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42爵位

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 マーガレットは、増えてきた貴族のタウンハウスを元々のマギーランドに建てることを許可する。

 温泉街からほど近い一画を、貴族用に提供する。

 貴族の屋敷にも、温泉のお湯が行き渡るように新たなパイプラインを作り、サン・ピエトロ教会にもその恩恵を与えることにしたのだ。

 これにより、温泉療法として、病院の機能が充実する。

 日常の買い物は、まだ辺境領こと新王都のほうが便利であるので、王城の担当部署の中に新たに、宅配業務専門の部署を立ち上げ、ネバダ子爵にその任についてもらうこととする。

 5トントラックを10台ばかり前世世界から召喚し、温泉街とレジャーランドの間に駐車場と倉庫を建設する。

 ついで各貴族屋敷に配達が便利なように小回りが利く、ワゴン車や軽トラックを何台か召喚した。

 以前、ドワーフたちが自動車工場を作ってくれて、稼働しているのだが、信用していないわけではなく、やはり安全面から言えば、前世世界から召喚したものに比べると品質が落ちる。

 要望があれば、引っ越しにも対応できるように、柔軟な経営を目指す。また、買い出しに行くとき、トラックの助手席に乗せてもらい、新王都で買い物を済ませた後、荷台に買った商品を載せ、また引き返すサービスも始めることにした。自分の目で欲しいものが選べるし、カタログよりはいいだろう。

 定番のトイレットペーパー、洗剤、おむつなどは、まとめ買いできるように倉庫に保管している。これは、カタログでの受注を目指す。

 カタログ販売の商品も要望がある者から、順に取り入れてもらえるようにネバダ子爵に指示を出す。

 ついで、王城の財務担当者を集め、複式簿記のやり方を教える。新王都の小学校では、九九と珠算は必須科目にしているので、あの子たちが卒業して社会に出る頃には、会計学と言うものも相当進んでいるだろう。また、そうなってもらわないと困る。

 以前から、スティーブンと結婚してからと言うもの、クランベール国に複式簿記を普及させたのは、何を隠そうマーガレットなのであるが、この際、会計検査院をクランベールに作ってもらい、3年に一度は、検査員の検査を受けてもらうように手配する。

 クランベールの議員会議で可決してもらえるように、働きかける。

 会計検査院と言うものは、独立性が大事だから、マギーランドの中に作るよりも、クランベール国にあったほうが、何かと便利。

 要請があれば、クランベールのための会計検査院をマギーランド内に作ってもいいと思っている。

相互に検査し合うことでこそ、会計の信頼性が増すということの狙いがある。 

 会計検査院の権限は国王陛下を凌ぐもので、たとえ国王といえども検定に従わなければならず、減免は第3者委員会及び議員会議での可決が必要となる。

 マギーランドの財務担当大臣は、兄のロバートで、辺境領として賜った時から、マーガレットは複式簿記で帳簿をつけていたから、そのやり方をそのまま引き継いでもらったのだ。

 学校運営と会計担当は、兄の負担を膨大化させるので、学校運営は、父公爵に任せることとする。

 少しずつだが、国家として形になりつつある。今まではマギーランド、辺境領と言う箱庭で好き勝手、遊んでいただけ。

 これからは、全も徴収しなければならない。電気代に、地下鉄運賃、水道代、ガソリン代もほとんどタダ同然だったから、クランベールは新幹線の運賃をすでに徴収している。

 貴族が揃ったら、議会に上程しなければ、と考えている。

 それと残る問題は自衛のための軍備だ。世界のどこの国でも軍隊を持っている。軍隊を持たない国家など存在しない。

 今は夫が、クランベールの王子だから、クランベールが後ろ盾となってくれているが、もし、夫が早死にでもしたら、たちまち周辺国から攻めこまれるだろう。

 だから、早急に適任者を選ばなければならない。騎士団としてでもいいが、最初に辺境領へ連れてきた騎士は、まだ若い。

 ポストと言うものは、老練なもののほうがいい。若いだけで経験が浅い者など使い物にならないからだ。

 経験は、時間だ。これから起こりうる様々な課題に的確に判断するための時間は、若さだけではどうしようもない。

 今のところ、フェルビナク伯爵が最有力候補になっている。ほかに信頼できるものが少ない。竹刀を合わせた感じで、一番手ごたえがあり、それに爵位に執着心があったから。

 伯爵と言う爵位は、上位でもなく下位でもない中途半端な位置だから、何か手柄を立てないとなかなか上位へは上がれない。

 子爵は商人が多く、男爵は冒険者出身が多い。公爵、侯爵は何らかの形で王族と親族だったものが分家して、臣下に下りた家が多い。

 そう言った面から考えても、今のところフェルビナク家に依頼することが妥当に思える。



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 スバルス前侯爵は、地下鉄がすっかり気に入り、あれから毎日、地下鉄狂いをしている。地下鉄の全駅を制覇する気で、用もないのに、一駅ずつ降りては、その駅周辺を探索している変なオジサンと化している。

 新王都へ来た本来の目的をすっかり失念していて、他の貴族のように、何とかしてマギーランドの温泉街を目指すことなく、「そのうち戻ってこられる」という言葉を信じ、ゆったりと構えていたのだ。

 そうこうしていると、旧王都に残してきた家族や使用人が到着する。

 その時になって、初めて、本来の目的を思い出し、慌てふためく。

 何とかして、もともとのマギーランドへ向かうも、もう王城では、新体制が構築されつつあったのだ。

 もうスバルスが後から入り込む余地などない。

 「そんな……、何とかお取次ぎを願えないだろうか?」

 「陛下は御多忙中につき、難しいとは存ずるが……?」

 「そこをなんとか、頼む。」

 ブルーレイドを拝み倒して、なんとか謁見の約束を取り付けることに成功。

 案内されたのは、王の間ではなく、板の間のリングのようなところ。不安に思っていると頭にかぶるものと腹に巻くもの、両手、両足首にそれぞれよろい?のようなものを渡され、装着して待っている。

 そこへ女王陛下がお見えになり、コテンパンに打ち負かされた。

 「もう、ダメだ。」

 体の痛みはさることながら、プライドが完全に叩きのめされ、立ち直れない。

 「新王都へ到着されてから、10日間あまり、どこで何をされていた?」

 「はっ。地下鉄に魅了されてしまい、毎日、乗りに行って……、全駅を制覇いたしました。」

 どうにでもなれ、という気持ちから正直に答える。

 「それは、なかなか感心だ。いの一番にここへ参らず、王都の地下鉄が気に入ったか?」

 陛下の予想外の言葉に、つい嬉しくなり

 「はい。あんな素晴らしい乗り物、世界中どこを探したってございません。フカフカソファに腰かければ、足元からふんわりとした温かさ、つい眠くなってしまう心地よさ。満員でもどこか掴めるところがあり、あの輪っかも持ちやすいです。アナウンスもわかりやすくていいです。」

 気が付けば、車両のことから、社内のこと、駅周辺のことまで喋りまくっていた。

 それをマーガレットは、ニコニコ顔で聞いている。

 前世にもいた「鉄男」だ。

 「では、そんなスバルス様にピッタリの役職を進ぜましょう。交通局長で、地下鉄の運行管理を行ってください。爵位はそのまま侯爵でかまいませんよ。慣れたら、新幹線のほうへ配置換えになるかもしれませんが。」

 「はて?しんかんせんとは?」

 「すぐにわかりますわ。」

 マーガレットは正直なところ、爵位などどうでもいいのだ。だからめんどくさいので、爵位はアンダルシア時代のものをそのまま与えている。

 決して、信認しているわけではない。ただのマイナンバー程度、役職名程度にしか思っていないのだから。
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