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出逢い。それから

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 魔族の支配下にある、西の密林地帯。明確な境界線はないが、隙間なく密集する巨大な木々の塊が、もう目と鼻の先にある。

「いいか。ここから先は魔族の支配地だ。魔族の数は人より遥かに少なく、例えここでも滅多に出会すことはないが、一人で来ようなどとは思うなよ。──あと、此処に来たことは誰にも言わないように」

 馬上にて、リオンがこくこくと頷く。バレたら大変なことになるだろうなあと、モンタギューは降り注ぐ朝の光を仰いだ。

「今からだと、日暮れ前には魔王城に着けるはずだ。フードは外すなよ」

 羽織るマントに付いているフードをリオンが更に下に引っ張り、目深に被るのを確認してから、アルオは馬の腹を軽く蹴った。

 

「お久しぶりです、ヒトの王。去年の秋以来ですね。──おや、これはまた」

 道などない、どこまでも続く深い密林。目印などなく、似たような景色の中を慣れたようにひたすら進むアルオたち。やがて、木々が途切れた中央に建つ、広大な石造りの城が見えてきた。蔦が絡み、日が暮れた薄闇にぼんやり浮かぶその建物は、不気味な雰囲気を漂わせている。

 呼び鈴を鳴らす前に扉を開けたのは、アルオたちが十五年前に、生まれてはじめて出会った魔族だった。アルオは「お前はここに住んでいるのか?」と、眉を寄せた。上位魔族はリオンを横目に「まさか」と愉快に笑む。

「ここに住むのは、魔王の庇護下にありたいと望む力のない下位魔族だけですよ。何せ、召し使いのようなことをさせられますからね」

「では何故、いつもいつも見計らったように城にいるのだ。呼び鈴を鳴らす前に扉まで開けて」

「あなた様は、退屈な日常に彩りを添えてくれる刺激そのもののようなヒトですから」

 人を何だと思っているのか、こいつは。刺すような視線も、ものともしない上位魔族。アルオは諦めたように「魔王はいるか」と、憮然とした態度で言った。上位魔族は慣れたように「いますよ」と微笑んだ。


 謁見室とよく似た広間にある玉座。魔王はそこにふんぞり返り「暇じゃああ」と座っていたが、扉からふいに現れたアルオの姿に黄色い声を上げた。

「ア、アアアルオォォォ!」

 胸を強調する服から露出した巨大な胸をぶるんぶるんふるわせ、腰下まで伸びた艶やかな黒髪をなびかせながら、魔王が走りよってきた。アルオは慣れたように、魔王の顔を右手で鷲掴みにした。額から伸びた角が指と指の隙間から出ている。ちなみにリオンは、後ろにいるモンタギューの腕の中に避難済みだった。

 リオンが目をぱちくりさせている。魔王が女だとは思っていなかったのだろうか。それとも単に見たことのないド派手な風貌にびびっただけか。少なくとも城に、胸や足をこれでもかと見せつける服装をしている者はまずいない。

「お前、わたしの子を拐ってどうするつもりだったのだ?」

 ぎりぎりとアルオが魔王の顔を締め付けていく。それすら魔王は嬉しいようで。

「手の温もりがこんなに近く……へ? アルオの子供とな?」

 指の隙間から、モンタギューに抱えられた小さなヒトをじっくり見つめ、魔王は口角を上げた。

「ア、アルオの小さいバージョン」

 はあはあ。
 息の荒い魔王。リオンはぞわっと全身に鳥肌が立った。アルオは魔王の顔から手を放し、目尻を尖らせながらずいっと顔を近付けた。

「惚けるつもりなら、十五年前のことを魔族の奴らにばらすぞ」

 ポッ。
 近すぎる距離に、魔王は少女のように顔を赤らめた。
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