36 / 44
第4章
黒幕の目的
しおりを挟む
それからしばらく馬を走らせ、遠目に港が見えてくる。
フェリクスの背中に必死にしがみついていたこともあってか、シャノンの腕は若干しびれていた。
でも、弱音なんて吐いていられない。そう思って、シャノンは必死にフェリクスにしがみついた。
「……ここからは、徒歩で行くぞ」
港町に入り、フェリクスが馬を止める。だからこそ、シャノンは頷いた。
そのまま二人で馬から降り、ゆっくりと徒歩で移動する。
革命が始まって以来閑散としていることの多い港ではあったが、一つの貨物船が停まっていた。
そして、その近くにいる一人の男性。
「トゥーミー卿」
そこにいたのは、紛れもないアントニーだった。彼は大きなカバンを持って、貨物船に乗り込もうとしている。
「……フェリクス殿下っ!」
それを見たシャノンよりも早く、フェリクスが駆けだす。シャノンが慌ててついて行く。
「……なっ」
アントニーがフェリクスの顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。かと思えば、後ろからついてきたシャノンを見て、忌々しいとばかりに顔を歪めた。
「……お前」
彼がそう言って、フェリクスを睨みつける。シャノンがフェリクスに追いつけば、アントニーは露骨に舌打ちした。
「お前は、王国軍を裏切ったのかっ……!」
そんな風に叫んだアントニーの声が、震えている。けれど、フェリクスは気にした素振りもない。ただ、口元を歪めるだけだ。
「あぁ、おあいにくさま。そもそも、俺は王国軍で骨をうずめるつもりはなかったんでな」
その美しい表情を歪め、フェリクスがそう告げる。その瞬間、アントニーがもう一度舌打ちをする。
「やはり、あのときもう一度殺しておくべきだったか……。ヘクターの奴、利用できるかもなんて言いやがるからっ!」
アントニーが顔を歪めながら、フェリクスに向き直る。かと思えば、彼はシャノンに視線を向けた。
「……それとも、その女が原因か?」
それは一体、どういう意味なのだろうか?
心の中でシャノンがそう思っていれば、アントニーは口元を歪める。
「ニール。……いや、フェリクス。お前は、その女を大切に思っているだろう?」
彼がそう言うと、一歩前に踏み出してくる。……シャノンには、彼の言葉の意味がさっぱりわからない。
「……それが、どうした」
フェリクスは、アントニーの言葉を否定しなかった。ただ肯定し、アントニーをその鋭い目で睨みつけるだけだ。
「その女は、私の計画を台無しにした。……私がこの国の新たな王となり、支配者になるという目的をな!」
シャノンを強く睨みつけ、アントニーがそう言葉を発する。
彼の言葉を聞いたシャノンは、いまいち意味がわからなかった。……私腹を肥やすわけでもなく、新たな王になる。
「どういう意味なのかしら?」
あくまでも余裕たっぷりにシャノンがそう問いかければ、アントニーはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「そもそも、革命を起こすのは私の役目だったはずなのだ。……愚王を葬り、私が新たな王になる。それが、私の目的だったんだよ」
「……それは」
「だが、マレット伯。お前の父が予定よりも早くに革命を起こした。……その所為で、私の計画はぐちゃぐちゃだ」
その言葉が正しいのだとすれば、ジョナスはアントニーの目的を意図せずに阻んだことになる。
そう思いつつ、シャノンはアントニーを見つめた。
(トゥーミー卿のたくらみが成功していたら、ろくなことになっていなかったわね……)
少なくとも、この男が新たな国王になるなど、あってはならないことだ。今でさえ、国を捨て、ヘクターを捨て、自らと金品で逃亡しようとしている男なのだ。……目先の欲にくらむような、男なのだ。
「ったく、そもそもお前さえいなければっ!」
アントニーの視線が、シャノンに注がれる。彼の目は本気で憎々しいとばかりにシャノンを睨みつけていた。
「……マレット伯も、フェリクスも。お前のことを大切に思っている。……ならばっ!」
彼が地面を蹴り、シャノンとの距離を一気に詰めてくる。驚き動けないシャノンの身体を、アントニーが無理やり引き寄せた。
「っ……」
喉元に当たる、冷たい刃の感覚。恐る恐るそちらに視線を向ければ、アントニーはシャノンの首筋に短剣を当てていた。
その短剣が微かに動き、シャノンの肌をすべる。その所為なのか、シャノンの首筋からは鮮血がこぼれ出た。
「私が終わるときは、この女も道連れにしてやる!」
耳元で、アントニーがそう叫ぶ。鼓膜が破れそうなほどに大きな声に、シャノンが顔を歪める。
フェリクスは、アントニーのことを睨みつけていた。
「いいな? そこから一歩でも動けば、この女もろとも私は死ぬ!」
「……」
「それが嫌だったら、私の逃亡を許すんだな!」
首筋に当たる短剣の刃先が、また少し動く。鋭い痛みに、シャノンが顔を歪めてしまう。
「……大体、この女がいるから悪いのだ。この女を失えば、マレット伯もフェリクスも絶望に落ちてしまうだろうからなっ!」
高笑いをするアントニーに、シャノンの頭がかちんとくる。そういうこともあり、シャノンはフェリクスに視線を向けた。
「――っ!」
彼が息を呑む。……シャノンの思惑は、しっかりと伝わったのだろうか、フェリクスはこくんと力強く頷いてくれた。
フェリクスの背中に必死にしがみついていたこともあってか、シャノンの腕は若干しびれていた。
でも、弱音なんて吐いていられない。そう思って、シャノンは必死にフェリクスにしがみついた。
「……ここからは、徒歩で行くぞ」
港町に入り、フェリクスが馬を止める。だからこそ、シャノンは頷いた。
そのまま二人で馬から降り、ゆっくりと徒歩で移動する。
革命が始まって以来閑散としていることの多い港ではあったが、一つの貨物船が停まっていた。
そして、その近くにいる一人の男性。
「トゥーミー卿」
そこにいたのは、紛れもないアントニーだった。彼は大きなカバンを持って、貨物船に乗り込もうとしている。
「……フェリクス殿下っ!」
それを見たシャノンよりも早く、フェリクスが駆けだす。シャノンが慌ててついて行く。
「……なっ」
アントニーがフェリクスの顔を見て、驚愕の表情を浮かべる。かと思えば、後ろからついてきたシャノンを見て、忌々しいとばかりに顔を歪めた。
「……お前」
彼がそう言って、フェリクスを睨みつける。シャノンがフェリクスに追いつけば、アントニーは露骨に舌打ちした。
「お前は、王国軍を裏切ったのかっ……!」
そんな風に叫んだアントニーの声が、震えている。けれど、フェリクスは気にした素振りもない。ただ、口元を歪めるだけだ。
「あぁ、おあいにくさま。そもそも、俺は王国軍で骨をうずめるつもりはなかったんでな」
その美しい表情を歪め、フェリクスがそう告げる。その瞬間、アントニーがもう一度舌打ちをする。
「やはり、あのときもう一度殺しておくべきだったか……。ヘクターの奴、利用できるかもなんて言いやがるからっ!」
アントニーが顔を歪めながら、フェリクスに向き直る。かと思えば、彼はシャノンに視線を向けた。
「……それとも、その女が原因か?」
それは一体、どういう意味なのだろうか?
心の中でシャノンがそう思っていれば、アントニーは口元を歪める。
「ニール。……いや、フェリクス。お前は、その女を大切に思っているだろう?」
彼がそう言うと、一歩前に踏み出してくる。……シャノンには、彼の言葉の意味がさっぱりわからない。
「……それが、どうした」
フェリクスは、アントニーの言葉を否定しなかった。ただ肯定し、アントニーをその鋭い目で睨みつけるだけだ。
「その女は、私の計画を台無しにした。……私がこの国の新たな王となり、支配者になるという目的をな!」
シャノンを強く睨みつけ、アントニーがそう言葉を発する。
彼の言葉を聞いたシャノンは、いまいち意味がわからなかった。……私腹を肥やすわけでもなく、新たな王になる。
「どういう意味なのかしら?」
あくまでも余裕たっぷりにシャノンがそう問いかければ、アントニーはやれやれとばかりに肩をすくめた。
「そもそも、革命を起こすのは私の役目だったはずなのだ。……愚王を葬り、私が新たな王になる。それが、私の目的だったんだよ」
「……それは」
「だが、マレット伯。お前の父が予定よりも早くに革命を起こした。……その所為で、私の計画はぐちゃぐちゃだ」
その言葉が正しいのだとすれば、ジョナスはアントニーの目的を意図せずに阻んだことになる。
そう思いつつ、シャノンはアントニーを見つめた。
(トゥーミー卿のたくらみが成功していたら、ろくなことになっていなかったわね……)
少なくとも、この男が新たな国王になるなど、あってはならないことだ。今でさえ、国を捨て、ヘクターを捨て、自らと金品で逃亡しようとしている男なのだ。……目先の欲にくらむような、男なのだ。
「ったく、そもそもお前さえいなければっ!」
アントニーの視線が、シャノンに注がれる。彼の目は本気で憎々しいとばかりにシャノンを睨みつけていた。
「……マレット伯も、フェリクスも。お前のことを大切に思っている。……ならばっ!」
彼が地面を蹴り、シャノンとの距離を一気に詰めてくる。驚き動けないシャノンの身体を、アントニーが無理やり引き寄せた。
「っ……」
喉元に当たる、冷たい刃の感覚。恐る恐るそちらに視線を向ければ、アントニーはシャノンの首筋に短剣を当てていた。
その短剣が微かに動き、シャノンの肌をすべる。その所為なのか、シャノンの首筋からは鮮血がこぼれ出た。
「私が終わるときは、この女も道連れにしてやる!」
耳元で、アントニーがそう叫ぶ。鼓膜が破れそうなほどに大きな声に、シャノンが顔を歪める。
フェリクスは、アントニーのことを睨みつけていた。
「いいな? そこから一歩でも動けば、この女もろとも私は死ぬ!」
「……」
「それが嫌だったら、私の逃亡を許すんだな!」
首筋に当たる短剣の刃先が、また少し動く。鋭い痛みに、シャノンが顔を歪めてしまう。
「……大体、この女がいるから悪いのだ。この女を失えば、マレット伯もフェリクスも絶望に落ちてしまうだろうからなっ!」
高笑いをするアントニーに、シャノンの頭がかちんとくる。そういうこともあり、シャノンはフェリクスに視線を向けた。
「――っ!」
彼が息を呑む。……シャノンの思惑は、しっかりと伝わったのだろうか、フェリクスはこくんと力強く頷いてくれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
414
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる