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第19話 こうして僕は30歳で魔法使いになった……いや、そういう意味の方ではなくガチで②
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【水流魔法=アクア】
手のひらから水を放出する水系の初級魔法。
放出できる水の量は消費する魔力量に比例する。
(『ゴブリンでもわかる魔法入門』より抜粋)
うん。ハッキリ言って、たいした魔法ではない。
師匠の本の中でもかなり地味な方だ。
そりゃ出せる水の量が例えばダムみたいだったらともかく、そんなことは当然不可能。
現状の俺では、せいぜい相手の服を濡らすくらいが関の山だろう。
だが、自由こそ魔法の真骨頂。
師匠の本にもそう書いてあった。
こんな魔法でも物は使いよう。工夫次第でなんとでもなるはず。
俺が思いついたのもまさにそういう策だ。
……一応断っておくが、またおっぱいが見たいから服に水をぶっかけようとかそういう邪な発想ではない。
それに関しては一瞬脳裏をよぎっただけで、実行に移す気はない。信じてほしい。
ともかく、これで極めるべき魔法は決まった。
「よし、やるか」
というわけで、俺は早速練習を開始した。
まずは居酒屋での教えを反芻しながら、試しに一度やってみる。
目を閉じて己の体内にイメージを膨らませると、やはりフワフワとした光が右手にまとわりついていた。
「……ふう」
ここまでは上出来。昨日の感覚を忘れていない。
問題はこの後。
さらに一歩先へと踏み込んでいく。
魔法の発動だ。
ちなみに、師匠の本には各魔法ごとに『ユージ‘sワンポイントアドバイス』というものがある。
料理本かよと若干ツッコミたくなったが、これが意外に結構有効だった。
そこには、「魔力をチャプチャプとコップに入った水を揺らすようなイメージで扱うとGOOD!」と書かれていた。なお、ユージとは著者である師匠の名前だ。
「……!!」
試しにイメージしてみると、集めた魔力が徐々に別の性質のものへと変化していく感覚が湧いてくる。
魔法の“素”……とでも言うべきか。
さすが経験者のアドバイスなだけある。こんなにすぐ効果が出るとは。
そのままさらにイメージを強く固めていく。
すると、今なら放てそう――という、ここがピークだと感じる瞬間がやってきた。
いける――!
そう思った俺は、間髪入れずに右手を突き出し叫んだ。
「 【水流魔法】!」
シャァアア――。
「……で、出た」
具現化した水流が、溢れるように手のひらから飛び出す。
ぶっちゃけ、威力としてはものすごくショボい。
軌道は山なり。勢いも蛇口を軽くひねったくらい。
これならジョウロで水を撒くのと大差ない。
だが、それでも俺は感動していた。
昨日と同じか、それ以上に。
何もないところから水を生み出す。
そんな大道芸みたいなことを、タネも仕掛けもなく純粋にやってのけたのだ。
元の世界では絶対に体験できない行為。
夢みたいだった。
「これが……魔法」
そこからは無我夢中だった。
俺は時間も忘れて魔法の練習に没頭した。
人生でこんなにひとつのことに熱中したのは初めて、ってくらい。
朝も昼も夜――は意識があの世に出張しているのでできなかったが、隙あらば水を出す生活。
目が覚めたら放水。朝食の合間にも放水。トイレでは放尿。
仕事中に至っては、モップがけで使用する水を自分の魔法で賄うほどの徹底ぶり。
なんなら夢の中でも放水し続けた結果、翌朝俺の股間も放水していたなんて事件もあった(猛省しました)。
とにかく、俺は生活のほぼすべてを水流魔法の習得に捧げた。
そんなこんなで一週間後――。
とうとう納得のできるクオリティーまで魔法を仕上げるに至った俺は、善は急げと作戦実行を決断した。
正午。
いつも通り草原にやって来たメスガキを仁王立ちで迎える。
「おはよ」
「……ああ、おはよう」
いつからだったか、俺たちは会えばきちんと挨拶を交わすようになった。
昼なのに「おはよう」なのは、俺の起床時間が遅かったころの名残だ。
つくづく奇妙な関係だな……と思う。
毎日顔を突き合わせているのに、お互い名前も知らない。
殺し殺された数ばかり積み重なっていく。
だが、今日でその関係も終わる。
そう思うと、ほんの少しだけ名残惜しい気持ちがなくもなかった。
正直なところ、心が痛まないでもない。
これから俺がやろうとすることはかなり苦しみを伴うものだ。
下手したらやられる側はパニックを起こしてしまうかもしれない。
「悪いが……しばし地獄を味わってもらうぞ」
「え、なに? また悪だくみ? どうせ失敗するんだからやめればいいのに。それとも負けるのが好きとか? もしかしておじさん、ドM?w」
「……」
あ、もういいです。容赦しません。
「くらいやがれ――【水流魔法】!」
「ッ!?」
バシャアアアアッ――!
飛び出した水流がメスガキの顔面を飲み込む。
狭めの浴槽なら満たせそうなくらいの水量。速度もそれなりに上がっている。
練習の効果が如実に表れた、渾身の一撃。
……が。
もちろん、メスガキにダメージなどない。
量も勢いも初めてのときと段違いとはいえ、この程度ではただの水浴びと変わらない。
「……フ」
それでも俺は笑った。
なぜなら、本番はむしろここから――ひいては数ある魔法からコイツを選んだ目的だからだ。
「ふんっ……!」
俺は手を伸ばしたまま意識を集中し、一気にこぶしを握った。
瞬間、水流がピタリと停止する。
「!?!?!?」
それも……メスガキの頭部を包み込んだまま。
手のひらから水を放出する水系の初級魔法。
放出できる水の量は消費する魔力量に比例する。
(『ゴブリンでもわかる魔法入門』より抜粋)
うん。ハッキリ言って、たいした魔法ではない。
師匠の本の中でもかなり地味な方だ。
そりゃ出せる水の量が例えばダムみたいだったらともかく、そんなことは当然不可能。
現状の俺では、せいぜい相手の服を濡らすくらいが関の山だろう。
だが、自由こそ魔法の真骨頂。
師匠の本にもそう書いてあった。
こんな魔法でも物は使いよう。工夫次第でなんとでもなるはず。
俺が思いついたのもまさにそういう策だ。
……一応断っておくが、またおっぱいが見たいから服に水をぶっかけようとかそういう邪な発想ではない。
それに関しては一瞬脳裏をよぎっただけで、実行に移す気はない。信じてほしい。
ともかく、これで極めるべき魔法は決まった。
「よし、やるか」
というわけで、俺は早速練習を開始した。
まずは居酒屋での教えを反芻しながら、試しに一度やってみる。
目を閉じて己の体内にイメージを膨らませると、やはりフワフワとした光が右手にまとわりついていた。
「……ふう」
ここまでは上出来。昨日の感覚を忘れていない。
問題はこの後。
さらに一歩先へと踏み込んでいく。
魔法の発動だ。
ちなみに、師匠の本には各魔法ごとに『ユージ‘sワンポイントアドバイス』というものがある。
料理本かよと若干ツッコミたくなったが、これが意外に結構有効だった。
そこには、「魔力をチャプチャプとコップに入った水を揺らすようなイメージで扱うとGOOD!」と書かれていた。なお、ユージとは著者である師匠の名前だ。
「……!!」
試しにイメージしてみると、集めた魔力が徐々に別の性質のものへと変化していく感覚が湧いてくる。
魔法の“素”……とでも言うべきか。
さすが経験者のアドバイスなだけある。こんなにすぐ効果が出るとは。
そのままさらにイメージを強く固めていく。
すると、今なら放てそう――という、ここがピークだと感じる瞬間がやってきた。
いける――!
そう思った俺は、間髪入れずに右手を突き出し叫んだ。
「 【水流魔法】!」
シャァアア――。
「……で、出た」
具現化した水流が、溢れるように手のひらから飛び出す。
ぶっちゃけ、威力としてはものすごくショボい。
軌道は山なり。勢いも蛇口を軽くひねったくらい。
これならジョウロで水を撒くのと大差ない。
だが、それでも俺は感動していた。
昨日と同じか、それ以上に。
何もないところから水を生み出す。
そんな大道芸みたいなことを、タネも仕掛けもなく純粋にやってのけたのだ。
元の世界では絶対に体験できない行為。
夢みたいだった。
「これが……魔法」
そこからは無我夢中だった。
俺は時間も忘れて魔法の練習に没頭した。
人生でこんなにひとつのことに熱中したのは初めて、ってくらい。
朝も昼も夜――は意識があの世に出張しているのでできなかったが、隙あらば水を出す生活。
目が覚めたら放水。朝食の合間にも放水。トイレでは放尿。
仕事中に至っては、モップがけで使用する水を自分の魔法で賄うほどの徹底ぶり。
なんなら夢の中でも放水し続けた結果、翌朝俺の股間も放水していたなんて事件もあった(猛省しました)。
とにかく、俺は生活のほぼすべてを水流魔法の習得に捧げた。
そんなこんなで一週間後――。
とうとう納得のできるクオリティーまで魔法を仕上げるに至った俺は、善は急げと作戦実行を決断した。
正午。
いつも通り草原にやって来たメスガキを仁王立ちで迎える。
「おはよ」
「……ああ、おはよう」
いつからだったか、俺たちは会えばきちんと挨拶を交わすようになった。
昼なのに「おはよう」なのは、俺の起床時間が遅かったころの名残だ。
つくづく奇妙な関係だな……と思う。
毎日顔を突き合わせているのに、お互い名前も知らない。
殺し殺された数ばかり積み重なっていく。
だが、今日でその関係も終わる。
そう思うと、ほんの少しだけ名残惜しい気持ちがなくもなかった。
正直なところ、心が痛まないでもない。
これから俺がやろうとすることはかなり苦しみを伴うものだ。
下手したらやられる側はパニックを起こしてしまうかもしれない。
「悪いが……しばし地獄を味わってもらうぞ」
「え、なに? また悪だくみ? どうせ失敗するんだからやめればいいのに。それとも負けるのが好きとか? もしかしておじさん、ドM?w」
「……」
あ、もういいです。容赦しません。
「くらいやがれ――【水流魔法】!」
「ッ!?」
バシャアアアアッ――!
飛び出した水流がメスガキの顔面を飲み込む。
狭めの浴槽なら満たせそうなくらいの水量。速度もそれなりに上がっている。
練習の効果が如実に表れた、渾身の一撃。
……が。
もちろん、メスガキにダメージなどない。
量も勢いも初めてのときと段違いとはいえ、この程度ではただの水浴びと変わらない。
「……フ」
それでも俺は笑った。
なぜなら、本番はむしろここから――ひいては数ある魔法からコイツを選んだ目的だからだ。
「ふんっ……!」
俺は手を伸ばしたまま意識を集中し、一気にこぶしを握った。
瞬間、水流がピタリと停止する。
「!?!?!?」
それも……メスガキの頭部を包み込んだまま。
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