【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha

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「ピーコート・・・?」



呟いた星野青さんは急に顔を歪めて、笑いを堪えようと頑張っているような顔になった。



その顔を見て、小さくだけどキュンッ────...とした。



そんな自分には驚いていると、星野青さんは必死に笑いを堪えようとしているのか小さく呼吸を整えている。



「そのダッフルコート、凄く似合ってるけど。」



ヤリ○ンの鎌田さんが私にそう言った瞬間、星野青さんが笑いながらも怒った口調になった。



「本人にとっては死活問題なんだろ?
こんなにブスな顔をしながら一生懸命言ってきたんだから。」



ブスと悪口を言っているけれど星野青さんはとても優しい人だと分かる。
そんなの簡単すぎるくらい簡単に分かる。



「そのダッフルコート嫌いなのか?」



「ううん・・・。
知らないと思いますけど、これ“Hatori”のダッフルコートなんです。
凄く高くて良いコートで、お父さんが私に“中学生になったから”って言って買ってくれたんです。」



「“Hatori”くらい俺でも知ってるからな!?
外部生だからって舐めんなよ!?
・・・って、中学生なのか。
そりゃあ色々あるよな~、中2病というヤバい病気があるくらいだしな。」



そんな言葉には自然と小さく笑ってしまうと、星野青さんは私の顔を見て優しい笑顔で頷いた。



「女はやっぱり笑った顔の方が可愛いな。」



“ヤリ○ン”の鎌田さんの言葉よりも素直に私に入ってきた。



「女も鼻水垂らすのな、ビビった!!」



「はい・・・?」



「ほら、俺女きょうだいいねーから知らなかった。」



「いや・・・女も人間ですし・・・。」



「人間だけど女だし。」



「はあ・・・。」



「で、ママからピーコートを買って貰えない、と。」



「はい・・・。」



「え、これ俺が買って良い流れ?
”Hatori“のピーコートは買えねーけど、普通のピーコートなら普通に買えるぞ?」



バイトをしてお金の重みを知っている星野青さんが、今日初めて会った私にそんな言葉を渡してくれた。



それにはまた号泣する。



一美さん以外でそんなことを言ってくれる人はいなかった。



私にピーコートを買おうとしてくれる人はいなかった。



私を可愛い女の子にしてくれる人はいなかった。



「ピーコート、学校で流行ってるんだ?」



鎌田さんの優しい声に号泣しながら頷く。



「みんな・・・っみんな着てて・・・っっ。
だからみんな・・・みんな、可愛くて・・・っっ。
凄く、凄く可愛くて・・・っっ。
私だけダッフルコートで全然可愛くない・・・っっ。
私のダッフルコートは全然可愛くない・・・っっ。
私はダッフルコートが全然似合わない・・・つっ。」



号泣しながら叫んだ私に星野青さんが一平さんのことを見た。



「この家、鏡ないのか?
・・・そんなわけねーか。」



涙や鼻水を手で拭っている私に鎌田さんがティッシュを渡してくれ、そのティッシュで私は涙と鼻水を拭いていく。



そしたら、青さんが普通に言ってきた。



「お前、可愛いぞ?」



キツい顔をした美人な女の人がタイプな星野青さんからそんなことを普通に言われ、それにも驚き固まった。



「ピーコートとか“たぶんアレだな”って感じのコートしか浮かんでねーけど、たぶんアレだろ?
うん、ピーコートでもお前は可愛いよ、うん、似合ってる似合ってる。」



私がピーコートを着ている姿を想像してくれているらしい星野青さんが“可愛い”と、“似合っている”と言ってくれて・・・。



「お前すげー可愛いし、どんなコートでも似合うだろ。
そのダッフルコートだってよく似合ってるしめちゃくちゃ可愛いぞ?」



星野青さんがその言葉もくれた。



私にその言葉を・・・。



それを受け取った瞬間、私は気付いた。



私は一平さんにそう言って貰いたかったのだと。



一平さんから“可愛い”と、“よく似合っている”と言われたら、私はきっとピーコートなんて欲しいとは思わなかった。



みんながピーコートを着ている中で喜んでダッフルコートを着ていた。



きっと、着ていた。



「よしっ、いつ買いに行くか。
・・・俺いつ暇だったかな。」



星野青さんがスマホを取り出し確認までしてくれたのを見て、私は笑いながら首を横に振った。



「もう大丈夫です。」



スマホからパッと顔を上げた星野青さんに今度は号泣しながら伝えた。



「もう大丈夫です・・・っ。
ありがとうございました・・・っっ。」



それだけ言った私に星野青さんは両手を私の頬に伸ばし、私の頬を両手で引っ張ってきた。



「無理矢理でも笑ってろ。
笑ってないとその顔でもマジでブスな女だからな?
女は笑ってる顔の方が絶対に可愛い!!」



星野青さんからのその言葉に、私は泣きながら頷いた。



星野青さんから両手で頬を引っ張られながら。



少しだけ“痛い”とも思いながら。



でも・・・



こんなにも“楽しい”と、“嬉しい”と、そうも思いながら。



“また会いたかったな。”



審査には通ることがない星野青さんに向かって、無理矢理だけど笑った。



一平さんにではなく、私の心を割った星野青さんに少しでも“可愛い”と思って貰いたくて、笑った。



もう会えないのだと思うと胸がギュゥ────...としたのを感じながら、笑った。



「また来るからな!!
その時はまた余計なことを教えろよ!!
お前の余計なこととか俺の弟が言う余計なことよりめちゃくちゃ可愛いすぎて、俺なら余裕で聞いてやれる!!
やっぱりピーコートが欲しいなら欲しいって言えば、俺がピーコートくらいいつでも買ってやるよ!!」











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