ご主人様の枕ちゃん

綿入しずる

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Ⅰ‐翡翠の環

綿詰めⅲ*

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 首輪が新しくなっても、俺からは見えないしあまり変わりがないと思っていたのは最初だけだ。主人は以前よりさらに首元に触れてくる機会が増えたし――俺も気がつけば触れている。芯に同じような鉄が入っているのだとしても、滑らかな石に覆われた環はまったくの別物で、触り心地がいい。
 首輪なんて自分はみじめな奴隷なのだと感じさせる邪魔な物だと思っていたのに、何か違う。奴隷なのは前からだが、今はただの奴隷ではなく、この人の物にされてしまったんだと思う。
 そう思えばなんとなく、性奴隷の扱いも少しは納得できて慣れるのではと期待したのだが、それはまだだった。何せ単純に苦しいのだ。折檻とはまた違う苦痛。
「さわって、ください……出したい……」
「集中すれば尻でイける。締めてみろ」
 首輪を替えて以来、射精を禁じられるようになった。あまり陰茎にも触れられず、最初に勃起させるだけで、後ろを弄り始めると手が離れてしまう。
 今日は主人の上、背後から抱えられて指を入れられた。こうして主人の体が近いと熱くて、声も近くて、朦朧としてくる頭に響く。時折触れる床だけが冷たい。
 股の間に入れられた手が押しつけられる。横でびくと跳ねた物にはやはり触れずに、指は尻の中を揉む。
「っく、あ」
 言われたとおりに指を締めつけながら、俺は主人の腕を掴んだ。
 指示がない限りは自分で陰茎などに触れるのもまた禁止されているが、主人の体を掴むのは許されていた。苦しくなるといつも縋ってしまう。苦しいことをするのもこの人なのに、助けてくれるのもこの人しかいないのだ。俺にはこの人しかいないと首輪が言う。
「ほら、もう少しだ」
 臍を撫でて掌を置かれる。その温かさにもじんとする。
 主人の手は扱いてはくれない代わりに、腹を擦ったり、胸を揉んで乳首をつねったりするようになった。最初はくすぐったさや痛みが強かったが、そうして触れる手の熱と共に、尻の中を擦られて生じる疼くような快感が全身に広げられていく。
 主人の熱い物が尻に触れている。さっき抓って擦られた乳首がじんじんと熱い。重なった体が熱い。触れられると苦しいのに熱くて気持ちよくて、おかしくなる。主人の息遣いと濡れた音が響いて意識が混ぜられる。ちかちかする。
「うぅ、っあ、あ……っん!」
 幾度目か、押しつけられた指先に腰が跳ねた。
 湧き上がる快感に体が一気に熱く、閉じた視界が真っ白になる。その強さに思わず掴んだ腕を抱き締めて、股で挟みこんでしまう。心臓が爆ぜそうで苦しい。相変わらず触ってはもらえず射精はできていないのに、イったみたいだった。
 ぎゅうと締めつけた、入れられた指二本の存在感が大きくてたまらない。首筋に熱い息を感じてぞわぞわとする。
「よし、いい子だ。……――もう少し頑張るとするか」
 振り乱した髪を撫でつけて頬に口づけられた。褒める言葉には、何かついてきた。
 快感は引ききっていないが、体は元の体温を取り戻すように冷えはじめた。それを見計らったように主人の手が再び動き出す。指が抜かれて――三本目が突きつけられて肌が粟立った。そこに触れられるだけでいつもとは違う刺激があった。前は達したら終わりにしてもらえたのに、まだ続くのか。
「いやっ……」
 拒否の声を上げても聞き届けられないのは毎度のことで、力が入らない体では抵抗もできない。また指を埋められた。さらに増えた指を締めつけて、籠もる息を吐く。
 二本目を入れられたときよりあっさりと入ってしまった。より大きく、目一杯に広げられ、ただ出す場所だったはずのそこを使えるようにされている。
 もう前とは違うのがよく分かった。感じるのは痛みではない。ただでも苦しく気持ちいいのに指先がいいところをぐりぐりと押すのに涙が滲む。また奥から何か湧いて、体が疼いてくる。
「今日は褒美に出させてやろうか」
 主人が囁いた。抜き差しされ尻の中を広げられながら、また硬くなり始めた物が主人の手に包まれる。
「は、あ」
 数日ぶりの刺激。露出した先端を擦られて身悶える。以前より、今まで覚えがないほど気持ちいいのはさっきの絶頂がまだ体に残っているからか。簡単に膨れてすぐに張り詰める。裏からも押されて、閉じきれない口の端から唾液が垂れた。
「出していいぞ。出せ」
「あ――」
 もう一度、頬に接吻した主人の声が聞こえると勝手に、溢れるように射精した。少しも我慢なんてできなかった。初めて此処に連れてこられた日以来毛のない股が、どろどろと精液で濡れる。
 少し置いて、指が抜かれた。尻が熱っぽくひくつくのを感じながらタイルの上に横たえられる。緩んだところを見せるように足を開く。
 そこを指で撫でられると腹が疼いた。さっきと違って顔が見えるので表情を変えないように努力するが、どうしても眉が寄る。抜かれたのにまだ何か入っているみたいな違和感がある。
 しばらくそうやって具合を確かめるようだった主人が、硬く立ち上がった陰茎を尻へと擦りつけ始める。今日こそ入れられてしまうのでは、三本も入ったならもう、これも入ってしまうのではないか。緊張して想像して、体がぞわぞわと震えた。
 でも今日も、入れられはしなかった。捲るように擦りつけられて、精液がかけられる。ほっとした。今日もやっと終わりのようだ。

「自分で洗いますから……」
「何を今更」
 いつもならここで起きあがって体を流すのだが、今日は怠くて、体が半分くらいしか言うことを聞かない。
 結局主人に抱えられて浴槽に入り、頭から湯をかけられる。いつも以上にぐったりとしてもう何もしたくないが、かといって洗われたくもない。隅々まで触れる手は恥ずかしくて困るけれど、今日はまだ体中が敏感で、洗うだけでも変な声が出そうだ。
 だというのにやっぱり主人は聞いてくれるわけがなくて。むしろどこか揚々と石鹸液の瓶を引き寄せた。股座は流したし、そもそもそんなに汚れていないと思うのだが。
「いや、いやです」
「恥じらっているほうが私は楽しいぞ。観念しろ」
 相変わらず悪趣味なことを言う。離れて逃げるわけにもいかず、頭に液をつけられて揉まれると、俺はもう目を閉じるしかなかった。 
 撫で回すようにして頭を洗われる。漂ういい香りは橙という花からとった香りなのだとはこの前教えてもらった。主人の使う香はほとんどこれを使ったものだ。
「お前は態度のほうも少し解れてきたな。口数が増えたし、物を訊くようにもなった」
 泡を流す二度目の湯。直後、不意に降ってくる声。
 抵抗を咎められたのかと思って顔が強張ったが、主人の言葉は続いた。
「黙れと言っているのではない。――だが私が居ないときに誰かと話していないだろうな」
 目元を擦って瞼を上げると金の瞳とぶつかる。泡のついた主人の手は首へと伸びてきた。指先が首輪の下を撫でる。
「ご主人様の居ないときは、誰も来ません。部屋からも出ません」
 洗われながら答える。妙な問いだと思った。
 俺は未だに、他の奴隷とも会わせてもらってはいない。使用人たちとする仕事もほとんどない。こうして主人に連れられているか、あとは部屋で待っているかだ。話し相手がまず居ない。
 秘書の彼だけは仕事について言葉をかけてくることがあったが、それは主人の前だ。他の使用人はなるべく俺と関わらないように、目も合わせないようにしている。給仕なども慣れたのかちらちらと見られることも減って、最近はすっかり元どおり置物みたいな扱いだ。
「ずっと黙っているのか。何をしている?」
 昨日、一昨日、その前。部屋で何をしていたか思い出してみるうちに、手は胸へと滑ってきた。赤く腫れた乳首を摘まむように洗われてびくりと身が竦む。
「……なにも。部屋を……冷やして待って、います。言いつけどおり、に」
「眠っているのか。ベッドの上だろう」
「っ」
 やたらとそこばかり触れて、話を続けながら洗われる。声が跳ねるが答えないわけにもいかず、腋へと滑りくすぐってくるのにも体を逃さないよう努力しながら返事をする。そういうつもりで、わざと声をかけているに違いない。本当に趣味も意地も悪い。
「暇潰し――読み物でも与えようにもな……字はまるで読めないのだったか」
「はい……っ」
 陰部から爪先まですべて。結局俺はさらにぐったりするほど、隅々まで洗われた。当然後のほうはろくに答えられなかった。
 そうして泡を流され主人が使用人を呼びつけたところで、本当に今日の我慢の時間は終わったようだ。あとは大人しく待っていろと言われたので、今日は主人の為に泡を作ることもなく、体の違和感が抜けるのを待ち温まった首輪を弄りながら――勿論黙って、長い黒髪を櫛で梳いて洗う様をぼんやり眺めた。
 部屋で静かに待っているときのように、言いつけどおりにしている。俺はそれしか知らない。字なんて読めないし、他にできることも、命じられなければすることもない。あんなに広い良い部屋だって、この大きすぎる浴槽だって、俺には余るものでしかないのだ。
 何か言い返したい気もしたが、それが何かも分からない。当然主人相手に言えることでもないだろうけど。
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