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第4章
革命の終わり
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(大丈夫。フェリクス殿下は、私のことを助けてくださる)
シャノンの頭の中に、咄嗟にそんな考えが宿った。
だからこそ、シャノンは少しだけ身じろぎする。そうすれば、アントニーがシャノンに視線を向けてくる。まるで、動くなとでも言いたげな視線だった。
(そもそも、トゥーミー卿は宰相だわ。戦闘には――慣れていない)
宰相であり、王国軍を裏から操っていただけの男性に、革命軍として戦ってきたシャノンが負けるはずがなかったのだ。
シャノンはそのきれいな目に鋭い殺意を宿し、アントニーを睨みつけた。
「――っ!」
まさか、シャノンがそんな行動を取るとは想像もしていなかったのだろう。アントニーに一瞬の隙が生まれた。
(――今っ!)
心の中で、そう思いシャノンはアントニーの腕から抜け出す。そして、その頬を思いきりグーで殴った。
アントニーの身体が、飛ぶ。革命軍として戦ってきたシャノンの力は大層なものだ。そのため、大の男でもかなりのダメージを受ける。
アントニーの身体が飛んだのを見て、シャノンがフェリクスの方に駆ける。
けれど、そのシャノンの髪の毛を誰かがつかむ。……アントニーだ。
内心で舌打ちしそうになりつつも、シャノンは彼の方に顔を向けた。――すぐそばに迫った、銀色の刃。
――刺される。
頭の中に警告音が鳴り響き、シャノンが目を瞑ったときだった。
「……え」
シャノンの身体が、誰かに引き寄せられた。その際に数本髪の毛が千切れたのかぶちぶちと音を立てた。微かな痛みが、脳髄を駆ける。でも、そんなことどうでもよかった。
(……フェリクス殿下)
フェリクスが、シャノンの身体を抱きすくめ、瞬時にアントニーに蹴りを入れた。その蹴りは凄まじいものだったらしく、アントニーの身体が飛ぶ。それは、シャノンが殴ったとき以上の威力だったらしく、彼は地面に頭をぶつけ、意識を失っていた。
「シャノンっ!」
ただぼんやりとするシャノンの耳に、焦ったような声が響き渡った。
顔を上げれば、フェリクスがいる。彼は、シャノンの身体を力いっぱい抱きしめてきた。ぎゅうぎゅうと締め付けられるのは、苦しい。
だけど……どうしようもないほどに、心地いい。
「フェリクス、でん、か」
そっと彼のことを呼ぶ。そうすれば、フェリクスはシャノンとしっかりと目を合わせてくる。彼の目は、何処までも慈愛に満ちているように見えてしまう。
「よかった。……シャノン」
彼が心の底からの安堵を宿したような声で、シャノンのことを呼ぶ。
その瞬間、シャノンの胸の中にじわじわとした喜びが宿った。……フェリクスの顔を見つめ、表情を緩める。
「フェリクス殿下」
「……あぁ」
やっと、やっと全部終わったのか。ヘクターを王座から引きずり降ろすことが出来た。アントニーを捕らえることも出来た。
「シャノン!」
そう思っていれば、遠くからシャノンを呼ぶ声が聞こえてきた。
なので、シャノンがそちらに視線を向ける。そこでは、ジョナスが革命軍の面々と共に立っていた。
「……お父様」
「全部、キースから聞いた」
ジョナスのその言葉に、シャノンが驚く。そうすれば、彼の後ろにいたキースが肩をすくめていた。
「僕も、最後くらい役に立たなくちゃね」
キースはそう言うと、革命軍の面々と共にアントニーを捕らえる部隊に加わる。アントニーはあっさりと捕まり、革命軍によって連行されていく。ただ、彼は立つこともままならない状態であり、連行というよりは運ばれていくといった方が正しいのだが。
「シャノン。……よく、やったな」
シャノンの両肩に手を置いて、ジョナスがはっきりとそんな言葉を告げてきた。
「……いえ」
でも、シャノンはその褒め言葉を素直に受け取ることはできなかった。ただ隣に立つフェリクスに、視線を向けるだけだ。
そうすれば、ジョナスの視線がフェリクスに向けられる。フェリクスは、気まずそうに視線を逸らした。
「……マレット伯」
そっとフェリクスがジョナスのことを呼ぶ。その声を聞いてか、ジョナスの眉間にしわが寄った。
もしかしたら、ジョナスはフェリクスのことも許さないと言うのかもしれない。
「お、お父様!」
フェリクスはずっと頑張ってくれた。だから、彼を責めるのはお門違いという奴だ。
シャノンが無意識のうちにそう言おうとするものの、ほかでもないフェリクスがシャノンに視線を向けゆるゆると首を横に振った。
「俺は、しっかりと罪を償います」
「……フェリクス殿下」
どうして、彼が罪を償う必要があるのだろうか。だって、彼は被害者の一人だ。アントニーに殺された。奇跡的に生き返ってもなお、彼は苦しめられ続けていたのだ。
「俺が、すべての罪を背負います。なので、どうか王国軍の兵士たちには、何もしないでください」
はっきりとジョナスの目を見つめたフェリクスが、そう言い切る。
……彼は、何処までも自己犠牲の人物らしい。それを、シャノンが悟る。
「兵士たちにも、家族がいた。アントニーの奴に弱みを握られていた者が、ほとんどなんだ」
「……そうか」
フェリクスの言葉に、ジョナスが大きく頷いた。その態度を見て、シャノンが胸の前で手を握る。
今後のフェリクスの処遇については、すべてジョナスが決めるのだろう。……だって、それが道理だから。
シャノンの頭の中に、咄嗟にそんな考えが宿った。
だからこそ、シャノンは少しだけ身じろぎする。そうすれば、アントニーがシャノンに視線を向けてくる。まるで、動くなとでも言いたげな視線だった。
(そもそも、トゥーミー卿は宰相だわ。戦闘には――慣れていない)
宰相であり、王国軍を裏から操っていただけの男性に、革命軍として戦ってきたシャノンが負けるはずがなかったのだ。
シャノンはそのきれいな目に鋭い殺意を宿し、アントニーを睨みつけた。
「――っ!」
まさか、シャノンがそんな行動を取るとは想像もしていなかったのだろう。アントニーに一瞬の隙が生まれた。
(――今っ!)
心の中で、そう思いシャノンはアントニーの腕から抜け出す。そして、その頬を思いきりグーで殴った。
アントニーの身体が、飛ぶ。革命軍として戦ってきたシャノンの力は大層なものだ。そのため、大の男でもかなりのダメージを受ける。
アントニーの身体が飛んだのを見て、シャノンがフェリクスの方に駆ける。
けれど、そのシャノンの髪の毛を誰かがつかむ。……アントニーだ。
内心で舌打ちしそうになりつつも、シャノンは彼の方に顔を向けた。――すぐそばに迫った、銀色の刃。
――刺される。
頭の中に警告音が鳴り響き、シャノンが目を瞑ったときだった。
「……え」
シャノンの身体が、誰かに引き寄せられた。その際に数本髪の毛が千切れたのかぶちぶちと音を立てた。微かな痛みが、脳髄を駆ける。でも、そんなことどうでもよかった。
(……フェリクス殿下)
フェリクスが、シャノンの身体を抱きすくめ、瞬時にアントニーに蹴りを入れた。その蹴りは凄まじいものだったらしく、アントニーの身体が飛ぶ。それは、シャノンが殴ったとき以上の威力だったらしく、彼は地面に頭をぶつけ、意識を失っていた。
「シャノンっ!」
ただぼんやりとするシャノンの耳に、焦ったような声が響き渡った。
顔を上げれば、フェリクスがいる。彼は、シャノンの身体を力いっぱい抱きしめてきた。ぎゅうぎゅうと締め付けられるのは、苦しい。
だけど……どうしようもないほどに、心地いい。
「フェリクス、でん、か」
そっと彼のことを呼ぶ。そうすれば、フェリクスはシャノンとしっかりと目を合わせてくる。彼の目は、何処までも慈愛に満ちているように見えてしまう。
「よかった。……シャノン」
彼が心の底からの安堵を宿したような声で、シャノンのことを呼ぶ。
その瞬間、シャノンの胸の中にじわじわとした喜びが宿った。……フェリクスの顔を見つめ、表情を緩める。
「フェリクス殿下」
「……あぁ」
やっと、やっと全部終わったのか。ヘクターを王座から引きずり降ろすことが出来た。アントニーを捕らえることも出来た。
「シャノン!」
そう思っていれば、遠くからシャノンを呼ぶ声が聞こえてきた。
なので、シャノンがそちらに視線を向ける。そこでは、ジョナスが革命軍の面々と共に立っていた。
「……お父様」
「全部、キースから聞いた」
ジョナスのその言葉に、シャノンが驚く。そうすれば、彼の後ろにいたキースが肩をすくめていた。
「僕も、最後くらい役に立たなくちゃね」
キースはそう言うと、革命軍の面々と共にアントニーを捕らえる部隊に加わる。アントニーはあっさりと捕まり、革命軍によって連行されていく。ただ、彼は立つこともままならない状態であり、連行というよりは運ばれていくといった方が正しいのだが。
「シャノン。……よく、やったな」
シャノンの両肩に手を置いて、ジョナスがはっきりとそんな言葉を告げてきた。
「……いえ」
でも、シャノンはその褒め言葉を素直に受け取ることはできなかった。ただ隣に立つフェリクスに、視線を向けるだけだ。
そうすれば、ジョナスの視線がフェリクスに向けられる。フェリクスは、気まずそうに視線を逸らした。
「……マレット伯」
そっとフェリクスがジョナスのことを呼ぶ。その声を聞いてか、ジョナスの眉間にしわが寄った。
もしかしたら、ジョナスはフェリクスのことも許さないと言うのかもしれない。
「お、お父様!」
フェリクスはずっと頑張ってくれた。だから、彼を責めるのはお門違いという奴だ。
シャノンが無意識のうちにそう言おうとするものの、ほかでもないフェリクスがシャノンに視線を向けゆるゆると首を横に振った。
「俺は、しっかりと罪を償います」
「……フェリクス殿下」
どうして、彼が罪を償う必要があるのだろうか。だって、彼は被害者の一人だ。アントニーに殺された。奇跡的に生き返ってもなお、彼は苦しめられ続けていたのだ。
「俺が、すべての罪を背負います。なので、どうか王国軍の兵士たちには、何もしないでください」
はっきりとジョナスの目を見つめたフェリクスが、そう言い切る。
……彼は、何処までも自己犠牲の人物らしい。それを、シャノンが悟る。
「兵士たちにも、家族がいた。アントニーの奴に弱みを握られていた者が、ほとんどなんだ」
「……そうか」
フェリクスの言葉に、ジョナスが大きく頷いた。その態度を見て、シャノンが胸の前で手を握る。
今後のフェリクスの処遇については、すべてジョナスが決めるのだろう。……だって、それが道理だから。
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