210 / 931
過去に囚われたままの彼
過去に囚われたままの彼
しおりを挟む
その日の夕方、仕事を終えた彼が迎えに来てくれた。橘さんからおおよそのことは聞いていたみたいで、茨木さんと橘さんと肩を並べ、カウンター席で何やら難しい顔をして一時間近く話し込んでいた。
「ごめんな未知。遥香もごめんな」
待ちくたびれて、胸元にしがみついたまま眠ってしまった娘の髪を指先で優しくそっと撫でてくれた。
「前に一度、遼成が同性婚していると説明したが、次男の信孝も同性と結婚し、一太くらいの養子を二人育てている」
その言葉にようやく納得した。
なぜ縣さんが、同性同士の夫婦に驚かなかったのか。偏見を持たずに自然に接してくれたのか。
「縣さんも、うちの親父と同じだ。組の連中の前では口喧しい昔気質の気難しいオヤジだが、孫たちの前ではガラリと性格が変わる。目に入れても痛くないくらい孫たちを可愛がっているから、遼成たちからは、親バカならぬ孫バカだ、そう言われている」
彼がスマホの画面を見せてくれた。
彼くらいの年齢の長身の男性と、僕と同世代くらいの青年が笑顔で写っていた。一太くらいの男の子が二人。男性の足にしがみついていた。片方の子は満面の笑みを浮かべていたけれど、もう片方の男の子は恥ずかしいのか
俯いていた。一瞬双子かなと思ったけれど。
「信孝とその妻のナオだよ。信孝は俺より二歳年上。ナオは未知と同じ二十一歳だ。笑っている方が長男の晴(はる)五才、俯いているのが次男の未来(みく)だ。推定五才。信孝たちに引き取られるまで戸籍がなかったから、本当の名前や、年齢、生年月日が全く分からない。誰が母親なのかも分からない。信孝とナオは、晴の双子の弟として愛情を注いで育てている」
血の繋がりなんて関係ない、縣さんの言葉を思いだし、スマホの画面に釘付けになった。
「ごめんな未知。遥香もごめんな」
待ちくたびれて、胸元にしがみついたまま眠ってしまった娘の髪を指先で優しくそっと撫でてくれた。
「前に一度、遼成が同性婚していると説明したが、次男の信孝も同性と結婚し、一太くらいの養子を二人育てている」
その言葉にようやく納得した。
なぜ縣さんが、同性同士の夫婦に驚かなかったのか。偏見を持たずに自然に接してくれたのか。
「縣さんも、うちの親父と同じだ。組の連中の前では口喧しい昔気質の気難しいオヤジだが、孫たちの前ではガラリと性格が変わる。目に入れても痛くないくらい孫たちを可愛がっているから、遼成たちからは、親バカならぬ孫バカだ、そう言われている」
彼がスマホの画面を見せてくれた。
彼くらいの年齢の長身の男性と、僕と同世代くらいの青年が笑顔で写っていた。一太くらいの男の子が二人。男性の足にしがみついていた。片方の子は満面の笑みを浮かべていたけれど、もう片方の男の子は恥ずかしいのか
俯いていた。一瞬双子かなと思ったけれど。
「信孝とその妻のナオだよ。信孝は俺より二歳年上。ナオは未知と同じ二十一歳だ。笑っている方が長男の晴(はる)五才、俯いているのが次男の未来(みく)だ。推定五才。信孝たちに引き取られるまで戸籍がなかったから、本当の名前や、年齢、生年月日が全く分からない。誰が母親なのかも分からない。信孝とナオは、晴の双子の弟として愛情を注いで育てている」
血の繋がりなんて関係ない、縣さんの言葉を思いだし、スマホの画面に釘付けになった。
42
あなたにおすすめの小説
始まりの、バレンタイン
茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて……
他サイトにも公開しています
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
冬は寒いから
青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。
片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。
そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。
「二番目でもいいから、好きになって」
忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。
冬のラブストーリー。
『主な登場人物』
橋平司
九条冬馬
浜本浩二
※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
染まらない花
煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。
その中で、四歳年上のあなたに恋をした。
戸籍上では兄だったとしても、
俺の中では赤の他人で、
好きになった人。
かわいくて、綺麗で、優しくて、
その辺にいる女より魅力的に映る。
どんなにライバルがいても、
あなたが他の色に染まることはない。
聖獣は黒髪の青年に愛を誓う
午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。
ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。
だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。
全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。
やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる