量産型英雄伝

止まり木

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23話 偵察、観察、考察

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 さて、今日の仕事をしないとな。 
 僕は冷静に戻ると仕事に戻る事にした。今日の仕事は、ザム・イーワックとトブタイの試運転と、このスベン公国の正確な地図の作成とスベン工国内に居るアポリオンの偵察及び、その生態の観察だ。
 試運転は、今している。
 次にすべきは地図の作成と生き残っている都市の確認だ。
 この国の地図を見せてもらった事があったけど、いかにも中世っぽい羊皮紙に書かれた地図だった。大体の国の形をした枠が描かれ、それに町や村、川や山が書き込まれているだけの不正確な地図しかなかった。
 そういえば、元の世界で地図は、誰でも見られる物だが、昔は、立派な機密情報だったらしい。もしかしたらこの世界でも同様なのかもしれない。
 どっちにせよ、まずは正確な地図作りをしなければならない。とはいっても、僕の場合、国の上空から撮影するだけだけどね。
 高度を上げて、貰った羊皮紙に書かれた地図を頼りにそれぞれの街の上空へと向かう。
 ハイレルゲンが無事だった時には、無事が確認されていた街が、全てアバドンによって破壊されているのが見えた。ある街は、街を囲っていた城壁は、崩され、家々が潰されていた。またある街は火事もあったのだろう。街全体が真っ黒に焼け落ちていた。そこに動く人影は無い。

 逃げ延びてて、くれるといいけど…。

 とりあえず、スベン公国ってクレーターの中に作られた国だって言ってたから、スベン公国を囲む山脈に沿って飛べば、外周が埋る。その後は、穴の開いた部分を埋めるように飛ぼう。そうすれば地図が出来る。

 スベン公国の外周を飛んでいる時、ふと下を見るとそこに蠢くシミの用な物を見つけた。
 それは、無数のアバドンの群れ。とうとうスベン公国の領域を超え完全にアバドンの支配地域へと入ったようだ。それはうじゃうじゃと居るという言葉がぴったりの光景だった。数は一目だけでは数え切れず、今ザム・イーワックのコンピュータの計測待ちだ。
「うわぁ気持ちわる!。ケンジさん達はこんなのと正面から戦ってるんだ…」
 まるで、うぞうぞと動く蟻の集団を見ているようだった。
 現在高度は上空4000m。ここまでくると、地上のアバドンは豆粒以下にしか見えない。けど、ザム・イーワックの持つガンカメラによって、地上の様子は十分に見える。
「やっぱりか…」

 これを全て倒さないといけないって、一体何年掛かるんだ?まぁこのクレーターを作った神霊機は、それをたった一機且つ一撃でやったって事なんだろうけど。
 改めて神霊機の出鱈目さに舌を巻く。
 おっとそんな事を考えている場合じゃない。次の仕事、アバドンの観察をしないとな。

 この世界の人間はアポリオンというものをあまりも知らない。分かっているのは、アバドンは大陸の西側より現れ、群れをなし、その群れで人を街を襲うという事とアポリオンの大雑把な種類だけ。
 アポリオンは、何を好んで食べるのか?
 アポリオンは、眠るのか?
 アポリオンは、どうやって生まれるのか?
 その程度の事すら分かっていないのが現状だ。教会に居た頃の座学でも、教えられていない。書物も調べたけど何処にもアポリオンの生態について記した物は無かった。人々は、アポリオンを見れば殺すか殺されるしかないのだから当然なのかもしれない。
 敵を知り、己を知らば百戦危うからずと昔の人はよく言った物だ。
 アポリオンが何を好んで食っているかがわかれば、その食べ物に毒を仕込む事が出来るし、住処が分かればそこを強襲して一網打尽にする事が出来る。

 だから僕は、アポリオンの観察から始めようと思ったのだ。

 地上に居るアポリオンも上空4000mから見下ろしている僕の存在に気付いている様子は無い。上空4000m言えば、富士山を余裕で見下ろせるほど高い。
 アバドンがザムに気付いていないのか、気付いていて無視しているのかは、まだ判断できない。判断する為には、降下して地上に居るアポリオンに近づく必要があるが、今自分一人しか居ない状況で、そんな事をするつもりはさらさら無い。今は遠くから見るだけだ。
 
 レーダーでアポリオンの群れの動きをトレースしてみると面白い事が分かった。アポリオンの群れは、巡回するかの様に同じ場所をグルグルと回っているのだ。巡回している群れに別の群れが現れると、まるで虫のように触覚で互いの体を触ってコミニュケーションらしき事をする。そして、今までその場所を巡回していた群れが別の場所へと移動して、再び巡回を始めるのだ。
 縄張り争いと言った行動は一切無く、声も上げず粛々と移動している。同族での殺し合いはしないという事だろうか?

 さらに外周を移動して、ある重要な事が分かった。アポリオンはスベン公国を囲む山々を越える事が出来ないのだ。アポリオン達は、ある程度の高さまでスベン公国を囲む山を登るのだが、高度が原因かそれとも寒さを嫌ったのか分からないが、決して山の頂上までは行かない。
 その代わり、西側にも輸送隊が通ってきた場所のように山の切れ目のような物があり、そこからアポリオンの群れが侵入しているのが見えた。
 アポリオンは山を越えられないのかもしれない。それ故にアポリオンは、山の切れ目からしか侵入できなかったのだろう。入り口が狭ければ当然そこから入ってくるアバドンの数は限られる。そのお陰で、公国内に侵入するアバドンの数が制限され、お陰で、ギリギリ公国の戦力でも耐える事ができたんだと思う。

 もし、西にある宗主国が落ちた時、避難民を受け入れるのではなく、西側の谷を埋めて封鎖していれば、公国内にアポリオンの侵入を許す事は無かったのかもしれない。だけど、仮にそうしていた場合セリアさんや、宗主国の避難民は公国に脱出する事が出来ず、アバドンに襲われ死んでいただろう。
 
 でも、そうであれば、公国内にいるアバドンを殲滅し、谷を封鎖すれば公国内の安全は確保出来るという事だ。
 それが分かっただけでも、僕の心は大分楽になった。先の見えない戦いほど心が削られる物は無い。人間ゴールが見えていれば、モチベーションを維持する事は、難しい事ではない。
 
 地形のデータを取りつつ、アポリオンの様子の記録を取っていく。これを見れば、僕が気付かなかった事に、他の誰かが何か気付いてくれるかもしれない。

 データを取っているうちに丁度日が暮れて来た。二つの日が傾きスベン公国を囲む山脈の向こうへと近づいてくる。
 山に囲まれているこの国は日暮れが早い。もう帰ろう。
 碌に電灯も無い世界で夜間飛行に夜間着陸など怖すぎてしたくない。
 センサーや暗視装置を地形のデータがあれば出来るかもしれないが、初飛行ではゴメンだ。

 夕暮れに染まるカルナートは、まるでアバドンに侵攻されているのが嘘のように綺麗だった。石造りの城が夕日によって赤く染まっている。同じように城下町も赤く染まり家々の煙突から煙が上がっている。日本では絶対に見ることの出来なかった光景。
 ケンジさんと水上先輩も、レグオン帝国とハヌマ王国でこんな光景を空から見たのかなぁ。
 せっかくなので、カルナートの上空を一周して、その姿をじっくり眺める。
 そんな事をしていると、下に居るセリアさんから通信が入った
「何してるの?早く降りてきなさい!」
 僕は、セリアさんに促され、しぶしぶ帰還した。もうちょっと風景を楽しみたかったんだけどな

 その後、待っていたのは、ガルロックさんによる新装備についての質問攻めと、深夜まで続いたセリアさんとフォニアさんによるお説教だった。
 スベン公国の救世主たる僕が護衛の一人も連れずに偵察に行くとは何事だと超正論で怒られた。
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