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1. 不穏な縁談
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「リーシャ、喜べ! お前と婚約してくれるお方が見つかったぞ!」
普段は私と目を合わせることもしない父にそう言われて、私は得体の知れない気味悪さを感じた。
「相手の方はどなたですの……?」
「イスティア公爵様だ。もちろんこの縁談はお受けするよな?」
イスティア公爵様の噂は情報に疎い私でも知っていた。
ついこの間、3番目の夫人を亡くしたばかりなのにも関わらず次の夫人を探している
そんな噂を今日聞いたばかりだった。
彼は迎えた夫人に度々乱暴していて、それが原因で夫人が若くして命を落としている。
そんなことをしている人に嫁がせるだなんて……お父様は本当に私のことを嫌っているのね……。分かっていたことだけれど。
「分かりました……」
こんな縁談、本当は受けたくない。
でも、拒否すれば鞭で叩かれる以上のことをされてしまうから。
私は頷くことしかできなかった。
「婚約は来週のパーティーで発表する」
お父様はそう口にすると部屋を後にした。
それと入れ違いに、妹のレティシアが入ってきて、こんなことを口にした。
「話は終わったようね? 今すぐにお茶を淹れてちょうだい」
「分かったわ……」
本来なら侍女などの使用人がするべきことなのだけど、ここで拒否したら何をされるか分からない。
だから、仕方なく頷いた。
使用人同然の扱いーーそれがクレシンス伯爵家での私の扱い。
いや、それよりも酷いかもしれない。だって、使用人達は理由をつけてお茶をかけられたり、鞭で叩かれたりしないから。
でも、そのお陰でお茶を淹れるのは使用人よりも上手くなっていた。
これはお客様がおっしゃっていたから、間違いない。
それなのに……
「なんなのよこのお茶は! 渋くて飲めた物じゃないわ!」
……レティシアは半分程お茶が残ったティーカップを投げつけてきた。
「アン、代わりのお茶をお願い」
「畏まりました」
「お姉様はもう戻っていいわよ」
「そう…‥分かったわ」
ティーカップを無事に避けていた私は、そのまま部屋を後にした。
そしてお父様の部屋の前を通りかかった時だった。
「アイセア、喜べ! あの化け物の貰い手が見つかったぞ!」
「まぁ! ようやく家からいなくなりますのね!」
楽しそうに会話をする両親の声が聞こえてきた。
お父様が化け物と言っているのは私のことで、理由は幼い頃に周囲の物が動いたり突然部屋の中に雨が降ったり火が付いたりしていたから。
物心つく前に魔法を暴走させてしまっていたのが原因なのだけど、これ自体は魔法の素質があれば珍しくないことだった。抑える方法もあった。
でも、それを知らなかったお父様とお母様は私のことを恐れて化け物と呼ぶようになった。
そして私が物心ついてからは気味悪さで虐げるようになっていった。
この家で唯一の味方の侍女長はそう語ってくれていた。
「あの豚公爵のことだ。半月ほどであいつはここから居なくなる。今のうちに思う存分働かせよう」
「分かりましたわ」
楽しそうな両親の声を聞いて、私の背筋に冷たいものが走った。
普段は私と目を合わせることもしない父にそう言われて、私は得体の知れない気味悪さを感じた。
「相手の方はどなたですの……?」
「イスティア公爵様だ。もちろんこの縁談はお受けするよな?」
イスティア公爵様の噂は情報に疎い私でも知っていた。
ついこの間、3番目の夫人を亡くしたばかりなのにも関わらず次の夫人を探している
そんな噂を今日聞いたばかりだった。
彼は迎えた夫人に度々乱暴していて、それが原因で夫人が若くして命を落としている。
そんなことをしている人に嫁がせるだなんて……お父様は本当に私のことを嫌っているのね……。分かっていたことだけれど。
「分かりました……」
こんな縁談、本当は受けたくない。
でも、拒否すれば鞭で叩かれる以上のことをされてしまうから。
私は頷くことしかできなかった。
「婚約は来週のパーティーで発表する」
お父様はそう口にすると部屋を後にした。
それと入れ違いに、妹のレティシアが入ってきて、こんなことを口にした。
「話は終わったようね? 今すぐにお茶を淹れてちょうだい」
「分かったわ……」
本来なら侍女などの使用人がするべきことなのだけど、ここで拒否したら何をされるか分からない。
だから、仕方なく頷いた。
使用人同然の扱いーーそれがクレシンス伯爵家での私の扱い。
いや、それよりも酷いかもしれない。だって、使用人達は理由をつけてお茶をかけられたり、鞭で叩かれたりしないから。
でも、そのお陰でお茶を淹れるのは使用人よりも上手くなっていた。
これはお客様がおっしゃっていたから、間違いない。
それなのに……
「なんなのよこのお茶は! 渋くて飲めた物じゃないわ!」
……レティシアは半分程お茶が残ったティーカップを投げつけてきた。
「アン、代わりのお茶をお願い」
「畏まりました」
「お姉様はもう戻っていいわよ」
「そう…‥分かったわ」
ティーカップを無事に避けていた私は、そのまま部屋を後にした。
そしてお父様の部屋の前を通りかかった時だった。
「アイセア、喜べ! あの化け物の貰い手が見つかったぞ!」
「まぁ! ようやく家からいなくなりますのね!」
楽しそうに会話をする両親の声が聞こえてきた。
お父様が化け物と言っているのは私のことで、理由は幼い頃に周囲の物が動いたり突然部屋の中に雨が降ったり火が付いたりしていたから。
物心つく前に魔法を暴走させてしまっていたのが原因なのだけど、これ自体は魔法の素質があれば珍しくないことだった。抑える方法もあった。
でも、それを知らなかったお父様とお母様は私のことを恐れて化け物と呼ぶようになった。
そして私が物心ついてからは気味悪さで虐げるようになっていった。
この家で唯一の味方の侍女長はそう語ってくれていた。
「あの豚公爵のことだ。半月ほどであいつはここから居なくなる。今のうちに思う存分働かせよう」
「分かりましたわ」
楽しそうな両親の声を聞いて、私の背筋に冷たいものが走った。
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