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2. 迫る恐怖

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 翌朝、私は朝食をとることが出来ないまま学院に来ていた。
 私が暮らしているこの国では、貴族の子は16歳になる年から王都にある王立セントリア学院に通うことが義務になっていて、来月17歳になる私は通い始めてから1年以上経っている。

 ちなみに、貴族懲罰権が使えるようになるのも学院に通いだしてからなのだけど、学院の中で懲罰権を使うことは許されていない。

「リーシャ様、次の授業は魔法の実技でしたわよね?」
「そうですわ。よかったら一緒に行きませんか?」

 ノースティア公爵家のミランダ様に提案する私。

「ええ、もちろんですわ」
「わたくしも仲間に入れてくださらないかしら?」

 そう声をかけてきたのはウェスティア公爵家のヴィオラ様で、彼女もミランダ様も私の友人でもあり恩人でもあった。
 ちなみに、私の友人はこの2人だけ。

「悩みますわね……」
「えっ?」


 元々は他にも友人はいたのだけど、私が妹を酷く虐めているという根も葉もない噂が流れたせいで離れてしまった。
 噂は私の成績を妬んだレティシアが流したもので、今もどこかで囁かれている。

「冗談ですわよ。真に受けないでくださいまし」
「ミランダ様の冗談は冗談に聞こえませんの……」
「私も同感ですわ」

 そうして実技の授業の場所に移動する私達。
 周りで私を指差しながらヒソヒソと話している人達が目につくけれど、表立って何かを仕掛けてくることはない。
 というのも、以前私に水をかけたお馬鹿さんが一発で退学になったから。そこに公爵家の圧力があったとかなかったとか。

 ちなみに学院を退学になるということは貴族として居られなくなることを意味していて、皆そうならないように素行には注意している。

「あら、レオン殿下ですわ……。こんなところにいらっしゃるなんて、珍しいですわね」
「ええ」

 本人に聞こえないように話すミランダ様とヴィオラ様。
 その間にも金髪に碧眼の美しい殿方ーー第一王子のレオン殿下との距離は縮んでいて……。

「リーシャ、話がある。授業が終わったら生徒会室に来てくれ」
「わ、分かりましたわ……」

 何故か責められているような気がして、私は震える声を抑えながら返事をした。
 殿下は私の返事を聞いて眩しいくらいの笑みを浮かべ、次の瞬間にはそそくさと離れていった。

「恋、ですわね」
「あれは拗らせた男の顔ですわ」
「え? え?」

 2人の会話の意味が分からず混乱する私。
 殿下とは私達全員生徒会などで接点があるのだけど、私はあまり話したことが無かったから不思議だった。

「きっと何かを咎められるのですわ……」
「リーシャ様は気付かなかったのですか⁉︎」
「あの氷の王子様が愛おしげに微笑む様を!」

 ミランダ様とヴィオラ様によると、私は氷の王子様と呼ばれているレオン殿下の心を射止めてしまったらしかった。

 でも、重々しい空気を感じていた私は恋などと喜ぶ余裕はなくて。
 代わりに緊張で鼓動が速くなっていた。
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