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89話 転移でサンビークへ

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 医務室に入ると、ソルトとメイランはベッドに腰掛けて話をしていた、近くには看病に来たカエデとセシルも居た。
 部屋に入って来た俺に気付いたメイランがこちらに駆け寄る。

「コウガ様……本当に、申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げて謝るメイラン。

「……え?」

 何故メイランが謝ってくるのか分からず、ぽかーんとしてしまった。

「メイラン、何に対してなのか分かってないみたいっすよ?」
「あの……エクスプロージョンノヴァを、コウガ様達の方面へ放った事……相手を倒す為とはいえ、2人を危険な目に合わせたのだから、謝らなければと……」

 あぁ……なるほど、確かに上級魔法をぶっぱしてくるとは思わなかったし、打ち合わせもしていなかった。
 しかし、騎士団3人相手にするならばあれくらいの魔法でないと倒せなかったのも事実だ、俺としては良くやってくれたと思う……お咎めする訳がない。

「逆だよメイラン、あれが無かったら騎士団2人を倒す事は出来なかった筈だ、ありがとうな」
「……えっ?」

 逆にありがとうと言われて戸惑ってしまうメイラン。
 そこにソルトがメイランの肩に腕を回す。

「ほら、ご主人ならこういうって言ったじゃないっすか、気にする事ないっすよ!」

 にやっと笑ってメイランを励ますソルト、俺が来る前に何を話していたか分からないが、ソルトの口振り的に恐らくソルトにも危険な目に合わせたって事で、事前に謝っていたのだろう。

「で、でも……2人を危険な目に……」
「確かに、連携としては悪い見本だったかもしれないが、騎士団に勝つ事を考えたらあの火力は必要だったと思うぞ。逆にあれくらいは俺達が合わせられないといけなかったんだよ」
「……」

 メイランは思った、私が勝手にした事だったのに……何でコウガ様は私を責めずに自分の反省を……と。
 しかし、よくよく考えればコウガ様はこんな御方だったなと思い直すのだった。

「だから、気にするなメイラン」
「……はい」

 薄らと涙を浮かべながらも、少しだけ笑顔が戻るメイランだった。


 俺達3人の身体の異常がないのを確認してから、みんなで医務室からティナ達やエリスタが待つ応援席へと移動する。

「おかえり、身体は大丈夫か?」

 ティナが俺達の心配をしてくれる。

「あぁ、全員問題ない」
「そうか、なら良かった」

 心配だったのか、無事だと分かり一息をついた。

「あの騎士団相手によく戦えたわね、アイツらの相手は私達でも骨が折れるのに」
「うむ、凄いと思うぞ」

 ティナとレインから称賛を貰う。
 負けてはしまったが、2人がこう言うって事は本当に凄い事なんだな……
 どうやらティナ達は騎士団と戦った事があるらしい。

「ありがとう、まぁ負けたのは悔しいが……この武闘会はいい経験になったな」
「そうだね、私はご主人様に負けちゃったけど、ご主人様と戦えて満足だよ!ね、シェミィ!」
「ん!あの時、擬人化しておけばと良かったと少し後悔」

 シェミィが擬人化を披露してくれたのはあの戦い以降だったからな、擬人化した姿でシェミィは戦えるのだろうか?後で聞く必要がありそうだな。

「私も、この武闘会で新しい技を覚えられたし、悪くなかったわ。自分の課題も色々見付かったし、精進したいわね」
「自分も、みんなと戦えて楽しかったっす!メイランの言う通り、自分も更に強くなりたいとも思ったっすけどね……」

 メイランとソルトは騎士団に負けたのが悔しかったみたいだ、俺も同じ気持ちだ。
 俺の力は、みんなが強くなればなるほど強くなるのだが、自分自身の力はまだまだ未熟だ……もっと強くなりたい、そう思う。

「私は最初マスター達の敵だったが、呪いが悪さしているとはいえマスターに負けてしまったからな。呪いを打ち破るのもそうだが……この呪いに負けないようにもっと精進せねば、みんなの役に立つと決めたからな」

 腰に差してある刀に触れ、カチャリと音が鳴る。

「良いですね、鍛えるのならティナ達の空いてる時間ならいつでも大丈夫ですよ!」
「うむ、いつでも言ってくれ!」
「ありがとう」

 ミツキ達も全面的に協力してくれる、本当に頼もしい人達と出会えたな。

「さて、武闘会終わった後にエリスタから話を聞く事になってるのだが……ちょっと話があってな」

 控え室で騎士団のノシュタールと話した内容を全員に説明した。

「なるほど……騎士団にドラゴンの情報が……」
「そうなんだよ、だからあまり周りにも聞かれなくない話だと思う。だから、話をする場所は騎士団の人達がどう言うかで変わるんだよな……」

 だからこそ、話す場所の指定を向こうがしてくれたら有難いのだが……

「そこは騎士団達が指定してくると思うわ、武闘会が終わるまで待ちましょう」
「そうだな、だとしても準決勝と決勝、そして3位決定戦もあるから、まだ時間はある。その間にセシルの件を済ませたいんだがいいか?
 」

 そう、セシルの借金を返して奴隷契約する約束になっている。
 行くのはサンビークのインカース奴隷商館だ、ガルムさんが居れば良いのだが……そこは考えても仕方ない、取り敢えず行ってみるしかないな。

「なるほど、分かりました!なら俺の出番ですね!」

 ミツキの転移は本当に助かる、俺も早く空間魔法のレベルが上がって欲しいものだな……ストレージを頻繁に使っていないのもあるのか、レベルが全然上がらない。
 ミツキが言うように、出し入れを頻繁にする必要がありそうだ。

「ミツキ頼むぞ。セシル、行こうか」
「あぁ、分かったマスター」

 俺とセシルは転移の為にミツキの側へ。

「ご主人様、3人で大丈夫?私も行こうか?」

 心配なのか、カエデが声を掛けてくる。

「いや、カエデはここに残って欲しい、シェミィの移動距離に限界があるのかとかも試してみたいからな」
「なるほど、分かった……」

 不安というより寂しいみたいだな、耳と尻尾に元気がない。
 俺はカエデの頭を優しく撫でる。

「うにゅ」
「すぐ戻るから、お留守番頼むな。シェミィも、俺達が転移した後に俺の影に移動して顔を出してくれるか?」
「ん!分かった」

 シェミィが頷いて、ママであるカエデとくっつく。

「ありがとうシェミィ」
「じゃ、行ってくるよ」

 俺達3人は人の目のない所に移動した、転移を見られる訳にはいかないからな。

「ではコウガさんとセシルさん、俺に触れてくださいね」

 俺とセシルはミツキの肩に手を置く。

「転移!」



 視界が開けると、サンビークで泊まったことがある宿屋近くの細路地に転移した事が直ぐに分かった。

「おぉ、サンビークだ……ほんの1週間前くらいなのに、何だか懐かしく感じるな」
「コウガさん達はサンビークからノイシュへ来たんですよね?」
「あぁ、そしてノイシュに来て直ぐにミツキと出会ったんだよ」
「ふむ、私もその時期に出会えていたら良かったな……」

 少しだけ後悔しているかのような顔をしたセシル。

「そればかりは仕方ないさ、さて……シェミィ、いるか?」
「……ん!少し時間掛かったけどこれた!」

 シェミィが周りを見て大丈夫と判断して飛び出してくる。

「シェミィが来れるのはでかいな、万が一何かあった際の俺とカエデの緊急連絡に使えそうだ」
「ん!危険あったら知らせる!」
「その時は頼むぞ、それじゃ……行くか」

 俺達は商業ギルドへ向かった。
 初めてはいるが、客層が商人やお店の店主等であろう人達がチラホラと見受けられた。
 空いている受付へと向かう。

「いらっしゃいませ、ご要件をお伺いします」
「こっちのセシルが背負っている借金を返したいのだが……」
「かしこまりました。セシル様、ギルドカードを出して貰えますか?」
「は、はい」

 セシルはギルドカードを提出、セシルが申し訳なさそうな顔をしていた。
 こうすると決めたとはいえ、やはり悪いなって気持ちがあるのだろう。

「確認しました。……金貨30枚ですね、これだけの大金……大丈夫なのですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「……失礼ですが、借金の内容はどのような?ギルドカードに登録されていた供述だと、PTで背負った借金と書いているのですが……そんな風には見えません。そちらに居るミツキ様もいらっしゃるようなPTに借金とは……」

 ここで出てきた意外な名前、ミツキ。
 ミツキはこんな所にまで名が通っていたとは……

「俺をご存知で?」
「はい、サンビークの商業ギルドでは知らない人は居ませんよ。セシル様、借金の内容をお話頂けませんか?」
「……ここで話すのは、ちょっと」
「……分かりました、別室に案内します。訳ありそうなので、ギルドマスターも呼ばせて頂きますが……宜しいですか?」
「……はい」

 受付嬢の案内で応接間に通される、そこで待っていると……よく顔の知る人物と共に商業ギルドのギルドマスターが部屋に入ってきた。
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