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番外編

98.異世界へ2

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 異空間通路は、スムーズにできた。ケビンと二人で、昔、読んだことがあるSFノベルに出てくるモノを片っ端から、やってみることにした。その結果、相当いろいろなことができるとわかり、ケビンはやたらテンションが高くなり、そのかわり真理は、どんどん落ち込むことになってしまう。

 コレって、もしバレでもしたら、きっと研究対象になってしまうアレだ。場合によれば、ホルマリン漬けにされても文句が言えないと思うほどに、様々な実験対象になるのだろうな、と思うと気が重くて仕方がない。

 真理が死んだら死んだで、解剖される真っ先の候補は、脳だと思う。カラダを開かれるよりは、マシだと思うけど、アタマを開頭されでもすれば、顔がまともであるはずがない。

 今から棺桶の中にいる自分を想像したくないけど、どうしてもそこに気が行ってしまう。

 大学は休学するつもりでいたけど、転移魔法があるので、講義の時だけ、抜け出して、その他はベビーシッターやワイナリーのお仕事をしながら、続けている。

 ケビンを両親に紹介すると、快く承諾してもらえたので、卒業式と同時に結婚することにしたのだ。

「くれぐれも、卒業式の前に出産することがないように」

 父から釘を刺されてしまったけど、母は反対に、「学生の間に産んでしまった方が断然楽よ」と言われ、なるようになるという感じで、自然に任せることにしたのだ。

 母の鶴の一声で、卒業式を待たずして、結婚式を挙げることになり、メルボルンと東京を行き来しながら、結婚式の準備をしていく。

 結婚式は、メルボルンと東京と2回、行い、東京での結婚式が終われば、そのまま帰国して、学業と主婦の二足の草鞋を履くことになりそう。

 それで、異世界で聖女様になっていることは、ケビンと二人だけの秘密にすることにした。

 厳密にいえば、出入国管理法に完全に引っかかっているけど、飛行機も乗らず税関も通らずに、しょっちゅうメルボルンと東京を行き来している。

 聖女様と関係があるのかどうか、わからないけどTOEICの試験でほぼ満点の成績を収めることに成功したのだ。

 ステータスの中に語学スキルがLv5に跳ね上がっているので、たぶんコレのおかげだと思う。

 結婚したら、一度ケビンを伴って異世界見物でもして来ようかと思っている。その時は、両親もケビンの義両親にも本当のことを言って、一緒に観光できたらいいと思っている。

 ワイナリーで、ブドウを収穫する時期が結婚式の直前に行われることになり、ここでも真理は本領を発揮する。トラックで、ブドウをワイナリーまで運搬するのだが、大量のブドウを一度に収穫した後、異空間の中にそのブドウを入れ、ワイナリーで一度に出すという荒業をやってのけ、ワイナリーの責任者から大変感謝をされたのだ。

 異世界へ行っても、ワイン作りならできるかもしれないと、本気で思った。空中から農薬を散布することもできるし、収穫もできる。ワインの温度調節もだいたいわかったし、これなら老後、病院を私たち二人の子供に任せた後は、異世界でワイナリーをしてもいいと思っている。

 後は、お金の問題だから、それは異世界の王様にもらえればいいのでは、と具体的に考え始めている。

 ワイナリーの従業員の皆さんにとてもよくしてもらえたから、考えるに至ったことで、これがもし意地悪などされてでもしたら、絶対にワイナリーをしたいとは考えつかなかったことだろう。

 結婚式も無事終わり、ワーホリも辞めて、ニッポンで2度目の結婚式と新婚旅行をするために帰国する。

 結婚式の会場は、明治神宮で式を挙げ、赤坂で披露宴をすることになった。真理の病院は、政財界の大物も入院するような大きな病院で母の実家の病院も大病院だから、本来なら5000人を招待しなければならないところをオーストラリアに次いで2回目ということもあり、1500人規模の小さなバンケットにとどめることにしたのだ。

 新婚旅行はプーケット島へ行くことになったが、その前にケビンがどうしても1回異世界が見たいと言い出して、仕方なく異世界経由でプーケット島へ行くことになったのだ。

 真理は、最初の大理石の床があまりにも強烈なイメージがあったので、そこを目指して飛ぶことにする。

 異世界と言っても、あまり場所を知らない。というか、記憶そのものにない。

 今回はクローゼットを遣わずに、ケビンと一緒に飛ぶものだから、なおさら強烈な印象が残っているところにしか行けない。

 よく見てみると、大理石の床があったところは、大ホールになっているところのようで、玄関から程近いところにあるようだった。あの時は、激昂していて、すぐに飛び出したから、それに夜であたりが暗かったこともあり、その場所が玄関付近であることがわからなかったのだ。

「まるでヨーロッパの古城のようだね」

 ああ。言われてみれば、そうだと思った。

 ここで舞踏会でも開いたら、さぞかしきれいだろうな、とぼんやり考えていると、

「聖女様!?しばらく、お待ちくださいませ」

 誰かが走り去った方をぼんやりと眺めている。

 しばらくすると、その大広間に入りきれないほどの人数がやってきて、歓待してくださっている様子なのだが、真理たちには、チンプンカンプンでさっぱり訳が分からない。

 トレーカートというのだろうか?カートに乗せられたお盆の上にはティーポットやお菓子が並んでいる。それがもてなしの意味だということはわかるが、こんな場所で立ったまま食べるの?と疑問に思ってしまう。

 やがて、宰相閣下とこの国の国王陛下と思しき男性が一緒に入ってこられ、両手を広げられる。

 これは武器を持たないという丸腰を意味されているのだろうか?それとも歓迎の意味かしら?ケビンの方を見ると「歓迎してくれているみたいだよ」と言っているが、こういうものは、ニッポン人の感覚にはないので、理解しがたい。

「聖女様、ようこそおいでくださいました。心より歓迎いたします。これより玉座にご案内させていただきますので、どうぞこちらへ」

「?」

 応接間でもなければ、謁見の間でもない、玉座とは、王様が座る椅子のことではないのかしら?
 
 宰相と思しき男性は、ケビンのことを聖女様とどういった関係があるのか値踏みするような面差しでジロジロ見てくるから、見られているわけではない真理の方が不快に感じ、

「ケビンは、私の旦那様です。夫です」

 聞かれてもいないのに、暴露する。

「おお!すでに王配がいらっしゃるのですね!それは重畳でございます」

 何、言っているのこのおじさん?

 案内された場所は、金の椅子に背もたれと座面部分が赤いビロードで覆われたいかにも立派な玉座にしか見えない代物で、真理がそこに座るように促される。

 何故に?

 聞けば、この国では建国以来、代々、聖女様が女王陛下として君臨することが決まっているとか?そして、女王の配偶者が政治をサポートするということも、建国以来の決まりだそうで。

 今は、マッキントッシュ家が先代の聖女様を輩出した家なので、国の名前もマッキントッシュ国となっているが、聖女様が来られたからには、聖女様の家名が国名になるらしい。

 ということは、一応、ケビンは雑賀家の養子だから、サイガ国になるのだろうか?いや、そもそもお嫁に行く前の名前だから、やっぱりサイガ国で間違いないのかもしれない。

 え!?ということは、今日から、今から、サイガ国、通称聖女国の女王に就任してしまったの?ウッソー!

 ちょっと待ってよ。引継ぎは?いや、それより新婚旅行は?プーケット島はどうなっちゃうの!?
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