると、社用スマートフォンに森村先生から電話が来た。
「もしもし。洋芳出版社の中砥です」
『あ、中砥くん? お世話になっています森村です。今、洋芳出版さんからのファンレターが送られてきたところなんだけど……』
「はい」
『ファンレターの一通に、きみの恋人の名前があるんだが、これはどういうことか説明を求む』
「はい。ご覧になったそのまま事実を受け取っていただければと存じます」
『……彼がぼくの作品を読んで、感銘を受けたか胸糞が悪くなったかして、作品への愛か罵倒かを書き連ねたってことかい』
「ええ」
『開けるのがすごく怖い。でも作者として、ファンレターを開けずに置くことは、ぼくのプライドが許さない』
「心の底から尊敬します」
『ねえ、これを転送してきたのはきみだろう。集まったファンレターの中に恋人の名前を見つけて腰抜かさなかったのか?』
「僕が布教しましたから。雅樹さん、オススメした作品を読んだその日のうちに、全巻取り揃えたんですよ、森村作品を」
『……』
「……」
森村先生が電話口で沈黙するのは、これが初めてだったかもしれない。
そして先生は、電話越しに大きく息を吸って、吐いた。
『黒幕はきみか』
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