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33王の器

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 ショッピングモールで観覧車に乗ったことで、次の日には、ハイウエイに乗り、マギーの温泉街へ行くことになってしまった。

 嫁に行った娘を「討て!」と言われないだろうと思うが、やはり心配だ。

 ブルーレイドは昔から上昇志向がある男で、出世のためならなんだってする男なのだから。

 温泉街へ下りず、グルっと回って、また辺境領へ戻ろうか?そんな小細工すれば、余計怪しまれるかもしれない。さっさと帰ってくれればいいものを。

 「なぁ。マリンストーンよ。今回マーガレット嬢に逢いにここへ来たのだが、ここは素晴らしいユートピアみたいなところだな。俺は、隠居することにしたよ。息子に家督を譲り、宰相の職も辞するつもりでいる。」

 「えー?帰らないつもりか?」

 「先年、妻を亡くし、もう失うものがない。せめて余生をこの地で送らせてもらえないだろうか?」

 後部座席の護衛に向き、

 「そういうことだから、この視察が終われば、お前たちはもう帰ってよいぞ。ご苦労だったな、こんなところまで付き合わせてしまって、これは慰労金だ。」

 金貨が入った袋を二つ護衛に渡そうとすると、

 「自分たちも閣下とともに、この街に住みたいと考えておりましたっ!」

 えー!また、移民が増えるのか?マーガレットが次々と公営住宅を建てているとはいえ、足りるのか?

 「だったら、このまま辺境地へ戻るか?」

 「なんでだよ?この先にある隣国を見せたくないのか?」

 「いやそう言うわけでもない。辺境領に留まりたいのなら、隣国と言うべきか?隣の所有者のところへ行く意味があるか?と問いたいのだ。」

 「どういう意味だ?隣の所有者の場所と言うのは?クランベール国ではないのか?」

 「前は、クランベール国であったのだが……。」

 「なんだ?政変でも起きて、今はどこかの軍隊に占領されているとか?」

 「そうではない。マーガレットが盗賊団を捕まえたご褒美にもらったのだ。」

 「へ?……それなら、なおさら行きたい。マーガレット様がどのような街にされておるのかこの目で確かめたい。できれば、マーガレット様にもお会いしたいが、ダメか?」

 「うーん。あいつも忙しいからな。運が良ければ会えるかもしれん。ジャングルに砂漠、荒野とさんざんな土地だったのだぞ。そこにこの高速道路を作り、自動車さえ運転できれば、誰でも行けるようになったのさ。大したものだよ。アレが男だったら、と何度も思ったよ。」

 「そうだな。」

 男なら、聖女様であるわけがなく、殺される心配もない。そもそも王太子の婚約者にも選ばれることがないから。男として、生まれたほうが幸せな人生を送れたのだろう。

 「もしよければ、ウチの領地へ来ないか?」

 「ありがたいが、マーガレット様のところのほうが魅力的だ。それにアンダルシア王をもしかしたら裏切ることになるかもしれないから、マリンストーンに迷惑をかける。」

 「もう十分迷惑しているがな。」

 「アハハ。それを言うなって。」

 「ここはマギーランドというところで、マーガレットの愛称から名付けられたものだ。くれぐれも娘に無理難題は言ってくれるな。そして、この地で誰と会おうが他言無用で頼む。」

 「ん?わかった。約束しよう。」

 高速道路から降りるとき、湯けむりが垣間見える。

 きっと外へ出たら硫黄の匂いがするのだろう。

 驚いたことに、こんな温泉街の一等地に立派な教会のような?寺院のようなものが見える。

 1階部分は、おしゃれなカフェやレストラン、ブティックも見える。

 一見すると商業目的にも見えるが、どこか荘厳な感じから間違いなく宗教施設なのだろう。

 ひょっとして、国教会の司祭様がこちらへ亡命でもしたか?さっ きのマリンストーンの言いようから想像する。

 どちらでも俺にはもう関係がない。アンダルシアを捨てるつもりなのだから。マーガレット様が聖女様であった場合、「殺せ」と命じるような男は王の器でない。

 そんなことしてもバーモンド殿下は帰ってこない。国にとって宝ともいうべき、聖女様をこともあろうか殺すなどとはあってはいけない。どんな天罰が落ちるかわかったものではないのだから。

 宗教を信じられない人間は、国のトップになるべきではない。無神論者では民衆の心はつかめないし、離れていくのがオチ。

 「先に一風呂浴びたらどうか?それとも温泉街見物が先か?ここの隣にレジャーランドがあるが、そこから見に行くか?」

 「なんか盛りだくさんで迷うな。温泉街をぶらついて、レジャーランドを見て、最後に風呂に入りたい。」

 「わかった。」

 ブルーレイドが土産物店に入り、だるま落としに夢中になっているすきに、マーガレットに連絡を取る。

 「儂の親友で元宰相のブルーレイドが亡命希望のようで、家督を息子に譲り、すでに王家に宰相の職を辞すると連絡したそうだ。」

 「わかったわ。ひと風呂浴びる前に執務室に連れてきて。」

 もし言葉通りの優秀な人材ならば、採用するが、使い物にならないと判断した場合は、王都へ送り返してやるつもりでいる。

 ついでにスティーブンにも立ち会ってもらおう。マギーランドや辺境領でダメでも、クランベールで使い道があるかもしれないから。

 それに王家の内情をつぶさに知っているものほど心強いものはない。

 ブルーレイドが温泉街をぶらついている間に、とんでもないものを見つけられてしまったのだ。

 それは「新幹線」のことで、その後、レジャーランドに行ってからでも質問攻めにされた。マリンストーンもなぜ新幹線がそこまで早いのか知らない。ただ停まる駅が少ないからだとしか教えられていない。

 マリンストーンに聞くだけ聞いたら、納得はしていないものの、次に夢中になったものはジェットコースターで、何度も乗りたがる。

 あんな心臓に悪いモノ、何度も乗りたがるとは、ついにおかしくなったかと思う。

 もっと緩やかに回るティーカップやメリーゴーランドと言ったようなものなら、いくらでも付き合うことができるが、ジェットコースターばかりを立て続けでは、こちらの身が持たない。
 
 もう心身ともにヘトヘトで、マーガレットが待つ執務室へ急ぐ。
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