笑顔でナニ言ってんですか？

vs. 過去の女。

それはそれとして。

って、まぁ。
そこの組合長のコトは置いといて。
組合員と職員有志が、帰ってきてめっちゃお怒りのおやじ殿と一緒に、母を持ってったゴロツキどものトコロに乗り込んで。
ゴロツキどもは死んだ方がマシ……ってカンジになったらしい。
母も命は助かったけど……。
でも、あの女冒険者は１人だけまんまと逃げた、らしくてさ。
猛り狂ったおやじ殿が、八つ当たりを兼ねて女冒険者と関わり合った人身売買組織を壊滅させて兵隊さん達に感謝されたり。
捕まってた他の被害者──特に女の人達に、いろんな意味で絡まれたりナンだりいろいろあったけど。

母は。

命は助かった──そう言ったじゃない？
でもさ。
あの女冒険者、ゴロツキどもに母を引き渡す時。
……好きにしろって。
どーせ遠くに売り飛ばすんだから、今のうちに好きなだけ楽しめ……って。
当時は何の事だか、さっぱり意味不明でさ。
今は……はっきり分かるよ。
あの女冒険者は、自分だって女に生まれたクセに、女として耐えられないようなコトを母に……ね。



話しながら思い出して、また頭の中がぐるぐるしてきた。



おやじ殿や組合有志、兵隊さん達に助け出された母は──生きているとはとても思えないくらい非道い状態だった、らしい。
表面的、肉体的な傷は治癒魔法やら魔法薬やら使ってナンとかなったけどさ。
心の方が……ね。



その場に居た全員が、ナニかを察して黙り込んだ。

……そーだよ。
あの女冒険者がタクらんでヤラかした事が原因で、それから半年後。
母は、この世を去りました。

つまり。
あの女冒険者は私には母の仇。
おやじ殿にとっては、身内の仇ってワケだ。

あの女冒険者は、その時に組合を除名になったハズだし。
犯罪に加担したって事で、町の方からも指名手配されたハズなんだけど。
どーやら、さっさととっとと町はおろか、国まで捨てて逃げてたんだよ。

「……ねぇ？　おやじ殿」
「……あの女、ノコノコと顔を出しやがったって？」

その場の空気が、急にひんやりと……。



人の本気の怒りって、気温もおかしくするんだろーか。

当人はいろいろメンドくさがって、上級から位を上げる事を拒否してるけどさ。
本当なら、とっくの昔に特級になっているハズの、現在上級冒険者。
銀狼ことシグルド──おやじ殿が、組合の出入口付近で。
物騒な気配を撒き散らしながら、物騒な笑みを顔に浮かべて立っていた。